【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

文字の大きさ
30 / 210
第一章 最果ての街キッパゲルラ

黒葬騎士団の凋落

しおりを挟む
「何だ?こいつら何でこんなに強っ・・・た、助けてくれ!!助けてくれ、マルコムー!!」

 王都クイーンズガーデン郊外、オールドキープの周囲に広がる森、パラスケスの森。
 そこに、助けを求める悲痛な叫び声が響く。

「はははっ!!そんな雑魚相手に何やってるんですか、先輩!!さっきは後ろを気をつけろとか言ってませんでしたっけ!?」

 助けを求めているのは、先ほどマルコム達に絡んでいた騎士達だ。
 それに思わず、マルコムは笑い声を上げる。
 何故なら彼らが一方的にやり込められ、助けを求めている相手が雑魚魔物の代表格であるゴブリンであったからだ。

「マルコム!」
「シーマス、そんなに言わなくても分かってるさ。しかしあの程度の数のゴブリンにやられるなんて、いくら何でも弱すぎだろう。これじゃ、相手にするのも馬鹿らしくなってくるな」

 確かに幾らゴブリンといえど、ずる賢く手先も器用な彼らに群れをなして襲われれば、苦戦するのも無理はないだろう。
 しかし彼らが襲われているのは、自分達と同数程度のゴブリンでしかない。
 そんな相手に苦戦する彼らに、マルコムは相手をするのも馬鹿らしいと笑う。

「は、早く助けてくれー!!」
「はいはい、分かりましたよ。先輩方ー、ちゃんと避けてくださいね?」

 必死にこちらへと逃げる騎士達から、悲痛な声が響く。
 その声にだるそうに応えたマルコムは、ゆっくりと左手を掲げる。
 それは、いつか見た構えと同じものだった。

「薙ぎ払え、『アイスランス』」

 マルコムは余裕たっぷりに、それを唱える。
 氷の上位魔法「アイスランス」ならば、その程度の魔物など一撃なのだからそれは当然だ。

「ん?何だ・・・どうして何も起こらない?『アイスランス』」

 しかし彼がそれを唱えても、何も起こらない。
 マルコムはもう一度、それを唱える。

「っ!?どうしてだ!?どうして何も起こらない!?『アイスランス』!!『アイスランス』!!」

 だが、やはり何も起こらない。
 マルコムは何度もそれを唱えるが、結果は同じだ。

「マルコム、前!!」
「シーマス、邪魔を・・・えっ?」

 壊れたように同じ呪文を唱え続けているマルコムに、シーマスの鋭い声が飛ぶ。
 それに邪魔をするなと切り捨てたマルコムは、その目の前に飛び掛かってくるゴブリンの姿を見ていた。



「ふふふ・・・しめしめ、騎士団の予算を決める書類が焼失したという事は、私の横領の証拠も消えたということ」

 誰もいなくなった執務室で、オンタリオは気味の悪い笑い声を漏らしながら一人呟いている。

「ふははははっ、という事はだ!また新しく金を盗んでも問題ないという事だ!!なんと都合のいい事をしてくれたものか!何か褒美でもくれてやりたいところだな!」

 騎士団の大事な書類が焼失した事を怒り散らしていたオンタリオが実は、誰よりそれを喜んでいた。
 それを示すように彼は上機嫌に笑い声を響かせ、唇を歪めては笑い転げている。

「おっと、そんな事よりも・・・今の内に書類を作っておかなければな。ふふふっ、予算の所をこう、ちょんちょんっとな。これでこの差分が私の懐に・・・ふふふっ、これでまた娼館巡りが捗るというものだ!最近、お気に入りの蜂蜜館に新人が入ったと聞いたばかりだしな・・・こいつで、ぐふ、ぐふふふ・・・」

 オンタリオがマルコム達をここから遠ざけたのは、それが目的であった。
 彼はどこかから持ち出してきた書類を手に取ると、そこに手を加えていく。
 彼はそれによって手に入る資金と、その使い道を思い浮かべては下種な笑い声を響かせていた。

「オンタリオ団長、オンタリオ団長!どこにおられるのですか、大変です!!」
「ほほぉぉぅ!!?な、何だ!?どうした、何があったというのだ!?えぇい、この忙しい時に!」

 オンタリオが書類に手を加えようとしていると、部屋の外から彼を呼ぶ声がする。

「おぉ、ここにおられましたか!!それが大変なのです!周囲の魔物討伐に出たマルコム達が、ゴブリンに手酷くやられて帰ってきたのです!!」
「何だ、そんな事・・・何だと?」

 それは、彼へと報告にやってきた騎士のものであった。
 マルコム達がゴブリンにやられ、逃げ帰ってきたという衝撃の報告を伝えに来た。



「お、お前達!これは一体どういう事なのだ!?」

 最強の騎士団である黒葬騎士団の騎士が、ゴブリン如きに敗れる。
 それは、あってはならない大不祥事であった。

「それが、急に力が出なくなって・・・」

 その問いに、騎士達は急に力が出なくなったという子供のような言い訳をする。
 しかし、それが事実なのだ。

「急に力が出なくなっただと!?何を子供のような!!えぇい、それよりもこの事をどう隠ぺいする!?それを早急に考えなければ、この騎士団は破滅だぞ!!」

 当然それはオンタリオに受け入れられる訳もなく、彼は頭を掻き毟っては彼らを怒鳴りつける。
 しかしオンタリオはその理由が何かよりも、その事実をどう隠ぺいするかに夢中なようだった。

「―――何を、隠ぺいすると?」
「分からないのか!?ゴブリンなどという貧弱な魔物に、我が黒葬騎士団の騎士が負けたという汚名を・・・ジ、ジーク閣下」

 そのオンタリオに、どこかから冷たく重い声が響く。
 それに振り返り、苛立ち交じりに怒鳴りつけていたオンタリオは目にしていた、彼らの主にも等しいお方である、ジーク・オブライエン公爵の姿を。

「その事ならば、既に知れ渡っているぞオンタリオ。それよりも貴様は、この騎士団を立て直すことを考えることが先決ではないか?」
「は、ははぁ!その通りでございます、閣下!!」

 オンタリオが隠そうとしていた事など、既に世間に知られているとジークは冷たく告げる。
 それよりも先にやる事があるだろうと話す彼に、オンタリオは頭を床に押し付けては平伏していた。

「・・・分かっているならば、実現して見せるのだぞオンタリオ。これ以上、黒葬騎士団の名を汚すことは許さん」
「は、ははぁ!!仰せのままに!!」

 それだけを告げて、ジークは踵を返して去っていく。
 彼の姿が消えてもなお、オンタリオは頭を床に擦りつけていた。



「あれは、もう使えんな。使えるならばと、不始末も見逃していたが・・・」

 通る先々で人々に頭を下げられながら、ジークは一人呟く。

「いや・・・あの騎士団も、か」

 そして彼は振り返り、黒葬騎士団の拠点オールドキープを見上げながらそう呟く。
 この国最強の騎士団、黒葬騎士団ももう使えぬ、と。



「と、とにかく!とにかくだ!!皆、仕事に励むのだ!!仕事に励んで励んで、汚名を払拭するしかない!!」

 ジークが立ち去った後、騎士達を集めた前でオンタリオはそうぶち上げる。

「しかし団長、事務の仕事はどうするのですか?ただでさえ溜まっていたのが、今回の件で大分焼失したという話ですが・・・」

 そんなオンタリオに、一人の騎士が手を上げると懸念を口にする。
 それは、溜まりに溜まった事務仕事をどうするのかというものだった。

「そ、それは・・・そうだ!ユーリを呼び戻せばいい!!騎士としては追放しろと言われたが、事務員として雇うなとは言われておらんのだ!!奴の事務処理能力なら―――」

 その懸念に、オンタリオはある妙案を思いつく。
 それは彼が追放したユーリを、事務員として呼び戻すというものだった。

「駄目だ!!そんな事は、この僕が許さない!!」

 その案を、マルコムが拒絶する。
 彼はゴブリンにやられボロボロの身体をシーマスに支えられながら、そう叫んでいた。

「は?だ、だがなマルコム・・・」
「とにかく駄目だ!!あいつはこの騎士団を追放されたんだぞ、それを呼び戻すなんて・・・大体、あんな雑魚を呼び戻してどうする!?あんな奴が帰ってきたって、却って騎士団の評判が下がるだけ―――」

 血走った目で叫ぶマルコムに、思わずオンタリオは気圧されてしまう。
 マルコムはユーリのような雑魚騎士が帰ってきても、騎士団の評判は上がらないと主張する。
 それは確かに、間違いではなかった。

「お、おい!皆大変だ!!これを見てくれ!!!」
「何だ、こんな時に・・・こ、これは!?」

 彼が、以前のままであれば。
 慌てた様子で部屋の中に駆け込んでくる若い騎士、その手にはどこかから剥ぎ取られた壁新聞が握られていた。

「『元騎士ユーリ・ハリントンお手柄!』だと?これ、あいつの事だよな・・・?」

 そこに記されていたのは、ユーリが冒険者として大活躍しているという記事であった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...