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レベルアップは突然に

残酷な事実

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「見なさい!!私、レベルが上がったのよ!!!今更あんた達のパーティに加わってくださいって頼まれても、もう入ってあげないんだから!!」

 何やら小さな紙片のようなものを掲げ、ギルド内にたむろしている冒険者達へとそれを見せつけているセラフは、とても自慢げな表情でそれを宣言する。
 彼女が掲げている紙片は、冒険者ギルドが発行するステータスカードだろう。
 それは冒険者ギルドであるならば、ほぼ間違いなく備え付けられている魔道具、『ステータスチェッカー』を使って判定したステータスを、カードとして発行してくれるサービスだ。
 彼女はそれを自慢げに掲げては、ドヤ顔でふんぞり返っていた。

「ふーん・・・お嬢ちゃん、レベルが上がったのか。頑張ったな、どれどれ・・・ん?これは・・・」

 ギルドの受付で発行して貰ったそれをすぐに周りへと見せ付けたのか、カウンター前の空いたスペースでふんぞり返るセラフに、ギルド内でたむろしていた冒険者の一人が近づいてくる。
 彼は午前中に今日の仕事を済ましてしまったのか、ギルド内で昼食を取っていたようで、僅かに肉と油、そして酒の匂いが漂ってきていた。

「どう!?レベル2よ、レベル2!!もうレベル1だからって、馬鹿になんてされないわ!!ふふーん、どうよ?恐れ入った?今なら、貴方のパーティに加わってあげてもいいのよ?勿論、条件が良ければだけどね!!」

 セラフが掲げるステータスカードをまじまじと観察し、男はその内容に首を傾げてしまっている。
 しかし初めてのレベルアップによって上機嫌なセラフは、そんな彼の仕草に気付くことはない。
 それどころか、彼女はさらに調子に乗った発言を繰り返すと、上から目線で彼のパーティに加わってあげてもいいと提案していた。

「あー・・・悪いが、お嬢ちゃん。それは無理だな」
「は、何でよ?私、もうレベル1じゃないのよ?レベル2よレベル2?ちゃんと見た?」
「あぁ、よーっく見て確認したよ。悪いがそのレベルじゃ、俺のパーティに加わるのは無理だな。じゃ、そういう事だから」

 ニコニコと眩しいほどの笑顔で、パーティに加わってあげてもいいと提案してくるセラフに、男はどこか言い辛そうに言葉を濁している。
 それでも男も流石は一端の冒険者か、言わなければならない事ははっきりと告げていた。
 それは、お前などでは足手纏いだという残酷な事実であった。

「えっ・・・?ちょ、ちょっと待ってよ!?私、ちゃんとレベルを上げてきたのよ・・・?」

 軽く手を振りながら去っていくその男の振る舞いを、セラフは予想していなかったと言葉を失ってしまっている。
 セラフは助けを求めるように周りに視線を向けるが、彼女に向けられる表情はどれも、白けたものであった。

「何だよ、レベル上げてきたってから期待したら、まだレベル2かよ。期待して、損したぜ」
「一桁はちょっとな・・・せめて二桁には乗せないと」
「ま、冒険者って名乗るには、それぐらいは最低限欲しいわな」

 彼らは口々に、セラフのレベル程度では相手にもならないと口にしている。
 その事実は彼らにとっては当たり前の事であったが、セラフにとっては初めて聞くものであった。

「そんな、二桁って・・・一つ上げるだけでもあんなに苦労したのよ?それを十回も?そんなの・・・そんなのやってられないわ!!」

 一つ、上げるだけであれほど苦労したレベルを、彼らは最低十は上げる必要あると語る。
 そんな苦労、やっていられないとセラフは叫ぶ。
 そうして彼女は、自らが自慢げに掲げていた紙片へと目をやっていた。

「何よ、こんなもの!!!」

 自慢げに掲げた事実が、その内容のしょぼさに悔しさを増大させる。
 セラフは思いっきり振りかぶり、全力でそれを床へと叩きつけると、それだけでは足りないとそれを踏みつけていた。

「レベル上げなんて・・・レベル上げなんて、もうやらないんだから!!!」

 先ほどまで感じていた充実感と達成感は、それが大した事がないと知れば、途端に喪失感へと変わってしまう。
 それは彼女に、レベル上げという行為自体を諦めさせるには十分な動機だった。
 もうレベル上げなんてしないと捨て台詞を吐いたセラフは、冒険者ギルドから飛び出していく。
 彼女が再びレベル上げを頑張るかどうか、それはまだ分からない。
 しかし少なくとも、彼女がここに戻ってくることは二度となかった。
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