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しおりを挟む本当にこの人があの龍を描いたのだろうか。もしかして銭湯で話しかけられた男に担がれているのかも知れないと思ったが、青はあっという間に泡を塗り、慣れた手つきで局部を持ち上げ、恥ずかしい恥ずかしいと叫んでいる間に綺麗に周囲の陰毛を剃ってしまった。切られはしないかと友彦のそれはいつの間にか大人しくなっていた。安心したのもつかの間、変わり果てた自分の股間を見て唖然とした。つるつるにされている。もともと体毛は薄いがこの状態を友人に見られたらきっと揶揄われるだろうことは容易に想像できた。暫くは銭湯に行けないし友達にも逢わずにいようと心の中で決めた。
青は友彦の様子を楽しみながらどこに入れたいと訊いた。ずっとここにあったらいいなと考えていた場所を指差す。足の付け根と局部の間。特別な相手にしか見せない場所だ。
「ここに……入れてください。小さいの」
「うん、ええ場所やと思う」
青は目を細めて笑った。
作業をしやすいように足を割り広げ、人には見せないようなところまで晒して作業は進められた。青は時折じっと手を止めて絵を確認するので、本人はいたって真剣だろうが邪な妄想が走り友彦は勝手に顔を紅くした。
絵が出来るまでの数時間、針は何度も何度も友彦の柔らかい肌を刺したが、その痛みに耐える度、強さを針で移植されているように感じた。少しずつ気が大きくなっていく。自分でもなんて単純だろうと自嘲したが自信なんてそんなものなのかもしれないと思った。
「完成したよ」
針で何度も刺されているのだから当たり前だが、じくじく痛む。だけど何とも言えない達成感だった。痛みで絵以外の何を得たわけでもないのに刺青一つでこんなに強気でいれるなんて。
「綺麗な状態保つ為にガーゼ貼っとくから今日のお風呂はNG。シャワーだけにしといてな。石鹸とかで洗うんもあかんで。大きい瘡蓋が出来たら困るから染み出て来る体液は洗うこと。瘡蓋になって痒かったら冷やして耐えて。それと絶対掻かへんこと」
「はい」
出来上がった桔梗は美しい紫色でうっとりする程綺麗に描かれており、刺青の周りだけ皮膚が赤く肉が少し盛り上がって花弁が妙にリアルに見えた。まるで生き生きと血を吸って咲き始めたように鮮やかに体に植わっている。やっぱりあの龍を描いた人だと確信した。そして花なんて女の人が入れるものだと初めは思ったけれどこの絵にして良かったと心から思った。
「お兄さんが一途な愛を貫けるように魂込めたから」
「はいっ!ありがとうございます、青さん!」
「気に入ってくれたならよかった」
「はい!」
「注意事項はこの紙に書いてあるから読んどいてな。それから……」
「ほんまに墨入れてしもた……」
興奮した友彦は何度も刺青を見て恍惚としていた。
「ありがとうございます」
「大事にしてな」
「勿論です」
青はガーゼを貼り道具を片付けながら付け加えた。
「注意事項」
「はい、家に帰ったらちゃんと読みます!」
「それはそうやねんけど、もう一つだけ」
「はい」
「その絵、一途な愛やから」
「はい……はい?」
「だから枯らさんようにしいよ」
「え?……はい」
肌に刻んだ刺青の花が枯れるわけはない。ちゃんと管理しろって意味だろう。そう捉えて友彦は服を直し、いくらになるか訊いた。だが初めに言った通りお金はいいと断られて何かあったら連絡してこいと名刺の裏に電話番号を書いてくれた。
店のドアを開けると外には真面目そうなサラリーマン風の男が煙草を咥えて手すりから外を眺めていた。もしかして予約のお客さんだろうか。飛び入りの自分を受け入れたからこの人を待たせてしまったとかなら申し訳ないなと友彦は青を振り返った。
「お、お客さんみたいです」
「あー、気にせんといて。連れやから」
「そうなんですね。ありがとうございました」
深々とお辞儀をして、外で待っていた男にも取りあえずぺこりと頭を下げて友彦はビルを出た。下から三階を見上げると青と男が見下ろして手を振っていた。大きく嬉しそうに手を振り返し、友彦は足取りも軽く駅方面へと向かっていく。
「あーあ。またあんな幼気な青年を餌食にして」
「だってぇ、可愛かったんやもン。それにタダでしてあげたよ。ええ経験になるんやし、ええやろ?一途な愛を求めて……うっしっし」
「また悪い事考えとる」
「一途な愛って、どんなもんやろなぁ。楽しみ」
男は煙を空に吐いて溜息を誤魔化した。
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