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第13話 酒泉童子②

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 雨の中で闘う二人の体力には大きな違いが生まれていた。生命童子は肩で息をしているが酒泉童子は戦い始めた時と同じ力を発揮して、息も乱れていなかった。どれ程戦っても酒泉童子の力は一向に緩まない。酒泉童子は生命童子よりも年上であり健康状態も生命童子程良好な状態ではなかった。互いに死ぬ気で戦ったことなど過去に無かったにしても、これ程までに力の違いがあったとは思えない。この力は正しく鬼のなせる技だった。そしてやはり鬼なのだと言う確信が齎されたのは酒泉童子の外見にも変化が見られ出したからだった。

 戦う間に頭頂部に二箇所大きな盛り上がりが生まれ、目が黄色く染まり始めている。腕の太さは倍ほどにもなろうとしていた。隆起していく筋肉は他の鬼達の特徴と同じもの。これが鬼になるという事なのかと、生命童子は変貌していく彼の姿に目を覆いたくなった。

「ワシを憐レに思うカ、生命ヨ」

 刀を交えながら酒泉童子は生命童子に訊いた。

「憐れになど思うものか!お主は鬼になることを選んだのだろう!」
「ソウダ、人から迫害され、住処を奪わレ、チカラを失イ、屈辱を味ワッタ。なのにまた鬼と戦えと奴ラは性懲りモナク、ワシに頼みに来た。虫唾が走ッタ。人とは鬼の様に残酷な生物ヨ。奴ラは猿鬼共に殺サレタ。ワシはそれをただ見て居た。ワシはもう既に鬼だったのだ」
「何故だ、酒泉!俺のことが信じられなかったのか?!神の力が戻ればお主の力は戻るとそう言った筈だ!」
「力は戻った、ホラこの通り!」

 酒泉童子はその剛力で薙刀を振り生命童子を再び飛きとばした。だが今度は倒れる事無く着地し、生命は次の一手に全力を掛けようと構えた。それは闘いに出かけた際、酒泉童子と共に編み出した斬殺技だった。

「せめてこの技で葬ってやろう……覚悟!」
「……来イ、生命!」

 薙刀を握り直し構えた酒泉童子の元へ生命童子は走る。宝剣を体に沿わせて前へ前へと走り、飛んでくる刃をその身一つで避けながら敵の領域に入った。何度も刃は頬を掠り血が流れるが距離を詰めれば攻撃は遅くなる。その間に一足一刀の間合いまで詰め寄り生命童子は宝剣を酒泉童子の首にあてがった。

 その瞬間、酒泉童子は攻撃の手を止め、防御をする事無く目を瞑った。

 笑みを浮かべて斬られるのを待つように――。

 

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