It’s raining (完)

小鷹りく

文字の大きさ
6 / 6

6. 雨:It's raining. (完)

しおりを挟む
電話のコールにドキドキする。


固定電話からかけるから、もし彼の新しい携帯に僕の番号が入れられていたら、僕からの電話だって分かる。


先輩は取ってくれるだろうか?


プルルル…プルルル… 


1回…2回…3回…もう出ないだろうか…


不安がよぎる。このまま留守番電話に接続されたら、きっと何もメッセージを残せない。


きっと僕は切ってしまう。


『もしもし?』


繋がった!一気に体に血が巡る。


『矢田?』


ああ、先輩、僕の番号、新しい携帯にも登録してくれていた。

それだけで嬉しかった。それだけで涙が出てきてしまった。

お酒で温まった体は雨に濡れた服で芯まで冷え切って、寒さで体が震えていたせいだろうか、声も震える。


「先輩、お久しぶりです。はい、矢田です。」

『矢田…。元気か?』

「はい、先輩は?」

『俺?元気だよ。今残業終わったところ。今日ゼミの同窓会行けなくて残念だよ。』

「ですね。」

『もう同窓会終わったのか?…矢田最近どう?仕事忙しい?』

「月並みに、はい。でもようやく慣れてきました。」


懐かしい声。電話で話すのは何年ぶりだろう。低いけれど重過ぎない、凛々しい声。

先輩は僕に話すときには柔らかく話す。僕は先輩の声が好きだ。

こうやって何年も話していないのを感じさせない位、二人の会話は自然だ。


「先輩は金曜日でも残業するくらいだから、すごく忙しいんだね。」

『まぁな。でも何もないよりましさ。最近はどうしてる?何か趣味始めた?』

「いえ、映画鑑賞はしてますけど、運動は何も。今日原田にまた”か弱い”ルックスだとからかわれました。」

『あいつも変わらないんだな、お前を野次る癖。」

「うん。…思ったほど皆変わってません。…そういえば、先輩に借りたCDまだ家にあります。返さないと。」

『あぁ、”Risky”ね。あれお前んちか…。いいよ、お前にやる。』

「…いいんですか…。」


先輩に会うきっかけが一つ消えてしまう。返す事を理由に、逢えるかもしれないと想っていた自分がいて、そしてそのチャンスが消えた事に残念すぎる声を出したようだった。


『…なんだよ、要らないんだったら返せよ。』

「いや、要らないわけではないんですけど…。」

『もう聞いてないのか?俺はまだあの曲だけはしょっちゅう聞くんだ。変わってないな。・・・そういえば、俺コーヒー飲めるようになったんだぜ。そこは変化だな。』

「そうなんですか?じゃぁ今度一緒に飲めますね。」

『うん…。』

「・・・・・・」

『矢田…?』


一緒にコーヒー飲める日なんて本当に来るんだろうか。

先輩は僕に会いたいと思ったりした事はあったのだろうか?

先輩は、僕の事をどう想っていたんだろう? 僕はどうしたかったのだろう? 

会いたいと想ったのは僕だけなのだろうか?


『矢田?聞こえてる?』

「…はい。・・・先輩・・・、こっちすごい雨降ってます・・・。」

『こっちは降ってない…。』

「僕スーツビショビショで帰ってきました。」

『お前まさかそのままか?この時期だと確実に風邪引く。早く着替えろ。』

「嫌です。電話切りたくないので。」

『何バカ言ってんだ、早く着替えろ!』

「だって、そしたら先輩と話できなくなっちゃうじゃないですか?」

『また電話したらいいだろう?ほら!』

「嫌です。」

『何でここでそんな我儘言うんだよ。俺は傍に居ないのに。』

「・・・・・・。」

『じゃぁ、分かった。電話切らずに待ってるから、早く着替えて来い!』

「分かりました、じゃぁ2分で着替えます。」


僕は手早くずぶ濡れの服からパジャマに着替えると、すばやく受話器を耳にした。


「先輩?!まだ切ってないですか?先輩?」


『・・・・・・』


「先輩・・・。」


『・・・おぅ、着替え終わったか我儘王子。』


ほっとする。また電話をかければいいだけだけど、僕はどうしても今切りたくなかった。

勇気を出してかけた電話だ、今日の繋がりをまだ切りたくない。


「はい、お待たせしました。」

『俺はタバコ吸ってたんだよ。それも俺の変わったところ”その2”だな。』

「タバコ吸う様になったんですか?」

『あぁ、口寂しくてな。』

「あんまり似合わない。」

『…そうだな、俺もそう想う。』

「ねぇ先輩・・・。今度CD返しに行ってもいい?」

『・・・・・・。』

「先輩?・・・」

はぐらかされるのかな?

『・・・なぁ、お前の声聞くと落ち着くよ。』

「・・・僕も先輩の声好きです。」

『・・・雨になるとお前を思い出す。』


ドキンと心臓が高鳴った。顔が赤くなる。でも先輩には見えない。


『雨になると、あの曲を聞いてお前の事を考えるんだ。

 あの夜、お前にあんな事しなければ良かったって。いつも後悔する。』


どういう意味だろう。今度は青ざめた。あの夜の出来事が汚点だという意味だろうか。

考えてみればそうなのかもしれない。きっと彼は少し魔が差しただけ。

そういうことなんだ、きっと。

そう思うと勝手に涙が零れる。泣いているのを気付かれないように喋らないと。

でも、どうせ話せなくなってしまうなら、今まで言いたかった事を伝えたい。

玉砕はしたんだから、もう僕には怖いものがない。

伝えよう、思いを…。僕は勇気を振り絞って決意して切り出した。

あの夜の事を。あの夜からの想いを・・・。

「先輩…。あの夜…僕は嬉しかったんです。

  先輩がキスをしてくれて。

 一緒の布団で寝れて。

 先輩は僕の憧れでした。僕はあの時どうしたらいいか分からなかったんです。

 先輩とずっと一緒に居たくて…。

 何か喋れば夢のように消えてしまうんじゃないかって。

 怖くてその事に触れられなかった。

 あれからずっと貴方を想ってました。

 でも距離が出来てしまって。

 先輩は後悔しているのかなってどこかで判ってました。

 でも先輩から離れて過ごしたくなかった。

 社会人になったら、余計に距離が出来てしまって、

 やっと今日電話をかけることが出来たのに。

 ずっとずっと会いたかったのに…。ぐずっ。」


しまった泣いているのがばれる。鼻水が勝手に流れてくる。


『矢田?泣いているのか?』

「泣いていません。風邪を引き始めただけです。」

『尚更ダメだろう。・・・矢田・・・。』

「はい・・・。」

『矢田・・・。俺は後悔してた。お前に気持ちを伝えずにキスをしたから。

 お前の気持ちも聞かず、俺の気持ちも言わず、勝手にキスした事を後悔している。

 お前に会いたいと想っていた。

 でも、会いたいと言っていいのかもわからなかったんだ。』


「僕は先輩に会いたかった。会いたいと想いながらずっと過ごしてました。」


彼の笑顔に心を救われる度、僕のLikeはLoveに変化していった。

心から会いたいと想ってた。そう伝える。


『お前が俺に会いたがっていればいいのにと、勝手に待っていた。

 でも何もしなかった。俺は卑怯者だよ。』


「先輩、僕は先輩に会いたかった。心から、いつも、貴方に会いたいと想っていた。

 なのに何も出来なかった。

 僕も会いたいと想われたかった。僕は弱虫だよ。」


先輩が電話口でふっと微笑んだのがわかった。


『似たもの同士って事か。』

「うん、今日香山先輩にもそういわれた。」

『え?里香が?』

「はい、自分が身を引いたのに、何してんだって怒られました。」

『アイツやっぱりすげぇやつだな。俺の気持ちより先に俺の事を判ってたんだな。』

「・・・それ、何だかすごく妬けますけど。」

『・・・。今度お前んちにCD取りに行くよ。』

「!!はいっ!!」



僕等はとても長い遠回りをしたようだ。

でも2年間の積み重ねた思いは、愛しさを増す雨水となり互いを思う心を育てた気がする。

少しリスキーな道だったけど、僕はやっと先輩に会えるだろう。


『雨まだ降ってるのか?』

「うん、まだ降ってるよ・・・。」


窓にかかる水の流れを通して暗い夜空を眺める。

空は繋がっている。僕はもうすぐ貴方に会える。


ーーーーーーーーーーーーーーーEND-------------------


《最後まで読んで下さって有難う御座いました》
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

九頭龍渚
2020.01.22 九頭龍渚

小鷹様、コメント失礼いたします。

ここに書いていいのでしょうか? 何度読んでも「いいなぁ♪」と余韻の残るお話です。B`zの稲葉さんの声がふたりの電話のやりとりに被ります。
もしも、このお話に続きがあったら是非読ませていただきたいと思います。
小鷹様、いつも素敵なBLを発表して下さり、誠にありがとうございます。

2020.01.26 小鷹りく

さやこ様
こちらへの訪問ありがとうございます❤️
そして返信遅れまして申し訳ありません。
このお話の続きはまだ考えてないのですが、思いついたら続編書きたいと思います。
こちらこそいつも応援ありがとうございます😊

解除

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。