129 / 231
第二部 オッドアイの行方ー失われた記憶を求めて
SUITE 1
しおりを挟むフェリーからMGMカジノホテルまでは無料シャトルバスが出ていたので、私達はそれに乗り込んだ。
大きな金のライオンに出迎えられて巨大な建物に入る。入り口にも金色のヤギが居た。文化の違いに圧倒される。待ち合わせ場所は指定されていないが、付いた時間は既に19:30を過ぎていた。黒服を来たイヤホンをつけている警備員があちこちにいる。その内の一人が私達をじっと見たかと思うと近づき英語で話しかけてきた。
「ミスターソメヤ?」
「ええ、そうです。」
「付いてきて下さい。」
黒服の男性に誘導されエレベーターに乗り、フロアを進むとどんどん人気が少なくなっていく。それに連れてどんどん床や壁が豪華な造りに変わっていった。小さなロビーの泉を過ぎ、有名画家の石像の横を通り、壁が金色のブロックで出来た廊下を通ると、SUITEと書かれた部屋の前に着いた。
「ミスターカナミが待っています。」
そう言うと黒服の男はドアを2回ノックした。
中で少し物音が聞こえ、重厚なドアが開いていく。一気に緊張が走った。
少し日に焼けた髭を蓄えた男性に出迎えられる。
「良臣君だね?」
「はい、お初にお目にかかります。染谷良臣です。」
「石原 拓海です。」
「東 志津香です。」
それぞれ頭を下げた。
「御三家勢ぞろいか、中へ入りたまえ。君、もういいよ。」
春成様は男性に手払いをすると私達は中へ通され、ドアが閉められた。
部屋の中にシャンデリアがあり、天井がピカピカ光って部屋がそのまま天井に映る。ダイニング用の円卓に洋風の椅子が六つほど並び、その奥にソファセットがあった。
「正式に言うと初めてでもないけどね。忠臣(染谷の父)と会ったときに少しだけ見たことがあるんだが、小さかったから覚えていないだろう。まぁ掛けなさい。」
そう言って豪華なソファセットを指差した。全てを見てきたかの様な目に見据えられて私達三人はそっと席に着く。
春成様は背こそ左程高くは無いが、がっしりとした体格をしていて、歳は重ねているけれども私と肉弾戦で戦えばいい勝負をするかもしれないと思わせる程戦い慣れた体つきに見えた。蓄えた口髭と顎鬚も銀色で、同じ色の長髪を後ろで一つに綺麗に束ねている。"銀髪の日本人"として衝撃的な印象を与える風貌だ。私達の捜索に直ぐに彼が浮上してきたのもよく分かる。一度見たら忘れないだろう。
「小さい時の事はあまり覚えておらず申し訳ありません。」
「いや、当たり前だ、そんなことはいいんだ。で、情報屋を紹介して欲しいんだな?」
彼は棚から背の短いグラスを四つ取り出し、テーブルに置くと自分も座り込み、氷を入れてブランデーを注いでいく。彼は海静様と同様酒豪だと聞いている。
「ええ、香港で有能な方をご紹介頂きたいんです。」
「今香港に来るとはいい度胸だね。この混乱直前に…。」
「混乱直前とは…?」
「もう直ぐデモが始まる。香港政府が中国の法律制度を受け入れようとしているんだ。前にもあったんだが、当局側の法律を受け入れるときは、毎回学生達が大きなデモを開始する。今回の件に関しては外国人である君たちにも関係ある法律さ。大きな動きになるだろう。巻き込まれないように気をつけないとね。」
「はい…。」
話している中身は初耳でまだよく分からないが近くデモが起こるらしい。捜索に影響が出なければいいのだが…。
「で、紹介してやるのはいいが、ただで教える訳には行かない。」
出来上がったブランデーのロックをそれぞれに渡して、一口飲みながら彼は言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
fall~獣のような男がぼくに歓びを教える
乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。
強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。
濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。
※エブリスタで連載していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる