雪の記憶 ー僕を救った妖精ー

小鷹りく

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第九話

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 月光が雪の粒に反射して辺りは外灯もないのに頂上は十分明るかった。大木の下で始まった楽しそうな声は響く事もなく雪に吸い込まれている。

「―――……それでね、こーんな長い鼻をした象っていう動物も居るんだよ」

 ユキトはその腕を目一杯左右に広げて永雪に見せた。

「なんと。その象とやらは世に存在するものであったか。だがどうやってそれを檻に閉じ込めるのだ。そんなに大きい獣であるなら皮膚も堅いのであろう。刃が入らぬならどのように言う事を聞かせるのか」

「象はねハエが肌についても気付くくらい繊細な皮膚をもってるんだよ。だからね、小さな尖がったクイで叩かれたらそれだけで……痛くって……言う事をちゃんと……――」

 ユキトは自分の持っている知識を永雪が持ち合わせていない事に少しの優越感を抱き雄弁に説明をしていたが、普段は感じなかった違和感に気付いた。

「……酷いんだね。人間て」

 月明かりとは違う赤や青やオレンジの街明かりをその場所から見下ろしてユキトは自分の腹に手を当てた。

 ユキトが腕を広げた際にたくし上がった服の隙間からは内出血で赤く変色した打ち身が見えた。

「痛むのか」

「少し。でも大丈夫だよ。慣れてるもん」

「痛みに慣れてはならん」

「でもどうにもできないんだ。だって僕は変なんだ」

「何が変なのだ」

「お父さんも居ないし。お母さんだって…」

「だがお前は生きているではないか」

「そうだけど……」

 永雪はすくっとその場で立ち上がると、広がる目前の雪の原っぱに左手を翳した。

 永雪の長い髪が少しふわりと浮き、力を込めた瞬間一面の雪の中から選ばれたように小さな結晶達が音も無く幾つも浮かび上がり、一つ一つが永雪の手の平に引き寄せられるように集まった。それらが手の中で小さな山となると永雪はそれをユキトに差し出した。

「食え」

「えっ……」

「いいから食え」


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