現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン

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 とことんツキが無い俺は、派手剣軍団に絡まれて脅された被害者なのに、青笹さんに説教された。

 俺は悪く無いのに・・・。

 絡んで来た派手剣軍団は、地元の大学に通う大学生で、ダンジョン同好会なるサークルの活動の一環で、桜ダンジョンに潜っていたそうだ。

 大学側は、逮捕者の懲役が確定しているので、退学処分を下すだろうと。

 そして明日以降は逮捕者の親から、穏便に片付けて欲しいと連絡が来ると思うから、慎重に対応してくれ、とも言われた。

 協会としては、探索者資格の剥奪と再登録不可の処分に加え、司法の方へ『厳罰を求める』と伝えるそうだ。

 因みに俺は今回の件、容赦するつもりは一切無い!

 一方的に絡んで来て、殺すだのなんだの言ってくる奴を助ける義理は無い!

 青笹さんの説教が終わったので、俺は再びゲートに向かう事にした。

 ゲートを通ってダンジョンに入ると、3階のモンスターハウスまで転移して、そこから階段室に向かって歩き始めた。

 俺は桜ダンジョンしか知らないが、ダンジョンの中は不思議な物で、照明器具は設置されていないのに、ある程度明るさがある。

 そのお陰で探索用に買ったライトは一度も使っていない。

 どれくらい明るいかと言うと、前方20mくらいは見通せるくらきには明るい。

 そして今は19時を回っているのだが、ダンジョン内は昼夜関係無く一定の明るさの様だ。

 階段室に辿り着くまでに何度か戦闘はしたが、棍の扱いに慣れた俺の敵ではなかった。

 そして念願の階段室、部屋の中は誰も居なかったが、ファントムナイトの前例があったので、慎重に室内へと足を進めていく。

 室内をくまなく調べ、安全が確認出来たので、なにかあった時にすぐに4階に避難が出来る様に、階段近くで一夜を過ごす事にした。

 リュックの中からアウトドアマットを取り出し、横になる場所に敷いて、今夜の寝床は完成した。

 次はカセットコンロを取り出して、夕食の用意を始める。

 今夜のご飯は、ドロップしたオーク肉のステーキと、パックご飯だ。

 オーク肉を取り出して、2cmくらいの厚さに3枚ほど切る。

 切ったオーク肉に塩コショウをして、温めたフライパンに並べる。

 片面が焼けたらひっくり返してフタをして、弱火で蒸しながら焼いていく。

 もう一台のカセットコンロで温めていたパックご飯も十分に温まったので、オークステーキが焼けるまで待つ。

 豚肉は菌がいるからしっかり火を通さないといけないと、オカンに教わった事を思い出したからだ。

 しばらく待ち、オークステーキが焼き上がったので、フライパンの中で一口大に切り分けたら夕食の開始だ。

 オークの肉は、今まで味わった事が無いほど美味しい肉だった。

 味と見た目は豚肉だが、柔らかくジューシーで、臭みも全く無い、いくらでも食べられそうな肉だった。

 しかも味付けは塩コショウだけだったが、それでも十分過ぎるほど美味しかった。

 だが天は俺に平穏を与えてくれる事はなく、半分くらい食べ進めていた時に階段室内に異変を感じた。

 『ブッブッブッブッブッブッ』っと豚の鳴き声の様な音が微かに聞こえた来たのだ。

 オークの亡霊か?と思いながらも手元に棍を手繰り寄せ、音の聞こえた方に意識を向けた。

 豚の鳴き声の様な音に混じって『チャッチャッチャッチャッチャッ』と、爪のある四足歩行動物が歩く音が聞こえて来る。

 俺の食事を邪魔する為にモンスターが現れた様だ。

 階段室は、階段室を守るボスが倒されたら、モンスターは現れないと聞いていた。

 だから泊まり込みで潜る探索者は、階段室をセーフティールームとして使い、そこで寝泊まりしているのだ。

 だが俺の目の前には、まだ姿は見えないが、明らかにモンスターだと思われる四足歩行の何かが存在しており、少しづつではあるが俺に近付いて来ている。

 座っていた体勢から立ち上がり、いつでも戦える様に棍を握って前方を注視した。

 相変わらず『チャッチャッチャッ』と、爪がある足が地面を蹴る音が聞こえて来るが、足音の間隔の割に姿がなかなか見えて来ない。

 姿を消すモンスターか、隠密性の高いモンスターか、どっちだ?と思いながら音のする方に目を凝らしていると、朧気にだが体の一部が見えて来た。

 まず黒光りする爪と白っぽい体毛に覆われた足が見え、続いて見えて来たのは、しっかりとした胴体が見えた。

 四足歩行の何かは顔が見える前に立ち止まって、こちらの様子を窺っている様だった。

 四足歩行で白い体毛のモンスター、探索者になる前に調べた限りでは、桜ダンジョンでの出現例は無かったはずだ。

 ただ、ファンタジー的な創作物の中では特徴が一致するモンスター、いや・・・神獣が存在している。

 天を落とし地を砕く、高貴なる神の狼[フェンリル]だ・・・。

 そんなモンスターと戦って勝つ自信は無い。

 だがここまで来たら逃がしてもくれないだろう・・・。

 この距離でモンスターの放つ殺気をまだ感じていないが、俺は覚悟を決めて、棍を構えてフェンリルが姿を完全に現すのを待った。

 俺の気持ちが伝わったのか、フェンリルが、痺れを切らしたのかは知らないが、一度立ち止まったフェンリルの足が再び動き始めた。

 極限状態の緊張に晒され、俺の口の中はカラカラに乾いていた。

 その反面、棍を握る手はジットリと汗をかいている。

 黒光りする爪の生えた足が地面を蹴る音と共に、フェンリルの顔が見えて来た。

 スラッと伸びた獰猛そうな口元・・・ではなく、シワシワの黒くて可愛らしい口元が見え、続いて周囲を圧倒する眼光を放つ鋭い目・・・ではなく、クリっとした大きな瞳と目が合い、ピンと伸びた大きな三角形の耳・・・ではなく、黒くて垂れた可愛らしい耳が見えて来た。

 こいつ[フェンリル]じゃない・・・、[パグ]だ!

 フェンリルじゃなくてパグだったと安心し、力が抜けた俺の方に向かってパグは走って来た。

 パグと言えどダンジョン内で出会えば、モンスターの類で間違いないだろう。

 俺は棍を構えてパグを迎撃する体勢を整えた。

 パグが走るスピードは変わらず、俺の方に向かって走って来る。

 覚悟を決めた瞬間、ほんの一瞬だがパグと目が合ってしまった。

 かわいい・・・。

 そう思ってしまった事が俺に隙を生み出させる事になり、パグは棍の間合いの内側に完全に入ってしまった。

 こうなれば棍を使った反撃は不可能だ。

 格闘で迎撃するしかない!と、気持ちを切り替えて体勢を整え様としたその時、パグは俺に体当たりをせず、俺の後ろへ駆け抜けて行った。

 
 
 
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