いや、けども。Side Story

GURA

文字の大きさ
1 / 3

メグルの休日:

しおりを挟む
:メグルの休日


大学進学を機に上京してからあっという間に7年という時間が経った。

特に記憶に残るような深い思い出もなく、ただ時間だけが過ぎ去っていく。

社会人になってからは平日遅くまで仕事で残ることも珍しくなくて、帰って適当にご飯を食べて、お風呂に入ったらベッドに倒れこんで。

朝になったらまた仕事に出かけて、週末は溜まった家事をしてダラダラと過ごす。

たまに買い物に出かけたり、仕事終わりに同僚と飲みに行ったり。

熱中できるほどの趣味もなくて、なんやかんや彼氏もいたけど長続きはしなかった。



そんな時に新しいゲーム機が発売されるという宣伝が流れた。

〔現実とは違うもう一つのリアルな世界〕

というのが売りで従来のテレビにゲーム機をセットして画面で見ていた世界から、ヘッドギアを装着することで360°見渡すことができる。

操作自体はコントローラーを使っているから体に感じるリアル感はないけど、画素数が多いのかヘッドギアを装着して見える景色は現実と同じようなリアルさだった。
チャットはヘッドギア内のマイクに向かって話すと送られるようで、その辺は字を打たなくてもいいから楽だった。
通話機能もあるみたいだけど、流石に初対面の人と話すのは怖いし抵抗があった。


そこそこの値段はしたけど、かなり興味が引かれた。
休日の暇つぶしになればと思って始めたゲームだったけど、キャラクター作りからどっぷりはまり込んでしまうものだった。

キャラクターも細かく作れるようで、なかなか作りがいがある。
PVでみた女性キャラの装備の露出度を思い出して流石に水着みたいなものは……と思って男性キャラにした。

……なんとなく恥ずかしいし、あんな装備で防御できる気がしない。いや、性能は一緒だと思うけどさ。

折角だからイケメンにしよう。
あ、プレビューで表情も動かせるんだ。

目元は少し大きめの切れ長で、笑うとすごく優しい感じ。

髪と目は色素薄目だけど、項にかからないくらいの短髪で爽やかに。

身長は高すぎるのもだし、平均くらいで。

あ、この声カッコイイ。
低くもなく高過ぎず、落ち着いた感じ。


職業はー、ソロで回る予定だしなー。
事前情報でファイターかマジシャンが人気って書いてたな。
ハンターはやめた方がいいとか……。

後々は生産もしてみる予定だし、そしたらDEX上げといた方がいいよね。
ってことはハンターの方が良さげだな。

いくら不毛職って言ってもそんな酷いもんじゃないと思うし。

えーと、名前は本名をちょっと変えて〔メグル〕でいいか。



ゲームなんてスマホでやるくらいですぐに飽きることが多かったけど公式サイトや攻略サイトをみて情報を集めたり、休日の前の日には夜通しレベル上げに勤しんだり初めてこんなに熱中した。

野良パーティに入ってチャットを使ってゲーム内で仲良くなった人とかもいて、一緒に高レベルのイベントに参加したりもして。

仲良くなったのはみんな戦闘狂みたいな人達ばっかりだったから、また会えたら~ってフレンド登録とかもせず意外とあっさりしたものだったけど。

NPCとの会話も1人1人細かくなっていて、話しかけると選択肢が出てきたりして親密度を上げると一緒にパーティーメンバーとして着いてきてくれたりと育成仕様もついている。


夢中でゲームをしていたら1年経つころには気づけば最大Lv.90まで到達していた。


ストーリーも最終まで進めていてアップデートを待つばかり。
その間にも錬金や調理、畑仕事とかの要素があってゲームに飽きるなんてことはなかった。


ゲームを初めてから異世界転生物の小説を読んだり、漫画を見たりする機会も増えた。
それくらい今の自分とは違う自分になれる世界に憧れていた。



「いっその事ゲームの中で生活できたらいいのに」

その日も夜遅くに仕事から帰って、ログインしようとしたとき。

それはふと思っていたことを口にした小さな囁き。

何も縛られない場所で自由に生きれたらどんなに楽しいだろう。




「ま、小説や漫画じゃないんだからありえないか」


小さな囁きが現実となるのはもう少し後のお話し。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

魅了魔法の正しい使い方

章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のジュリエンヌは年の離れた妹を見て、自分との扱いの差に愕然とした。家族との交流も薄く、厳しい教育を課される自分。一方妹は我が儘を許され常に母の傍にいて甘やかされている。自分は愛されていないのではないか。そう不安に思うジュリエンヌ。そして、妹が溺愛されるのはもしかしたら魅了魔法が関係しているのではと思いついたジュリエンヌは筆頭魔術師に相談する。すると──。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

うるせえ私は聖職者だ!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
ふとしたときに自分が聖女に断罪される悪役であると気がついた主人公は、、、

処理中です...