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:メランダの悩み
しおりを挟む:メランダの悩み
私は【セドルの街】で雑貨屋を営んでいる。
元々冒険者でヒーラーをしていたけれど、それほど才能もなかったからすぐに転身した。
それから辺境の地にあるにも関わらず、多くの冒険者を輩出している【セドルの街】に店を構えた。
商才はあったようで1人で経営しているが割と客足は多い。
ただ最近の悩みといえば、
「こんにちは、メランダ。今日も素敵だね」
「こんにちは。何かお探しですか? 」
ここ最近よく店に来るこのメグルという冒険者の事についてだ。
「いや、珍しい花を採取してメランダに似合うかと思って」
「あら、ありがとうございます。素敵な花ですね」
アイテムポーチから取り出された花は、月の光を浴びて夜にしか咲かないという月光浴花だった。
夜は周辺のモンスターのレベルも上がるし、視界も悪いからなかなか手に入らない。
よほど繊細な花みたいで小さな花弁がいくつも重なり、一つ一つが小さくも存在を主張している。
雑貨屋を営む私でも数回しか見たことのないものだった。
メグルは最近この街に拠点を移したみたいで、初めて雑貨屋に来てくれた時から常連さんだ。
何でも冒険者にしては珍しい調理スキルや錬金スキルも使えるみたいで、瓶や調味料なんかの消耗品を買って行ったり、試作した珍しいものをお店に卸してくれたりと顔を合わせる機会も何かと多い。
問題は特に用がない時にも歯の浮くようなセリフで口説いてくることだろうか?
何切っ掛けだったのかはわからないが、これだけアタックされると嫌でも口説かれていると分かる。
……正直悪い気はしない。
メグルの事が鬱陶しいわけでも嫌いなわけでもない。
むしろ、少しクールな印象がある表情が柔らかく微笑む姿とか優しく接してくれるところなんか本当にタイプだ。
「よかったら、これから一緒に採取に行かない? 」
「えーっと…、お店が忙しいのでまた今度で」
ただ恥ずかしいだけなのだ。
いままで女性ばっかりのパーティーメンバーで旅をしていたし、もし私に近づくような男の人がいたらパーティーメンバーが阻止していたし。(今でも【セドルの街】に立ち寄った時には何故か心配される)
冒険者を引退してからもお店の経営や仕入れなんかで忙しくて男の人と二人で出かけたこともなかったからこういう時にどうしていいかわからない。
「じゃあ、また今度誘うね」
そういって笑いかけてくれたメグルは本当にかっこよかった。
ある日、街の市場に出かけたときにメグルらしき人を見かけた。
今日はお店もお休みだし、たまには勇気を出して私から声をかけようとすると隣には女の人が立っていた。
冒険者っぽくない格好だからお店の売り子さんなんだろうか。
メグルが女の人に笑いかけて、頭を撫でている姿を見たら胸が痛くなってその場から逃げ出した。
前にギルドの受付の子にメグルが色んな女の子に声を掛けていると聞いたことがあった。
その時にはメグルの事をよく知らなかったし、ふーんとしか思わなかったが今実際に目にするとキツい。
メグルのことが気になり始めてからは些細な情報にも一喜一憂していた。
遠征先でモンスターを倒した話、街で女の子と話していた様子、新人の訓練補助をした話……
今日見た子とはどんな関係なんだろう。
あまりにも私が素っ気ない態度だったからダメなのかな。
昼に見た市場での光景が頭の中でグルグルしていて、夜ベッドに潜り悶々と考え続けたがどうしていいかわからなかった。
「やあ、メランダ。今日も素敵だね」
「……いらっしゃいませ」
翌日もメグルは店に顔を出した。
私からは昨日のことは聞きだせない。
もしあの子の事が好きだなんて言われたら、しばらく立ち直れない自信があるもの。
「今日は錬金用の空き瓶を10個貰おうかな」
「1200ヤソになります」
「ありがとう。今日はいい天気だね。【始まりの草原】に散歩にでも行かない? 」
何事もなかったように私を誘うあなたにチクっと胸が痛んだ。
あまりにもいつも通り過ぎて、私はどうしていいのかわからない。
「残念だけど、今日は仕入れがあるの。また今度ね」
「あれ、メランダ敬語……」
「敬語の方が良かったかしら? それなら戻すけれど」
しばらく顎に手を当てて考えるような仕草をするメグル。
私から精一杯の勇気を出した歩み寄りのつもり。
本当はあなたともっとお近づきになりたいの。
まだまだ恥ずかしくて一緒に出かけるなんて、だって所謂デートでしょ?
意識してしまってとてもじゃないけど無理だわ。
きっと恥ずかし過ぎて、目も合わせられないし何も話せなくなってしまうわ。
そんな私にメグルは呆れちゃう。
でも他の子には負けたくないの。
だって初めての気持ちなんだもの。
意識させたのはメグルなのよ?
ちゃんと責任とってよ……。
「ううん! そっちの方が嬉しい。メランダと仲良くなれたみたいだし」
ニコッと微笑んだあなたにまた私の心臓はまた跳ねる。
早く私の心臓はこのドキドキに慣れてくれないかしら。
そうじゃないと今にも破裂して死んじゃいそうよ……。
素直になれない私の精一杯のアピール。
これから少しずつ私は変わっていくわ。
だっていつまでも恥ずかしがってはいられないんだから。
小さな勇気はあなたに届いてくれたかしら……?
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