38 / 57
:冒険を始めましょう
38:
しおりを挟む私が走り出してしばらくすると、こちらが近寄っているのに気づいたのかマーカーが動きボスの周囲を何匹かが囲む。
残りの何個かのマーカーはすぐ近くに散らばって待機しているようだ。
冒険者がボスや周りのウルフに注意が向いた隙を狙って攻撃してくるつもりなのだろう。
私みたいに索敵スキルを使ってマップで位置表示が出来ない冒険者や新人だと一気に全滅する可能性もあるだろう。
しばらく走り続けるとマーカーまであと50mの所まで近づいた。
向こうからの殺気も徐々に感じられるようになってくる。
ウルフ達がいるせいか、走り抜けてきた森の中はやけに静かだった。
そっちが待ち構えているなら、こっちは先手必勝。
近くある少し高めの木に登ってウルフ達がいる方向に背中から弓を取って構える。
派手に爆発させると森が火事になって収拾つかなくなるし、ここは1番被害が少なそうな風魔法を付与する。
「さて、死なない程度に頑張りますか」
ポツリと呟き矢を放った。
矢は暴風を纏って、周りの木々を吹き飛ばしながらウルフの群れに向かっていく。
目的に到達した瞬間に結構大きな音がして、その一帯で木や草が弾き飛んだ。
「あれ? 」
私がいる位置からウルフ達がいる場所までは木々が鬱蒼と生えていたはずだけど。
矢が通過した一直線上は幅3mくらいは何も無くなっていた。
ウルフ達がいた筈の場所も高い木が無くなっていて、未だ粉塵が舞っている。
......ここまでするつもりはなかったけどなぁ。
やっぱりゲームのスキルとでは話が変わってくるようだ。
【セドルの街】周辺では矢に魔法を付与して使うのはオーバーキルだからと行って、訓練所で火魔法を付与して使ったくらい。
あとはさっきペル達を援護する時に火魔法で当たった標的を爆発させたくらいかな。
あの時も予想より威力が強すぎてびっくりしたなー。
後々他のスキルも威力をどこかで確認しないと。篭める魔力の量とかで威力のコントロールが出来るようにならないと災害級にやばい気がする。
マップを見るとボスマーカーはさっきの場所から移動していて、周りを囲んでいたマーカーは3個まで減っていた。
やっぱりボスは一筋縄ではいかないかー。
これで決着付けばと思わなくも無かったが、流石はボス。
矢が通過して出来た道を走り出して、ボスまで一気に距離を詰めにかかった。
マーカーの位置に近づくにつれて威嚇する声が大きくなってる。
矢が突き刺さったと思われる場所は結構深めのクレーター。
......この付与魔法ってコントロール出来るまで、誰かいる時には危険過ぎて使えないやつだね。
とりあえず、今は見なかったことにしよう。
始めは30匹程の大きな群れだったけど、今となっては仲間が3匹のみ。
10分の1まで群れが減って相当お怒りな事だろう。
ちらりと奥の方にいたウルフのボスの姿を確認した時は驚いた。
群れのボスらしきウルフは全長3m程の大きさで、月明かりに反射した毛並みは白っぽくてキラキラと光っている。
普通のウルフって毛は黒っぽくて1.2~1.5m位の大きさだけどその2倍はある。
現に近くにいるウルフの毛色も黒っぽく、普通の個体より大きい方だがボスとは比べるまでもなかった。
でも、このモンスターって……。
かなり見覚えがあるんだけど。鑑定かけてみるか。
[白銀狼 Lv.45:イベントモンスター]
やっぱり!!
この世界に来る前に倒してたイベントモンスターだ!
ゲームしてる時に集めていた白銀狼の皮って素材を落とすから、出現するという情報提供が出た森をあっちこっち駆けずり回ったものだ。
白銀狼の皮から作る防具が性能はいまいちだけど、見た目が格好良くて欲しかったんだよね。
まだ作製に必要な数が集まらないうちにこの世界に来たからアイテムポーチに入ってた素材は家の倉庫にいくつか残っている。
イベント中はあちこちの森にウルフ数十体と出現してたけど、まさか今出てくるとは思わなかった。
だからこんな初心者用のフィールドに普段は出るはずのないウルフの大群が出現していたのか。
確かこのイベントの後にアップデートが予定されていた。
私がイベントモンスターに出会った感動の余韻に浸っている隙に、周りにいた取り巻きのウルフ3匹が一斉に襲いかかってきた。
やっぱり普通のウルフよりも移動スピードも少し速い。けど、このレベルのウルフならナイフでもいける。
弓では1対多数で小回りが利かない為、ポーチに仕舞っていたナイフを2つ取り出して両手に構える。
1体目は体を少しずらして避けて、右足の筋を切りつける。
2体目は喉元に一閃とお腹にナイフを突き刺す。
3体目は右腕に噛み付こうとしてたから右足でステップを取って左手で横っ面を殴る。ついでにガードの弱いお腹に蹴りをお見舞いした。
最初は気分最悪だったナイフでの戦闘も短期間で数をこなして慣れてくると容赦なく倒すことが出来る。
......こうやって小説の主人公達は元の世界の感覚が麻痺してくるんだろうな。
この身体になってから動体視力とかも良くなったせいか、時々モンスターの動きが遅く感じるときがある。
しかも体を動かすのはとても軽いしパワーもある。
スキルは使えば使うほどレベルが上がるとは言うけど、二刀流ナイフは私と相性が良かったみたいで意外と使えるようになるのも早かった。
ゲームではハンター用でクリティカルとか素早さ多めでステ振りしてたせいだと思うけど。
それにウルフ相手なら【薄暗い森】でも一対多数で戦闘の練習してたしね。
ナイフスキル習得には訓練所の熟練冒険者にチュートリアル的なものを聞いたりはした。
習った片手ナイフでの戦闘はあまり使えなさそうだったから、一緒に習った初心者用体術とナイフ2本を組み合わせて自己流で使っている。
もっと上達できそうだけど、いい師匠いないかなー。
10
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる