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:旅は道連れにしてみましょう
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「あー…、目が重い……。」
「俺もいま瞼がパンパンです……」
あの後ひとしきり泣いた私たちは、お互い様ということで和解した。
お互い様で済むような話じゃないと思ってたけど、それで解決という事でいいらしい。
ラルクもまだまだ私と旅を続けたいって意思を汲むことにした。
よく考えれば大人になってあんなに泣いたの無かったかも知れない。
改まると少し恥ずかしいな……。
辺りはすっかり真っ暗になっていて、ひとまず川の水で冷やした布でお互い目元を押さえている。
明日の朝には腫れが治まっていたらいいけど。
「メグルさんでも不安に感じることはあるんですね……」
目にかけていた布を離して私の方を見ると、大泣きしたラルクは火の明かりだけでもわかるほど目元が腫れていた。
「僕だっていつも、これで良かったのかって後悔することがいっぱいある。いまだって昼の行動がラルクのトラウマになっていないか心配だし…」
本当にいつだって迷ってばかりだ。
ただ、終わった事をうじうじしてても仕方ないから今できる事を最大限にと思って行動している。これは社会人になって特に強くなった傾向かもしれない。
逆に自分一人ではどうにもならない事もあるから、その時には周りに助けてもらうことも多々あるし。
1人でどうにも出来ない事があるからこそ、迷ってしまう事がいっぱいある。
「……正直、モンスターを殺すのはまだ怖いです。でも、メグルさんが何度も言ってたようにいつ帰れるかもわからない世界で、生き抜いていくためにはやらなきゃと思ってます。……いつまでも頼ってばかりではいられないし」
まだ少し震えている手をしっかりと握りしめて言った。
多分ラルク自身も自覚していることでもあったんだろう。
いつまでも頼ってばかりではこの先を生き残るのが大変になってくることに。
自覚があって後ろめたさを感じていたから、あの大泣きだったのかもしれない。
ラルクは強いな。
たまにちょっとお馬鹿なところもあるけど、真っ直ぐで自分の弱さに立ち向かえる心の強さがある。
「ラルクは強いね」
ふと笑ってそう言うと少し照れた様子ではにかんだ。
泣いて目も腫れて、見た目はボロボロのはずなのにすごく大人びて見える。
「いつか俺もメグルさんみたいに強くなります! すぐにとは言えないけど、絶対!! 」
「……僕ももっと強くなるよ。今のままではまだまだだからね」
「うえっ!? そしたらいつまでも追いつけないですよー」
良かった。
またこうして笑いあうことが出来て、一緒に旅を続けてくれて。
あの時は責任を感じてだったけど、いまはラルクを旅に誘って本当に良かったと思ってる。
「メグルさんは俺の目標であり、お父さんであり、兄ちゃんみたいな感じですね! 」
「いやいや、まだ25だからお父さんって……」
あ、そうだ。忘れてた。
今の言葉でふと思ったけど、私はまだラルクに中身の話してなかった。
もう2、3週間も同じテントで寝てるし、なんなら普通に着替えとかも目の前でしてたね。
毎日自分の体を見てると段々そっちにも耐性出来てくるし、そうなると今更上半裸とか下着1枚だけとかドキドキもしないし……。
だって目線を下にずらせば見事なシックスパックだよ?
腰も女性とは違うけど細い割りにしっかりしてるし。腕とか足の筋肉も触り放題。
ゲームキャラのせいか体毛もほとんど無いし、なんだこのモデル体型。
完全におっさん目線のセクハラ。
対象が自分だから許されるとは思うけど。
これは女として色々終わってる気がする……。
言うべきかな?
いや、言っとけよって感じのやつだよね。
なんて切り出せばいいんだ?
「あー…、そのことだけど、ちょっといいかな? 」
「ん? そんな改めてなんですか? 」
不思議そうな顔で見てくるラルクには今更な感じもあり、余計に言いづらくなってしまった。
いや、でも言わなかったらなんか騙してる感じがあるし、なんか後ろめたさがあるんだよなー。
いいや、言ってしまえ。
「……僕、本当は女なんだよね」
「え? その体どこをどう見ても男じゃないっすか。胸が無いにしても無さすぎですよー。」
もしかしてAAカップとかですか、なんて言ってはははと笑うラルクは微塵も疑っていない。
うん。キャラはね?
爽やか系のイケメンですからね。
こんな女の人いたら絶対男装アイドルとかで売れるくらいのイケメンだよね。
骨格的にどうみても女には見えないけど。
てか、女の子にAAカップとか馬鹿にしたら怒られるからね。
いいじゃん、AAでも女は胸だけじゃないし!
だんだん論点がずれてきたね。
「ラルク、元々はここはゲームなんだよ? 」
私の言葉に一瞬キョトンとした表情を浮かべるとしばらくして何やら一人百面相を始めた。
お、やっと意味が分かったみたいだ。
赤くなったり、青くなったり忙しいな。
「えっ、ってことは、メグルさんて元の世界で…」
「そう、女なんだよ」
「えーーーーっ!?!?」
思った通りの反応をありがとう。
なんか所々鈍いし反応良いから元の世界ではラルクはいじられキャラだったんだろうな。
「こんな男前なのに!? いや、メグルさんが女!? 」
「なんかそこまで言われると複雑だな」
「全然考えた事もありませんでした……」
え?
普段から全然女に見えない?
それ見た目のせいだけじゃないの?
ほら仕草とか、話し方とかあるでしょうが。
……自分で思い返してみてもそんな要素なかったわ。
それをいままで微塵も感じさせなかった私もどうかと思うけどさ。
「ちなみに一つだけ質問良いですか? 」
「なに? 」
「トイレってどうしてます? 」
「……ラルク、今からモンスター倒しに行こうか? 」
「っ!? すみませんでした!!」
出来心でした、と謝るラルク。
言うに事を欠いて聞くとこそこ!?
この世界トイレは水洗だけど、洋式は自宅だけで他は和式便所みたいなのしかなかったから最初は座ってしてましたけど。
何故自宅だけは洋式だったのかそこもよくわからんけども。
いまなら立ったままその辺でもできるもんね。
大分慣れてきたもんだ。
なんて胸張っても誇れることじゃないけどさ。
だんだんとこの体で定着してるよね。
「俺もいま瞼がパンパンです……」
あの後ひとしきり泣いた私たちは、お互い様ということで和解した。
お互い様で済むような話じゃないと思ってたけど、それで解決という事でいいらしい。
ラルクもまだまだ私と旅を続けたいって意思を汲むことにした。
よく考えれば大人になってあんなに泣いたの無かったかも知れない。
改まると少し恥ずかしいな……。
辺りはすっかり真っ暗になっていて、ひとまず川の水で冷やした布でお互い目元を押さえている。
明日の朝には腫れが治まっていたらいいけど。
「メグルさんでも不安に感じることはあるんですね……」
目にかけていた布を離して私の方を見ると、大泣きしたラルクは火の明かりだけでもわかるほど目元が腫れていた。
「僕だっていつも、これで良かったのかって後悔することがいっぱいある。いまだって昼の行動がラルクのトラウマになっていないか心配だし…」
本当にいつだって迷ってばかりだ。
ただ、終わった事をうじうじしてても仕方ないから今できる事を最大限にと思って行動している。これは社会人になって特に強くなった傾向かもしれない。
逆に自分一人ではどうにもならない事もあるから、その時には周りに助けてもらうことも多々あるし。
1人でどうにも出来ない事があるからこそ、迷ってしまう事がいっぱいある。
「……正直、モンスターを殺すのはまだ怖いです。でも、メグルさんが何度も言ってたようにいつ帰れるかもわからない世界で、生き抜いていくためにはやらなきゃと思ってます。……いつまでも頼ってばかりではいられないし」
まだ少し震えている手をしっかりと握りしめて言った。
多分ラルク自身も自覚していることでもあったんだろう。
いつまでも頼ってばかりではこの先を生き残るのが大変になってくることに。
自覚があって後ろめたさを感じていたから、あの大泣きだったのかもしれない。
ラルクは強いな。
たまにちょっとお馬鹿なところもあるけど、真っ直ぐで自分の弱さに立ち向かえる心の強さがある。
「ラルクは強いね」
ふと笑ってそう言うと少し照れた様子ではにかんだ。
泣いて目も腫れて、見た目はボロボロのはずなのにすごく大人びて見える。
「いつか俺もメグルさんみたいに強くなります! すぐにとは言えないけど、絶対!! 」
「……僕ももっと強くなるよ。今のままではまだまだだからね」
「うえっ!? そしたらいつまでも追いつけないですよー」
良かった。
またこうして笑いあうことが出来て、一緒に旅を続けてくれて。
あの時は責任を感じてだったけど、いまはラルクを旅に誘って本当に良かったと思ってる。
「メグルさんは俺の目標であり、お父さんであり、兄ちゃんみたいな感じですね! 」
「いやいや、まだ25だからお父さんって……」
あ、そうだ。忘れてた。
今の言葉でふと思ったけど、私はまだラルクに中身の話してなかった。
もう2、3週間も同じテントで寝てるし、なんなら普通に着替えとかも目の前でしてたね。
毎日自分の体を見てると段々そっちにも耐性出来てくるし、そうなると今更上半裸とか下着1枚だけとかドキドキもしないし……。
だって目線を下にずらせば見事なシックスパックだよ?
腰も女性とは違うけど細い割りにしっかりしてるし。腕とか足の筋肉も触り放題。
ゲームキャラのせいか体毛もほとんど無いし、なんだこのモデル体型。
完全におっさん目線のセクハラ。
対象が自分だから許されるとは思うけど。
これは女として色々終わってる気がする……。
言うべきかな?
いや、言っとけよって感じのやつだよね。
なんて切り出せばいいんだ?
「あー…、そのことだけど、ちょっといいかな? 」
「ん? そんな改めてなんですか? 」
不思議そうな顔で見てくるラルクには今更な感じもあり、余計に言いづらくなってしまった。
いや、でも言わなかったらなんか騙してる感じがあるし、なんか後ろめたさがあるんだよなー。
いいや、言ってしまえ。
「……僕、本当は女なんだよね」
「え? その体どこをどう見ても男じゃないっすか。胸が無いにしても無さすぎですよー。」
もしかしてAAカップとかですか、なんて言ってはははと笑うラルクは微塵も疑っていない。
うん。キャラはね?
爽やか系のイケメンですからね。
こんな女の人いたら絶対男装アイドルとかで売れるくらいのイケメンだよね。
骨格的にどうみても女には見えないけど。
てか、女の子にAAカップとか馬鹿にしたら怒られるからね。
いいじゃん、AAでも女は胸だけじゃないし!
だんだん論点がずれてきたね。
「ラルク、元々はここはゲームなんだよ? 」
私の言葉に一瞬キョトンとした表情を浮かべるとしばらくして何やら一人百面相を始めた。
お、やっと意味が分かったみたいだ。
赤くなったり、青くなったり忙しいな。
「えっ、ってことは、メグルさんて元の世界で…」
「そう、女なんだよ」
「えーーーーっ!?!?」
思った通りの反応をありがとう。
なんか所々鈍いし反応良いから元の世界ではラルクはいじられキャラだったんだろうな。
「こんな男前なのに!? いや、メグルさんが女!? 」
「なんかそこまで言われると複雑だな」
「全然考えた事もありませんでした……」
え?
普段から全然女に見えない?
それ見た目のせいだけじゃないの?
ほら仕草とか、話し方とかあるでしょうが。
……自分で思い返してみてもそんな要素なかったわ。
それをいままで微塵も感じさせなかった私もどうかと思うけどさ。
「ちなみに一つだけ質問良いですか? 」
「なに? 」
「トイレってどうしてます? 」
「……ラルク、今からモンスター倒しに行こうか? 」
「っ!? すみませんでした!!」
出来心でした、と謝るラルク。
言うに事を欠いて聞くとこそこ!?
この世界トイレは水洗だけど、洋式は自宅だけで他は和式便所みたいなのしかなかったから最初は座ってしてましたけど。
何故自宅だけは洋式だったのかそこもよくわからんけども。
いまなら立ったままその辺でもできるもんね。
大分慣れてきたもんだ。
なんて胸張っても誇れることじゃないけどさ。
だんだんとこの体で定着してるよね。
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