となりの結界師はちょっとだけ不器用

ななみん

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第一章 光圀町と血の結界

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 光圀町。この地に住む者なら誰しもが耳にしたことのある言葉がある。  
「厄災は神の怒り。祈りと血で鎮めよ」  

 私の生まれ育った宗田神社は、代々神を鎮める役目を担ってきた直系の宮司の家系だ。洋服よりも白と赤の巫女装束に馴染み、畳の香りの中で祝詞を覚えながら育った。祖母はこの土地における“最後の巫女”と称される存在で、私の師匠でもある。

 けれど、その祖母は今年の三月、床に伏した。転倒による入院。いったん落ち着いたかに見えたが、五月に入って昏睡状態となる。  
「今年、鵺が来る」  
 そう言い残したきり、祖母は目を覚ましていない。

 この町では、厄災は突然現れない。山が鳴き、犬が吠え、海がざわつく。自然の声を聞き取ることが、私たちの役目だった。  
 祖母の代わりに私がその役を引き継いでから早二ヶ月、異常はなかった。けれど今日、それは来た。  

 高校の教室で、突然全身を貫く瘴気に気づいた。本能が危険を告げ、呼吸が乱れた。先生が早退を勧めてくれたのは幸運だった。私は制服のまま神社に駆け戻る。着替えもそこそこに、叔父と協会の担当に連絡し、迎えの車に飛び乗った。

 辿り着いたその場所には…巨大な蛇が鎮座していた。  
 地鳴りのような唸り。逃げ遅れた人々への避難勧告が出される中、私は装束を正し、短刀を抜いた。

 巫女の力は祈りだけではない。血を捧げて呼ぶ霊獣――私は自らの手首を斬り、和紙に血を滴らせ、狐を召喚する。  
 赤い光とともに現れた一匹目の白狐が蛇に噛みついた。しかし、それだけでは抑えきれない。  

 二度目の召喚のため、更に深く短刀を入れる。痛みに耐え、和紙を染める。血が尽きる前に、二匹目の狐を呼ぶ。  
 だが、蛇は強すぎた。咆哮とともに一匹目の狐が霧散し、私の身体も地に叩きつけられる。  

 それでも――退くわけにはいかない。  
 祖母が守ってきたこの町を。  
 祖母が託してくれたこの使命を。  
 私は、祈り続ける。
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