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伊達メガネ再び
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メガネくんに伊達メガネを返した日の放課後、僕は自分用に安い伊達メガネと濃いサングラスを買った。二つ合わせても六百円に消費税。三百円ショップ様々だ。
自分の部屋に帰り、このメガネどちらでもちゃんとバグが使えることを確認する。
寄り目ができれば伊達メガネはいらないのでは、と思い、メガネなしで試してみたけど、それではバグを再現できなかった。右手でメガネを持ち上げるポーズをしながらでもダメだった。
そんな風に検証をしているうちに一つの発見を得ることができた。
「おおおおお」と吠えたくなるような高揚した気分になる。
この興奮を誰にも話せないのはやっぱり少々辛いものがあるな、と思いながら、ベットに潜り込んだのだった。
次の日の放課後、僕は図書室に来ていた。
先生からお勧めの本を受け取り、僕はいつもの席でそれを読む。なんだか、こうやって集中して本を読むのは久しぶりな気がする。
二時間ほどで読み終わり、本を閉じ、そして目を閉じる。
印象に残った場面を順番に思い返しながら、この本は面白かったのに、終わり方があっさりしすぎていて少し盛り上がりが足りなかったな、と思った。
物語や小説にはもっと意外性があった方がいいと思う。台本のない現実では気の利いたセリフもすぐには出てこないものだし、あまりに現実離れしたことが起きても、それを巡る大冒険なんかが始まるものでもないようだし。
目を開けて立ち上がろうとした時に、一つ席を開けて本も読まずに座っている人がいることに気が付いてぎょっとした。
体がフリーズしてしまった僕。体は固まってしまったが、頭は混乱の真っ只中にいた。
にも関わらず、ほらね、こんな時、気の利いた言葉なんて出てこない、なんて考えてたりもしていた。
「司書先生から、先々週くらいに、僕が君と図書室にいたという聞いたのだよ」
メガネくんは相変わらずのペースで話し始めた。
「ただ、僕にはそんな記憶はないのだよ」
まあ、バグの検証で何か新しいことを見つけて、それが神様か世界の禁止領域に触れてしまって、記憶を消されちゃったんだろうね、と思った。
「ただ、さらに言うと先々週は塾をサボっていたらしいことが分かったのだが、そのことも記憶にないのだよ」
百田先生が僕のすぐそばに来る。
「昨日、僕がよく行く喫茶店で司書先生と遭遇して、君のことを聞いたのだよ。そこで図書室で僕と君が話していたこと、その喫茶店は君も利用しているということを聞いたのだが……」
「その話をしてたらね。話が聞こえていたマスターが来てくれてね。先々週、遠見くんと目兼くんが二人で一緒に二日連続で来ていたことを教えてくれたの」
なるほど。どんな偶然か分からないけど、少しずつ僕の周りの人が繋がっていってるんだな、と思いながら、いや、僕がメガネくんに声をかけてもらったから始まった人の輪か、と思い直した。
「驚かないのだね。君も先々週からの記憶が曖昧になっていると聞いたのだが」
「戸惑ってるっていう表情でもないわよね? もしかして、何か思い出せたの?」
「おそらくだが、メガネを下駄箱に入れたのも君なのだろう? できれば一緒に入っていたメモについても教えてもらいたい」
そうか。あのメッセージを見ても記憶は戻らなかったのか……だからこその今の状況か。でも、話しかけようとしても避けていた彼が今ここにいる、ということは何かが引っかかっている、何かを思い出せそうだから来た、ってことなんだろうな。
僕は周りを見回して誰の気配もないことを確認する。
いや、念には念を入れよう。
「先生、今、図書室に僕ら以外に誰かいますか?」
「キラ……絹衣さんと笠原さんがまだいるはずよ」
「そうですか……」
「何よっ、私たちがいたら何か言えない話でもあるわけっ?」
そう言いながら、本棚の裏から出てくる二人。やっぱり立ち聞きしてたんだ。気配はないけどなんかいる気がしたんだよね。
うん……やっぱり、危険に繋がる可能性がある話だし、これ以上踏み入った話を、僕に敵対的な人には聞かせられないな。
「はい、そうですね。メガネくん、場所を変えても?」
僕からの直球に目を見開いて「なっ」と言って固まる図書委員さん。悪いけど、元々何か繋がりがある先輩ではないのでスルーすることにする。従姉妹の百田先生が心配なんだろうけど、ならば先生がいないところで話をするだけだ。
「もちろん構わない」
その返事に僕は頷く。
「先生、すみませんがお先に失礼します。本の感想はまた明日以降に話させてください」
先生は本を受け取って、「えっ? えっ?」と僕とメガネくんの顔を交互に見る。たぶん、この場を用意してくれたのは先生だと思う。だから、この話の続きを聞きたいだろうし、その権利もあるんじゃないかと思う。だから、一瞬、バグの話も含めて先生にも話してしまおうかと思ったのだけど……先生ともいつかバグのことを共有できたら嬉しいけど、でも、まずはメガネくんにだけ話そうと思い直した。知れば記憶を失う可能性があることだし。
先生がまた涙目になってしまっているけど、もう一度すみませんと謝ってカバンを手に取った。
「わたっ、私もっ! 私も連れてって!」
追い縋ってくる先生に少し困っていると「司書先生にはきっかけをもらってしまった。君が良ければだが、先生にも一緒に話を聞いてもらっては駄目だろうか」とメガネくんにまで言われてしまった。
「それなら私も付いて行くからねっ!」
フリーズから解放された図書委員さんが走ってきて話に割り込んできた。もう一人も一緒について来たようだ。
駄目だ。こんなにたくさんの人にごちゃごちゃ言われてしまうと、僕には処理しきれない。
さっきの「人を拒絶する」行為でさえ精神力をガリガリ削りながらなんとか口にしたっていうのに。
ぷつん。
僕の許容量を超えて、何かが決壊した音が聞こえたような気がした。
「メガネくん、申し訳ないけど、僕はまず君と共有していた話題について君とだけ話したいんだ」
まず、メガネくんにそう言って百田先生の方に向き直る。
「先生、先生にはまた改めてお話しするのでは駄目でしょうか? 状況が許せば、なんですけど」
先生の目を見て、ちゃんとまじめに伝えると、先生も僕の目を見ながら「はい。分かりました」と、まるで先生の方が僕の生徒になったみたいな返事をしてくれた。
やっぱり可愛いな。こんなこと、面と向かって口に出しては言えないけど。
次に図書委員の人が何か言っていたけど、僕はもう関わらないことにした。
今日に関して言えば、先生とは話をしないわけだし、これ以上この人に何か言われる筋合いはないはずだから。
自分の部屋に帰り、このメガネどちらでもちゃんとバグが使えることを確認する。
寄り目ができれば伊達メガネはいらないのでは、と思い、メガネなしで試してみたけど、それではバグを再現できなかった。右手でメガネを持ち上げるポーズをしながらでもダメだった。
そんな風に検証をしているうちに一つの発見を得ることができた。
「おおおおお」と吠えたくなるような高揚した気分になる。
この興奮を誰にも話せないのはやっぱり少々辛いものがあるな、と思いながら、ベットに潜り込んだのだった。
次の日の放課後、僕は図書室に来ていた。
先生からお勧めの本を受け取り、僕はいつもの席でそれを読む。なんだか、こうやって集中して本を読むのは久しぶりな気がする。
二時間ほどで読み終わり、本を閉じ、そして目を閉じる。
印象に残った場面を順番に思い返しながら、この本は面白かったのに、終わり方があっさりしすぎていて少し盛り上がりが足りなかったな、と思った。
物語や小説にはもっと意外性があった方がいいと思う。台本のない現実では気の利いたセリフもすぐには出てこないものだし、あまりに現実離れしたことが起きても、それを巡る大冒険なんかが始まるものでもないようだし。
目を開けて立ち上がろうとした時に、一つ席を開けて本も読まずに座っている人がいることに気が付いてぎょっとした。
体がフリーズしてしまった僕。体は固まってしまったが、頭は混乱の真っ只中にいた。
にも関わらず、ほらね、こんな時、気の利いた言葉なんて出てこない、なんて考えてたりもしていた。
「司書先生から、先々週くらいに、僕が君と図書室にいたという聞いたのだよ」
メガネくんは相変わらずのペースで話し始めた。
「ただ、僕にはそんな記憶はないのだよ」
まあ、バグの検証で何か新しいことを見つけて、それが神様か世界の禁止領域に触れてしまって、記憶を消されちゃったんだろうね、と思った。
「ただ、さらに言うと先々週は塾をサボっていたらしいことが分かったのだが、そのことも記憶にないのだよ」
百田先生が僕のすぐそばに来る。
「昨日、僕がよく行く喫茶店で司書先生と遭遇して、君のことを聞いたのだよ。そこで図書室で僕と君が話していたこと、その喫茶店は君も利用しているということを聞いたのだが……」
「その話をしてたらね。話が聞こえていたマスターが来てくれてね。先々週、遠見くんと目兼くんが二人で一緒に二日連続で来ていたことを教えてくれたの」
なるほど。どんな偶然か分からないけど、少しずつ僕の周りの人が繋がっていってるんだな、と思いながら、いや、僕がメガネくんに声をかけてもらったから始まった人の輪か、と思い直した。
「驚かないのだね。君も先々週からの記憶が曖昧になっていると聞いたのだが」
「戸惑ってるっていう表情でもないわよね? もしかして、何か思い出せたの?」
「おそらくだが、メガネを下駄箱に入れたのも君なのだろう? できれば一緒に入っていたメモについても教えてもらいたい」
そうか。あのメッセージを見ても記憶は戻らなかったのか……だからこその今の状況か。でも、話しかけようとしても避けていた彼が今ここにいる、ということは何かが引っかかっている、何かを思い出せそうだから来た、ってことなんだろうな。
僕は周りを見回して誰の気配もないことを確認する。
いや、念には念を入れよう。
「先生、今、図書室に僕ら以外に誰かいますか?」
「キラ……絹衣さんと笠原さんがまだいるはずよ」
「そうですか……」
「何よっ、私たちがいたら何か言えない話でもあるわけっ?」
そう言いながら、本棚の裏から出てくる二人。やっぱり立ち聞きしてたんだ。気配はないけどなんかいる気がしたんだよね。
うん……やっぱり、危険に繋がる可能性がある話だし、これ以上踏み入った話を、僕に敵対的な人には聞かせられないな。
「はい、そうですね。メガネくん、場所を変えても?」
僕からの直球に目を見開いて「なっ」と言って固まる図書委員さん。悪いけど、元々何か繋がりがある先輩ではないのでスルーすることにする。従姉妹の百田先生が心配なんだろうけど、ならば先生がいないところで話をするだけだ。
「もちろん構わない」
その返事に僕は頷く。
「先生、すみませんがお先に失礼します。本の感想はまた明日以降に話させてください」
先生は本を受け取って、「えっ? えっ?」と僕とメガネくんの顔を交互に見る。たぶん、この場を用意してくれたのは先生だと思う。だから、この話の続きを聞きたいだろうし、その権利もあるんじゃないかと思う。だから、一瞬、バグの話も含めて先生にも話してしまおうかと思ったのだけど……先生ともいつかバグのことを共有できたら嬉しいけど、でも、まずはメガネくんにだけ話そうと思い直した。知れば記憶を失う可能性があることだし。
先生がまた涙目になってしまっているけど、もう一度すみませんと謝ってカバンを手に取った。
「わたっ、私もっ! 私も連れてって!」
追い縋ってくる先生に少し困っていると「司書先生にはきっかけをもらってしまった。君が良ければだが、先生にも一緒に話を聞いてもらっては駄目だろうか」とメガネくんにまで言われてしまった。
「それなら私も付いて行くからねっ!」
フリーズから解放された図書委員さんが走ってきて話に割り込んできた。もう一人も一緒について来たようだ。
駄目だ。こんなにたくさんの人にごちゃごちゃ言われてしまうと、僕には処理しきれない。
さっきの「人を拒絶する」行為でさえ精神力をガリガリ削りながらなんとか口にしたっていうのに。
ぷつん。
僕の許容量を超えて、何かが決壊した音が聞こえたような気がした。
「メガネくん、申し訳ないけど、僕はまず君と共有していた話題について君とだけ話したいんだ」
まず、メガネくんにそう言って百田先生の方に向き直る。
「先生、先生にはまた改めてお話しするのでは駄目でしょうか? 状況が許せば、なんですけど」
先生の目を見て、ちゃんとまじめに伝えると、先生も僕の目を見ながら「はい。分かりました」と、まるで先生の方が僕の生徒になったみたいな返事をしてくれた。
やっぱり可愛いな。こんなこと、面と向かって口に出しては言えないけど。
次に図書委員の人が何か言っていたけど、僕はもう関わらないことにした。
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