つらさが伝わらないつらさ――痩せ姫をめぐる備忘録

エフ=宝泉薫

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過食の底知れない恐怖

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「過食になるくらいなら、拒食のままがよかった」
「過食にはなりたくないから、少しずつ食べられるようにしていきたい」

そういう声を、しばしば耳にする。
拒食から過食に転じるというのは珍しいことではなく、
「大なり小なり、過食を経験しないと、この病気は治らない」
という治療者もいるほど。

にもかかわらず、拒食の人は「過食にだけはなりたくない」と願い、過食の人は「拒食のほうがマシ」みたいな気持ちを抱きがちだ。
どちらにもそれ相応のつらさ、があるはずなのに、それでも「過食の恐怖」が強調されがちなのは、何故なのか。

ここで、考えてみたいのは、イメージの問題。

拒食=ストイック、でも(まわりから見れば)心配。
過食=だらしない、でも(まわりから見れば)まだ安心。

こんなイメージを持つ人が、多い気がする。
自己コントロール欲求や、誰かの関心を惹きたい願望が根底に潜んでいたりすることを思えば、こうしたイメージの違いって、かなり大きい。

じつは、これって「食」の問題だけとは限らないのかも。
以前、ある人のブログに「思いのたけが綴られていて、うらやましい」という意味のコメントをしたところ、
「自分としては、だらしなく感じる」
という意味の返事をいただいた。

その瞬間、ひとつ腑に落ちたというか・・・。

書きたくても我慢するほうが、その人にとっては、自分を律していることになって、好ましいことなのかもしれない。

そういえば、西城秀樹が生前、脳梗塞後のリハビリについて、
「頑張ってるうちに、どんどん自分を好きになるんですよ」
みたいなことを、言っていた。

人間、特に現代人は「つらいことを我慢して、頑張る」ということに、極めて高い価値を、置いている気がする。
その分、その逆の状態については、低い評価をしてしまうのではないか。

「過食にだけはなりたくない」「拒食のほうがマシ」という人が多い背景には、そんな価値観が、大きく作用しているように思えてならない。

さらに、最近つくづく感じるのは、これほどの情報化社会でなければ「過食の恐怖」がこんなにもクローズアップされることはなかったのでは、ということ。

それこそ、今はネットなどを通じて、さまざまな情報が仕入れられるから、過食に転じた人が、そのつらさを語れば語るほど、拒食の人のなかに「恐怖心」が芽生える、という傾向もあるように感じる。
(それでなくとも、心の病気になると「不安の先取り」が目立つようになるし・・・)
一方、拒食の人もつらさを語っているわけだが、それがともすれば、過食の人に、あのつらさのほうがよかった、できれば戻りたい、という衝動をもたらすことも。

じつは、治療過程において、努力の大変さは同じだと思う。

過食の人が、食べたい気持ちと必死に闘ってるように、拒食から治る、あるいは拒食で死なないためには、食べたくない気持ちを我慢して、少し頑張って食べてみる、という姿勢が、不可欠なわけだから。

ほどほどに我慢する、適度に頑張る、というのは、すごく難しいことで、僕自身、なかなかうまくいかない。
だからこそ、痩せ姫に一種の親近感を抱いているのかも。

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