讃美歌 ① 出逢いの章              「礼拝堂の同級生」~「もうひとつの兆し」

エフ=宝泉薫

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保健室の受難

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練習試合の日から、美尋は茉莉を少し違う目で見るようになっている。

もし、拒食症になってしまっているのだとしたら、なんとかしてあげなきゃ。
立ち読みした本には「死に至ることもある」と書かれていたし。

でも、いざ目の前にすると、何も言えない。
その本には「患者は食事や体型についての干渉を嫌がる」ともあり、茉莉が不愉快になるようなことをして、せっかく芽生え始めた友情を壊したくなかった。

だけど……

友達が命に関わる病気かもしれないのに、そんなことを気にしている場合だろうか。

図書館で本を借りるなどして、さらに拒食症の複雑さを学んだ美尋は、水曜日になってやっと、アプローチを決意。

「来週から衣更えでしょ。
あたし、太ってるから、夏に向けてダイエットしようって思ってるの。
茉莉さんは今まで、痩せたいとか太りたいとか考えたことある?」

自分の話にかこつけ、茉莉の痩せ願望を探るつもりだったのに。

しばらく黙り込んだあと、
「美尋さんはそのままで魅力的ですよ。
ダイエットの必要なんて全然ないと、私は思います」

質問には答えず、その態度はまるで、自分の体型云々の話から美尋を遠ざけようとするかのようだった。

「そうかなぁ……」

「そうですよ。
でも私、衣更えだなんて、すっかり忘れていました。
それより、6月になったらすぐ、最初の定期テストですよね。
そのことで頭がいっぱいというか、気になって仕方ないんです」

今はテストより、体のことを気にしたほうがいいのでは。
衣更えになったら、痩せすぎなことがよけいに目立つのだから。

そんな言葉が喉から出かけるのを、あわてて呑みこむ。

頭の中で、練習試合で見た茉莉の姿に夏の制服を重ね合わせながら、美尋は胸に痛みを感じた。

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