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崩れゆく楼閣
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しおりを挟むたしかに……
あの養護教諭は電話で、産婦人科や精神科を勧めていたけど、本人も気は進まないだろうし、何か変な噂をたてられないとも限らない。
そこへいくと、茉莉のいう「いつもの病院」なら、専門は内科。
昔からのつきあいだから、秘密も厳守してくれるはずだわ。
痩せてはいても元気なのだし、過呼吸発作のことは気になるものの、とりあえず、あそこで診てもらってから考えればいいことかも。
それに何より、あそこなら近いから、一緒に付き添うにしても、仕事に穴をあける時間が少なくて済む。
「わかったわ。
でも、養護の先生は、あなたの生理がとまっている、とも、おっしゃってたけど、それについてはどうなの」
「あ、大丈夫です。
今月はちゃんと来ましたから。
それに私って、もともと、周期が不順ですし」
養護教諭の勧める病院にかかるのを、回避できた安心からか、茉莉は案外、すらすらと嘘をつくことができ、
「じつは今日、いつもより宿題が多いんです。
そろそろ、そちらにとりかかってもよろしいでしょうか」
「そうね。
さっきみたいな発作がまた起きないといいけど、疲れているだろうから、早めに片付けてゆっくりおやすみなさい。
なんなら、すぐに寝て、明日の朝にやってもいいんじゃないかしら」
「はい、今日はいろいろとごめんなさい。
病院に行くのはちょっと怖いけど、お母様が一緒にいていただけるなら、心強いです」
茉莉がリビングから去ると、母親はふーっとため息をつき……
大丈夫。
体はともかく、心は変わっていない。
自分になりすましたのだって、産婦人科に行かされるのがよほどイヤだったのだろう。
それでなくとも、あの子は性的なことに対して敏感で、中学のときのあの一件以来、さらにそれが強まっているのだから。
心から「大丈夫」だと思えたわけではなかったが、そう言い聞かせることで、落ち着くことはできた。
そして……
「大丈夫」だと思いたいのは、茉莉も同じ、いや、母親以上だ。
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