痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫

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隠し部屋のシルフィーたち

嵐のなかのコスモス

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大学から駅に向かう途中、まあまあ仲のいい子が言った。

「私、コスモスって好きじゃないんだよね」

えー、ちょっと意外、と思って、
「そうなんだ。どうして?」
と聞くと、
「花は可愛いんだけどさ、茎が細くてすぐ折れそうで、なんか、拒食症の人達が群れてるみたいで怖いんだよね」

「ふーん。まぁ、わからないでもないけど、その視点はなかったわー」

軽く流しつつ、脳のなかだけ、高校時代にタイムスリップした。

三年生の秋、体育祭の練習をしていたときに見た、隣りのクラスの子の姿。
夏休みのあいだに激痩せして「拒食症なんだろうね」と噂になっていて、実際、病的に細かった。
ジャージ姿も頼りなげで、練習のときもフラフラしていて。
でも、その子のことが、花みたいだなとも感じたんだよね。
うちの高校のジャージは緑色で、その子の顔は真っ白で、それこそ、コスモスの茎と花みたいだなって。

そう感じた日、コスモスの花言葉を調べたら「乙女の純潔」というのがあった。
それもあの子の雰囲気にピッタリだなって。

練習の日のなかには、風の強い日もあって、あの子は飛ばされそうになりながら頑張っていた。
嵐のなかのコスモス。
そんなフレーズが浮かんだことを思い出す。
機会があれば、一度話してみたいと思いつつ、その機会が訪れなかったことも。

あと、拒食からのリバウンドってよくあるらしいけど、その子も卒業の頃には元の体型に戻ってた。

そんなわけで、私の脳も現在にタイムスリップ。

大学のまあまあ仲のいい子は、しばらく別の話をしたあと、こう言った。

「そうそう、私、最近の女子ばかりのアイドルグループも苦手なんだよね。拒食症とまではいかなくても、細すぎる子がいっぱい群れてるみたいで」

私はその手のグループ、嫌いじゃないから、この子とは感性が違うんだな、たぶん。

そういえば、うちの近所にコスモスが咲いてる公園がある。
今の時期なら、見頃かもしれない。
遠回りになるけど、帰りに寄ってみよう。
あの子のことを思い出しながら。

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