拒食、大食い、過活動、生きているのが不思議な細さ。痩せ姫の「神話」を考証する

実を結ばない花、園芸品種のごとき、女にならない生き方

９年前の９月の記事。

●究極の花～「女になれない女の物語」より

「別冊宝島107　女がわからない！」に、精神科医の浅野誠が書いた「女になれない女の物語」という文章があり、その第１話「成熟を拒否する女」が拒食症の話だ。
登場するのは、19歳の有名私立女子大１年生。
受診時の姿はまず、こう描写される。

・・・ペコちゃんのようにニコニコしているが、顔色はよくない。いっしょに来た母親よりずっと落ち着いた様子で椅子に座り、足を組んだりもせず、行儀がよい。・・・

身長は158センチで、体重は本人いわく36.5キロ。
しかし、上着を脱いだ状態で実際に計ると、32.5キロを示した。
また、ポケットに大量の小銭を入れ、診察前に約１リットルの水を飲んでいたことがわかったため、診察の最後にトイレに行かせ、ハダカの状態で、看護婦が再測定。
実態に近いと思われる数字は、30.5キロだった。
続いて、本人の心や体の説明である。

・・・彼女は、30キロぐらいがいちばん調子がいいと言う。40キロを超えると、自分がみっともなく見えるし、気分が落ち込むのだと言う。胸は10歳の少女より平たく、腕はナナフシのように細く、身体はジャコメッティの彫刻のようにやせている。生理は止まってから、３年たった。しかし、かわいい顔である。男の子にもてるのだ。・・・

これを読んだのは20数年前だが、すごく魅力を感じ、また、こういうタイプっているよな、と感じた記憶が。
男の子にもてるとはいえ、恋愛に興味があるわけではない。
自宅に誘われても、セックスは拒み、キス止まりだという。
そんな姿を、書き手は「男を求めない花」と形容する。
あるいは「花になったが実を結ばない個体」だとも。
そして、こんな解釈も付け加えている。

人は老いて痴呆になると、最も幸せだった頃の精神状態に戻ることが多く、女性は少女時代に回帰しがちなのだそう。
それゆえ、
「女にとっていちばん幸せな時代は乙女の頃である、といえるのではないだろうか」

としたうえで――。

・・・おそらく女は、本当は結婚などあまりしたくないのだろう。いつまでも、花のままでいたいのだ。・・・

拒食症のある一面をとらえたものとして、これはよくできた文章だと思う。
また、専門家の書くもののなかに、痩せ姫の魅力を表現したものが意外と少ないなか、その貴重な例だともいえるのでは。
花になったが、男を求めず、実を結ばないというのは、ある意味、絶対的で究極の花だろう。
そんな理由から、紹介してみた。

・・・・・・

で、ついたコメントと返し。

・・・初潮始まる前の女子の体型は線香花火体型ですね。自分は初潮は中3(過食始まった時期だからますます太りやすかった)だったから、小学校高学年のころまだな自分は遅いの全然悩んでなかった。水泳の授業見学しないからまだだというのが知られて同級生女子に本当は男子？といじめにあっても、あんなメス体型になりたくないという気持ちの方が強かった。小学校高学年から中2まで中性的な細い体型だったのがいい思い出でした。学校生活や家庭内は最悪だったけれど・・・

第二次性徴が早いか遅いかは、体型に与える影響も大きいと思います。初潮が中３というのは、幸運でしたね。にもかかわらず、他の女子たちにそういう態度をとられたのは、そのつらさからまだ逃れられてることへのやっかみ、のようなものが働いていたのでしょう。僕にとっても、生理への違和感はかなりのものです。生理が停まっている痩せ姫からは、生物的成熟とは無縁の魅力というものが、深く感じられ、ある種の希望を見いだせる気がします。

・・・男を求めないかどうかは種によりけりですが、美しく品種改良された多くの園芸種は実を結びませんよね。江戸時代の変わり朝顔然り、ソメイヨシノ然り。美しさの代償に生殖器官を差し出してしまったというべきか、美しさを極めたが故に子孫を残す強さを失ったというべきか、しかしその強くなさがまた美しいという。その一代をすごく大切に大切に育てられて花が咲いたら終わり、花さえ咲けば良くてあとは何も残さない、その育ちと佇まいと儚さと全てに痩せ姫は重なる気がします。花も痩せ姫も簡単にそのままその美しさが引き継がれるものでないからこそ魅力的でより美しく見えるのかなぁと思いました。私も初潮前の少女のような実を結ばない花になりたいものです。・・・

実を結ばない花というのはある意味、新たな理想のあらわれなのでしょう。ペットなども去勢させたりするわけで、美しさや可愛さは、そのほうが純度が保たれるということかもしれません。それを自ら体現してるのが痩せ姫というのも、同感です。定義するうえで重要な条件のひとつが、生理がないことですから。昔から桜が好きで、漠然と、痩せ姫に通じる魅力がある、と書いたこともあります。そのときはまだ理論が追いついてなかったのですが。少女のような、桜のような、痩せ姫になっていくことを、応援しております。

・・・・・・

この浅野誠という精神科医は、医者には珍しく（？）謙虚というか、こんなことも書いていて、好感が持てる。

・・・なぜ、かくもやせたがるのかについての定説はまだない。（略）原因がわからないから、なぜ治るかもよくはわからない。・・・

決めつけや思い込みを避けようとする姿勢が、痩せ姫を魅力的に描くということにもつながったのだろう。