拒食、大食い、過活動、生きているのが不思議な細さ。痩せ姫の「神話」を考証する

エフ=宝泉薫

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サイズゼロの正義、回復後は政治家に。飛躍する美意識と生き方

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12年前の12月に書いた記事をふたつ、並べてみる。


●少数派の正義と「普通」でない美しさ

朝起きて、ツイッターを見たら、印象的なものにふたつ出会った。
どちらも相互フォローの関係にある人たちのもので、ひとつはモデルの痩せすぎ問題をめぐって「サイズゼロは正義だと思う」と言っている。
とかく批判されやすい「サイズゼロ」を支持してるところに、少数派の正義、というものを見て、美しく感じた。
正義というものは、多数派が主張し始めると、弾圧的になってしまうのだけど、この問題において世間ではまだ、痩せすぎを肯定する人は少数派だろうし、それゆえ、その物言いには控えめな切実さが存在する。
そして、もうひとつ。
こちらは、アップした自撮り写真について、知らない人たちから揶揄されたことへの異議申し立てで、ネット上ではそれほど珍しいことではない。
ただ、揶揄する側が「ミイラみたい」とか言ってるらしく、それに対して、揶揄されたほうは「普通の人間ですけど。いや、普通ではないか」と、つぶやいていて。
そこから「普通」ではない美しさ、について考えた。
実際、その写真は肋骨の出方とか、服とお腹の隙間とかが、普通の人の目には奇異に映ったのかもしれないが、それが痩せ姫の美というもの。
世間ではまだまだ、動物的な健康美がよしとされていて、ある意味、人間が人間であるがゆえに志向し始めた痩身美は「普通」でないとされるんだな。
まぁ、どこまでが動物的だとか人間的だとか、そんな境界はないようなものなんだけど。
マツコ・デラックスと戸田恵梨香が共演するCMなどを見ても、人それぞれでいいんじゃないか、と思う。
あと、痩せ姫は人間以外のものにたとえられることもよくあるけど、その体型は普通の人以上に人間的苦悩と闘ってることのあらわれ、である傾向が大で、ある意味、勲章だともいえる。
普通の人には理解しがたいのだろうが、その「普通」でない美しさにはやはり、少数派の正義というものが宿っているのだろう。


●第三次世界大戦が起きたら~政治家になった痩せ姫

雑誌を整理してたら、岡野しゅりこに焦点を当てた記事が見つかった。
「週刊女性」07年3月20日号。
制限型の拒食で158センチ23キロまで痩せ、その闘病経験を明らかにしたうえで、地元の市会議員となった彼女は、10年には、全国ネットのテレビ(世界仰天)にも登場している。
回復後、政治家になろうと決意したのは、幼い頃、こんな恐怖を感じていたのを思い出したからだという。
(第三次世界大戦が起きたら、どうしよう)
これについて、取材者である小野瀬健人の文章がなかなかいい。
・・・決して荒唐無稽な恐れではない。感受性が鋭く柔らかな幼子の心は、心に受けた傷の裏返しとして、すべての人の永遠の幸福を願う。その願いが強いほど、身近なところではいじめや事件が横行する現実に、深い危機感を覚えてしまうのだ。・・・
そして、彼は、摂食障害になりやすい人の特徴として「鋭い感受性で〝やさしい関係〟と〝やさしくない関係〟を見分けられる」ことを挙げる。
僕も、同感。
自分の命の維持すら覚束ないのに、他者の、あるいは世界の幸福を願って、実際に行動したりすることも「やさしさ」の有無について極めて敏感なことも、痩せ姫にはよく見られる特徴だと感じてる。
要は、世界大戦を想像して怯えるような「幼子」の「感受性」を、持ち続けている、持ち続けすぎている、ということかもしれない。


・・・・・・


極端な痩せを美と感じることと、戦争が怖いから政治家になろうとすることの根っこには、おそらく通じるものがある。
言語化は難しいが、不安ゆえに絶対的なものを志向する、という飛躍。
人はたぶん、精神が安定していると、ほどほどのところで満足ができる。
が、不安であればあるほど、普通や平凡でよしとできず、特別や非凡を目指してしまうのではないか。
ただ、精神の安定度は、生い立ちなどに大きく左右される。
そうやって形成された性格とつきあいながら、刺激を求めたり、妥協する方法を模索したりしながら、生きていくしかないのだと思う。

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