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2章

第9話Side北風真美

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既に荒木くんは帰って、私はお風呂に入って、今は自分の部屋に居る。

 やってしまった……。

 今日は荒木くんが私の家にいるということでかなり興奮していた。そのせいで…うぅ~!今思い出しても恥ずかしい思い出ばかりだァ!

 でも、私の家に誘った自分を褒めてやりたい!私は料理がかなりできる!ということを荒木くんに見て貰えたし、荒木くんと連絡先を交換できた!それに明日から弁当渡す約束もできた!これで多分明日から一緒にご飯食べれる!今日の目的は成功したと言える。

 ついでに私に彼氏はいないアピールができた…!

 そういえば荒木くんに彼女とか居ないのかな…?今まで川野くんと仲良くしているところしか見たこと無かったから、いないって勝手に決めてたけど、どうなんだろう?

 でも、どうやって聞こうかな?雨宮さんなら知ってるかな?

 荒木くんの好きな食べ物はわかった。これはよくやったと私を褒めてやりたい。パセリを入れたオムライスなんか作ったのは久々で、上手くできるか、パセリを苦手な荒木くんの口に合うかとても心配だったけれど杞憂に終わった。

 パセリを入れようか迷ったけど入れて良かった…。

『今の北風はやりたいことやって、楽しんでるように見える。笑顔も張り付いたようなものじゃなくて、なんというか…子供っぽい無邪気な笑顔?みたいな感じで。俺は今の北風の方が好きだぞ。』

 うぅ~!今でもあの時の荒木くんの顔と声が離れない~!あの時も笑ってた!かーくんの笑顔の方が子どもっぽくて素敵!普段とのギャップが!

 そんな簡単に女の子に好きだとか言わないで頂きたい!本当に勘違いしそうになる。あの瞬間に限っては勘違いしてしまった…。

 言われた瞬間の顔を見られないで良かった…。自分でもわかるぐらいに頬も緩んじゃってたし、顔も赤かった。でも、あれは荒木くんが100パーセント悪い!

 荒木くんの中の私が子供っぽい印象だったからって、積極的すぎたかな?私の気持ちに気づかれたかな?うぅ~、それならどうしよう~!

私の目標は荒木くんを私に惚れさせて告白してもらうこと!

私も乙女なので告白するよりされたい!まぁ、付き合えるなら私から告白してもいいんだけど…勇気が出ないな…。少なくとも今は。

 そんなことを私は荒木くんとのトーク画面を開きながら考える。スタンプしかないけどこれを見るだけで頬がニヤけそうになる。既にスクリーンショットも確保済み!

コンコンっ!

「お姉ちゃん、今いい?」

「いいよォ」

雪乃が部屋に入ってきたので、急いでスマホの画面を変えた。

「ごめんなさい、お姉ちゃん…。」

「えっ?何が?」

 部屋に入ってすぐに雪乃が私に謝ってきた。

「私が荒木先輩に勘違いさせるようなことを言ったでしょ?」

 あぁ~、玄関前の出来事か。そういえば「かーくん」が私の彼氏では?って疑われてたんだっけ?色んなことがあって忘れてた。

 まぁ、近い未来そうなればいいな…って思ってるんだけど…。

 後で歩香には説明しないと…。今更だけどごめん、歩香。

「別にいいよ。上手くごまかせたわけだし。それより、なんであのこと知ってるの?」

 あのこととは私がこっそり荒木くんをかーくんって言ってる事だ。

「文化祭の日の後、部屋でそう言ってたの聞こえてたよ?」

 そんなに大きな声で言ったとは思ってないんだけど…。

「…お姉ちゃんが好きな人って荒木先輩?」

 ドキッ!いや、妹に嘘をつく必要はないかな…?

「うん、そうだよ…。」

 誰かに好きな人を言ったのは初めてだ。

「そうなんだ…。荒木先輩とちょっと話したけど、すごくいい人なのは私から見ても間違いないからいいと思うよ。」

「そうでしょ!」

「お姉ちゃんと荒木先輩ってお似合いな気がするよ」

「お似合っ!?」

「私もお義兄ちゃんって呼ぶなら荒木先輩みたいな人がいいなぁ。」

「お義兄ちゃん!?」

 それってつまり!私と荒木くんが結こ……!いや、まだ付き合ってもないのに、気が早すぎる!はっ!雪乃がそんなに褒めるということは!

「…かーくんだけは雪乃でも渡さない。」

「私は荒木先輩を狙ってないよ!?そこは安心して!むしろお姉ちゃんの恋愛が上手くいくことを応援してるから!」

「そう…。疑ってごめんね?」

「私もごめん。お姉ちゃんをからかおうと誤解させるようなこと言ったね。」

 からかおうとしてたんだ…。ということはさっきのは嘘…?

「あ、でもお似合いなのは本当だよ!」

「そ、そう。それより、今日の私ってそんなに分かりやすかった?」

 雪乃に簡単にバレてしまったのでは、荒木くんにもバレてないか心配だ。

「うん。だって部屋着にしてはとてつもないほど気合い入ってたし。あの服、本当は外行きの服でしょ?それにずっと顔も赤かったよ。」

「…そうだけど…。だって好きな人にはいつでも綺麗な姿を見てもらいたいもん。」

 今日着てた服は私の中でもかなり自信のある服だった。あんまり着た事はないから、綺麗なはず。途中で気合いを入れすぎたかな…?とか考えてしまった。

 今日は頑張って顔を赤くしないように気をつけてたはずなんだけど…。いや、荒木くんは気づいてなかったと思う……。

「…良かったね。可愛いって言って貰えて…。」

 嬉しいけど、荒木くんの反応とあんなに真っ直ぐ言われたら…!結局恥ずかしくてキッチンに逃げてしまった。

「あ!雪乃、私のことわかってたから、協力してくれたの!?」

「?なんのこと?」

「名前呼びのこと!」

 雪乃が提案してくれたおかげで荒木くんから「真美」って言って貰えた!それも何回も!

 学校で男子から言われても何も感じなかったけど、好きな人から言われてると、全然違う!

 名前を呼ばれるだけでドキドキして、ときめいて。あの時の私は顔を見られたくないほど赤くなってた。荒木くんも真っ赤になってたから、ちょっとだけ女の子として見て貰えたのかな…?って期待しちゃったりして…。名前を呼ばれただけでこんなに意識したのは初めてだ。

『いや、だって、そうだろう?まことに美しいって北風にピッタリじゃないか?』

 荒木くんが修学旅行で私に言ってくれた言葉…。多分この時から意識してたんだろうなぁ。荒木くんの言葉で私は私の名前をもっと好きになれた。

 だから、荒木くんが私の名前を呼んだ時に私のことまことに美しいって思ってくれてるのかな?って考えちゃう。

 そうだといいなぁ。

「あれは面白…、じゃなくてお姉ちゃんの応援のためだよ!あ、それで思い出した!実はお姉ちゃんに渡したい物があるんだよ。」

 私に渡したい物?なんだろう?

「はいこれ」

 雪乃が私に渡してきたのは…

「っ!?これ今日の写真!?」

 荒木くんと私が料理している時の写真だった。しかもツーショット写真もある!今の私からすればお宝物だ!しかも荒木くんは髪を整えている状態のもの!荒木くんが滅多にしてくれない姿だ!

「そうそう。こっそり荒木先輩にバレないようにね。さっき現像してきたんだよ。」

 その中で1枚とてつもなく貴重なものがあった…。

 荒木くんが料理をやり終えた時の写真だと思う…。その写真では荒木くんが笑ってる。

 荒木くんって普段あんまり笑わないから、たまに見せてくれるこの笑顔がすごくギュッと来る。

 私が完璧にかーくんにおちた時、文化祭で私を助けてくれたあとも笑ってた。

 …もう1度でいいから私のためだけに微笑んで欲しいなぁ。いや、何回もみたい。

 やっぱり私は荒木くんが好きなんだなぁ。

「それじゃあ私は部屋に戻るね。後でお姉ちゃんのスマホに写真送っとくから。」

「ありがとう!」

 私は素晴らしい妹を持って幸せです!

 すぐに雪乃から今日の写真が送られてきた。ん?動画…?

 気になったので、再生すると…

『…………ま……真美………』






『うん………かーくん…………』



 こ…これは…!他にもいっぱいある!

 家の中で私の名前を呼んでくれた前後は全て録画されてある!

 いつでも荒木くんが私の名前を呼んでくれる!

 自分のシーンもあるのが恥ずかしいけど、それを差し引いてもとんでもないない代物だ!

 今度雪乃には好きなものを買ってあげよう!

 ……1度だけつい、荒木くんに名前を呼ばれて気を抜いてしまい、「かーくん」って呼んでしまった。荒木くんのことだから、多分私がそう言っても気づいてないか、忘れてるかもしれないけど…。

 私にはどうして言ってしまったって思う気持ちもあったけど、ただ名前を呼び合うだけのこの会話がちょっとカップルぽくて嬉しかった。

 その後恥ずかしくて私の部屋に逃げ込んでしまったけど…。私が出ていった後の荒木くんの反応はどうだったのかな?ちょっとでもいいから私のこと意識してくれたかな?

 私もすっかり恋愛の虜だ。

 いつか…ちゃんと名前で呼びあえたらいいな。「真美…」「かーくん…」って。

 そんなことも考えてる間も携帯からは私たちの会話が聞こえてきた。


『……真美、ちょっと離れて……。』

『な…なんでそんなにあっさり言えてるの!?』

『あっさりじゃねぇ。今もすごく恥ずかしい。けど…偶然とはいえ、俺にその…胸をぶつけて、北風が嫌な思いしたらそっちの方が嫌だし……、それに約束したからな!何もしないって!俺は約束を破るのは好きじゃないから!』

 荒木くんのこういう他人をすぐに心配してくれるところが好きだ。でもでも、出来ればもう少しだけ自分のことも心配して欲しい。ちょっと荒木くんは自分と他人の心配している割合がおかしい。

 私はそんな荒木くんのことがつい心配になっちゃう。

 やっぱり胸をぶつけちゃった時に「わざと当ててるの」とか言った方が良かったかな?よくそういうシーン見るし。今度チャンスがあれば言ってみようかな?

 あの時は荒木くんがすぐに私の名前を呼んだから私の感触が悪かったのかな?ってすごく不安になっちゃった。でも、すごく照れてたからそれはないと思う。荒木くんの性格から考えたら本当に私の気分が悪くなることを心配したのだろう。そんなことあるわけないのに。

 荒木くんはちっちゃい方が好きなのかな…?でも、大きい方が好きな男子が多いし。私の胸は多分大きい方だと思うけど…触りたいとか、思ってるのかな?荒木くんならいくらでも触ってもらってもいいけど…。やっぱり今は恥ずかしいからなし!

 私は雪乃から貰った写真を部屋に飾ることにした。

「んっ?」

 写真の中から紙切れが落ちてきた。なんだろう…って思ったら映画のペアチケットだった。しかもこれってもうすぐ公開予定で、既に人気が高い恋愛映画だ。たしか…少女漫画が原作だったはず…。

「雪乃、これわすれてるよー!」

「違うよ。それはお姉ちゃんへのプレゼント!たまたま貰ったんだけど、私が行くよりお姉ちゃんが荒木先輩誘っていきなよ!」

「えっ?でも…」

「その代わり、お姉ちゃんにいつかお礼してもらうから!」

 うっ…。何となくこれ以上言っても無駄な気がする。姉妹だから手口が似てる。

「分かった。今度お礼するよ!」

 私はちょうど荒木くんといい勝負をしていたことを思い出した。

「今度のテスト…頑張ろ!」

 荒木くんとデートするために!
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