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第二章「同士」(前編)
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まさしく言葉通りの
あの「衝撃」の夜から一週間が経った。
あれから特に変わった事もなく
今まで通りの日常を送っていた俺は
あの夜の事は自分の疲れからきた
幻だったのではないかと思うようになり
早くも記憶の片隅に追いやられていた。
彼女とのことも、一旦は落ち着きを見せ
またいつもと変わらぬ日常に歩み出している。
そう思っていた矢先のことであった。
「なぁ。お前『百瀬結愛(ももせゆあ)』
って知ってる?」
と、唐突に聞いてくるのは
毎度お馴染みの福井だ。
「え?誰?」
と素っ気なく答える俺に対し福井は
「最近、流行りの
女性シンガーソングライターだよ!!
大人しそうな雰囲気なのに
歌詞がめちゃくちゃ尖ってて
歌声もちょいハスキーで
聞いてて痺れるんだよなあ、これが!!」
と嬉しそうに語る。
そこから更に語気を数段階高めて
「そしてだよ!!な・ん・と!!!
そんな彼女の初ワンマンライブのチケットを
二枚も手に入れることに成功したのだあ!!!」
と、まるで一等の宝くじでも当てたかのような
半狂乱ぶりで騒ぎ始めた。
「勿論お前も来るよな!?」
とがっしり福井に肩を組まれ
俺まで何故かテンションが上がり
せっかくなら、と有り難く
恩恵に預かることにした。
そしてライブ当日。
彼女の初ワンマンの場所は
なんとあの武道館ということで
かなりの人気だったんだなあと
再度そのライブに来れた喜びを
噛みしめながら、福井に感謝していた。
集合場所に早めに着いた俺と福井は
昼飯でも食べてからということで
近場のフレンチレストランに入った。
席に着くやいなや、待ってましたと
言わんばかりに福井の百瀬トークが
炸裂し、何となくではあるが
百瀬結愛というアーティストに
ついて理解出来た。
どうやら彼女は、結構不遇な
幼少期を過ごしていたらしく
彼女は母子家庭の一人娘だったようで
近所で評判になるほどの
貧乏家庭だったそうだ。
ご近所さんに度々余り物の惣菜を
恵んで貰うことも少なくなかったらしい。
そんな家庭だったからこそ、
高校に入るのも一苦労だったようで
母親が朝から晩まで仕事をしながら
蓄えた貯金で何とか入学出来たそうだ。
そんな彼女も部活や友達付き合いを置いて
バイトを優先し、家庭を支えていた
というのだから逞しい限りである。
そんな彼女がどうしてアーティストに
なったのかというと、どうやら
母親が昔はそこそこ売れた歌手だったようで
その影響からか彼女も将来は
歌手になりたいと考えていたという。
バイト三昧の毎日のなかで
空いている日はカラオケに入り
歌唱力やパフォーマンス力を磨き
彼女が高校3年生の頃には
有名な音楽事務所のオーディションを
受けたところ、見事に結果を出して
所属生となり、そこからはトントン拍子で
売れていったのだそうだ。
そういう話を聞いていると
自分とは全く別次元の人間で
きっと努力家なんだろうなあと
これまで全く知らなかった
百瀬結愛という人物に好意を抱き、
ここまで福井が熱く語る理由も
少し分かる気がした。
そして一通り昼食も終え
食後のコーヒーを飲みながら
俺は少し気にかかっていたことを
福井に聞いてみた。
「今日は誘ってくれて
めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。
お前、彼女のこと
誘わなくて良かったのか?
わざわざ俺じゃなくても良かったのにさ。」
と少し申し訳なさげに言うと
福井は、一瞬目を丸くして
そのあとすぐに豪快に笑いながら
「ばぁーーっか!!
お前、んなこと気にしてたんか!?
いーんだよ、彼女は別に興味ないとか
言ってたし。
それに、お前最近色々あって
病んでただろ?
だから、この友達思いの福井様が
大人気アーティストのライブで
憂鬱な気分もぶっ飛ばしてやろうと
考えた訳よ!!」
と言われ、
福井なりに考えてくれたんだなあと
改めてこの男と友達であれたことに
感謝した。
しかし、その後すぐに
「だから、ここの飯代お前が持って」
と付け加えられ
福井イズムを存分に感じながら
「今日だけな。」と
笑って俺は財布の紐を緩めた。
フレンチレストランから出ると
何気に時間は経っていたらしく
開場まであと、30分程となっていた。
俺と福井は少し急ぎ足で会場まで向かい
ごった返す人の多さとその熱に
少々気圧されながらも
無事館内に入ることが出来た。
開演まであと5分というところで
俺も徐々に気持ちが高ぶり
早く始まらないかなあと
隣の様子を伺うと
こちらは興奮が既に抑えきれないのか
一人盛り上がって爆発寸前の福井がいて
俺まで余計にそわそわしてしまった。
そして、開演まで、
3・・・2・・・1・・・
始まった。
あの「衝撃」の夜から一週間が経った。
あれから特に変わった事もなく
今まで通りの日常を送っていた俺は
あの夜の事は自分の疲れからきた
幻だったのではないかと思うようになり
早くも記憶の片隅に追いやられていた。
彼女とのことも、一旦は落ち着きを見せ
またいつもと変わらぬ日常に歩み出している。
そう思っていた矢先のことであった。
「なぁ。お前『百瀬結愛(ももせゆあ)』
って知ってる?」
と、唐突に聞いてくるのは
毎度お馴染みの福井だ。
「え?誰?」
と素っ気なく答える俺に対し福井は
「最近、流行りの
女性シンガーソングライターだよ!!
大人しそうな雰囲気なのに
歌詞がめちゃくちゃ尖ってて
歌声もちょいハスキーで
聞いてて痺れるんだよなあ、これが!!」
と嬉しそうに語る。
そこから更に語気を数段階高めて
「そしてだよ!!な・ん・と!!!
そんな彼女の初ワンマンライブのチケットを
二枚も手に入れることに成功したのだあ!!!」
と、まるで一等の宝くじでも当てたかのような
半狂乱ぶりで騒ぎ始めた。
「勿論お前も来るよな!?」
とがっしり福井に肩を組まれ
俺まで何故かテンションが上がり
せっかくなら、と有り難く
恩恵に預かることにした。
そしてライブ当日。
彼女の初ワンマンの場所は
なんとあの武道館ということで
かなりの人気だったんだなあと
再度そのライブに来れた喜びを
噛みしめながら、福井に感謝していた。
集合場所に早めに着いた俺と福井は
昼飯でも食べてからということで
近場のフレンチレストランに入った。
席に着くやいなや、待ってましたと
言わんばかりに福井の百瀬トークが
炸裂し、何となくではあるが
百瀬結愛というアーティストに
ついて理解出来た。
どうやら彼女は、結構不遇な
幼少期を過ごしていたらしく
彼女は母子家庭の一人娘だったようで
近所で評判になるほどの
貧乏家庭だったそうだ。
ご近所さんに度々余り物の惣菜を
恵んで貰うことも少なくなかったらしい。
そんな家庭だったからこそ、
高校に入るのも一苦労だったようで
母親が朝から晩まで仕事をしながら
蓄えた貯金で何とか入学出来たそうだ。
そんな彼女も部活や友達付き合いを置いて
バイトを優先し、家庭を支えていた
というのだから逞しい限りである。
そんな彼女がどうしてアーティストに
なったのかというと、どうやら
母親が昔はそこそこ売れた歌手だったようで
その影響からか彼女も将来は
歌手になりたいと考えていたという。
バイト三昧の毎日のなかで
空いている日はカラオケに入り
歌唱力やパフォーマンス力を磨き
彼女が高校3年生の頃には
有名な音楽事務所のオーディションを
受けたところ、見事に結果を出して
所属生となり、そこからはトントン拍子で
売れていったのだそうだ。
そういう話を聞いていると
自分とは全く別次元の人間で
きっと努力家なんだろうなあと
これまで全く知らなかった
百瀬結愛という人物に好意を抱き、
ここまで福井が熱く語る理由も
少し分かる気がした。
そして一通り昼食も終え
食後のコーヒーを飲みながら
俺は少し気にかかっていたことを
福井に聞いてみた。
「今日は誘ってくれて
めちゃくちゃ嬉しいんだけどさ。
お前、彼女のこと
誘わなくて良かったのか?
わざわざ俺じゃなくても良かったのにさ。」
と少し申し訳なさげに言うと
福井は、一瞬目を丸くして
そのあとすぐに豪快に笑いながら
「ばぁーーっか!!
お前、んなこと気にしてたんか!?
いーんだよ、彼女は別に興味ないとか
言ってたし。
それに、お前最近色々あって
病んでただろ?
だから、この友達思いの福井様が
大人気アーティストのライブで
憂鬱な気分もぶっ飛ばしてやろうと
考えた訳よ!!」
と言われ、
福井なりに考えてくれたんだなあと
改めてこの男と友達であれたことに
感謝した。
しかし、その後すぐに
「だから、ここの飯代お前が持って」
と付け加えられ
福井イズムを存分に感じながら
「今日だけな。」と
笑って俺は財布の紐を緩めた。
フレンチレストランから出ると
何気に時間は経っていたらしく
開場まであと、30分程となっていた。
俺と福井は少し急ぎ足で会場まで向かい
ごった返す人の多さとその熱に
少々気圧されながらも
無事館内に入ることが出来た。
開演まであと5分というところで
俺も徐々に気持ちが高ぶり
早く始まらないかなあと
隣の様子を伺うと
こちらは興奮が既に抑えきれないのか
一人盛り上がって爆発寸前の福井がいて
俺まで余計にそわそわしてしまった。
そして、開演まで、
3・・・2・・・1・・・
始まった。
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