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第1章「あかんのか?平和を夢見ちゃ、あかんのか?」
第5話
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自己紹介に照れくささを感じる生徒は少なくなかった。
思春期。
人前で、自分のことを話す、恥ずかしさ。
何が恥ずかしいのか。
わからない。
だが、恥ずかしい。
それが、思春期である。
だが、序盤からそれほど一般的ではない内容の自己紹介をする者が続いた。
そのことで、教室内は妙に発言し易い空気に包まれていた。
よって、概ね、順調に自己紹介は進行していた。
「次は、私ですね」
一人の女子生徒が立ち上がった。
背中まで伸びたロングヘアがサラりと揺れる。
背が高く、起立した姿勢が美しい。
席から立ち上がる動作から、品の良さが伺うことができた。
また、その生徒は非常に整った顔立ちをしていた。
美しい目、美しい鼻、美しい輪郭。
メイクや美容整形では実現不可能と感じるような、自然な、美しい顔の作りだ。
普通であれば、芸能人かと思われるような見た目をしていた。
抜きん出た美貌である。
しかし彼女は、普通ではなかった。
長い髪の毛は、一本残らず、白髪である。
美しい眼は、その白眼が血のような赤に染まっている。
そして首には、包帯が巻かれていた。
異形。
彼女は、異形であった。
人間離れをした容姿だった。
妖怪。
物の怪。
意地の悪い者であれば、そう揶揄しかねない見た目である。
しかし、何よりも、それ以上に、彼女は、美しかった。
その美しさには、異形であることを忘れさせるような説得力があった。
「半田 鶴(なかた つる)です」
高音の、か細い声だ。
透き通るような、嫌味や雑味の無い、清流を思わせる声だった。
「私は、ある病気のために、身体を患っています」
命は胸の前で腕を組み、鶴のことをじっと見つめている。
「いつまで生きていられるか、わかりません」
七も命と同様に腕を組んでいたが、その目は閉じられており、顔は下を向いていた。
「私の夢は、少しでも長く、生き続けることです」
七は鼻からフンと一息ついた。
どうやら話は聞いているらしい。
「皆さんにご迷惑をお掛けすることもあるかもしれませんが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう言うと、鶴は頭を45度に下げてお辞儀をした。
最敬礼。
滑らかな所作だった。
半田鶴は、その動きまでもが美しかった。
教室内は、拍手の音で包まれた。
各々、自己紹介後には各生徒より拍手が送られていたが、ひときわ大きな音であった。
予想外の反応だったらしく、鶴は目を丸くし顔を赤らめ照れくさそうに席に座った。
拍手が落ち着いた頃、鶴が命の方を向くと2人の目が合った。
鶴は、子供のような無邪気な笑顔を見せた。
その笑顔を見た命もつられるように笑った。
普段から笑い慣れていないのか、引きつった笑顔だ。
鶴よりも顔が紅潮している。
その様子を見た七は、明らかに不機嫌になっていた。
右手で頬杖をつき、左手の小指で鼻をほじっている。
眼は両の黒目が上まぶたの裏に隠れている。
白目をむいていた。
「なぁ、秋葉の」
「ふがッ」
不意に声を掛けられた七は慌てて小指を鼻の穴から抜いた。
その際、指が鼻の穴に引っ掛かり、その拍子に変な声が出たのだ。
七は声の主の方を見ると、顔をしかめ、また不機嫌そうな顔をした。
声の主は真っ黒髪の真っ白い肌をしていた。
祖谷納屋 牢である。
「お前の彼女、あの娘とずいぶん仲が良さそうだな」
牢の言う『お前の彼女』とは、舵浜命のことであった。
先ほどのやり取りの中で、七が発した言葉を基に、そういう表現をしたらしい。
命を自分の彼女として扱われたことに機嫌を良くしたのか、七は調子よく答えた。
「まぁな、ミコちゃんは誰にでも優しいからな」
「俺には、あの2人、お互いに特別な感情を抱いてるように見えるんだが」
牢はニヤニヤと笑いながら言った。
あの2人とは、命と鶴のことである。
どうやら、命に対して特別な感情を抱いているであろう七をからかっているようだ。
その真意に気付いた七は、改めて不機嫌な顔をした。
牢は、意図的に七をからかっている。
先ほどのやり取りを参考に、七を激昂させ、面白いリアクションを見ることができるだろうと期待しているのだ。
しかし、七がその期待に応えることはなく、鼻息を一つだけつき、言った。
「あの2人の間に、特別な感情っちゅうか、2人だけの絆があるのは否定できん」
牢にとって、意外な反応だった。
立ち上がって大声で否定し、命との関係性をアッピールするものかと予想していたが、外れた。
面白くないので、牢は話を続けることにした。
「へぇ。お前も知り合いなのか?」
「3人とも、同じ中学や」
「ふぅん。あの娘、えらい美人だけど、モデルか何かか?」
「なんや、お前みたいな男でも、いっちょ前に美形に興味あるんか?」
「俺は何だと思われてんだよ、それに、あの見た目に興味持たない奴の方が珍しいと思うが」
「まぁ、それもそうやね…」
そう言うと、七は鼻息ではなく、口から息を吐いた。
ため息である。
「鶴は、愚美人やねん」
「ぐびじん?なんだそれ」
愚美人。
そう発した七、あるいは牢の声が耳に届いたのか、2人の後方から、やや怒気のこもった声が掛かった。
「おい、七」
舵浜命である。
余計なことは言うな。
そういう目つきで七を見ている。
七は、口を尖らせ、命に対して拗ねてみせた。
その表情を見て、命はため息を吐いた。
七は、何とはなしに鶴を見た。
目が合う2人。
鶴は、ニコリと笑い、少しだけ首を傾け、七に向かって軽く手を振った。
七は、わざとらしい作り笑顔を返し、鶴に向かって投げキッスをしてみせた。
鶴は真顔になり、手を振るのを止め、その手で目の前の空間を掴み、ポイと捨てるような素振りをし、前を向いた。
その様子を見ていた牢はケラケラと笑った。
七は、怒った鬼の表情のような表情をしていた。
思春期。
人前で、自分のことを話す、恥ずかしさ。
何が恥ずかしいのか。
わからない。
だが、恥ずかしい。
それが、思春期である。
だが、序盤からそれほど一般的ではない内容の自己紹介をする者が続いた。
そのことで、教室内は妙に発言し易い空気に包まれていた。
よって、概ね、順調に自己紹介は進行していた。
「次は、私ですね」
一人の女子生徒が立ち上がった。
背中まで伸びたロングヘアがサラりと揺れる。
背が高く、起立した姿勢が美しい。
席から立ち上がる動作から、品の良さが伺うことができた。
また、その生徒は非常に整った顔立ちをしていた。
美しい目、美しい鼻、美しい輪郭。
メイクや美容整形では実現不可能と感じるような、自然な、美しい顔の作りだ。
普通であれば、芸能人かと思われるような見た目をしていた。
抜きん出た美貌である。
しかし彼女は、普通ではなかった。
長い髪の毛は、一本残らず、白髪である。
美しい眼は、その白眼が血のような赤に染まっている。
そして首には、包帯が巻かれていた。
異形。
彼女は、異形であった。
人間離れをした容姿だった。
妖怪。
物の怪。
意地の悪い者であれば、そう揶揄しかねない見た目である。
しかし、何よりも、それ以上に、彼女は、美しかった。
その美しさには、異形であることを忘れさせるような説得力があった。
「半田 鶴(なかた つる)です」
高音の、か細い声だ。
透き通るような、嫌味や雑味の無い、清流を思わせる声だった。
「私は、ある病気のために、身体を患っています」
命は胸の前で腕を組み、鶴のことをじっと見つめている。
「いつまで生きていられるか、わかりません」
七も命と同様に腕を組んでいたが、その目は閉じられており、顔は下を向いていた。
「私の夢は、少しでも長く、生き続けることです」
七は鼻からフンと一息ついた。
どうやら話は聞いているらしい。
「皆さんにご迷惑をお掛けすることもあるかもしれませんが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう言うと、鶴は頭を45度に下げてお辞儀をした。
最敬礼。
滑らかな所作だった。
半田鶴は、その動きまでもが美しかった。
教室内は、拍手の音で包まれた。
各々、自己紹介後には各生徒より拍手が送られていたが、ひときわ大きな音であった。
予想外の反応だったらしく、鶴は目を丸くし顔を赤らめ照れくさそうに席に座った。
拍手が落ち着いた頃、鶴が命の方を向くと2人の目が合った。
鶴は、子供のような無邪気な笑顔を見せた。
その笑顔を見た命もつられるように笑った。
普段から笑い慣れていないのか、引きつった笑顔だ。
鶴よりも顔が紅潮している。
その様子を見た七は、明らかに不機嫌になっていた。
右手で頬杖をつき、左手の小指で鼻をほじっている。
眼は両の黒目が上まぶたの裏に隠れている。
白目をむいていた。
「なぁ、秋葉の」
「ふがッ」
不意に声を掛けられた七は慌てて小指を鼻の穴から抜いた。
その際、指が鼻の穴に引っ掛かり、その拍子に変な声が出たのだ。
七は声の主の方を見ると、顔をしかめ、また不機嫌そうな顔をした。
声の主は真っ黒髪の真っ白い肌をしていた。
祖谷納屋 牢である。
「お前の彼女、あの娘とずいぶん仲が良さそうだな」
牢の言う『お前の彼女』とは、舵浜命のことであった。
先ほどのやり取りの中で、七が発した言葉を基に、そういう表現をしたらしい。
命を自分の彼女として扱われたことに機嫌を良くしたのか、七は調子よく答えた。
「まぁな、ミコちゃんは誰にでも優しいからな」
「俺には、あの2人、お互いに特別な感情を抱いてるように見えるんだが」
牢はニヤニヤと笑いながら言った。
あの2人とは、命と鶴のことである。
どうやら、命に対して特別な感情を抱いているであろう七をからかっているようだ。
その真意に気付いた七は、改めて不機嫌な顔をした。
牢は、意図的に七をからかっている。
先ほどのやり取りを参考に、七を激昂させ、面白いリアクションを見ることができるだろうと期待しているのだ。
しかし、七がその期待に応えることはなく、鼻息を一つだけつき、言った。
「あの2人の間に、特別な感情っちゅうか、2人だけの絆があるのは否定できん」
牢にとって、意外な反応だった。
立ち上がって大声で否定し、命との関係性をアッピールするものかと予想していたが、外れた。
面白くないので、牢は話を続けることにした。
「へぇ。お前も知り合いなのか?」
「3人とも、同じ中学や」
「ふぅん。あの娘、えらい美人だけど、モデルか何かか?」
「なんや、お前みたいな男でも、いっちょ前に美形に興味あるんか?」
「俺は何だと思われてんだよ、それに、あの見た目に興味持たない奴の方が珍しいと思うが」
「まぁ、それもそうやね…」
そう言うと、七は鼻息ではなく、口から息を吐いた。
ため息である。
「鶴は、愚美人やねん」
「ぐびじん?なんだそれ」
愚美人。
そう発した七、あるいは牢の声が耳に届いたのか、2人の後方から、やや怒気のこもった声が掛かった。
「おい、七」
舵浜命である。
余計なことは言うな。
そういう目つきで七を見ている。
七は、口を尖らせ、命に対して拗ねてみせた。
その表情を見て、命はため息を吐いた。
七は、何とはなしに鶴を見た。
目が合う2人。
鶴は、ニコリと笑い、少しだけ首を傾け、七に向かって軽く手を振った。
七は、わざとらしい作り笑顔を返し、鶴に向かって投げキッスをしてみせた。
鶴は真顔になり、手を振るのを止め、その手で目の前の空間を掴み、ポイと捨てるような素振りをし、前を向いた。
その様子を見ていた牢はケラケラと笑った。
七は、怒った鬼の表情のような表情をしていた。
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