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第三章
ルカはどこに行った*
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※男性同士の絡みあります。苦手な方は読まずに次話へお願いします。
――――――――――――――――――――――
ユリウスが扉を蹴破って部屋へ飛び込むと、寝椅子でもぞそもぞと動いていたスメーツ侯爵が顔を上げた。スメーツ侯爵は下半身に何も着ていなかった。どころか、組み敷いた黒髪の希少種の尻に己の一物を食い込ませている。
「な、なんだね。いきなり」
突然の侵入者にスメーツ侯爵は驚いて半立ちになった。その拍子に一物が尻から抜け、横たわる希少種の腹に精を飛ばした。
「いかがなさいました? スメーツ侯爵様」
ごそりと寝椅子の希少種が頭を起し、ユリウスを見た。
ルカ、ではなかった。それによく見ると陰茎のある男の希少種だ。
「一体何だね。ベイエル伯」
スメーツ侯爵は組み敷いているのとは別の希少種の頭を引き寄せ、己の陰茎を咥えさせた。それで隠したつもりなのかは知らないが、また別の希少種は、腹に散った精を舐め取り始める。
部屋には合わせて三人の希少種がいた。が、いずれもルカではない。
呆然とするユリウスの肩を、後ろからエメレンスが叩いた。
「これは申し訳ございません、スメーツ侯爵。部屋を間違えたようです」
「そのようだな。エメレンス殿下。おかげで興を削がれましたぞ。殿下の希少種を貸していただければ、少しは気も晴れましょうがな」
「はは。御冗談を。それはさきほどお断りしたはず」
「わかっておるわい。用がないのならさっさとご退出いただきたい。残りの二人も相手をせねばならんのでね」
「これはまた。失礼いたしました」
エメレンスはユリウスを引き連れて部屋を出た。
扉を閉める瞬間、早速陰茎を咥えさせていた希少種の頭をつかむスメーツ侯爵の姿が見えた。
「どういうことだ? ルカはどこに行った?」
「悪い。完全に私の読み違いのようだ」
エメレンスは腕を組み、あごをつまんだ。何かを思い返すようにしていたと思ったら、振り返って再び部屋の扉を開いた。
「なんだね、まだ何か用かね」
うんざりしたようなスメーツ侯爵の声。
「貴殿の希少種に、体格のいい男の希少種はいますか?」
「おらん。私は見ての通り華奢な希少種が好みだ」
「どうも」
エメレンスは扉を閉めると廊下を歩き出した。
「おい。どういうことだ?」
「ルカを連れ去ったのは、スメーツ侯爵ではないようだ」
「それはわかった。他に心当たりはないのか?」
「あればとっくに動いてるさ」
エメレンスは階段をおりると建物の裏手に当たる廊下を進む。並んだ扉の一つに入った。簡素な狭い一室だ。額に包帯を巻いたジオが一人でベッドに腰掛けていた。入ってきたエメレンスを見て、頭を深々と下げた。
「申し訳こざいません、殿下」
「過ぎたことはもうよい。それより、話せるか?」
ジオはついさきほどまで気を失っていたらしい。襲ったのはどんな者だったか。体格のいい男という、側で目撃していた者の証言より、詳しいことが聞きたいとエメレンスはジオに言った。
「体格は確かによおございました。ユリウス様ほどではございませんでしたが、王宮騎士団でもあれほどの者はなかなかおりません。あとは、」
ジオは記憶を辿るようにきつく目を閉じた。
「希少種の服装をしておりました。黒いフードを被っておりましたので、髪の色はわかりませんが、瞳は黒でした。間違いなく希少種でしょう。ただ、服装に違和感がありました。そうですな。あれは、古い型のものだったからですな」
ジオによると、晩餐会に連れてくる希少種の服装は、基本は黒と決まっている。それでもドレスと同じで、年によってデザインが微妙に違うのだという。今年の流行りはシフォン生地を使った、全体に柔らかなイメージをもたせたものだ。が、体格のいい希少種が着ていたものは、四五年前に流行った厚手の生地を使った重厚なイメージのものだった。
それを聞くと、エメレンスは確かめることがあると部屋を出ていった。ユリウスも部屋を出ると、エメレンスの控えの間に戻った。エメレンスの控えの間の、両隣の部屋の前で控えていた者をつかまえ、さきほどこの部屋に入った男の希少種がどこに向かったかを聞き出した。
両隣とも、下に向かったと答えた。何か荷物のようなものを肩に担いでいたという。
ユリウスは階段をおり、ブラウ離宮の外へと出た。外は疎らに人がいるだけで、ブラウ離宮からの明かりが周囲を照らしている。ざっと見渡したがそれらしい影はない。
そこへ、脇からカレルが現れた。
「お帰りにございますか」
ユリウスが帰ると思ったのだろう。主人が出てくるのを、見える場所で待っていたようだ。ユリウスははっとしてカレルに問うた。
「少し前に、何かを担いだ大柄な希少種が通らなかったか?」
「通りましたぞ。ユリウス様」
慌てた様子もなく堂々と希少種が一人で出てきたので、何かおかしいと思ったらしい。
「どちらに向かった?」
「こちらにございます」
カレルは念の為あとを追っていたという。よくできた執事だ。カレルは、王宮の方へ向かって歩いていく。
「王宮に入ったのか?」
ライニール王の関与を疑ったが、カレルは「いえ」と首を振った。
「それが不思議なことに、ここまで追いかけたところで急に姿が見えなくなったのです」
カレルは王宮とブラウ離宮との間にある噴水を指し示した。噴水はかれていて、レンガの敷き詰められた底が露出している。丸く掘られた中央に、かつて水を噴出していた台が三段にわたって積み重なっている。
「ユリウス!」
噴水跡をカレルと見ていると、エメレンスが走ってきた。
「ルカを連れ去った希少種のことだがな。五年前に一人だけ王宮から逃げ出したハルムという者がいてな。そいつが希少種では稀にみる体格の良さだったらしい」
「ルカが連れ去られたですと?!」
これを聞いてカレルが目を丸くする。そういえばそこの説明がまだだった。ユリウスは手短にこれまでの経緯をカレルに話して聞かせた。
「なんと。ではあの肩のものは、ルカだったと?」
「ああ、そうかもしれない。それでエメレンス。そのハルムという希少種は」
「そいつは五年前に王宮から忽然と姿を消したらしい。ジオの四五年前という言葉を聞いて、ふと思い出したので確かめてきた」
「忽然と……」
それではカレルの目撃した状況とまるで同じだ。
ユリウスは噴水の縁に手をかけると、底におり、かれたレンガの上に下り立った。
「おい、何をする気だ?」
エメレンスの声を軽く手を上げて制し、ユリウスは注意深く観察しながら、噴水の底を歩いた。ユリウスの頭がすっぽりおさまるほど噴水のプールは深い。底に張り巡らされたレンガは、王都中に巡らされている水路あとと同じだ。
これほど大量の水が、かつての王都には溢れていたのか。
今は生活用水にも困るほどだというのに不思議だ。循環式の噴水ならば出口はないが、噴出する水を流しっぱなしだったならば、どこかに排水口があるはずだ。
「おい! 気をつけろよ。あちこち脆くなっているぞ」
エメレンスが声をかけるそばから、手をついた側壁がバラバラと崩れた。その瓦礫が底にあいた大きな穴に吸い込まれていく。排水口だ。
中を覗いてみると、暗いが同じレンガ敷きの通路が奥へと続いているのが見えた。
「ユリウス様。おやめくださいませ。危のうございます」
排水口に足をかけたところで、上からカレルが止めた。
「おい。カレルの言う通りだ。やめておけ。いつ崩れてもおかしくないぞ」
エメレンスも声をかけ、ユリウスの横に飛び降りてきた。
「気持ちはわかるが、ルカがこの中に入ったかどうかはわからないんだ。やめておけ。別の方法をさがそう」
「いや、ここ見てみろ」
ユリウスは穴の縁に溜まった砂の上にある足跡を見つけた。まだはっきりと靴底の形が残っている。
「俺はここから追ってみる。この水路は王都の街中に繋がっているんじゃないのか?」
「そうかもしれないが、詳しいことはわからない」
「ユリウス様。早くお戻りください」
カレルが再度呼んだが、ユリウスは、「あとは頼む」と言い置き、排水口の中へと身を翻した。
――――――――――――――――――――――
ユリウスが扉を蹴破って部屋へ飛び込むと、寝椅子でもぞそもぞと動いていたスメーツ侯爵が顔を上げた。スメーツ侯爵は下半身に何も着ていなかった。どころか、組み敷いた黒髪の希少種の尻に己の一物を食い込ませている。
「な、なんだね。いきなり」
突然の侵入者にスメーツ侯爵は驚いて半立ちになった。その拍子に一物が尻から抜け、横たわる希少種の腹に精を飛ばした。
「いかがなさいました? スメーツ侯爵様」
ごそりと寝椅子の希少種が頭を起し、ユリウスを見た。
ルカ、ではなかった。それによく見ると陰茎のある男の希少種だ。
「一体何だね。ベイエル伯」
スメーツ侯爵は組み敷いているのとは別の希少種の頭を引き寄せ、己の陰茎を咥えさせた。それで隠したつもりなのかは知らないが、また別の希少種は、腹に散った精を舐め取り始める。
部屋には合わせて三人の希少種がいた。が、いずれもルカではない。
呆然とするユリウスの肩を、後ろからエメレンスが叩いた。
「これは申し訳ございません、スメーツ侯爵。部屋を間違えたようです」
「そのようだな。エメレンス殿下。おかげで興を削がれましたぞ。殿下の希少種を貸していただければ、少しは気も晴れましょうがな」
「はは。御冗談を。それはさきほどお断りしたはず」
「わかっておるわい。用がないのならさっさとご退出いただきたい。残りの二人も相手をせねばならんのでね」
「これはまた。失礼いたしました」
エメレンスはユリウスを引き連れて部屋を出た。
扉を閉める瞬間、早速陰茎を咥えさせていた希少種の頭をつかむスメーツ侯爵の姿が見えた。
「どういうことだ? ルカはどこに行った?」
「悪い。完全に私の読み違いのようだ」
エメレンスは腕を組み、あごをつまんだ。何かを思い返すようにしていたと思ったら、振り返って再び部屋の扉を開いた。
「なんだね、まだ何か用かね」
うんざりしたようなスメーツ侯爵の声。
「貴殿の希少種に、体格のいい男の希少種はいますか?」
「おらん。私は見ての通り華奢な希少種が好みだ」
「どうも」
エメレンスは扉を閉めると廊下を歩き出した。
「おい。どういうことだ?」
「ルカを連れ去ったのは、スメーツ侯爵ではないようだ」
「それはわかった。他に心当たりはないのか?」
「あればとっくに動いてるさ」
エメレンスは階段をおりると建物の裏手に当たる廊下を進む。並んだ扉の一つに入った。簡素な狭い一室だ。額に包帯を巻いたジオが一人でベッドに腰掛けていた。入ってきたエメレンスを見て、頭を深々と下げた。
「申し訳こざいません、殿下」
「過ぎたことはもうよい。それより、話せるか?」
ジオはついさきほどまで気を失っていたらしい。襲ったのはどんな者だったか。体格のいい男という、側で目撃していた者の証言より、詳しいことが聞きたいとエメレンスはジオに言った。
「体格は確かによおございました。ユリウス様ほどではございませんでしたが、王宮騎士団でもあれほどの者はなかなかおりません。あとは、」
ジオは記憶を辿るようにきつく目を閉じた。
「希少種の服装をしておりました。黒いフードを被っておりましたので、髪の色はわかりませんが、瞳は黒でした。間違いなく希少種でしょう。ただ、服装に違和感がありました。そうですな。あれは、古い型のものだったからですな」
ジオによると、晩餐会に連れてくる希少種の服装は、基本は黒と決まっている。それでもドレスと同じで、年によってデザインが微妙に違うのだという。今年の流行りはシフォン生地を使った、全体に柔らかなイメージをもたせたものだ。が、体格のいい希少種が着ていたものは、四五年前に流行った厚手の生地を使った重厚なイメージのものだった。
それを聞くと、エメレンスは確かめることがあると部屋を出ていった。ユリウスも部屋を出ると、エメレンスの控えの間に戻った。エメレンスの控えの間の、両隣の部屋の前で控えていた者をつかまえ、さきほどこの部屋に入った男の希少種がどこに向かったかを聞き出した。
両隣とも、下に向かったと答えた。何か荷物のようなものを肩に担いでいたという。
ユリウスは階段をおり、ブラウ離宮の外へと出た。外は疎らに人がいるだけで、ブラウ離宮からの明かりが周囲を照らしている。ざっと見渡したがそれらしい影はない。
そこへ、脇からカレルが現れた。
「お帰りにございますか」
ユリウスが帰ると思ったのだろう。主人が出てくるのを、見える場所で待っていたようだ。ユリウスははっとしてカレルに問うた。
「少し前に、何かを担いだ大柄な希少種が通らなかったか?」
「通りましたぞ。ユリウス様」
慌てた様子もなく堂々と希少種が一人で出てきたので、何かおかしいと思ったらしい。
「どちらに向かった?」
「こちらにございます」
カレルは念の為あとを追っていたという。よくできた執事だ。カレルは、王宮の方へ向かって歩いていく。
「王宮に入ったのか?」
ライニール王の関与を疑ったが、カレルは「いえ」と首を振った。
「それが不思議なことに、ここまで追いかけたところで急に姿が見えなくなったのです」
カレルは王宮とブラウ離宮との間にある噴水を指し示した。噴水はかれていて、レンガの敷き詰められた底が露出している。丸く掘られた中央に、かつて水を噴出していた台が三段にわたって積み重なっている。
「ユリウス!」
噴水跡をカレルと見ていると、エメレンスが走ってきた。
「ルカを連れ去った希少種のことだがな。五年前に一人だけ王宮から逃げ出したハルムという者がいてな。そいつが希少種では稀にみる体格の良さだったらしい」
「ルカが連れ去られたですと?!」
これを聞いてカレルが目を丸くする。そういえばそこの説明がまだだった。ユリウスは手短にこれまでの経緯をカレルに話して聞かせた。
「なんと。ではあの肩のものは、ルカだったと?」
「ああ、そうかもしれない。それでエメレンス。そのハルムという希少種は」
「そいつは五年前に王宮から忽然と姿を消したらしい。ジオの四五年前という言葉を聞いて、ふと思い出したので確かめてきた」
「忽然と……」
それではカレルの目撃した状況とまるで同じだ。
ユリウスは噴水の縁に手をかけると、底におり、かれたレンガの上に下り立った。
「おい、何をする気だ?」
エメレンスの声を軽く手を上げて制し、ユリウスは注意深く観察しながら、噴水の底を歩いた。ユリウスの頭がすっぽりおさまるほど噴水のプールは深い。底に張り巡らされたレンガは、王都中に巡らされている水路あとと同じだ。
これほど大量の水が、かつての王都には溢れていたのか。
今は生活用水にも困るほどだというのに不思議だ。循環式の噴水ならば出口はないが、噴出する水を流しっぱなしだったならば、どこかに排水口があるはずだ。
「おい! 気をつけろよ。あちこち脆くなっているぞ」
エメレンスが声をかけるそばから、手をついた側壁がバラバラと崩れた。その瓦礫が底にあいた大きな穴に吸い込まれていく。排水口だ。
中を覗いてみると、暗いが同じレンガ敷きの通路が奥へと続いているのが見えた。
「ユリウス様。おやめくださいませ。危のうございます」
排水口に足をかけたところで、上からカレルが止めた。
「おい。カレルの言う通りだ。やめておけ。いつ崩れてもおかしくないぞ」
エメレンスも声をかけ、ユリウスの横に飛び降りてきた。
「気持ちはわかるが、ルカがこの中に入ったかどうかはわからないんだ。やめておけ。別の方法をさがそう」
「いや、ここ見てみろ」
ユリウスは穴の縁に溜まった砂の上にある足跡を見つけた。まだはっきりと靴底の形が残っている。
「俺はここから追ってみる。この水路は王都の街中に繋がっているんじゃないのか?」
「そうかもしれないが、詳しいことはわからない」
「ユリウス様。早くお戻りください」
カレルが再度呼んだが、ユリウスは、「あとは頼む」と言い置き、排水口の中へと身を翻した。
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