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第六章
精霊王の策略
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木立の間を抜け、やぶをかき分け木の根に足を取られながらユリウスは走った。後ろからはミヒルの声が追いかけてくる。
「待て! ユリウス。行くな!」
けれど倒れたままのミヒルの声はどんどん後ろに遠ざかっていく。
「ユリウス!」
よりはっきりとルカの声が聞こえた。ユリウスは剣を抜くとその勢いのまま、木立の間を抜けて躍り出た。
「ユリウス!」
地面に突っ伏したルカが、ユリウスの姿に声を上げる。ルカは後ろ手に縛られ、その背をフォリスがおさえている。ルカの背や大腿には血が滲み出していた。
「おまえは、ベイエル伯」
ルカの横にはドリカと思われる年配の女性が、短鞭を手に立っていた。ルカの傷は、この短鞭がふるわれたためらしい。
「フォリス。おまえどういうつもりだ?」
まさかフォリスがこの場にいるとは。しかしユリウスには閃くものがあった。
「そうか。確かおまえ、王宮にいたことがあると言っていたな。その女に脅されたか。腹の子を守るために」
「すみません、ユリウス様。僕はこうすることでしか、自分を守る方法がわからなかった」
ユリウスはざっと辺りを見回した。ラウの姿がない。ミヒルはラウに気をつけろと言っていたが。
ドリカは短鞭の他に武器らしい武器は持っていない。フォリスも丸腰だ。制圧するのは容易いことと思われた。
騒ぎが大きくなる前にさっさと片を付けよう。ユリウスは剣を鞘におさめるとずかずかとドリカ達の方へ歩み寄った。
こんな非力な二人。剣などなくともどうにでもなる。
その時、ドリカの背後の木立からラウが現れた。ラウは、いつもの金髪姿ではなく黒髪に戻り、風もないのにふわりと浮き上がる。はっとして後ろを振り返ったドリカが、動きを止めた。と思ったらスローモーションのようにゆっくりと仰向けに倒れてきた。
首ががくりと後ろに傾ぎ、その態勢のまま地面にどおっと倒れる。
「えっ?」
その姿を見たルカの口から驚愕の声が漏れた。
ドリカは胸に短剣を生やし、目を剥いて絶命していた。
「あ、あ、あああ!」
おそらくはじめて死体を見たのだろう。ルカの口から絶叫が迸った。ルカをおさえているフォリスも、目を見開き、ドリカを凝視している。
「さすがにあなたはこれくらいでは驚かないか」
すぐ耳元で囁かれ、ユリウスはばっと後ろに飛び退いた。いつの間にかラウがすぐ横にいて、ユリウスの左肩に手を置いていた。
どうやって? いつ。接近を許した?
ドリカに気を取られたのはほんの数瞬。ここまで距離を詰められるほどの時間はなかった。
ミヒルも同じような芸当をしていた。精霊のなせる技なのか。でも、力技ではミヒルは呆気なくやられた。ユリウスはラウの襟首をつかんだ。体格でなら十分に勝機のある相手だ。
が、つかんだと思った手はするりと離れ、気がつけばまたラウの手が左肩に乗っている。引き離そうとするが、強力な糊ででもついているかのように離れない。
「何を……」
「もちろん、フロールの魂を返してもらうのさ」
「精霊王よ。俺を、殺すのか?」
助けに行ってはいけない。そう叫んだミヒルの言葉が頭の中を反響した。そういう意味だったのか。ルカを奪われ、助けようとして隙のできた一瞬を狙ってユリウスを屠ろうとラウがやって来ると。
だから引き裂かれると言ったのか。
しかし、ラウは「まさか」と笑った。
「僕が精霊王だって、ミヒルに聞いたんだな? 全くあいつはほんとにおしゃべりでお節介な奴だ。あいつに助けに行くなと止められたろう。なぜ来たんだ?」
「ルカを放ってはおけまい」
「そういうとこ。ほんと人にしておくにはもったいないよ」
ラウが左肩をつかむ手に力を込めた。温かいエネルギーのようなものが流れ込み、肩が熱くなる。
「どうやって取り出すつもりだ? ナイフでえぐるのか?」
「冗談言うな。そんな下等なことで、フロールがおまえから出てくるわけなかろう。あいつを起こしてるんだよ。目が覚めれば、自分から出てくるさ」
「…っ……」
肩のあまりの熱さに、ユリウスは思わず片膝をついた。それでもラウの手は、吸い付いたように肩から離れない。
「いつまで、かかるのだ?」
「もう少し。もう少しだ。ああ」
ラウが声とともにユリウスの肩から手を離した。支えを失ったように、ユリウスは前のめりになり、両手で地面に手をついた。
熱い。体が燃えるように熱い。
殺すのか?と聞いたユリウスに、ラウはまさかと答えたが、これはかなりの熱さだ。額に脂汗が滲む。今頃、左肩はどろどろに溶けているに違いない。
全身も溶け出すほどの熱さに、ユリウスの体が悲鳴を上げた時、ふっと左肩から何かが飛び出した。
その何かが飛び出したとたん、急速に熱さは引いていき、ユリウスは薄っすらと目を開けた。
目の前に、薄青色の光をまとった石としか言いようのない物体が浮かんでいる。石には、ユリウスの左肩にあったのと同じ紋章が刻まれ、ふよふよと頼りなげに光りを放つ。
「フロール。やっと目覚めてくれたんだね」
ラウは光る石を両手で包み込むと、次の瞬間には突っ伏して横たわるルカの横に立っていた。
「ルカ、ほら飲んで。これでルカはもう怖い目に遭うこともなくなるし、不安で眠れない日を過ごすこともなくなる。もうわかっただろう? ルカはどこにいてもどこまでいっても王宮に付け狙われる。もう、怖い思いをするのは嫌だろう?」
ラウは光る石をルカの開いた口に入れるとルカに口づけた。ルカは、まだドリカの衝撃が抜けないのか。どこか虚ろな目だ。
「待て。なぜそれをルカに飲ませるんだ」
せっかくルカから抜け出たレガリアを、またルカに戻すのはなぜだ。やめろとルカのもとに走ろうとするが、足が一歩も動かない。
「だめだ! ルカ。のむな」
なぜかはわからないがユリウスの何かが警鐘を鳴らす。フロールの魂を取り込むことにどんな意味があるのからわからない。でも、何かよくないことが起こりそうな予感がある。
「ユリウス……」
ユリウスの呼びかけにルカの意識が浮上した。小さくユリウスを呼び、疲れ切った顔でこちらに視線をあわせる。その姿に勇を得、ユリウスは励ますようにルカに言った。
「吐き出せ、ルカ。怖い思いをしたなら俺が慰めてやる。不安で眠れない夜は、俺がいつまでも側にいてやる。ラウの言うことには耳を傾けるな」
「……うん」
ルカは舌を動かして口の中の石を出そうと下を向いた。が、それより早くラウがルカを仰向けにひっくり返すと、上から覆いかぶさるようにキスをした。
「ラウ! やめろ! ラウ!」
ユリウスが制止するもラウはルカのあごを持って口を開かせる。
「んんー」
ルカが足をバタバタさせもがくが、ラウはさほど力を入れているようには見えないのにびくともしない。おそらく、舌を入れて喉の奥に石を押し込んでいるのだろう。ラウはルカの鼻もおさえ、呼吸をとめて飲み込まそうとしている。抵抗するルカの顔は真っ赤で、苦しそうだ。
「やめろ! ラウ。頼むやめてくれ。そのままではルカが死んでしまう」
ついに耐えきれなくなったのか。ルカの喉がこくんと動いた。同時にラウはルカから顔を上げ、おさえていた鼻も放した。
ルカはぜえぜえと苦しげな息を繰り返した。
傍らのフォリスは、何が起こっているのか全くわかっていないのだろう。呆然としたまま座り込んでいる。
「ルカ!」
いつの間にかユリウスの動かない体が自由になっていた。ユリウスはルカに駆け寄り、その背を撫でた。
「大丈夫か? ルカ」
ルカは肩で大きく息を繰り返し、焦点の定まらない目でユリウスを見上げた。
「誰?」
ルカの口から呟きが漏れた。問われてルカの目を見返し、ユリウスははっとしてその背から手を離した。目の光が違う。いつもどこか不安げで、はにかみながら嬉しそうにこちらを見つめるあのルカの目ではない。
「一体何が」
起こっているのだろうか。
目の前のルカは、ルカであってルカではない。
「ルカ! おい、ルカ!」
ユリウスはルカではないルカに向かって呼びかけた。戸惑ったような顔をしてこちらを見上げるルカの中に、僅かにユリウスの知るルカが垣間見えた。
すると横からラウが手を伸ばし、ルカを抱き寄せた。
「やめろ、ユリウス。これはもうおまえの知るルカではない」
「どういうことだ?」
「ルカにフロールの魂を植え込んだ。ルカの意識はもうどこにもない」
「ルカの意識はもうないだと? それはどういう……」
ルカの体をフロールの魂が乗っ取ったということか?
それならばルカは? ルカはどこに行った?
目の前の、どこからどう見てもルカではあるが、ルカの存在を感じないルカを前に、ユリウスは伸ばした手を握り込んだ。
「一つの体に一つの魂。これは精霊であろうと人であろうと揺るぎない法則だ。同じ入れ物に二つの魂が入った場合、より強い者が表層に現れる」
「しかし、これまでもレガリアとして人の体に寄生していたではないか」
それでもルカもユリウスも、フロールに意識を取られることはなかった。
ラウはにやりと笑った。
「それはフロールの魂が眠っていたからさ。そのため体が魂として認識しなかった。けれど今は違う。フロールは長い眠りから目覚めた。精霊であり、より強い輝きを持つフロールの魂に、ルカは負けた。ルカの意識はもう戻っては来ない。ルカは意識の奥深くへと入り込んだのさ。でもユリウス、安心しろ。そうして心を閉ざすことで、ルカの魂は今はじめて安寧を得たんだ」
「待て! ユリウス。行くな!」
けれど倒れたままのミヒルの声はどんどん後ろに遠ざかっていく。
「ユリウス!」
よりはっきりとルカの声が聞こえた。ユリウスは剣を抜くとその勢いのまま、木立の間を抜けて躍り出た。
「ユリウス!」
地面に突っ伏したルカが、ユリウスの姿に声を上げる。ルカは後ろ手に縛られ、その背をフォリスがおさえている。ルカの背や大腿には血が滲み出していた。
「おまえは、ベイエル伯」
ルカの横にはドリカと思われる年配の女性が、短鞭を手に立っていた。ルカの傷は、この短鞭がふるわれたためらしい。
「フォリス。おまえどういうつもりだ?」
まさかフォリスがこの場にいるとは。しかしユリウスには閃くものがあった。
「そうか。確かおまえ、王宮にいたことがあると言っていたな。その女に脅されたか。腹の子を守るために」
「すみません、ユリウス様。僕はこうすることでしか、自分を守る方法がわからなかった」
ユリウスはざっと辺りを見回した。ラウの姿がない。ミヒルはラウに気をつけろと言っていたが。
ドリカは短鞭の他に武器らしい武器は持っていない。フォリスも丸腰だ。制圧するのは容易いことと思われた。
騒ぎが大きくなる前にさっさと片を付けよう。ユリウスは剣を鞘におさめるとずかずかとドリカ達の方へ歩み寄った。
こんな非力な二人。剣などなくともどうにでもなる。
その時、ドリカの背後の木立からラウが現れた。ラウは、いつもの金髪姿ではなく黒髪に戻り、風もないのにふわりと浮き上がる。はっとして後ろを振り返ったドリカが、動きを止めた。と思ったらスローモーションのようにゆっくりと仰向けに倒れてきた。
首ががくりと後ろに傾ぎ、その態勢のまま地面にどおっと倒れる。
「えっ?」
その姿を見たルカの口から驚愕の声が漏れた。
ドリカは胸に短剣を生やし、目を剥いて絶命していた。
「あ、あ、あああ!」
おそらくはじめて死体を見たのだろう。ルカの口から絶叫が迸った。ルカをおさえているフォリスも、目を見開き、ドリカを凝視している。
「さすがにあなたはこれくらいでは驚かないか」
すぐ耳元で囁かれ、ユリウスはばっと後ろに飛び退いた。いつの間にかラウがすぐ横にいて、ユリウスの左肩に手を置いていた。
どうやって? いつ。接近を許した?
ドリカに気を取られたのはほんの数瞬。ここまで距離を詰められるほどの時間はなかった。
ミヒルも同じような芸当をしていた。精霊のなせる技なのか。でも、力技ではミヒルは呆気なくやられた。ユリウスはラウの襟首をつかんだ。体格でなら十分に勝機のある相手だ。
が、つかんだと思った手はするりと離れ、気がつけばまたラウの手が左肩に乗っている。引き離そうとするが、強力な糊ででもついているかのように離れない。
「何を……」
「もちろん、フロールの魂を返してもらうのさ」
「精霊王よ。俺を、殺すのか?」
助けに行ってはいけない。そう叫んだミヒルの言葉が頭の中を反響した。そういう意味だったのか。ルカを奪われ、助けようとして隙のできた一瞬を狙ってユリウスを屠ろうとラウがやって来ると。
だから引き裂かれると言ったのか。
しかし、ラウは「まさか」と笑った。
「僕が精霊王だって、ミヒルに聞いたんだな? 全くあいつはほんとにおしゃべりでお節介な奴だ。あいつに助けに行くなと止められたろう。なぜ来たんだ?」
「ルカを放ってはおけまい」
「そういうとこ。ほんと人にしておくにはもったいないよ」
ラウが左肩をつかむ手に力を込めた。温かいエネルギーのようなものが流れ込み、肩が熱くなる。
「どうやって取り出すつもりだ? ナイフでえぐるのか?」
「冗談言うな。そんな下等なことで、フロールがおまえから出てくるわけなかろう。あいつを起こしてるんだよ。目が覚めれば、自分から出てくるさ」
「…っ……」
肩のあまりの熱さに、ユリウスは思わず片膝をついた。それでもラウの手は、吸い付いたように肩から離れない。
「いつまで、かかるのだ?」
「もう少し。もう少しだ。ああ」
ラウが声とともにユリウスの肩から手を離した。支えを失ったように、ユリウスは前のめりになり、両手で地面に手をついた。
熱い。体が燃えるように熱い。
殺すのか?と聞いたユリウスに、ラウはまさかと答えたが、これはかなりの熱さだ。額に脂汗が滲む。今頃、左肩はどろどろに溶けているに違いない。
全身も溶け出すほどの熱さに、ユリウスの体が悲鳴を上げた時、ふっと左肩から何かが飛び出した。
その何かが飛び出したとたん、急速に熱さは引いていき、ユリウスは薄っすらと目を開けた。
目の前に、薄青色の光をまとった石としか言いようのない物体が浮かんでいる。石には、ユリウスの左肩にあったのと同じ紋章が刻まれ、ふよふよと頼りなげに光りを放つ。
「フロール。やっと目覚めてくれたんだね」
ラウは光る石を両手で包み込むと、次の瞬間には突っ伏して横たわるルカの横に立っていた。
「ルカ、ほら飲んで。これでルカはもう怖い目に遭うこともなくなるし、不安で眠れない日を過ごすこともなくなる。もうわかっただろう? ルカはどこにいてもどこまでいっても王宮に付け狙われる。もう、怖い思いをするのは嫌だろう?」
ラウは光る石をルカの開いた口に入れるとルカに口づけた。ルカは、まだドリカの衝撃が抜けないのか。どこか虚ろな目だ。
「待て。なぜそれをルカに飲ませるんだ」
せっかくルカから抜け出たレガリアを、またルカに戻すのはなぜだ。やめろとルカのもとに走ろうとするが、足が一歩も動かない。
「だめだ! ルカ。のむな」
なぜかはわからないがユリウスの何かが警鐘を鳴らす。フロールの魂を取り込むことにどんな意味があるのからわからない。でも、何かよくないことが起こりそうな予感がある。
「ユリウス……」
ユリウスの呼びかけにルカの意識が浮上した。小さくユリウスを呼び、疲れ切った顔でこちらに視線をあわせる。その姿に勇を得、ユリウスは励ますようにルカに言った。
「吐き出せ、ルカ。怖い思いをしたなら俺が慰めてやる。不安で眠れない夜は、俺がいつまでも側にいてやる。ラウの言うことには耳を傾けるな」
「……うん」
ルカは舌を動かして口の中の石を出そうと下を向いた。が、それより早くラウがルカを仰向けにひっくり返すと、上から覆いかぶさるようにキスをした。
「ラウ! やめろ! ラウ!」
ユリウスが制止するもラウはルカのあごを持って口を開かせる。
「んんー」
ルカが足をバタバタさせもがくが、ラウはさほど力を入れているようには見えないのにびくともしない。おそらく、舌を入れて喉の奥に石を押し込んでいるのだろう。ラウはルカの鼻もおさえ、呼吸をとめて飲み込まそうとしている。抵抗するルカの顔は真っ赤で、苦しそうだ。
「やめろ! ラウ。頼むやめてくれ。そのままではルカが死んでしまう」
ついに耐えきれなくなったのか。ルカの喉がこくんと動いた。同時にラウはルカから顔を上げ、おさえていた鼻も放した。
ルカはぜえぜえと苦しげな息を繰り返した。
傍らのフォリスは、何が起こっているのか全くわかっていないのだろう。呆然としたまま座り込んでいる。
「ルカ!」
いつの間にかユリウスの動かない体が自由になっていた。ユリウスはルカに駆け寄り、その背を撫でた。
「大丈夫か? ルカ」
ルカは肩で大きく息を繰り返し、焦点の定まらない目でユリウスを見上げた。
「誰?」
ルカの口から呟きが漏れた。問われてルカの目を見返し、ユリウスははっとしてその背から手を離した。目の光が違う。いつもどこか不安げで、はにかみながら嬉しそうにこちらを見つめるあのルカの目ではない。
「一体何が」
起こっているのだろうか。
目の前のルカは、ルカであってルカではない。
「ルカ! おい、ルカ!」
ユリウスはルカではないルカに向かって呼びかけた。戸惑ったような顔をしてこちらを見上げるルカの中に、僅かにユリウスの知るルカが垣間見えた。
すると横からラウが手を伸ばし、ルカを抱き寄せた。
「やめろ、ユリウス。これはもうおまえの知るルカではない」
「どういうことだ?」
「ルカにフロールの魂を植え込んだ。ルカの意識はもうどこにもない」
「ルカの意識はもうないだと? それはどういう……」
ルカの体をフロールの魂が乗っ取ったということか?
それならばルカは? ルカはどこに行った?
目の前の、どこからどう見てもルカではあるが、ルカの存在を感じないルカを前に、ユリウスは伸ばした手を握り込んだ。
「一つの体に一つの魂。これは精霊であろうと人であろうと揺るぎない法則だ。同じ入れ物に二つの魂が入った場合、より強い者が表層に現れる」
「しかし、これまでもレガリアとして人の体に寄生していたではないか」
それでもルカもユリウスも、フロールに意識を取られることはなかった。
ラウはにやりと笑った。
「それはフロールの魂が眠っていたからさ。そのため体が魂として認識しなかった。けれど今は違う。フロールは長い眠りから目覚めた。精霊であり、より強い輝きを持つフロールの魂に、ルカは負けた。ルカの意識はもう戻っては来ない。ルカは意識の奥深くへと入り込んだのさ。でもユリウス、安心しろ。そうして心を閉ざすことで、ルカの魂は今はじめて安寧を得たんだ」
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