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第六章
助けに行ってはいけない
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ユリウスが、血相変えたカレルから事の次第を聞いたのは、屋敷への帰り道の途中だった。
いつものように一人馬で屋敷に向かっていると、前方から砂煙を立てて猛然と駆けてくる騎馬がある。何事かと思ったらカレルだった。
カレルから話を聞き、ユリウスはルカを探しにすぐに林へ入った。アントンが頼んでもいない林へ行ったというのは、確かにおかしな話だ。妙な胸騒ぎがして、ユリウスは普段は馬で入らない林へ、そのまま馬で入って行った。林の地面は木の根が飛び出していたり、枯れ草が積み上がっていたり、深い藪があったりと馬にも歩きにくい。
「悪いな、パス。でも非常事態なんだ」
うまく障害物を避けさせながら、ユリウスはパスの首を鼓舞するように撫でた。いくらも行かないうちにルカを呼ぶ声が聞こえてきた。リサの声だ。
ユリウスはそちらへ馬を走らせた。
「あっ! ユリウス様」
馬の足音にリサがすぐに気がつき走り寄ってきた。
「カレルから事情は聞いた。まだ見つからないか?」
「はい。ノルデンとアントン、ボブにはすぐに後を追ってもらったのですが。つい今しがたボブと行きあったのですが、まだ見つかっていません。それと、」
リサはもしかしたらルカはラウと一緒かもしれないことを話した。
「ラウが?」
「はい。ディックと一緒に訪ねてきたんですが、ラウの姿もありませんから。あと」
「まだ何かあるのか?」
「実はフォリスの姿も見当たらないのです。ディックと屋敷中探したのですが、どこにも。それに、ポポが木箱に閉じ込められていました」
「どういうことだ?」
リサは、使っていない部屋に、見たことのない青い文様が描かれた木箱があり、麻紐で縛られていたこと。解くと中からポポが飛び出してきたことを話した。
一体、何が起こっているのだろう。
「引き続きルカを探してくれ」
ユリウスはリサと別れ、更に奥の林へと分け入った。この辺りまで、ルカを連れてきたことはない。もしルカが自分の意志で歩いているのなら、この辺りにルカのいた痕跡はないはずだ。
痕跡が見つからないことを祈りながら馬上から辺りを見回していたユリウスは、下草の上に落ちている金色のものに気がついた。
「パス、あそこだ」
近づき、ユリウスはパスから降りるとそれを手に取った。金色のリボンだ。どこかユリウスの髪色に似ている…。
はっとしてユリウスは金色のリボンをじっと見つめた。
確かリサが言っていた。市場でルカがリボンを欲しがったと。ドリカのこともあり忘れていたが、あの時リサは含みのある言い方をして、ユリウスの髪を見ていた。
買ったというわりに、いつまで経ってもルカがリボンを結んでいる姿を見ないので、頭から抜けていたが。
「……ルカ」
ルカが欲しがるなら、もしかしたら自分に似たこんな色のリボンだったかもしれない。
ユリウスはぐるりを見回した。丈の高い木立が太陽の光を遮り、位置のつかみにくい場所だ。ルカが不用心に自分の知らない、しかもこんな林の奥へ来るわけがない。
やはり、誰かに連れられて。
しかし誰か、とは誰だ? ラウか? ラウが一緒でも、おそらくルカはこんな林の奥までは入らない。入ったとしたら、ルカの意思を無視し、誰かが無理矢理に。
「だとしたら一体誰が」
ユリウスはパスをその場にとどまらせ、周辺を歩いて更なる痕跡がないか探した。しばらく歩いていると、
「キュルル」
耳慣れた鳴き声にユリウスは顔を上げた。目の前の木の上にポポがいて、こちらを見ていた。
「ポポ。おまえの主人を知らないか?」
思わずそう問いかけると、ポポは知っているとでも言うようにキュルと返事をした。そして木上からたっと駆けて地面へ飛び降りてきた。
そこでユリウスは信じがたい光景を目の当たりにした。
飛び降りたと見るや、ポポの姿がぐんっと伸び、手足が長くなり、尻尾が消え、きらきら光る貫頭衣のような服を着た一人の人間へと姿を変えた。地面に降り立ち、ユリウスを見上げた顔は、黒髪黒目の希少種の姿で、ユリウスは息をのんだ。
「おまえ…」
「どうも。ポポ、ではなくミヒルと言います」
ミヒルはにこりと口だけで笑みを形作ると、優雅にお辞儀した。その顔には覚えがあった。以前林でラウと言い争いをしていた希少種だ。
「おまえ、以前林でラウと言い合っていた希少種か?」
「人間共がそう呼んでいる希少種ではないですよ。彼らにはこんな芸当はできませんから」
「…精霊か?」
シミオンが水の精霊達は希少種と同じ黒髪黒目だと言っていた。
「ええ、まぁ」
ミヒルは平然と頷いた。
「精霊王なのか?」
ユリウスは左肩をおさえて後ずさった。今、このタイミングで精霊王のお出ましとは。
レガリアを警戒したユリウスに、ミヒルは「ご安心を」と自らユリウスと距離を取った。
「私は精霊王ではありません。精霊王の従者です」
「しかし、狙いは同じだろう?」
「いえ。今は違います」
「今は? どういう意味だ?」
警戒をとくことなくユリウスは聞き返した。
「あなたとルカがね。とても仲睦まじくされているのをずっと側で見ていたら、お二人を引き裂くのが忍びなくなりましてね」
「引き裂く、とは?」
ユリウスは尋ね返してはっと耳を澄ませた。かすかだがルカの声が聞こえる。助けを呼ぶルカの声だ。
ユリウスは踵を返すと走り出そうとした。今はとにかくルカを取り戻すことが先決だ。
しかし、走り出したユリウスの前にミヒルが立ちはだかった。さっきまで後ろにいたはずなのに。
「助けに行ってはいけない」
ミヒルは両手を広げてユリウスの進路を阻んだ。
「なぜだ? さきほど引き裂くのは忍びないと言ったではないか」
「だからです。だから助けに行ってはいけない」
「意味がわからん。わかるように説明してくれ」
ミヒルは、やれやれと肩をすくめ、ユリウスを見返した。
「あまり長々と説明している場合ではないのですがね」
「それはこちらも同じだ。早くルカを助けに行ってやりたいからな」
「あなたもわからない人ですね。だからそれがだめだと教えて差しあげているのですよ。全部、ラウ様の罠です」
「ラウだと?」
「まだお気づきではありませんか? ラウ様こそが、あなたの警戒なさっている精霊王ですよ」
告げられたことの衝撃を受け止めた時、よりはっきりとルカの声が聞こえた。
「ユリウス! 助けて」
「ルカ」
切羽詰まった声に、ただ事ではないことが起こっている様子を感じ、ユリウスはミヒルを振り切って走り出した。
「ああ、もう」
ミヒルが苛立った声を上げ、またユリウスの前に立ちはだかる。
「だからだめだと言っているでしょう。ルカのことは諦めてください。おそらくドリカはルカを王宮に引き渡すでしょうが、それも仕方のないことです。王家がレガリアと呼ぶところのものを、もうルカが持っていないとわかれば、さほど酷い目にはあいますまい」
ドリカ、ドリカだと?
では今ルカにこんな悲痛な声を上げさせているのは、ドリカだというのか。
「しかしドリカは、もう領内を出たはずだ」
「出ましたよ。一旦はね。けれどまた戻ってきた。ラウ様の小屋で過ごしていましたよ」
「しかし、ラウの小屋へ、ルカはドリカの去ったあと入ったぞ。その時は何も」
「収蔵庫にでも押し込んで隠していたのでしょう」
「真実ドリカだというなら尚更すぐに行ってやらねば。ルカをこのまま王宮に引き渡すつもりはないぞ」
「仕方ありませんよ。それしかルカを救う方法はないんです。今あなたが行けば、確実にルカを失いますよ」
「しかし行かねばルカは王宮にとらわれる。そもそもなぜ精霊王がルカを狙う? おまえたちの用があるのは、この左肩のレガリアだろう」
混乱する頭でユリウスは返した。精霊王とドリカという妙な取り合わせ、ルカとユリウスを引き裂きたくないと言いながら、王宮へルカを渡せというミヒルの言葉。何がどうなっているのか全くわからない。わからないが、早くルカの元へ行きたい。たとえ精霊王の罠であっても、ルカを見捨てるようなことはできない。
「全てラウ様の謀ですよ。クライドにエミーの悪行を告げ口し、エミーを追い込んだのも、ドリカをかくまい協力したのも全てラウ様の望みを果たすため。あなたはまんまと罠に嵌められようとしている」
「例えどんな罠であろうと、ルカを助けに行くためにはやむを得まい」
果たして力技が通じるのか。
ユリウスは通すまいとするミヒルの腕をつかみ、後ろへ投げ飛ばした。ミヒルは呆気なく地面に背中を打ち付けて倒れた。
「すまない、おまえの話は後でゆっくりと聞く」
「待て! 私を閉じ込めたのはラウ様だ。ラウ様は私がこうしておまえを足止めすることを阻止するため私を閉じ込めたのだぞ」
「おまえの忠告は肝に銘じておく。だがな。やはりルカをそのままにはしておけない」
またルカの悲鳴混じりの声が聞こえてくる。この先に待ち受けるものが何かはわからないが、このまま黙ってルカを手放せというのはいくら何でも聞けない話だ。
ユリウスは下草を蹴って駆け出した。
いつものように一人馬で屋敷に向かっていると、前方から砂煙を立てて猛然と駆けてくる騎馬がある。何事かと思ったらカレルだった。
カレルから話を聞き、ユリウスはルカを探しにすぐに林へ入った。アントンが頼んでもいない林へ行ったというのは、確かにおかしな話だ。妙な胸騒ぎがして、ユリウスは普段は馬で入らない林へ、そのまま馬で入って行った。林の地面は木の根が飛び出していたり、枯れ草が積み上がっていたり、深い藪があったりと馬にも歩きにくい。
「悪いな、パス。でも非常事態なんだ」
うまく障害物を避けさせながら、ユリウスはパスの首を鼓舞するように撫でた。いくらも行かないうちにルカを呼ぶ声が聞こえてきた。リサの声だ。
ユリウスはそちらへ馬を走らせた。
「あっ! ユリウス様」
馬の足音にリサがすぐに気がつき走り寄ってきた。
「カレルから事情は聞いた。まだ見つからないか?」
「はい。ノルデンとアントン、ボブにはすぐに後を追ってもらったのですが。つい今しがたボブと行きあったのですが、まだ見つかっていません。それと、」
リサはもしかしたらルカはラウと一緒かもしれないことを話した。
「ラウが?」
「はい。ディックと一緒に訪ねてきたんですが、ラウの姿もありませんから。あと」
「まだ何かあるのか?」
「実はフォリスの姿も見当たらないのです。ディックと屋敷中探したのですが、どこにも。それに、ポポが木箱に閉じ込められていました」
「どういうことだ?」
リサは、使っていない部屋に、見たことのない青い文様が描かれた木箱があり、麻紐で縛られていたこと。解くと中からポポが飛び出してきたことを話した。
一体、何が起こっているのだろう。
「引き続きルカを探してくれ」
ユリウスはリサと別れ、更に奥の林へと分け入った。この辺りまで、ルカを連れてきたことはない。もしルカが自分の意志で歩いているのなら、この辺りにルカのいた痕跡はないはずだ。
痕跡が見つからないことを祈りながら馬上から辺りを見回していたユリウスは、下草の上に落ちている金色のものに気がついた。
「パス、あそこだ」
近づき、ユリウスはパスから降りるとそれを手に取った。金色のリボンだ。どこかユリウスの髪色に似ている…。
はっとしてユリウスは金色のリボンをじっと見つめた。
確かリサが言っていた。市場でルカがリボンを欲しがったと。ドリカのこともあり忘れていたが、あの時リサは含みのある言い方をして、ユリウスの髪を見ていた。
買ったというわりに、いつまで経ってもルカがリボンを結んでいる姿を見ないので、頭から抜けていたが。
「……ルカ」
ルカが欲しがるなら、もしかしたら自分に似たこんな色のリボンだったかもしれない。
ユリウスはぐるりを見回した。丈の高い木立が太陽の光を遮り、位置のつかみにくい場所だ。ルカが不用心に自分の知らない、しかもこんな林の奥へ来るわけがない。
やはり、誰かに連れられて。
しかし誰か、とは誰だ? ラウか? ラウが一緒でも、おそらくルカはこんな林の奥までは入らない。入ったとしたら、ルカの意思を無視し、誰かが無理矢理に。
「だとしたら一体誰が」
ユリウスはパスをその場にとどまらせ、周辺を歩いて更なる痕跡がないか探した。しばらく歩いていると、
「キュルル」
耳慣れた鳴き声にユリウスは顔を上げた。目の前の木の上にポポがいて、こちらを見ていた。
「ポポ。おまえの主人を知らないか?」
思わずそう問いかけると、ポポは知っているとでも言うようにキュルと返事をした。そして木上からたっと駆けて地面へ飛び降りてきた。
そこでユリウスは信じがたい光景を目の当たりにした。
飛び降りたと見るや、ポポの姿がぐんっと伸び、手足が長くなり、尻尾が消え、きらきら光る貫頭衣のような服を着た一人の人間へと姿を変えた。地面に降り立ち、ユリウスを見上げた顔は、黒髪黒目の希少種の姿で、ユリウスは息をのんだ。
「おまえ…」
「どうも。ポポ、ではなくミヒルと言います」
ミヒルはにこりと口だけで笑みを形作ると、優雅にお辞儀した。その顔には覚えがあった。以前林でラウと言い争いをしていた希少種だ。
「おまえ、以前林でラウと言い合っていた希少種か?」
「人間共がそう呼んでいる希少種ではないですよ。彼らにはこんな芸当はできませんから」
「…精霊か?」
シミオンが水の精霊達は希少種と同じ黒髪黒目だと言っていた。
「ええ、まぁ」
ミヒルは平然と頷いた。
「精霊王なのか?」
ユリウスは左肩をおさえて後ずさった。今、このタイミングで精霊王のお出ましとは。
レガリアを警戒したユリウスに、ミヒルは「ご安心を」と自らユリウスと距離を取った。
「私は精霊王ではありません。精霊王の従者です」
「しかし、狙いは同じだろう?」
「いえ。今は違います」
「今は? どういう意味だ?」
警戒をとくことなくユリウスは聞き返した。
「あなたとルカがね。とても仲睦まじくされているのをずっと側で見ていたら、お二人を引き裂くのが忍びなくなりましてね」
「引き裂く、とは?」
ユリウスは尋ね返してはっと耳を澄ませた。かすかだがルカの声が聞こえる。助けを呼ぶルカの声だ。
ユリウスは踵を返すと走り出そうとした。今はとにかくルカを取り戻すことが先決だ。
しかし、走り出したユリウスの前にミヒルが立ちはだかった。さっきまで後ろにいたはずなのに。
「助けに行ってはいけない」
ミヒルは両手を広げてユリウスの進路を阻んだ。
「なぜだ? さきほど引き裂くのは忍びないと言ったではないか」
「だからです。だから助けに行ってはいけない」
「意味がわからん。わかるように説明してくれ」
ミヒルは、やれやれと肩をすくめ、ユリウスを見返した。
「あまり長々と説明している場合ではないのですがね」
「それはこちらも同じだ。早くルカを助けに行ってやりたいからな」
「あなたもわからない人ですね。だからそれがだめだと教えて差しあげているのですよ。全部、ラウ様の罠です」
「ラウだと?」
「まだお気づきではありませんか? ラウ様こそが、あなたの警戒なさっている精霊王ですよ」
告げられたことの衝撃を受け止めた時、よりはっきりとルカの声が聞こえた。
「ユリウス! 助けて」
「ルカ」
切羽詰まった声に、ただ事ではないことが起こっている様子を感じ、ユリウスはミヒルを振り切って走り出した。
「ああ、もう」
ミヒルが苛立った声を上げ、またユリウスの前に立ちはだかる。
「だからだめだと言っているでしょう。ルカのことは諦めてください。おそらくドリカはルカを王宮に引き渡すでしょうが、それも仕方のないことです。王家がレガリアと呼ぶところのものを、もうルカが持っていないとわかれば、さほど酷い目にはあいますまい」
ドリカ、ドリカだと?
では今ルカにこんな悲痛な声を上げさせているのは、ドリカだというのか。
「しかしドリカは、もう領内を出たはずだ」
「出ましたよ。一旦はね。けれどまた戻ってきた。ラウ様の小屋で過ごしていましたよ」
「しかし、ラウの小屋へ、ルカはドリカの去ったあと入ったぞ。その時は何も」
「収蔵庫にでも押し込んで隠していたのでしょう」
「真実ドリカだというなら尚更すぐに行ってやらねば。ルカをこのまま王宮に引き渡すつもりはないぞ」
「仕方ありませんよ。それしかルカを救う方法はないんです。今あなたが行けば、確実にルカを失いますよ」
「しかし行かねばルカは王宮にとらわれる。そもそもなぜ精霊王がルカを狙う? おまえたちの用があるのは、この左肩のレガリアだろう」
混乱する頭でユリウスは返した。精霊王とドリカという妙な取り合わせ、ルカとユリウスを引き裂きたくないと言いながら、王宮へルカを渡せというミヒルの言葉。何がどうなっているのか全くわからない。わからないが、早くルカの元へ行きたい。たとえ精霊王の罠であっても、ルカを見捨てるようなことはできない。
「全てラウ様の謀ですよ。クライドにエミーの悪行を告げ口し、エミーを追い込んだのも、ドリカをかくまい協力したのも全てラウ様の望みを果たすため。あなたはまんまと罠に嵌められようとしている」
「例えどんな罠であろうと、ルカを助けに行くためにはやむを得まい」
果たして力技が通じるのか。
ユリウスは通すまいとするミヒルの腕をつかみ、後ろへ投げ飛ばした。ミヒルは呆気なく地面に背中を打ち付けて倒れた。
「すまない、おまえの話は後でゆっくりと聞く」
「待て! 私を閉じ込めたのはラウ様だ。ラウ様は私がこうしておまえを足止めすることを阻止するため私を閉じ込めたのだぞ」
「おまえの忠告は肝に銘じておく。だがな。やはりルカをそのままにはしておけない」
またルカの悲鳴混じりの声が聞こえてくる。この先に待ち受けるものが何かはわからないが、このまま黙ってルカを手放せというのはいくら何でも聞けない話だ。
ユリウスは下草を蹴って駆け出した。
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