偏執の枷〜わたしの幸せはわたしが決める〜

咲木乃律

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第二章

十八年前の顛末 3

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「ところでアラン。おまえの話に出てきたそのヨハンナというのは、おまえの何なのだ?」

 グラントリーがにやりと口端を上げて末弟に意味ありげな視線を送る。見るとエグバルトの瞳も興味深げに細められている。
 
「おまえの話が始まってから、聞きたくてうずうずしていたのだ。肝心なところはすっ飛ばして、そのヨハンナとやらを助けに行った話から始まったのでな」

「そこは聞き逃していただいてよかったのですが」

「いやいや、そここそが肝要というものだ。なぁ、陛下」

「うむ、そうじゃな」
 
 兄二人の追及に、アランは白状した。

「この間のオシ街の任務中、偶然知り合った娘ですよ」
 
 宿屋で下働きをしていた十七歳の少女だと教えてやると、家令のテッドや友のランドルフほどではないにしろ、一瞬兄二人は驚いたように目を開いた。

 が、すぐに平静を装った。
 立ち直りの速さはさすがだった。

 けれど、宿屋で男に絡まれているところを助けてやり、漁火の灯火を見学しようと登った崖で再会し、話をしただけの関係だと話すと、さすがに驚いたようで、グラントリーは明け透けに呆れた声を上げた。

「アラン、おまえほんとにそれだけの関係なのか? もっといい雰囲気になったとか、そんなことは?」

 向こう一週間ほどの予定を全てすっぽかしてまで救出に向かったほどだ。

 偶然知りえた情報から少女の無事が気になったのはわかるが、それならば何も自ら赴かなくとも、人を遣ることもできたはずだ。

 だからアランにとってよほど忘れがたい何かがヨハンナとの間にあったのだろうと、グラントリーの言わんとしていることはわかる。恋仲にでもなったのかとそう言いたいのだろう。

 けれど今語った以上のことなどなかった。

 だからアラン自身、どうしてこんなにもむきになっているのかとも思う。

 ただ、ハララの香りに頬をほころばせたヨハンナが、どこかで泣いているかもしれないと思うといてもたってもいられなかったのだ。

 自分でも訳の分からない衝動に突き動かされたとアランが言うと、兄二人は「初々しいことだな」と感想を漏らした。

「それで陛下、兄上。テンドウ族にとってエメラルドの髪と瞳というのは、何か特別な意味合いがあるのですか? ヨハンナはそれは見事なエメラルドの髪と瞳をしているんです」

「そうだな……」

 エグバルトはグラントリーと目を合わせた。

 二人の微妙な目線の交わし方を見て、アランは先を促す。

「なにか、知っているのですか? テンドウ族といえば、くすんだエメラルドの髪と瞳の者が多いと聞きました。その中で、一際鮮やかなエメラルド。何か意味はあるのでしょうか」

「実はな、アラン。十八年前にテンドウの里へ踏み入ったとき、十数人いた神子からの聞き取りでわかったんだが、前年に亡くなった神子に鮮やかなエメラルドの髪と瞳の女性がいたらしいんだ。その神子は神子の中でも特別な存在だったらしく、より強い緑龍の加護を受けた者として崇められていた」

「緑龍の加護、ですか……」

 苦いアランの言い方に、エグバルトは苦笑した。

「おまえの嫌いな話だな。おまえは非現実的だと笑うかもしれんが、テンドウ族にとって、緑龍の加護を受けた者というのは、特別な存在であるのは確かだ」

 アランとて、黄龍をはじめとする草創の神話を知らないわけではない。

 けれどこの手の御伽噺を基準に話をされるとむず痒いような気がしてならない。そんな気持ちを察したグラントリーが実際的な事柄へと話をうつす。

「しかしアラン。これは見過ごせない事態だな。ツハンでのこともある。テンドウ族の動きについて、探ってみる必要はありそうだ」

「はい、グラントリー兄上。繰り返し話に聞いた、背の高いくすんだエメラルドの髪と瞳の男というのが気になります」

「各地に密偵を放って探らせるとしよう。それと、コビット商会とやらのことも調べてみるとするか」

 グラントリーは誰を動かすのかを頭の中で算段しているのか、宙を睨んで押し黙った。

「私も、独自に動いてみます」

 アランは兄二人に頭を下げると、足早に部屋を後にした。
 
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