魔の森の奥深く

咲木乃律

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第六章 本の世界と現実との違いは

朝からなんて

 窓からさし込む陽の光に、ロザリアは目を覚ました。ここ一月ですっかり馴染んだセストのベッド。すぐ間近に銀髪の美しい寝顔がある。
 けれど今日はいつもと違い、掛布からのぞくセストの肩が裸で、一瞬どきりとする。どうしてだろうとまだ半分寝ぼけた頭で考えながら身を起こすと、掛布がはらりとずれ、自分の剥き出しの胸が露わになった。

「―――っ……」

 思わず叫びそうになり、両手で口を抑える。一気に昨夜の出来事が蘇り、ロザリアは掛布を引き寄せるとそっとベッドから抜け出そうと身を反転させた。

「おはよう、ロザリア」

 声とともに腰に腕を回され、引き寄せられる。セストの気づかぬうちにベッドから逃げ出す作戦は瞬時のうちに失敗に終わり、ロザリアは「お、おはよう」と動揺を隠しきれず引きつった声で返した。

「どうした? どこか痛むのか?」

 その声にセストは心配そうに身を起こすとロザリアの顔を覗き込んでくる。上半身を起こしたことでセストの裸の胸板が露わになり、ロザリアはどきまぎして視線をそらせた。昨夜この腕の中でさんざん乱れたかと思うと恥ずかしすぎる……。

 けれどそんなロザリアの胸中とは別に、セストは本気で心配しているようで、うつむいたロザリアの顎をとると上向かせる。とたん、耳まで真っ赤なロザリアの顔を見たセストは、ようやく察し、にやりと笑った。

「なんだ、そういうことか」

 セストは安心したように息をつくと、何を思ったのかロザリアの大腿の間にするりと手を滑り込ませてくる。

「ちょ、ちょっとセスト!」

 昨夜の今朝で触れられて、さすがに焦ってロザリアがその手を止めると、セストはにやにやしてロザリアの両手を封じた。

「出掛けるまでまだ時間がある。もう一回、いいだろ?」

「よくない!」

 けれどロザリアの抗議は当然のように無視され、不埒なセストの指は蜜口の入口を弄った。昨夜、散々快感を覚えさせられたそこは、セストの指を迎え入れるようにぐちゅりと音を立てる。

「体はいいって言ってるぞ」

 セストは嬉しそうに言うと、指を挿れてくる。こんな陽の光のさしこむ明るい部屋で、何もかも丸見えで恥ずかしいと思うのに、体は勝手にセストの指に反応して下腹部がきゅうきゅうと締まる。

「んっ……」

 終いには声まで勝手に漏れ、胸の突起に吸い付いたセストの銀髪を、たまらず両手で掴んだ。

 その時だ。部屋の扉がノックされ、返事も待たずに扉が開かれ、テオが姿を現した。

「きゃ……」

 ロザリアは思わずセストを突き飛ばし、掛布の中に潜り込んだ。

「なんだよ、テオ……」

 あんな現場を見られたのに、セストは平然として応じると、あろうことか掛布に隠れたロザリアの内股に再び手を伸ばすと指を挿れてくる。

「………っ…」

 ロザリアは漏れ出そうになる声を必死に抑えた。セストはロザリアの中を弄りながら、テオと言葉を交わしている。

「まだ出掛ける時間ではないだろう?」

「その様子だと、今日の予定は忘れていないようで安心したよ。どうせお前のことだから、またすっぽかすんじゃないかと思ってね」

「そっちの用事は大体が俺なしでも済む要件ばかりだろう。チーロもいるんだし、勝手にすすめといてくれていいぞ」

「そのお前のせいで、俺がどんだけじぃさん連中からガミガミ言われてるか、知らないわけではないだろ?」

「―――知らないね。とにかく、今日は登城するから。こちらも大事な話があるしな。じぃさん連中にもそう伝えといてくれ。ということでまた後でな」

「はいはい。お邪魔しましたー」

 扉が閉まり、セストが掛布に潜り込んでくると、ロザリアは真っ赤な顔でその胸を叩いた。

「し、信じらんない! テ、テオがいるのにこんなこと!」

「見えないんだから、いいだろ?」

「でも声とか!」

「ああ」

 セストはにやりと笑った。

「それもそうだ。他の男にロザリアの可愛い声を聞かせるのは勿体ない。今度からは我慢する」

 反省してくれたようでホッとしたのもつかの間、セストはロザリアの足を開かせるといきなり最奥まで自身のものを突き入れてきた。

「―――あっ……」

 声をつまらせるも、さんざん弄られたあとのそこは迎え入れる準備は整っており、まるで招くようにセストのものに絡みついていく。

「んっ……ああんっ……」

 喉からは抑えきれない声が漏れ、いろいろ言いたいことはあったのに、押し寄せる快感の波に全て何処かへ消えていった。












「………はぁ…」

 結局あのあと、一度では終わらず二度三度と貪られ、変なところが筋肉痛だ……。
 
 ロザリアはここに来てからの日課であるキャングロ達におやつをあげるため、前庭のベンチに腰掛けていた。ラーラに作ってもらった焼菓子を出すと、待ってましたとばかりにキャングロが集まってくる。
 いつものようにそれらをついばむかわいらしいキャングロ達に癒やされていると、木立の間ががさりと音を立てた。

「だれ?」

 もしかしてウバルドの追手だろうか。ロザリアはとっさに立ち上がり、屋敷に向かって走ろうとした。立ち上がった拍子に膝の上に乗っていたキャングロ達が転げ落ち、「キキキキっ」と驚いたような声を上げる。

 けれど、木立の間から現れたのは人ではなかった。

「……一角獣…」

 ひときわ立派な角を持つ一角獣だった。その聡明な色をたたえた青い瞳に、ロザリアは見覚えがあった。

「あのときの……」

 同じ一角獣でも個体ごとに微妙な違いがある。狩りの際、角を切られるのを嫌がり、逃してやった一角獣だった。
 一角獣はゆったりとした足取りでこちらに近づいてくる。キャングロ達は「キャウキャウ」と嬉しそうな声を上げると一角獣の足元にまとわりつく。さながら魔の森の王者といった風格の一角獣は、キャングロ達を従えながらロザリアの前まで来ると、撫でてくれと言わんばかりに鼻面をロザリアの手に押し付けた。

 鼻筋やたてがみをそっと撫でてやると、一角獣は嬉しそうに頬を胸に押し当ててくる。一角獣の体には、よく見るとあちこちに傷があった。角もよく見ると傷が付き、欠けている箇所もある。

「そうか……。決闘したんだね。これは、名誉の負傷なんだね」

 濡れた青い瞳から、あのとき助けてくれてありがとうと伝わってくる。

「ううん、こっちこそ自分達の都合であなた達の大事な角を奪ってごめんなさい」

 一角獣はいいってことよと言うように鼻面をロザリアに擦り付けると背に乗れとばかりに足をかがめる。

「えっ……。乗っていいの?」

 さながら馬のような肢体だ。馬に乗り慣れたロザリアになら、難なく乗れそうではある。でも一角獣は誇り高い生き物だと聞いている。人を乗せるなんてありえるのだろか。
 その疑問に答えるように一角獣はいいんだ、連れていきたいところがあると言う。
 屋敷から離れることは不安だったが、一角獣の見せてくれる景色に猛烈な興味が湧いた。

「テオ! いる?」

 屋敷に向かって呼べば、テオがひょっこり屋敷から顔を出した。

「うおっと。一角獣じゃねぇか」

 やはりテオは見張り役として屋敷にいたようだ。扉を開けた途端目に飛び込んだ一角獣の姿に目を丸くした。

「えらく立派な奴だな。どうしたんだ?」

 テオはあまりこちらには近づかず、遠いところから聞いてくる。一角獣を警戒してのことと思われる。

「この子、わたしを乗せてくれるみたいなの。行ってきてもいい?」

「まじかよ⁉」

 テオは目を丸くした。やはり一角獣が人を乗せることは相当に珍しいことなのだろう。テオは「うーん」と首を傾げあごをつまんだ。

「まぁそいつの行くとこなら安全だろうけどよ。俺はついてけないぞ。並みの馬では追いつけないからな」

 一人になって大丈夫だろうかという不安はあったが、テオをだめだとは言わない。警戒心の強い一角獣の連れていく場所が危険な場所であるはずがないとの確信があるようだ。それならばと乗り気になったロザリアだが、テオは横目でそんなロザリアを見た。

「たださ、行けんのかよ。俺にはあんたが馬に乗れる状態だとは思えねぇけどさ」

「え? なんで?」

「なんでって……そりゃぁほら。今朝からセストとお楽しみだったろう?」

「あっ………」

 ロザリアの顔に瞬時に血がのぼる。初めて男性を受け入れたそこはまだ疼きが残っている。確かにテオの言うように一角獣にまたがり、駆けるなどできる状態ではない。

「……ごめんね、また今度でもいいかな…?」

 一角獣の目を見て謝ると、一角獣はいいってことよと言うように顔を上げるとくるりと向きを変え木立の中に消えて行った。「また来る」と言い残して。


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