【完】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん

文字の大きさ
14 / 15

クレストの思惑

しおりを挟む
 その日の放課後、私はクレストさんに誘われて、ルーブルさんも一緒に三人で街中のカフェへとやって来ていた。

 本音を言えばクレストさんのことは苦手で、できる限り関わり合いになりたくないと思っているのだけど、ドノヴァンからの告白をキッパリと断ることができたのも、あの時あの場所から逃げ出すことができたのも、クレストさんのお陰のような気がするから、一度ぐらいはお礼がてら付き合おうと思い、やって来たのだ。

 何故だか彼が「ルーブル君も誘えば良い」と言ってきたから、遠慮せずに声をかけさせてもらったけれど。二人は知り合いだったのだろうか?

「……さて。ラケシスには……いや、ラケシスさん、と言った方が良いよな。今まで勝手に呼び捨てていてごめん」

 三人分の飲み物が提供されたところで、クレストさんがぺこりと頭を下げてくる。

 ちょっと待って。いきなりそんな殊勝な態度にでられても困るから!

「いいえ! 私なんて伯爵家の娘ですし、呼び捨てしてもらって全然……気にしませんから」

 クレストさんの家柄は知らないけれど、恐らく私より下ではない筈。

 そういえば、ルーブルさんの家柄も聞いたことないな……まぁ、いいか。

 学園内は基本的に平等だしね、と自分自身を納得させる。実際に聞いてルーブルさんの家の家格が高かったら……そう思うと、とてもじゃないけど今更怖くて尋ねられない。

 だから、極力こだわらない態度を装った──のに。

「そういえば、君は──」

 クレストさんが興味あり気に、ルーブルさんへと視線を移してしまった。

 ダメ、やめて! そこは知りたくない! お願いだから突っ込まないで!

 妨害することもできず、祈るような思いで見つめていると、ルーブルさんはクスリと笑って肩を竦めた。

「申し訳ありません。学園生の間は、家柄に拘らず過ごしたいので、そういった質問は控えてもらえますか?」
「あ。そ、それは……そうだな。申し訳ない」

 若干顔色を悪くして頭を下げるクレストさんと、にこやかに「気にしないで」と言っているルーブルさんを見て、私はハッとする。

 ルーブルさんて、もしやかなり良い家柄のお坊ちゃまではないのかしら? と──。

 読書が趣味だというのが私達の共通点ではあるけれど、元となる紙が高額であることから書籍はかなりの高額品となり、おいそれと購入することは中々できない。だから私は基本的にいつもは図書館を利用しているし、どうしても欲しい本があった時のために、日々お小遣いを地道に貯めている。

 だけどルーブルさんは、以前話をきいた時、何冊も本を所持しているというようなことを言っていた。あの時はなんとも思わず聞き流してしまったけど、よく考えてみると、それってかなりのお金持ちじゃないと無理なのでは?

 ヤバい。そんなことも知らずに私ってば、普通の友達のような接し方をしてしまった。これって後から不敬罪に問われたりしないわよね?

「……ん? 僕の顔に何かついてる?」

 考え事をしつつ、じーっとルーブルさんの顔を見つめていたら、本人に気付かれてしまった。って、当たり前よね。

 私は慌てて頭をぶんぶんと横に振ると「なんでもない」と言って、訝し気に首を傾げるルーブルさんを、ジュースを飲んで誤魔化した。

「それじゃ、そろそろ本題に入ってもいいか?」

 クレストさんが一際真面目な声色で喋り出し、私とルーブルさんは思わず居住いを正す。

「どうぞ」と手振りで伝えれば、彼は机に頭をくっつける勢いで、私に向かって頭を下げてきた。え、何事?

「すまなかった! 俺は自分の目的のために、何度も君を傷付けた。無論、そうすることに躊躇いがなかったわけじゃない。だが、俺が敢えて君を傷付けたことは誤魔化しようのない事実だ。本当にすまなかった!」
「え……」

 どうしてクレストさんに謝られるのかが分からなくて、私はポカンとしてしまう。

 確かに彼は、今まで何度も木の裏のベンチで私のことをドノヴァンと話していて、その時のドノヴァンの発言に、私は毎回傷付けられていたけれど。

「まさか……」

 嫌な考えが、頭を過ぎる。

 もしかして彼は知っていたのだろうか? あのベンチの裏の木の縁に、私が座っていたことを。

「まさか、そんな……違うわよね?」

 声を震わせて尋ねるも、私の思いは見事に裏切られてしまった。

 とてもすまなさそうな、クレストさんの表情によって。

「実は俺……あそこに君がいることを知ってたんだ。知っててドノヴァンをあのベンチに連れて行き、態と君を傷付けるようなことを言わせた。こういう言い方をすると、決められた科白を俺がアイツに言わせたんじゃないかと疑われるかもしれないけど、そうじゃない。アイツは何も知らなかった。何も知らずに、ちょっと俺が誘導しただけで、面白いぐらい簡単に君を傷付けるような科白を吐いてくれたよ。こちらの思惑にのせられているとも知らないで」
「あなたの思惑……?」

 まさか、あのベンチでの二人のやりとりが、クレストさんによって導かれたものだったなんて知らなかった。

 私があのベンチの裏にいるということを知りつつ、ドノヴァンとの会話を態と聞かせていたなんて。

 知らなかった……。

 では彼が、クレストさんがそのことを知っていながら、あそこであんな話をしたのはどうしてだろう? 一体彼に何の狙いがあったというの?

 そう疑問に思った時、私がそれを口に出すまでもなく、クレストさんが言葉を継いだ。

「実は……これは他にはあまり知られていないことなんだが、俺とアリーシャも幼馴染なんだ」
「「ええっ!?」」

 クレストさんが語った衝撃の事実に、私とルーブルさんの声が重なる。

「それで……ドノヴァンからラケシスの話を聞いた時、俺と似てるなって思って。といっても、俺は単に家格の違いによって虐げられていただけで、君みたいに進んでアリーシャの世話をやいていたわけじゃないけどな」

 力なく笑うクレストさんは、なんだかとても辛そうで。私は彼の表情に、ぎゅっと胸を締めつけられるような気がした。

「俺はずっと……昔からアリーシャの良いように使われていて、なんとか逃げ出したいと思っていた。アイツの下僕のような生活から、抜け出したいと思っていたんだ。そんな時学園でアリーシャがドノヴァンを見初めて、付き合いたいと言い出した。俺はチャンスだと思ったね。面倒な幼馴染を押し付ける絶好のチャンスだと」

 ドノヴァンに好かれたくて尽くしていた私と、クレストさんは真逆の気持ちでアリーシャさんに尽くしていたんだ。ううん、尽くすことを強制されていた分、きっと彼の方が何倍も辛かっただろう。

 幼い頃から家格の違いのせいで虐げられてきたなんて、どれだけ理不尽な思いをしてきたのだろうか。クレストさんは、恐らく私なんかじゃ想像もつかないほどの思いをしながら、今まで過ごしてきたんだろうな。

 そんな彼はあのベンチで、一体どんな気持ちで私に対するドノヴァンの話を聞いていたのだろうか。

 内心でははらわたが煮えくり返るような思いを味わいながら、何でもない風を装って、隣で笑っていたのだろうか。

 だとすると、なんて強い人なんだろう。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

次が最終話となります!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

病弱な幼馴染を守る彼との婚約を解消、十年の恋を捨てて結婚します

佐藤 美奈
恋愛
セフィーナ・グラディウスという貴族の娘が、婚約者であるアルディン・オルステリア伯爵令息との関係に苦悩し、彼の優しさが他の女性に向けられることに心を痛める。 セフィーナは、アルディンが幼馴染のリーシャ・ランスロット男爵令嬢に特別な優しさを注ぐ姿を見て、自らの立場に苦しみながらも、理想的な婚約者を演じ続ける日々を送っていた。 婚約して十年間、心の中で自分を演じ続けてきたが、それももう耐えられなくなっていた。

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

【完結】実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき
恋愛
騎士のロバートに一目惚れをしたオリビアは、積極的なアプローチを繰り返して恋人の座を勝ち取ることに成功した。しかし、彼はいつもオリビアよりも幼馴染を優先し、二人きりのデートもままならない。そんなある日、彼からの提案でオリビアの誕生日にデートをすることになり、心を浮き立たせるが……。

処理中です...