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第五章 旦那様を守りたい
胡散臭いジュジュ
リーゲル様のためにも、私のためにも何か良い案を捻り出したいけれど、生憎なにも思い付かない。
幾ら殿下とリーゲル様を二人にさせたくないと言っても、私が一緒について行けばお邪魔虫確定だろうし、側から見ても滑稽に映るに決まっている。
想い合う二人の逢瀬に、出歯亀で付き纏う──頭が──可哀想な妻……とか。
それに私だって、目の前で二人にイチャつかれるのは辛い。
たとえリーゲル様にその気がなくても、相手が殿下である以上それなりの対応はしなければいけないだろうし、機嫌を損ねてもまずいだろうから、ある程度は殿下の行いを許容する必要がある。
殿下がどこまでのことを仕掛けてくるかは見当もつかないけれど、なにせ肉食らしいから、私には思いも寄らない大胆な行動に出るかもしれない。
もしそんな場面を間近で見てしまったら……私はあまりのショックに卒倒するかもしれないわ。
かといって二人だけで行かせるのは、リーゲル様があまりにも危険だし……。
儚い見た目に反して殿下は腕力に自信があるらしく、彼女に腕を引っ張られると、リーゲル様が本気で抵抗しても勝てないんだそう。
ということは、最悪いかがわしい宿に連れ込まれる可能性についても考えなければいけないわけで。
「もう……どうしたらいいのよ……」
考えれば考えるほど厄介な相手だと、私も頭を抱えた。
切羽詰まっていたことは理解したけど、リーゲル様もせめてもう少しマシな交換条件を出してくれたら良かったのに。
見た目は可愛いくても、中身は抑えのきかない高貴な肉食獣だなんて、どう対処したら良いのよ。
「でしたら……王太子殿下にも同行していただくのは如何でしょうか?」
突如として聞こえた声に、私とリーゲル様の視線が同時に声のした方を向いた。
そこにいたのは、この部屋にいなかった筈のジュジュで。
「どうしてジュジュがここにいるの?」
驚いて尋ねると、ジュジュはなんとも胡散臭い笑みを浮かべた。
「奥様がお困りの時にお助けすることが、あたくしの使命ですから」
「そ、そう……」
全く答えになっていない。
「そんなことより!」
私とジュジュの会話に、突然割り込んできたリーゲル様。
「王太子殿下にアルテミシアとの外出に同行していただくというのは……どう考えても無理なんじゃないか?」
「何故でございましょう?」
「何故って……!」
聞き返したジュジュに、リーゲル様は呆れたような顔をする。
ごめんなさいリーゲル様。実は私も(どうして?)と思ってしまいました。
「王太子殿下はただでさえ公務で忙しいんだ。妹の暇潰しの外出になど、付き合う暇はないに決まっている」
「そうでしょうか?」
「そうだ!」
のほほんと会話するジュジュと、徐々にボルテージの上がっていくリーゲル様。
気持ちは分からなくもないけれど、興奮するのは良くないわ。
「ですが、実は既に王太子殿下からご了承をいただいているのですが、それでもやっぱり無理なんですかね?」
「なっ……!」
あら、今度はリーゲル様が固まってしまわれたわ。余程驚かれたのね。
実際私もとんでもなく驚いたけれど。
「ジュジュ、あなたどうやって王太子殿下にご了承いただいたの?」
まさか脅したりなど……していないわよね?
一国の王太子が、公爵家のメイドなどに脅されることはないだろうけど、相手がジュジュだと一抹の不安を抱いてしまう。
どう考えても、ジュジュって普通のメイドじゃないみたいだし……。
いくら公爵家に仕えているとはいえ、王太子にお伺いをたてるなど、簡単にできることではない筈だ。
それなのに、分単位で予定が決まっているとさえ言われている王太子殿下との約束を、こうも容易く取り付けて来るなんて。
「単純に、うちの旦那様と暴れ馬がデートしなければならなくなったので、調教師として是非ご同行下さい、とお願いしました」
「え!」
「ちょ……」
あまりといえばあまりの言いように、言葉をなくす私とリーゲル様。
まさか王太子殿下に王女殿下のことを暴れ馬だと言ったの!?
しかも、調教師として同行するって……あまりにも言い方が滅茶苦茶すぎる。
「そんなことを言って、王太子殿下は怒らなかったのか? どう考えても不敬だろう」
ジュジュの話があまりに現実味を帯びていなかったからか、リーゲル様が落ち着きを取り戻したようだ。
そうよね、王女殿下を暴れ馬扱いするなんて、不敬にも程があるわよね。
「怒らなかったからご了承いただけたんです。もし不敬罪で捕まっていたら、そもそもあたくしは今ここにいませんよ」
「あ、ああ……それもそうか」
確かに。
私とリーゲル様は、同時に頷く。
「王女殿下の見た目にそぐわない腕力と暴れっぷりは、王城内では有名ですからね。ここだけの話ですが、王女殿下はイケメンの精気を餌に生きていると言われているようで──あ、生気でした。申し訳ございません」
「いやいや、言い直されてもどう間違って言い直したのか分からないから」
態とらしく謝罪するジュジュに突っ込むも、リーゲル様はそれどころではなかったようで。
「イケメンの生気を吸う……ということは、やはり俺も狙われて……」
青い顔で一人ぶつぶつと呟いている。
動揺しすぎて一人称が『俺』になっているけど、リーゲル様が自分のことを俺と言うのは初めて聞いたわ。
なんだか素敵。もっと言ってくれないかしら。
「デートの日程については、王太子殿下の都合がつき次第連絡が入るようになっておりますので、それに合わせられれば同行は問題ないということでした」
「分かった。必ず殿下の予定に合わせよう」
既にデートかどうかはリーゲル様の中で大した問題ではないようで、彼はジュジュの言葉に力強く頷く。
「あと……王太子殿下よりお願いが一つございまして、デートには必ず奥様も同行されるように、とのことでした」
「わ、私も!?」
どうして?
「デートをするにも、三人では収まりが悪いじゃないですか。それに、先日の夜会で旦那様に奥方を紹介してもらえなかったと拗ねておいででしたから、当然のお誘いかと思いますが」
そういえば、リーゲル様が殿下方二人と話す姿を見かけただけで、私は紹介してもらっていなかった。
チラ、とリーゲル様を横目で見ると、彼もしまったという顔をしている。
「そういうことなら……承知した。アルテミシアとの外出には、必ずグラディスも連れて行こう。君もそれで良いな?」
「はい、もちろんでございます」
王太子殿下もご一緒ならば、王女殿下も暴挙には出られない筈。
私はそこで漸く胸を撫で下ろしたのだった。
幾ら殿下とリーゲル様を二人にさせたくないと言っても、私が一緒について行けばお邪魔虫確定だろうし、側から見ても滑稽に映るに決まっている。
想い合う二人の逢瀬に、出歯亀で付き纏う──頭が──可哀想な妻……とか。
それに私だって、目の前で二人にイチャつかれるのは辛い。
たとえリーゲル様にその気がなくても、相手が殿下である以上それなりの対応はしなければいけないだろうし、機嫌を損ねてもまずいだろうから、ある程度は殿下の行いを許容する必要がある。
殿下がどこまでのことを仕掛けてくるかは見当もつかないけれど、なにせ肉食らしいから、私には思いも寄らない大胆な行動に出るかもしれない。
もしそんな場面を間近で見てしまったら……私はあまりのショックに卒倒するかもしれないわ。
かといって二人だけで行かせるのは、リーゲル様があまりにも危険だし……。
儚い見た目に反して殿下は腕力に自信があるらしく、彼女に腕を引っ張られると、リーゲル様が本気で抵抗しても勝てないんだそう。
ということは、最悪いかがわしい宿に連れ込まれる可能性についても考えなければいけないわけで。
「もう……どうしたらいいのよ……」
考えれば考えるほど厄介な相手だと、私も頭を抱えた。
切羽詰まっていたことは理解したけど、リーゲル様もせめてもう少しマシな交換条件を出してくれたら良かったのに。
見た目は可愛いくても、中身は抑えのきかない高貴な肉食獣だなんて、どう対処したら良いのよ。
「でしたら……王太子殿下にも同行していただくのは如何でしょうか?」
突如として聞こえた声に、私とリーゲル様の視線が同時に声のした方を向いた。
そこにいたのは、この部屋にいなかった筈のジュジュで。
「どうしてジュジュがここにいるの?」
驚いて尋ねると、ジュジュはなんとも胡散臭い笑みを浮かべた。
「奥様がお困りの時にお助けすることが、あたくしの使命ですから」
「そ、そう……」
全く答えになっていない。
「そんなことより!」
私とジュジュの会話に、突然割り込んできたリーゲル様。
「王太子殿下にアルテミシアとの外出に同行していただくというのは……どう考えても無理なんじゃないか?」
「何故でございましょう?」
「何故って……!」
聞き返したジュジュに、リーゲル様は呆れたような顔をする。
ごめんなさいリーゲル様。実は私も(どうして?)と思ってしまいました。
「王太子殿下はただでさえ公務で忙しいんだ。妹の暇潰しの外出になど、付き合う暇はないに決まっている」
「そうでしょうか?」
「そうだ!」
のほほんと会話するジュジュと、徐々にボルテージの上がっていくリーゲル様。
気持ちは分からなくもないけれど、興奮するのは良くないわ。
「ですが、実は既に王太子殿下からご了承をいただいているのですが、それでもやっぱり無理なんですかね?」
「なっ……!」
あら、今度はリーゲル様が固まってしまわれたわ。余程驚かれたのね。
実際私もとんでもなく驚いたけれど。
「ジュジュ、あなたどうやって王太子殿下にご了承いただいたの?」
まさか脅したりなど……していないわよね?
一国の王太子が、公爵家のメイドなどに脅されることはないだろうけど、相手がジュジュだと一抹の不安を抱いてしまう。
どう考えても、ジュジュって普通のメイドじゃないみたいだし……。
いくら公爵家に仕えているとはいえ、王太子にお伺いをたてるなど、簡単にできることではない筈だ。
それなのに、分単位で予定が決まっているとさえ言われている王太子殿下との約束を、こうも容易く取り付けて来るなんて。
「単純に、うちの旦那様と暴れ馬がデートしなければならなくなったので、調教師として是非ご同行下さい、とお願いしました」
「え!」
「ちょ……」
あまりといえばあまりの言いように、言葉をなくす私とリーゲル様。
まさか王太子殿下に王女殿下のことを暴れ馬だと言ったの!?
しかも、調教師として同行するって……あまりにも言い方が滅茶苦茶すぎる。
「そんなことを言って、王太子殿下は怒らなかったのか? どう考えても不敬だろう」
ジュジュの話があまりに現実味を帯びていなかったからか、リーゲル様が落ち着きを取り戻したようだ。
そうよね、王女殿下を暴れ馬扱いするなんて、不敬にも程があるわよね。
「怒らなかったからご了承いただけたんです。もし不敬罪で捕まっていたら、そもそもあたくしは今ここにいませんよ」
「あ、ああ……それもそうか」
確かに。
私とリーゲル様は、同時に頷く。
「王女殿下の見た目にそぐわない腕力と暴れっぷりは、王城内では有名ですからね。ここだけの話ですが、王女殿下はイケメンの精気を餌に生きていると言われているようで──あ、生気でした。申し訳ございません」
「いやいや、言い直されてもどう間違って言い直したのか分からないから」
態とらしく謝罪するジュジュに突っ込むも、リーゲル様はそれどころではなかったようで。
「イケメンの生気を吸う……ということは、やはり俺も狙われて……」
青い顔で一人ぶつぶつと呟いている。
動揺しすぎて一人称が『俺』になっているけど、リーゲル様が自分のことを俺と言うのは初めて聞いたわ。
なんだか素敵。もっと言ってくれないかしら。
「デートの日程については、王太子殿下の都合がつき次第連絡が入るようになっておりますので、それに合わせられれば同行は問題ないということでした」
「分かった。必ず殿下の予定に合わせよう」
既にデートかどうかはリーゲル様の中で大した問題ではないようで、彼はジュジュの言葉に力強く頷く。
「あと……王太子殿下よりお願いが一つございまして、デートには必ず奥様も同行されるように、とのことでした」
「わ、私も!?」
どうして?
「デートをするにも、三人では収まりが悪いじゃないですか。それに、先日の夜会で旦那様に奥方を紹介してもらえなかったと拗ねておいででしたから、当然のお誘いかと思いますが」
そういえば、リーゲル様が殿下方二人と話す姿を見かけただけで、私は紹介してもらっていなかった。
チラ、とリーゲル様を横目で見ると、彼もしまったという顔をしている。
「そういうことなら……承知した。アルテミシアとの外出には、必ずグラディスも連れて行こう。君もそれで良いな?」
「はい、もちろんでございます」
王太子殿下もご一緒ならば、王女殿下も暴挙には出られない筈。
私はそこで漸く胸を撫で下ろしたのだった。
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