【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

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第六章 旦那様の傍にいたい

腹黒策士

 そうよね、私なんてやっぱりその程度よね。

 最近は、リーゲル様が信じられないぐらい優しくして下さったり、エルンスト様や王太子殿下にも気を遣っていただいたりしたから、つい勘違いしてしまっていた。

 もしかしたら、私にも価値があるのかも……なんて。

 だけど、そんな筈はなかったのよ。私は所詮お姉様の添え物でしかないのだから。昔も……お姉様がいなくなった今でさえも。

 私が自惚れそうになった途端、こんな風に自覚させるなんて……神様は余程私に意地悪がしたいようね。そこまで神様に嫌われるようなことをした覚えなんてないのに。

「気にするなグラディス。私は君を身代わりだなどと思ったことは一度もない。君は私の隣で堂々としていればいいんだ」

 落ち込む私に、リーゲル様が優しい声音でそう言ってくれる。

「ですが、私が冴えないのは確かで……」
「そんな事はない。私はアンジェラに逃げられた後、君に出会って救われた。結婚相手が君で、本当に良かったと思っている。嘘じゃない」
「リーゲル様……」

 あまりにも嬉しいことを言われて、じんわりと涙が滲む。

 リーゲル様、本心かどうかは分かりませんが、こんな私にそのようなことを仰って下さるのですね。嬉しくて嬉しくて、このまま死んでしまっても良いような気がします。寧ろ、ここで死なせて下さい。

「グラディス……信じてくれ」
「え、信じていますよ!?」

 少々困り顔になったリーゲル様。

 どうして疑っていることがバレたのかしら?

 私が内心で焦っていることに気付かれたからなのか、それとは関係ないのか分からないけれど、リーゲル様が王太子殿下から離れ、私の元へと戻って来てくれる。

 リーゲル様再び! と喜んだのも束の間、王太子殿下が抗議の声をあげた。

「おい! 私の存在を無視するな! なに二人で良い感じになっているんだ!?」
「チッ」

 リーゲル様が舌打ちした! しかも王太子殿下に! 本来なら不敬罪になってしまうけれど……リーゲル様なら大丈夫よね?

「だったら次の質問だ。シーヴァイス、お前がグラディスを口説いた真実の理由はなんだ?」

 私に対していた時とはコロッと態度を変え、王太子殿下に向き合うリーゲル様。

 さっきの舌打ちは完全になかったことになっているわ。この態度の変わり具合が、何とも言えず素敵……。惚れ直さずにはいられない。

 問われた王太子殿下は「は? ちょ、なんでそんな急に……」とかって慌てているようだけど、そんなの私の知ったことではないわ。

「さあ、答えてもらおうかシーヴァイス。無論、嘘を吐くことは許さない。私が嘘だと判断した場合、ヘマタイト公爵家は即刻王家とは縁を切るから、そのつもりで話してほしい」
「はあ!? だからそれは脅しだろう? 一度ならず二度までも王族を脅すとは──」
「分かった。交渉決裂だな」
「話さないとは言ってない!」

 凄いわ。リーゲル様の方が、王太子殿下より一枚も二枚も上手だわ。これはもう……筆頭公爵家当主という肩書きなんかじゃなくて、宰相にでもなった方が良いのではないかしら。

 王太子殿下から国王になったシーヴァイス様を、リーゲル様が宰相として支える──とてつもなく恐ろしい国が出来上がりそう。

 自分の想像に身震いして私が思わず肩を竦めると、なんだか迫力のある微笑みを浮かべたリーゲル様と目が合った。

「グラディス、何を考えてるんだい?」
「い、いいえ。特に何も……」
「そう。なら良いけど」

 にこりと微笑みかけてきたリーゲル様に、私は引き攣った微笑みを返す。

 今考えた事は、絶対に知られるわけにはいかないわ。命の危険を感じるもの。

 懸命に表情を取り繕って暫く無言で微笑み合っていると、リーゲル様は気が済んだのか、今度は王太子殿下へと水を向けた。

「……で、シーヴァイス。そろそろ話す気になったか?」

 問い掛けたリーゲル様に、いや~な顔をする王太子殿下。

「私が話す気にならなくとも、無理矢理聞き出すつもりのくせに、よく言う……」
「ん? 何か言ったか?」
「別に何も言っておらんわ! 話せば良いのだろう、話せば!」

 自棄になったかのように大声を出す王太子殿下に、リーゲル様は満面の笑みで頷いた。

「流石王太子殿下。物分かりが良くて助かるよ」
「この腹黒策士が……!」

 王太子殿下、それには私も同意です。

 私は内心で、こっそりそう呟いた。
 







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