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第六章 旦那様の傍にいたい
言い訳
「私がグラディスを口説いたのは……まぁ、単なる興味というかなんというか……」
王太子殿下がボソボソと呟くように、小さな声で話し出す。
「なんだって?」
幾ら声が小さかろうとも、大して距離も離れていない部屋の中。聞こえているだろうに、リーゲル様は『聞こえない』とでも言うように、わざとらしく耳の横に手を当てる。
「馬車内で初めて顔を合わせた時、グラディスは私のことなど全く眼中にないようだったから、そんな令嬢は珍しく、少しだけ興味を持った。そうしたら、突然馬車が揺れて……」
その時の事を思い出したのか、王太子殿下が片手で口を覆い、横を向く。
なんだか照れているように見えるけれど、あの時馬車の中で王太子殿下が照れるような事なんてあったかしら?
当時のことを思い出そうと、記憶を反芻し──ややあって、私は馬車内で王太子殿下を座布団替わりにしてしまったことを思い出した。
「あ……っ! あの時は本当に申し訳ありませんでした!」
慌てて謝るも、殿下は「謝る必要はない」と言って、なにやら慌てたように両手を横に振る。
「あの時は……初めての発見もあったことだし、私的にはとても良い思いをさせてもらったから──」
「黙れエロ太子」
リーゲル様の冷ややかな声が、殿下の言葉を遮った。
「なんだリーゲル。グラディスを口説いた理由を知りたいと言ったのはお前だろうが」
「確かにそうだが余計なことまで言わなくていい」
呆れたような顔をする王太子殿下に、何故だか苦虫を噛み潰したような顔をするリーゲル様。
不可抗力とはいえ、私が王太子殿下の上に乗ってしまっただなんて不敬ともとれる行いだから、出来れば思い出されたくないんだろうか。
私としては、ただただ恥ずかしい失敗である為、忘れてもらえると嬉しいけれど。
「なにも一から十まで事細かに話せとは言ってない。理由だけを簡潔に話せ」
「一々注文の多い奴だな……。細かい男は嫌われるぞ?」
「煩い。いいから言う通りにしろ」
取り憑く島もないリーゲル様の態度に肩を竦め、王太子殿下は再び口を開く。
リーゲル様の要望通り、極力簡潔に纏められた殿下の話は、もの凄く分かりやすかった。
「……なるほど。グラディスが王太子殿下という身分に擦り寄らなかったことと、単にアンジェラの身代わりとして形式的に私と結婚したと思ったことから、自分が娶っても問題ないと考えた──と」
「そうだ。所詮グラディスはお前にとって身代わりなのだし、離縁したところでお前にはアルテミシアがいる。だったらグラディスは私がもらっても──」
興奮気味に語っていた王太子殿下が、ふと何かに気付いたかのように口を噤む。
そのまま徐々に顔色を悪くしていくのを見て、彼の視線の先へと目を向けた私は──瞬間、驚きに目を見張った。
王太子殿下の見つめる先で、リーゲル様が鬼のような形相をしていたから。
「…………!」
声を掛けようにも、そんな恐ろしい顔をしたリーゲル様は初めてで、恐怖心が先に立ち、どうしても躊躇ってしまう。
普段は完璧とも言える程に表情を取り繕っているリーゲル様が、ここまで感情を露わにするだなんて。
けれど、流石というか、なんというか。王太子殿下はリーゲル様の様子に怯みつつも、再び声をあげた。
「べ、別に良いだろう。私は一刻も早く妻を娶る必要があるんだ。アンジェラには手を出さなかったのだから、身代わりの令嬢ぐらい譲ってくれたって──」
「私はグラディスを身代わりだなどと思った事は一度もない」
ピシャリと、リーゲル様は王太子殿下の言葉を跳ねつけた。
王太子殿下がボソボソと呟くように、小さな声で話し出す。
「なんだって?」
幾ら声が小さかろうとも、大して距離も離れていない部屋の中。聞こえているだろうに、リーゲル様は『聞こえない』とでも言うように、わざとらしく耳の横に手を当てる。
「馬車内で初めて顔を合わせた時、グラディスは私のことなど全く眼中にないようだったから、そんな令嬢は珍しく、少しだけ興味を持った。そうしたら、突然馬車が揺れて……」
その時の事を思い出したのか、王太子殿下が片手で口を覆い、横を向く。
なんだか照れているように見えるけれど、あの時馬車の中で王太子殿下が照れるような事なんてあったかしら?
当時のことを思い出そうと、記憶を反芻し──ややあって、私は馬車内で王太子殿下を座布団替わりにしてしまったことを思い出した。
「あ……っ! あの時は本当に申し訳ありませんでした!」
慌てて謝るも、殿下は「謝る必要はない」と言って、なにやら慌てたように両手を横に振る。
「あの時は……初めての発見もあったことだし、私的にはとても良い思いをさせてもらったから──」
「黙れエロ太子」
リーゲル様の冷ややかな声が、殿下の言葉を遮った。
「なんだリーゲル。グラディスを口説いた理由を知りたいと言ったのはお前だろうが」
「確かにそうだが余計なことまで言わなくていい」
呆れたような顔をする王太子殿下に、何故だか苦虫を噛み潰したような顔をするリーゲル様。
不可抗力とはいえ、私が王太子殿下の上に乗ってしまっただなんて不敬ともとれる行いだから、出来れば思い出されたくないんだろうか。
私としては、ただただ恥ずかしい失敗である為、忘れてもらえると嬉しいけれど。
「なにも一から十まで事細かに話せとは言ってない。理由だけを簡潔に話せ」
「一々注文の多い奴だな……。細かい男は嫌われるぞ?」
「煩い。いいから言う通りにしろ」
取り憑く島もないリーゲル様の態度に肩を竦め、王太子殿下は再び口を開く。
リーゲル様の要望通り、極力簡潔に纏められた殿下の話は、もの凄く分かりやすかった。
「……なるほど。グラディスが王太子殿下という身分に擦り寄らなかったことと、単にアンジェラの身代わりとして形式的に私と結婚したと思ったことから、自分が娶っても問題ないと考えた──と」
「そうだ。所詮グラディスはお前にとって身代わりなのだし、離縁したところでお前にはアルテミシアがいる。だったらグラディスは私がもらっても──」
興奮気味に語っていた王太子殿下が、ふと何かに気付いたかのように口を噤む。
そのまま徐々に顔色を悪くしていくのを見て、彼の視線の先へと目を向けた私は──瞬間、驚きに目を見張った。
王太子殿下の見つめる先で、リーゲル様が鬼のような形相をしていたから。
「…………!」
声を掛けようにも、そんな恐ろしい顔をしたリーゲル様は初めてで、恐怖心が先に立ち、どうしても躊躇ってしまう。
普段は完璧とも言える程に表情を取り繕っているリーゲル様が、ここまで感情を露わにするだなんて。
けれど、流石というか、なんというか。王太子殿下はリーゲル様の様子に怯みつつも、再び声をあげた。
「べ、別に良いだろう。私は一刻も早く妻を娶る必要があるんだ。アンジェラには手を出さなかったのだから、身代わりの令嬢ぐらい譲ってくれたって──」
「私はグラディスを身代わりだなどと思った事は一度もない」
ピシャリと、リーゲル様は王太子殿下の言葉を跳ねつけた。
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