【完結】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん

文字の大きさ
24 / 90

24 自由になりたい

しおりを挟む
「えっ、婚約破棄の話が進展した⁉︎」

 殿下が我が家へといらした次の日、私は早速とばかりにミーティアとフェルにそのことを報告した。

 本当はレスターのご両親とお話してからにしようかとも思ったのだけれど、二人にはこの一月以上、ずっと相談にのってもらっていたから、少しでも早く伝えたくて。

「やったなユリア! けど俺……正直ちょっと複雑かも」
「そうね……実は私も……」

 喜んでくれるとばかり思っていたのに、何故かしょんぼりと肩を落として俯く二人。

 そんな彼等に、私は首を傾げる。

「どうしたの二人とも? 何がそんなに複雑だって言うの?」
「何がって……ねぇ?」
「ああ……」

 ミーティアとフェルは、訳知り顔でお互いに視線を合わせて頷き合うけれど、私にはサッパリ理解できない。

 私がレスターと婚約破棄することを、二人とも親身になって応援してくれていたはずなのに、いざそれが進展するとなったら不満気な顔をするなんて、どういうことなのだろうか。

「二人は私を応援してくれていたわけじゃなかったの?」

 単なる私の勘違いだった?

 でも、婚約破棄を面白がっていたフェルとは違い、ミーティアは最初から親身になって話を聞いてくれていたように思うけど……。

 分からなくて、二人のことをじっと見つめる。

 するとミーティアが、慌てたように私の肩を掴み、至近距離から目を合わせてきた。

「ごめんユリア! 私達の態度が悪かったよね。私はただ、ユリアはずっとあの男のことが好きだったのに、婚約破棄なんかして本当にいいのかな? 後悔しないのかな? と思って……」

 後悔──。

 しないと言えば嘘になる。けれどレスターと結婚したならしたで、きっと別の後悔が生まれることになる。

 どちらにしても後悔するなら、早目に別れてしまおうと決めたのは私だ。だから──。

「もう良いの……。もう決めたことだし、このままずっと、私以外の女性を傍に置くレスターを見ているのは辛すぎるから……」

 言った途端、周囲に令嬢達を侍らせているレスターの姿が脳裏に浮かんだ。ほぼ毎日の光景となっているのに、私の心は未だそれに慣れることができず、心から血を流す。

 もう嫌だ。こんな風に思い出すたび胸が締め付けられるように痛むのも、傷付くことを知りつつ、つい学園でレスターの姿を探してしまうのも、侍女が手紙を持ってくるたび、レスターからではないかと胸を高鳴らせるのも。

 全部全部、やめてしまいたい。

 自由に、なりたい──。

「ユリア……」

 ミーティアが私のすぐ横に移動してきて、頭をそっと抱きしめてくれる。

 女性同士とはいえ少し恥ずかしかったけれど、彼女が私の心に寄り添おうとしてくれていることが感じられて、されるがままになっていた。

 けれど、一人だけ蚊帳の外に追いやられていたフェルは──。

「ちょちょちょ! ちょーっと待った! 今、今二人なんて言った⁉︎」

 と、もの凄く興奮した様子で口を挟んできた。

「……もう、良いところだったのに。フェル、煩い」

 ミーティアが心底煩わしそうに、フェルを犬のように『しっし』と手を振って遠ざけようとする。が、そんなことぐらいで大人しくなるフェルではない。

「今、すっげぇ聞き捨てならないことが聞こえたんだけど? もしかしてユリアの婚約者って、あのコーラル侯爵令息なのか⁉︎」
「…………っ!」

 言われて初めて、私は自分が知らぬ間に失言していたことに気が付いた。

 ミーティアに言われてレスターのことを考えていたら、ついそのまま彼の名を口にしてしまっていたのだ。

「え……だけど、え……?」

 フェルになんと説明しようかと考えつつ、そこで一つの疑問に思い当たり、ミーティアの顔を見る。

「ん? どうかした?」

 なんとなく焦ったような雰囲気が感じ取れるミーティアの、眼鏡の奥にある瞳を──まったく見えないけれど──覗き込むようにして見つめ、私は口を開いた。

「ミーティア貴女、私の婚約者がレスターだということ、どうして知っていたの?」

 国内で最も力のあるオリエル公爵家令息のフェルでさえ、知らなかったのに。

 力のない男爵家の令嬢でしかないミーティアがどうして……。

 私の問いに、フェルの纏う周囲の空気が、若干変わったような気がした──。

 
 

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

私が家出をしたことを知って、旦那様は分かりやすく後悔し始めたようです

睡蓮
恋愛
リヒト侯爵様、婚約者である私がいなくなった後で、どうぞお好きなようになさってください。あなたがどれだけ焦ろうとも、もう私には関係のない話ですので。

処理中です...