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24 自由になりたい
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「えっ、婚約破棄の話が進展した⁉︎」
殿下が我が家へといらした次の日、私は早速とばかりにミーティアとフェルにそのことを報告した。
本当はレスターのご両親とお話してからにしようかとも思ったのだけれど、二人にはこの一月以上、ずっと相談にのってもらっていたから、少しでも早く伝えたくて。
「やったなユリア! けど俺……正直ちょっと複雑かも」
「そうね……実は私も……」
喜んでくれるとばかり思っていたのに、何故かしょんぼりと肩を落として俯く二人。
そんな彼等に、私は首を傾げる。
「どうしたの二人とも? 何がそんなに複雑だって言うの?」
「何がって……ねぇ?」
「ああ……」
ミーティアとフェルは、訳知り顔でお互いに視線を合わせて頷き合うけれど、私にはサッパリ理解できない。
私がレスターと婚約破棄することを、二人とも親身になって応援してくれていたはずなのに、いざそれが進展するとなったら不満気な顔をするなんて、どういうことなのだろうか。
「二人は私を応援してくれていたわけじゃなかったの?」
単なる私の勘違いだった?
でも、婚約破棄を面白がっていたフェルとは違い、ミーティアは最初から親身になって話を聞いてくれていたように思うけど……。
分からなくて、二人のことをじっと見つめる。
するとミーティアが、慌てたように私の肩を掴み、至近距離から目を合わせてきた。
「ごめんユリア! 私達の態度が悪かったよね。私はただ、ユリアはずっとあの男のことが好きだったのに、婚約破棄なんかして本当にいいのかな? 後悔しないのかな? と思って……」
後悔──。
しないと言えば嘘になる。けれどレスターと結婚したならしたで、きっと別の後悔が生まれることになる。
どちらにしても後悔するなら、早目に別れてしまおうと決めたのは私だ。だから──。
「もう良いの……。もう決めたことだし、このままずっと、私以外の女性を傍に置くレスターを見ているのは辛すぎるから……」
言った途端、周囲に令嬢達を侍らせているレスターの姿が脳裏に浮かんだ。ほぼ毎日の光景となっているのに、私の心は未だそれに慣れることができず、心から血を流す。
もう嫌だ。こんな風に思い出すたび胸が締め付けられるように痛むのも、傷付くことを知りつつ、つい学園でレスターの姿を探してしまうのも、侍女が手紙を持ってくるたび、レスターからではないかと胸を高鳴らせるのも。
全部全部、やめてしまいたい。
自由に、なりたい──。
「ユリア……」
ミーティアが私のすぐ横に移動してきて、頭をそっと抱きしめてくれる。
女性同士とはいえ少し恥ずかしかったけれど、彼女が私の心に寄り添おうとしてくれていることが感じられて、されるがままになっていた。
けれど、一人だけ蚊帳の外に追いやられていたフェルは──。
「ちょちょちょ! ちょーっと待った! 今、今二人なんて言った⁉︎」
と、もの凄く興奮した様子で口を挟んできた。
「……もう、良いところだったのに。フェル、煩い」
ミーティアが心底煩わしそうに、フェルを犬のように『しっし』と手を振って遠ざけようとする。が、そんなことぐらいで大人しくなるフェルではない。
「今、すっげぇ聞き捨てならないことが聞こえたんだけど? もしかしてユリアの婚約者って、あのコーラル侯爵令息なのか⁉︎」
「…………っ!」
言われて初めて、私は自分が知らぬ間に失言していたことに気が付いた。
ミーティアに言われてレスターのことを考えていたら、ついそのまま彼の名を口にしてしまっていたのだ。
「え……だけど、え……?」
フェルになんと説明しようかと考えつつ、そこで一つの疑問に思い当たり、ミーティアの顔を見る。
「ん? どうかした?」
なんとなく焦ったような雰囲気が感じ取れるミーティアの、眼鏡の奥にある瞳を──まったく見えないけれど──覗き込むようにして見つめ、私は口を開いた。
「ミーティア貴女、私の婚約者がレスターだということ、どうして知っていたの?」
国内で最も力のあるオリエル公爵家令息のフェルでさえ、知らなかったのに。
力のない男爵家の令嬢でしかないミーティアがどうして……。
私の問いに、フェルの纏う周囲の空気が、若干変わったような気がした──。
殿下が我が家へといらした次の日、私は早速とばかりにミーティアとフェルにそのことを報告した。
本当はレスターのご両親とお話してからにしようかとも思ったのだけれど、二人にはこの一月以上、ずっと相談にのってもらっていたから、少しでも早く伝えたくて。
「やったなユリア! けど俺……正直ちょっと複雑かも」
「そうね……実は私も……」
喜んでくれるとばかり思っていたのに、何故かしょんぼりと肩を落として俯く二人。
そんな彼等に、私は首を傾げる。
「どうしたの二人とも? 何がそんなに複雑だって言うの?」
「何がって……ねぇ?」
「ああ……」
ミーティアとフェルは、訳知り顔でお互いに視線を合わせて頷き合うけれど、私にはサッパリ理解できない。
私がレスターと婚約破棄することを、二人とも親身になって応援してくれていたはずなのに、いざそれが進展するとなったら不満気な顔をするなんて、どういうことなのだろうか。
「二人は私を応援してくれていたわけじゃなかったの?」
単なる私の勘違いだった?
でも、婚約破棄を面白がっていたフェルとは違い、ミーティアは最初から親身になって話を聞いてくれていたように思うけど……。
分からなくて、二人のことをじっと見つめる。
するとミーティアが、慌てたように私の肩を掴み、至近距離から目を合わせてきた。
「ごめんユリア! 私達の態度が悪かったよね。私はただ、ユリアはずっとあの男のことが好きだったのに、婚約破棄なんかして本当にいいのかな? 後悔しないのかな? と思って……」
後悔──。
しないと言えば嘘になる。けれどレスターと結婚したならしたで、きっと別の後悔が生まれることになる。
どちらにしても後悔するなら、早目に別れてしまおうと決めたのは私だ。だから──。
「もう良いの……。もう決めたことだし、このままずっと、私以外の女性を傍に置くレスターを見ているのは辛すぎるから……」
言った途端、周囲に令嬢達を侍らせているレスターの姿が脳裏に浮かんだ。ほぼ毎日の光景となっているのに、私の心は未だそれに慣れることができず、心から血を流す。
もう嫌だ。こんな風に思い出すたび胸が締め付けられるように痛むのも、傷付くことを知りつつ、つい学園でレスターの姿を探してしまうのも、侍女が手紙を持ってくるたび、レスターからではないかと胸を高鳴らせるのも。
全部全部、やめてしまいたい。
自由に、なりたい──。
「ユリア……」
ミーティアが私のすぐ横に移動してきて、頭をそっと抱きしめてくれる。
女性同士とはいえ少し恥ずかしかったけれど、彼女が私の心に寄り添おうとしてくれていることが感じられて、されるがままになっていた。
けれど、一人だけ蚊帳の外に追いやられていたフェルは──。
「ちょちょちょ! ちょーっと待った! 今、今二人なんて言った⁉︎」
と、もの凄く興奮した様子で口を挟んできた。
「……もう、良いところだったのに。フェル、煩い」
ミーティアが心底煩わしそうに、フェルを犬のように『しっし』と手を振って遠ざけようとする。が、そんなことぐらいで大人しくなるフェルではない。
「今、すっげぇ聞き捨てならないことが聞こえたんだけど? もしかしてユリアの婚約者って、あのコーラル侯爵令息なのか⁉︎」
「…………っ!」
言われて初めて、私は自分が知らぬ間に失言していたことに気が付いた。
ミーティアに言われてレスターのことを考えていたら、ついそのまま彼の名を口にしてしまっていたのだ。
「え……だけど、え……?」
フェルになんと説明しようかと考えつつ、そこで一つの疑問に思い当たり、ミーティアの顔を見る。
「ん? どうかした?」
なんとなく焦ったような雰囲気が感じ取れるミーティアの、眼鏡の奥にある瞳を──まったく見えないけれど──覗き込むようにして見つめ、私は口を開いた。
「ミーティア貴女、私の婚約者がレスターだということ、どうして知っていたの?」
国内で最も力のあるオリエル公爵家令息のフェルでさえ、知らなかったのに。
力のない男爵家の令嬢でしかないミーティアがどうして……。
私の問いに、フェルの纏う周囲の空気が、若干変わったような気がした──。
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