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31 おかしな二人
コーラル侯爵家との話し合いが行われた次の日、私は学園の中庭でいつものようにミーティアとフェルと一緒に三人で昼食をとりながら、ことの次第を報告していた。
「はぁ~……なるほどねぇ。やっぱり簡単にはいかなかったかぁ」
ハンバーグを口いっぱいに頬張りながら、うんうんと頷くミーティア。
一方フェルは、
「そりゃそうだろ。いくら政略結婚じゃないとはいえ、九年間? もの間婚約してたんだろ? 貴族同士の結婚がそう簡単に破棄できるわけねぇよ」
という公爵令息ならではの視点でもって突っ込んでくる。
「それは……うん、私も分かってるんだけどね……」
分かっていても、今のままの状態には耐えられなかったのだから仕方ない。
私がどんなにレスターのことを好きでも、ううん、好きだからこそ、彼が私以外の令嬢達に笑顔を向けるのが辛かったし、たとえそれが彼女達から穏便に逃げるためであったとしても、私には疾うに向けられなくなってしまった笑顔だと思うと、これ以上見ていられなかったから。
「も~……フェル! あんたもうちょっと前向きなこと言えないわけ? ユリアが落ち込んじゃったじゃないの!」
お弁当箱に勢いよく蓋をしたミーティアが、「罰として唐揚げもらうわね」と、フェルのお弁当箱から最後の唐揚げを奪い取る。
「あ”~~~~!! おいミーティア、俺はそれを最後の楽しみに取っておいたんだぞ! それをお前は──」
「そんなの知らないわよ。元はと言えばユリアを凹ませたあんたが悪いんでしょ」
「なにぃ⁉︎ 俺はだな、ユリアのためを思って貴族としての常識を──」
「はいはい、分かった分かった。唐揚げが不味くなるから黙ってて」
仲良く? 言い合いをしながらお弁当を食べる二人に、私はつい笑ってしまう。
「ふふっ……ふふふっ」
口を押さえて笑っていると、その時急に強い風が吹いて、膝の上に広げていた私のハンカチが風に攫われた。
「あっ……!」
「まずい、イベント……」
「え?」
ハンカチを追いかけようと箸を置いた私の耳に、ミーティアのボソリと呟く声が聞こえて。
その言葉の意味が分からず、首を傾げた私だったけれど。
「ユリアはここにいて。ハンカチは私が拾ってくるから!」
と言うなり、ミーティアはすぐに駆け出して行ってしまった。
「私のハンカチなのに……良かったのかしら?」
とフェルに尋ねるも、
「良いんじゃね? 俺の唐揚げ食べた分、元気が有り余ってるだろうし」
などという、唐揚げを取られたことに対する恨み混じりの返答しか聞くことができなかった。
「まぁまぁ、そんなことより。せっかく二人きりになったんだし、仲良くお弁当食べようぜ」
満面の笑みで、何故だかフェルが距離を詰めてくる。
彼には申し訳ないけれど、前回の四阿でのこともあるし、且つ今のフェルの笑顔からは胡散臭さしか感じなくて、咄嗟に私が距離を取ろうとすると──。
「ちょい待ち」
それより早く、フェルに腕を掴まれた。
「な、なに⁉︎」
「ごめん、ちょっと黙ってて」
動揺して大声を上げる私に、フェルは顔の前に片手を立てて謝るような仕草をする。
ミーティアもフェルも、何を考えているのか全く分からなくて、二人とも一体どうしちゃったの? と思っていると、ややあって、草を踏みしめるような音が近付いてきた。
誰かきた……?
音のした方を見上げた瞬間、さっと立ち上がったフェルが、私の視界を覆うように前へ立つ。
「やぁ! 色男のお兄さん、また会ったね。奇遇だなぁ。ちょっと話したいことがあるから、来てもらっても良い? 良いよね? はい、決定~」
相手に一言も喋る隙を与えず、一人で好き勝手喋ったフェルが、無理矢理相手の肩を組んで連れて行く。
「ちょ、僕は──」
「あーあーあー! どこで喋ろうか? あんま人がいないところがいいかなぁ?」
肩を組まれた人物は、反論しようとしたようだったけれど──フェルの大声に、言いたいことを見事にかき消されていた。
あまりの展開の早さに、ただ呆然とそれを見送る私。
……あの後ろ姿、レスターに似ているような気がするけれど……。
去って行く──フェルに連行されて行くとも言う──人の後ろ姿をじっと見つめ、記憶の中のレスターと重ね合わせる。けれど、彼の後ろ姿を見たのなんてもう何ヶ月も前のことだし、そもそも彼が学園内で私に近付いてくるはずはないのだから、私はすぐに他人の空似なのだと決めつけた。
そうして、ポツンと残された私は一人、「仕方ないわねぇ……」と苦笑しながら、三人分のお弁当箱を片付けるのに勤しんだのだった。
「はぁ~……なるほどねぇ。やっぱり簡単にはいかなかったかぁ」
ハンバーグを口いっぱいに頬張りながら、うんうんと頷くミーティア。
一方フェルは、
「そりゃそうだろ。いくら政略結婚じゃないとはいえ、九年間? もの間婚約してたんだろ? 貴族同士の結婚がそう簡単に破棄できるわけねぇよ」
という公爵令息ならではの視点でもって突っ込んでくる。
「それは……うん、私も分かってるんだけどね……」
分かっていても、今のままの状態には耐えられなかったのだから仕方ない。
私がどんなにレスターのことを好きでも、ううん、好きだからこそ、彼が私以外の令嬢達に笑顔を向けるのが辛かったし、たとえそれが彼女達から穏便に逃げるためであったとしても、私には疾うに向けられなくなってしまった笑顔だと思うと、これ以上見ていられなかったから。
「も~……フェル! あんたもうちょっと前向きなこと言えないわけ? ユリアが落ち込んじゃったじゃないの!」
お弁当箱に勢いよく蓋をしたミーティアが、「罰として唐揚げもらうわね」と、フェルのお弁当箱から最後の唐揚げを奪い取る。
「あ”~~~~!! おいミーティア、俺はそれを最後の楽しみに取っておいたんだぞ! それをお前は──」
「そんなの知らないわよ。元はと言えばユリアを凹ませたあんたが悪いんでしょ」
「なにぃ⁉︎ 俺はだな、ユリアのためを思って貴族としての常識を──」
「はいはい、分かった分かった。唐揚げが不味くなるから黙ってて」
仲良く? 言い合いをしながらお弁当を食べる二人に、私はつい笑ってしまう。
「ふふっ……ふふふっ」
口を押さえて笑っていると、その時急に強い風が吹いて、膝の上に広げていた私のハンカチが風に攫われた。
「あっ……!」
「まずい、イベント……」
「え?」
ハンカチを追いかけようと箸を置いた私の耳に、ミーティアのボソリと呟く声が聞こえて。
その言葉の意味が分からず、首を傾げた私だったけれど。
「ユリアはここにいて。ハンカチは私が拾ってくるから!」
と言うなり、ミーティアはすぐに駆け出して行ってしまった。
「私のハンカチなのに……良かったのかしら?」
とフェルに尋ねるも、
「良いんじゃね? 俺の唐揚げ食べた分、元気が有り余ってるだろうし」
などという、唐揚げを取られたことに対する恨み混じりの返答しか聞くことができなかった。
「まぁまぁ、そんなことより。せっかく二人きりになったんだし、仲良くお弁当食べようぜ」
満面の笑みで、何故だかフェルが距離を詰めてくる。
彼には申し訳ないけれど、前回の四阿でのこともあるし、且つ今のフェルの笑顔からは胡散臭さしか感じなくて、咄嗟に私が距離を取ろうとすると──。
「ちょい待ち」
それより早く、フェルに腕を掴まれた。
「な、なに⁉︎」
「ごめん、ちょっと黙ってて」
動揺して大声を上げる私に、フェルは顔の前に片手を立てて謝るような仕草をする。
ミーティアもフェルも、何を考えているのか全く分からなくて、二人とも一体どうしちゃったの? と思っていると、ややあって、草を踏みしめるような音が近付いてきた。
誰かきた……?
音のした方を見上げた瞬間、さっと立ち上がったフェルが、私の視界を覆うように前へ立つ。
「やぁ! 色男のお兄さん、また会ったね。奇遇だなぁ。ちょっと話したいことがあるから、来てもらっても良い? 良いよね? はい、決定~」
相手に一言も喋る隙を与えず、一人で好き勝手喋ったフェルが、無理矢理相手の肩を組んで連れて行く。
「ちょ、僕は──」
「あーあーあー! どこで喋ろうか? あんま人がいないところがいいかなぁ?」
肩を組まれた人物は、反論しようとしたようだったけれど──フェルの大声に、言いたいことを見事にかき消されていた。
あまりの展開の早さに、ただ呆然とそれを見送る私。
……あの後ろ姿、レスターに似ているような気がするけれど……。
去って行く──フェルに連行されて行くとも言う──人の後ろ姿をじっと見つめ、記憶の中のレスターと重ね合わせる。けれど、彼の後ろ姿を見たのなんてもう何ヶ月も前のことだし、そもそも彼が学園内で私に近付いてくるはずはないのだから、私はすぐに他人の空似なのだと決めつけた。
そうして、ポツンと残された私は一人、「仕方ないわねぇ……」と苦笑しながら、三人分のお弁当箱を片付けるのに勤しんだのだった。
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