転生科医フリードリヒ・リンネの回顧録

蒼風信子

文字の大きさ
9 / 10

転生も楽じゃない その4(9)

しおりを挟む
ユーオーディアさんは冷めた顔をしながら肘についているレバーを引くと、腕はドアノブに飛びかかって一捻り。鍵は解かれドアが開きます。もっとも、俺の視線はだらんと弛緩した誰かの腕に釘付けでした。


「いつまで驚いた顔をしているのですか。今からあなたは労働者です。あなたにはここで掃除をしていただきます」
「な、なにを……!!」
「一目瞭然でしょう。このゴミと非ゴミの山を取捨選択分別整頓して家をきれいにしていただきたい」

開いたドアの向こうを見てみると、確かに猛烈に散らかった部屋が見えました。ヨレヨレのシャツにいつのものかわからない雑誌と、口の閉じていない八分目くらいのゴミ袋が至る所に散らばっていて、ものの間をかき分けたあとの轍がギリギリ動線になっているといった感じでした。


「何が入ってるんですか!死体ですか!」
「あってもネズミかゴキブリの、ですね。しばらくここがあなたの寝ぐらなので、速やかに片すの賢明ですよ。あなたは家なき子なのですから」
「ここで暮らすんですか!?………うう、でも背に腹は変えられない…」


偉そうなこと言えた身分じゃないのは分かってます。でも俺が何の悪いことをしたんでしょうか。免許偽造はこの身体の責任だし、住所不定なのもこの身体のせいなのに。俺は関係ないのに……でも、じっとしていたら嫌な事を考えるだけなので、恐る恐る部屋の片付けを始めました。


片付けをしてみると意外にも意外なものはなく、案外無難なゴミ屋敷でした。3時過ぎに掃除を始めたんですが、ゴミを分別してまとめて、水場の掃除まで済ませたらもう7時半。本当に疲れました。魔法があってもお掃除は案外アナログというか、せいぜいユーオーディアさんがほうきとちりとりを魔法で召喚していた程度でした。


「…おわったぁぁぁ!!とんでもない家でしたね」
「ええ。極限環境研究所に電話して調査に来てもらおうか迷いました。あそこまで散らかっていれば新しい宇宙が一つや二つ誕生してもなんら不思議ではありません」
「AIって、ジョーク言うんですね」
「高いソフトウェアを入れれば人間よりよっぽど面白いですよ」
「…とりあえず、お腹が空きませんか…って、AIは食べないか。何かいただければすごいありがたいんですけど…」
「AIだろうと食事はします。冷蔵庫に食材があったのでコタツにでも入っててください」
「え…?そう…ですか。ありがとうございます」


隙を見計らって逃げようかとも思いましたが、いくアテもないし、家中掃除して特に怪しいものもないというのは分かったから、とりあえずしばらく様子見することにしました。

街並みはあまり代わり映えしませんでしたが、プラ容器のパッケージに知らない建造物が写ってたり、散らばってた硬貨にはよくわからない人物の肖像画があったり…細かい違いが確かにあることもだんだん分かってきました。

あと、また不思議が増えました。文字を読めるところです。日本語じゃないのに、文字列から意味が、スッと日本語に変換されます。文字を読めるのはいいんですが、何かムズムズするというか…あまり落ち着きません。どうしてだろう…


「準備はできました。あともう一人来るので、その人が来たら晩御飯にしましょう」
「えっ、そうなんですか?一体誰が」
「話の続きはいいんですか」
「え、あ、ああ…お願いします」



「もとよりあなたをあのまま帰すつもりはなかったのです。住所が偽造だったのも最初から知っていましたし」
「ええーー!?」
「嫌がる人を無理矢理連れてきたら誘拐になってしまいます。だから言質を取る必要があったんです」
「騙してたならあんまり誘拐と変わらないと思いますが…!」
「『なんでもします』と言ってしまえばもう同意ですから。迂闊でしたね」
「言ってることやばいって!やっぱり俺、あなたのこと信用できません!何か治療をするなら、普通病院でするでしょ?こんな場所に連れ込むってことは、何か裏があるんでしょ!?」


興奮する俺を見て、ユーオーディアさんは一呼吸置いてから話し始めました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜

Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。 だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。 赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。 前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、 今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。 記憶を失ったふりをしながら、 静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。 しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。 ――これは復讐でも、救済でもない。 自由を求めただけの少年が、 やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。 最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。 重複投稿作品です 小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...