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蒼風信子

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日照、水脈、落葉…ユグドラシルの悩みの種 (1846.11.25、北瀛州紙)

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ユグドラシルの印象といえば、どのようなものがあるだろう。「高潔で荘厳」「雄大な世界樹」…などと、おそらく好意的に見られる方がほとんどであろう。事実、瀛州各所に点々と存在するユグドラシルを見るために、今年だけで総計四十数万の観光客がやってくるほどなのだから。しかし、現地人の心情は複雑である。彼らにとっては、このユグドラシルが何かと悩みの種なのだ。

ユグドラシルは魔法の強印加により強靭・巨大化したスギ科の植物で、現存するものだとスヴェーレンヒ王国の「オーディン」が八百三十五mで最大とされている。瀛州のユグドラシルは中世に戦国大名によって北欧から輸入されたものがおよそ九割を占めており、さらにその九割が東北地方で生育したものだ。『うどの大木でも、害にはならないだけましだった』。東北出身の植物学者の言葉である。

まず、ユグドラシルはその巨体ゆえに陽の光を遮る。巨木になればなるほど周囲の光はその葉に当たるため、実はユグドラシルの麓は不毛であることが多い。また、構造を維持するために大量の地下水を吸収するので、井戸の水源を枯らす事故もあるという。ユグドラシルが関わる諸問題は他にもあるが、そのなかでも近年顕著になってきたのが、『落ち葉』だ。

常緑の世界樹のイメージに反して、ユグドラシルは落葉する。数百メートル級の巨木となれば落ち葉もゆうに1メートルを越す。この巨大落ち葉が金葉に乗り、周辺の建物などを叩きつけるという。さらに、落葉の季節は観光シーズンでもあり、辺縁の道路を走る乗用車の窓に落ち葉が張り付き、事故や渋滞が生まれることもしばしばという。「土地を知らんバカがユグドラシルの周りに道路なんて作ったせいで、これまた土地を知らんバカがぬけぬけとやって来て事故を起こす」。東北は遠野在住のSさんは厳しい主張をぶつける。

このような背景もあり、現在ユグドラシルを新規に植えることは全国で禁止されている。となれば後は各地の成木のみ…とも行かない。取り除くのにも難儀があるのだ。常に強風に晒されている上層部には、ユグドラシルの防衛機構と思しき高濃度の魔法バリアーが展開されており、成長してしまうと伐採もままならない。また、ユグドラシルの中心部では独自かつ未知の生態系が出来上がってしまっていることもあり、現に昨年、B. コープランド博士はユグドラシルの幹のみに生息するゲラ科の新種を発見した。もはやこの大木は学術的に貴重な環境と化してしまったのである。

世界樹は、その名前の指し示すそのものとなりつつある。戦争孤児や浮浪者がユグドラシルの中に住み着き始めたのだ。ユグドラシルの中には水源も栄養源となる動植物も幅広く分布している。多様な事情で地に足をつけては生きていけない人々にとって、もはや世界樹は世界そのものだ。「切られたら家がなくなるんだよ、それがわかっちゃいない」と中層の空に住むLさん。地方管領代理のシェルプフ爵は「汚水を上から捨てられては困るし、そもそも人が住むべき場所ではない」とこぼす。悩みの種は着々と萌芽し、このまま大木となっていくのだろうか。
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