悪役令嬢レミーエ様のその後

ぽんきち

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「これとか……うん、このドレスが良いわね!この髪飾りをつけて……」

ベッドの上には所狭しと沢山のドレスが広げられ、私は何度目かわからない着替えをさせられていた。

朝起きてすぐから始まったこの着せ替え人形ごっこは昼近くになってようやく終わった。

出かける前から、クタクタだわ……

メイドが淹れてくれた紅茶を飲んでひと息つき、私はほうと息を吐いた。

お母様が選んでくださった衣装で私はちょっと裕福な町娘風に変身した。
ドレス全体の色はモスグリーンで、裾の方にいくにつれて濃くなっていく。首元は繊細なレースの襟でしっかりと覆い、清楚な印象だ。アクセサリーは胸に大きめのブローチをひとつだけ。

ボリュームのある髪は目立つため、昨日と同じようにきっちりと編み込んである。

「レミーエの髪は本当に美しいわね。編み込んだことで艶やかさがより一層引き立つわ」


キラキラと艶を放つ金の髪にはお母様が仕上げの髪飾りをさしてくれた。宝石はついていないが、深緑に染められた絹が濡れたような光沢を放ち、髪の黄金を引き立たせていた。

お母様と紅茶を楽しんでいると、コンコンとドアがノックされた。

「お嬢様、エリオット様がいらっしゃいました」

その言葉に思わず私はピンと背筋を伸ばした。ドキドキと胸が高鳴る。期待と緊張で震える手を落ち着かせるように紅茶を呑みくだしてから声を出した。

「すぐに行きますわ。お通ししておいて下さいな」

気がつくとお母様が私の隣にきていた。

「お母様。私、おかしなところはないかしら?ああ、落ち着かないわ」

王太子殿下の前に出るときよりも緊張する。
髪に乱れはないか、服は似合っているのか。
何回も飽きるほどに確認したはずなのに、急に不安になってきた。

お母様は私の頬をそっと掌で包むと、優しくにっこりと微笑んだ。

「世界で一番可愛い私のレミーエ。彼はきっとあっという間にあなたの虜になるわ。自信をもって」

「お母様……」

「なにを心配しているのかしら。あなたは社交界の華と言われたこの私の娘なのよ?お母様を信じなさい」

お母様は悪戯っぽく笑い、私の手をとって立ち上がらせると扉の方に押し出した。

「さあ、あまりお待たせするものではないわ」

「はい、お母様」

私はお母様と連れ立って応接間に移動した。

「レミーエ嬢……!これは美しい。もうお嬢ちゃんとは呼べないな」

ソファから立ち上がったエリオットは、両手を広げて大袈裟に驚いた。
お世辞でも褒められるのは慣れているはずなのに、私の顔が赤く染まる。

「ほら、レミーエ」

俯いてもじもじとしたまま口を開かない私を、お母様が後ろからツンツンとつつく。

「あ、ありがとうございます。飴細工の花もとても気に入りました」

私はぼそぼそと呟いた。
そんな私に焦れたのか、お母様がエリオットの方に一歩踏み出した。

「エリオットさん、お初にお目にかかりますわ。私はレミーエの母でございます」

「お母上でいらっしゃいましたか。あまりにお美しいので姉君かと……レミーエ嬢の美貌は母君から受け継いだものなのですね。ああ、申し遅れました。私、ルメリカに本部を置きますセシル商会のエリオット・セシルと申します。本日はお嬢様をお借りする許可を頂けないでしょうか」

艶然と微笑むお母様に、エリオットは別人のように素晴らしく優雅な礼をした。
口調も全く違う。粗野な口振りは鳴りを潜め、宮廷言葉のようなアルトリア語だ。
商会はルメリカに本部があると言っていたのでルメリカ人なのだろうが、隣国とはいえここまで完璧なアルトリア宮廷語を話すとは……

「あら、アルトリア宮廷語にも堪能なのですわね」

「恐れ入ります。商売柄、アルトリア貴族の方とお会いする機会もありましたもので……もちろん普段はルメリカ語も話しますが」

アルトリアは比較的大きな国であるため、周辺諸国などではアルトリア語が公用語として採用されている。もちろんルメリカでもアルトリア語は通じるが、宮廷語が必要なのはかなり格式の高い場だけだろう。
つまり、エリオットはアルトリアでもかなり高位の貴族と商売をしているのかもしれない。
残念ながら我が家とは付き合いはなかったようだが。

「そうですの。優秀でいらっしゃいますのね。今日は娘をよろしくお願い致しますわ。大切な大切な娘ですの」

お母様は『大切な』を強調するように繰り返した。
恥ずかしくて俯きそうになったところにエリオットの頼もしい声が響いた。

「お任せ下さい。かすり傷ひとつ負わせないことを誓います」

「お願い致しますわ」

「さあ、レミーエ嬢。行きましょう」

エリオットが差し出した手に恐る恐る手を乗せると、ギュッと握りかえされた。


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