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エリオットとお兄様がそれぞれ浴室に案内されていくのを見送った後、私はぐったりとソファに沈み込んだ。
「はあ……なんだかどっと疲れたわ」
「レミーエ様、新しい紅茶をお持ちしましょうか」
背もたれに頭を乗せてはしたなく脱力する私に、アンジェか気遣わしげに聞いてくる。
私はその心遣いをありがたく思いながら紅茶をお願いした。
「レミーエ、だらしがないですよ」
案の定、お母様から注意が飛んできた。
お母様のあまりの落ち着きに、私の中で疑問がむくむくと湧き上がってくる。
私は上目遣いでお母様の瞳を覗き込むようにしつつ、口を開いた。
「……お母様、もしかしてエリオットの正体……というか、身分を知っていらしたの?」
私の問いかけに、お母様は軽く目を見張った。
「あなた、本当になにも気が付いていなかったの?むしろそのほうがどうかしてるわ」
はあ、とため息をつくと、お母様はアンジェの淹れてくれた紅茶の香りを楽しむようにティーカップを持ち上げる。
「どうかしてる……」
やっぱりお母様は知っていらしたのね。
でも、どうかしてるとまで言わなくてもいいじゃないの。
年甲斐もなく唇を尖らせて拗ねる私に、お母様は再びため息をついた。
「あの方のアルトリア語が宮廷言葉であることは気付いていたのでしょう?」
さすがにあなたでも、と続けられたお母様の言葉に、バツが悪くなりながらも私は頷きを返した。
以前、お母様とエリオットが話していた時にその事には気付いていたが、アルトリアの上流貴族との付き合いがあるのだろうと流してしまっていたのだ。
だが、それだけでエリオットがルメリカの王弟であるなんて気付くものだろうか。
「あの方が名乗っていた、『セシル』……『セシル商会』というのはルメリカの王宮御用達であり、ルメリカ最大の商会よ。ルメリカの王弟殿下が創設されてすぐさま近隣諸国にもその名を轟かせるようになったわ」
この宿もセシル商会のものなのに……という呆れたようなお母様の声に、私は居た堪れない気持ちでいっぱいになった。
「第一、この私が身元のよくわからない相手にあなたを預ける訳がないでしょうに」
「う……」
言われてみればその通りだ。
私はどこまで浮かれていたのか……自分の目の曇りっぷりにビックリする。
「でも、エリオットはよくお兄様に会う事が出来たわよね。私はレミーエだとしか名乗っていないはずなのに」
「あら、知っていらしたわよ」
私達がドランジュに連なる者たちだということを、と続けられた言葉に私は思わず手に持ったカップを取り落としそうになった。
「あなたが言ったものだとばかり思っていたのに」
お母様は、あらー?と首を傾げた。
私から言うはずもない。
だって私は、今までわざと家名を名乗らなかったのだから。
ドランジュという名前は、私に父の死やそれに連なる事件の事を思い出させる。
そのため、エリオットと出会ったばかりの頃は心の整理が出来ておらず、名乗れなかった。
段々に親しくなってきたら、今度は罪人の娘であり、自分も罪人であることを知られるのが怖くて言い出せなくなった。
「いつから気付いていたのかしら……」
「ハンカチーフの紋章を見たときだな」
「エリオット!」
声に振り向けば、湯浴みを終えたエリオットが濡れた髪を布で拭いながら部屋に入ってくるところだった。
「はあ……なんだかどっと疲れたわ」
「レミーエ様、新しい紅茶をお持ちしましょうか」
背もたれに頭を乗せてはしたなく脱力する私に、アンジェか気遣わしげに聞いてくる。
私はその心遣いをありがたく思いながら紅茶をお願いした。
「レミーエ、だらしがないですよ」
案の定、お母様から注意が飛んできた。
お母様のあまりの落ち着きに、私の中で疑問がむくむくと湧き上がってくる。
私は上目遣いでお母様の瞳を覗き込むようにしつつ、口を開いた。
「……お母様、もしかしてエリオットの正体……というか、身分を知っていらしたの?」
私の問いかけに、お母様は軽く目を見張った。
「あなた、本当になにも気が付いていなかったの?むしろそのほうがどうかしてるわ」
はあ、とため息をつくと、お母様はアンジェの淹れてくれた紅茶の香りを楽しむようにティーカップを持ち上げる。
「どうかしてる……」
やっぱりお母様は知っていらしたのね。
でも、どうかしてるとまで言わなくてもいいじゃないの。
年甲斐もなく唇を尖らせて拗ねる私に、お母様は再びため息をついた。
「あの方のアルトリア語が宮廷言葉であることは気付いていたのでしょう?」
さすがにあなたでも、と続けられたお母様の言葉に、バツが悪くなりながらも私は頷きを返した。
以前、お母様とエリオットが話していた時にその事には気付いていたが、アルトリアの上流貴族との付き合いがあるのだろうと流してしまっていたのだ。
だが、それだけでエリオットがルメリカの王弟であるなんて気付くものだろうか。
「あの方が名乗っていた、『セシル』……『セシル商会』というのはルメリカの王宮御用達であり、ルメリカ最大の商会よ。ルメリカの王弟殿下が創設されてすぐさま近隣諸国にもその名を轟かせるようになったわ」
この宿もセシル商会のものなのに……という呆れたようなお母様の声に、私は居た堪れない気持ちでいっぱいになった。
「第一、この私が身元のよくわからない相手にあなたを預ける訳がないでしょうに」
「う……」
言われてみればその通りだ。
私はどこまで浮かれていたのか……自分の目の曇りっぷりにビックリする。
「でも、エリオットはよくお兄様に会う事が出来たわよね。私はレミーエだとしか名乗っていないはずなのに」
「あら、知っていらしたわよ」
私達がドランジュに連なる者たちだということを、と続けられた言葉に私は思わず手に持ったカップを取り落としそうになった。
「あなたが言ったものだとばかり思っていたのに」
お母様は、あらー?と首を傾げた。
私から言うはずもない。
だって私は、今までわざと家名を名乗らなかったのだから。
ドランジュという名前は、私に父の死やそれに連なる事件の事を思い出させる。
そのため、エリオットと出会ったばかりの頃は心の整理が出来ておらず、名乗れなかった。
段々に親しくなってきたら、今度は罪人の娘であり、自分も罪人であることを知られるのが怖くて言い出せなくなった。
「いつから気付いていたのかしら……」
「ハンカチーフの紋章を見たときだな」
「エリオット!」
声に振り向けば、湯浴みを終えたエリオットが濡れた髪を布で拭いながら部屋に入ってくるところだった。
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