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六、認知
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影が薄い。
と、よく言われる。
自分ではそんなつもりはないのだけれど、なんでも、気配がないらしい。列の順番を抜かされるのはよくある事で、この前なんか勝手に休みだと思われていた。
「お前さー、前世が忍者とかなんじゃないの?」
数少ない、いや、唯一の友人である幼馴染が呆れ半分といった様子で茶化す。彼は、此方に気付かなかったことがない非常に珍しい人間である。
「こっちが忍者ならそれに気付けるお前は何なんだよ…」
「え、隠密?」
カラリと笑うのにつられて口角を上げる。この会話ももうすぐ終わりだと思うと名残惜しい。
この希少な友人は遠くへ引っ越すのだという。深くは聞けなかったが、なかなかに複雑な事情があるようだった。
引っ越し用のレンタルトラックの荷台へ乗り込む彼に手を振る。
「ライン送るからなー」
そう言いながら彼は遠ざかっていった。
確かに、最初は連絡があった。
近況報告や、違う土地での発見を教えてくれた。ただ、お互い忙しくなったのも確かで、徐々に間隔は長くなり、ついには連絡を取らなくなった。…まぁ、当然といえば当然のことだ。
昼日中のざわめく街中で、既読のまま止まったトーク画面を見てため息をつく。仕方のないことだと自分に言い聞かせて画面を暗くし、何気なく顔を上げた。
背筋を冷たいものが降りていった。
『認識されていない』
周りにいる人々は自分のことを『認識していない』。普通、無意識にでも人がいる、いないを感じているものだ。それが、自分に向けられていない。見渡す限りの人が、誰一人として此方を認知していない。
奇妙な音を立てて空気が喉の隙間を通り抜ける。足が徐々に痺れ、感覚がなくなった。嫌な予感がして自分の足を見る。
なくなっている。
ない。なくなる。自分が失くなる。
(タスケテ)
声はもう出ない。周りに大勢の人が行き交う中で、存在がなくなっていく。
『認識して初めて世界は存在することができる』
遠い昔に本で読んだ一文を思い出す。
ならば、今、自分は、認識されていないから、存在、することが、でき、な、い…。
『らーいんっ』
スマホが高らかにラインが届いたことを知らせた瞬間、肺に空気が流れ込んだ。
急いで酸素を取り込みながらよろめく足で地面を踏みしめる。
周りから好奇の目線が突き刺さったが、むしろ安堵が湧いてくる。
助かった。助かったのか。震える手で今しがた届いたラインを開いた。
既読のまま止まっていたトークは一つ進んでいた。
『ごめん!返信忘れてた!』
と、よく言われる。
自分ではそんなつもりはないのだけれど、なんでも、気配がないらしい。列の順番を抜かされるのはよくある事で、この前なんか勝手に休みだと思われていた。
「お前さー、前世が忍者とかなんじゃないの?」
数少ない、いや、唯一の友人である幼馴染が呆れ半分といった様子で茶化す。彼は、此方に気付かなかったことがない非常に珍しい人間である。
「こっちが忍者ならそれに気付けるお前は何なんだよ…」
「え、隠密?」
カラリと笑うのにつられて口角を上げる。この会話ももうすぐ終わりだと思うと名残惜しい。
この希少な友人は遠くへ引っ越すのだという。深くは聞けなかったが、なかなかに複雑な事情があるようだった。
引っ越し用のレンタルトラックの荷台へ乗り込む彼に手を振る。
「ライン送るからなー」
そう言いながら彼は遠ざかっていった。
確かに、最初は連絡があった。
近況報告や、違う土地での発見を教えてくれた。ただ、お互い忙しくなったのも確かで、徐々に間隔は長くなり、ついには連絡を取らなくなった。…まぁ、当然といえば当然のことだ。
昼日中のざわめく街中で、既読のまま止まったトーク画面を見てため息をつく。仕方のないことだと自分に言い聞かせて画面を暗くし、何気なく顔を上げた。
背筋を冷たいものが降りていった。
『認識されていない』
周りにいる人々は自分のことを『認識していない』。普通、無意識にでも人がいる、いないを感じているものだ。それが、自分に向けられていない。見渡す限りの人が、誰一人として此方を認知していない。
奇妙な音を立てて空気が喉の隙間を通り抜ける。足が徐々に痺れ、感覚がなくなった。嫌な予感がして自分の足を見る。
なくなっている。
ない。なくなる。自分が失くなる。
(タスケテ)
声はもう出ない。周りに大勢の人が行き交う中で、存在がなくなっていく。
『認識して初めて世界は存在することができる』
遠い昔に本で読んだ一文を思い出す。
ならば、今、自分は、認識されていないから、存在、することが、でき、な、い…。
『らーいんっ』
スマホが高らかにラインが届いたことを知らせた瞬間、肺に空気が流れ込んだ。
急いで酸素を取り込みながらよろめく足で地面を踏みしめる。
周りから好奇の目線が突き刺さったが、むしろ安堵が湧いてくる。
助かった。助かったのか。震える手で今しがた届いたラインを開いた。
既読のまま止まっていたトークは一つ進んでいた。
『ごめん!返信忘れてた!』
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