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二十一、寒鴉
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風が吹きすさぶというのは、正にこういう日のことを言うのだろう。
ビルの間をくぐり抜ける度に、より寒さが染み込むような音が鳴る。暖房の効いた建物の外に一歩出て、鞄の奥底へ突っ込んだマフラーを思い出して小さく舌を打った。
道の脇に寄り、他のものを押しのけて、一気にマフラーを引っ張り出したその時、ひときわ強い風が吹いた。寒さにかじかんだ手は上手く力が伝わらず、せっかく出したマフラーが風にさらわれる。
いやしかし、そんなに飛びはしないだろうと甘く見たのがいけなかった。
毛糸で出来たそれは見事に街路樹の半分より上の方へと吹き上がり、引っ掛かり、どう頑張っても落ちてきそうにない。
きっと今日はついていなかったのだと、深いため息で空気を白く曇らせ、肩を落としながらその場をあとにした。
悪いことというのは続くものだ。
違う建物に入り、用事を済ませれば既に夜。さて帰ろうと二重の自動ドアを潜れば、外は銀世界。
…いや、そんな幻想的なものではない。
真っ暗闇の中で雪の粒が風にさらわれ、吹き上げられ、かつ、上から叩きつける。要は、吹雪いていた。
一瞬、この、ドアとドアの隙間で一晩を過ごそうかという、よくわからない考えが浮かんだか、周囲の冷気で我に返る。
帰らなければ。
地図上は帰れるはずなのだ。自宅から徒歩で行ける距離の筈なのだ。あいにくタクシーは愚か、走っている車が一台もいない。道の境界も曖昧になり、道幅すら曖昧だ。いや、でも、しかし、帰れるはずなのだ。帰らなければ。
謎の使命感に突き動かされ、雪が舞い踊る中、一歩、また一歩と歩き出す。
当然のことながらあたりに人はおらず、防水仕様ではない携帯は安全な鞄の中だ。つまり、頼りにならない。
軽く心が折れそうになりながら歩いていると、あっという間に道を見失った。
だめだ。死ぬかもしれない。
(街中で凍死はいやだなぁ…)
そんなくだらないことを考え始めた頃、声が聞こえた。此方に呼びかけるような声だ。
ふぶく音に掻き消されそうになりながら、声が聞こえる。
どうせ道は見失っているのだ。今更どう動こうがこれ以上悪くはならないだろう。ぼんやりし始めた頭で自分を言い聞かせ、声の聞こえる方へ歩きだした。
そこから先はなんだか現実味がなかった。声を追いかけて足を進めたのは覚えている。
気がつけば家の前に立っていた。
玄関の前には、大型の鳥。なんだかシルエットがおかしい。
一声鳴いたことで、ようやくそれが烏だと判った。そして、もう一つ、あることに気づく。
「…マフラー…」
とばしてしまったはずのマフラーが、烏の首元を覆っている。どうしてここにあるのかとか、何で巻いてるんだなどと思う前に、飛びづらそうだと思った。
もう一声烏が鳴き、マフラーをしたまま飛び立っていく。
ここまで案内してくれたのは彼(彼女?)だったようだ。命の恩人、いや、恩鳥なのだから、マフラーの一本くらい安いものだろう。
雪がやんだら新しいマフラーを買いに行こう。
ビルの間をくぐり抜ける度に、より寒さが染み込むような音が鳴る。暖房の効いた建物の外に一歩出て、鞄の奥底へ突っ込んだマフラーを思い出して小さく舌を打った。
道の脇に寄り、他のものを押しのけて、一気にマフラーを引っ張り出したその時、ひときわ強い風が吹いた。寒さにかじかんだ手は上手く力が伝わらず、せっかく出したマフラーが風にさらわれる。
いやしかし、そんなに飛びはしないだろうと甘く見たのがいけなかった。
毛糸で出来たそれは見事に街路樹の半分より上の方へと吹き上がり、引っ掛かり、どう頑張っても落ちてきそうにない。
きっと今日はついていなかったのだと、深いため息で空気を白く曇らせ、肩を落としながらその場をあとにした。
悪いことというのは続くものだ。
違う建物に入り、用事を済ませれば既に夜。さて帰ろうと二重の自動ドアを潜れば、外は銀世界。
…いや、そんな幻想的なものではない。
真っ暗闇の中で雪の粒が風にさらわれ、吹き上げられ、かつ、上から叩きつける。要は、吹雪いていた。
一瞬、この、ドアとドアの隙間で一晩を過ごそうかという、よくわからない考えが浮かんだか、周囲の冷気で我に返る。
帰らなければ。
地図上は帰れるはずなのだ。自宅から徒歩で行ける距離の筈なのだ。あいにくタクシーは愚か、走っている車が一台もいない。道の境界も曖昧になり、道幅すら曖昧だ。いや、でも、しかし、帰れるはずなのだ。帰らなければ。
謎の使命感に突き動かされ、雪が舞い踊る中、一歩、また一歩と歩き出す。
当然のことながらあたりに人はおらず、防水仕様ではない携帯は安全な鞄の中だ。つまり、頼りにならない。
軽く心が折れそうになりながら歩いていると、あっという間に道を見失った。
だめだ。死ぬかもしれない。
(街中で凍死はいやだなぁ…)
そんなくだらないことを考え始めた頃、声が聞こえた。此方に呼びかけるような声だ。
ふぶく音に掻き消されそうになりながら、声が聞こえる。
どうせ道は見失っているのだ。今更どう動こうがこれ以上悪くはならないだろう。ぼんやりし始めた頭で自分を言い聞かせ、声の聞こえる方へ歩きだした。
そこから先はなんだか現実味がなかった。声を追いかけて足を進めたのは覚えている。
気がつけば家の前に立っていた。
玄関の前には、大型の鳥。なんだかシルエットがおかしい。
一声鳴いたことで、ようやくそれが烏だと判った。そして、もう一つ、あることに気づく。
「…マフラー…」
とばしてしまったはずのマフラーが、烏の首元を覆っている。どうしてここにあるのかとか、何で巻いてるんだなどと思う前に、飛びづらそうだと思った。
もう一声烏が鳴き、マフラーをしたまま飛び立っていく。
ここまで案内してくれたのは彼(彼女?)だったようだ。命の恩人、いや、恩鳥なのだから、マフラーの一本くらい安いものだろう。
雪がやんだら新しいマフラーを買いに行こう。
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