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四十六、交代
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どのくらいの人が自分の幼少期の記憶を未だに持ち続けているのだろうか。
大掃除中、アルバムをめくりながら首を傾げる。自分はといえば、幼い頃などすっかり記憶から抜け落ち、親や周りの人々から聞いた『幼少期』をどうにかこうにか繋ぎ合わせて『そんなこともあった気もしなくもない』程度の思い出だけである。
まして、写真の中で大泣きしている自分が、何が怖くて(もしくは嫌で)泣いているのかなど、当時の自分にしかわからない。
頬を掻きながらアルバムを閉じる。
そばの姿見には、見慣れた自分の顔が映っていた。なんとなく嫌な気分になって、姿見をひっくり返そうと手を伸ばす。
『返して』
頭の中で声がした。突然のことに肩を跳ね上げ、音源を探るべく周囲を見渡す。
『返して』
怒りを多分に含んだその声は、どうやら姿見の方からしている。恐る恐るそちらに目をやると、見慣れた自分の姿のナニカが、姿見の中で仁王立ちをしていた。
心臓が跳ねる。
『返せ』
どうしよう。誰かを呼ぶべきだろうか。でも、いや、こんな非現実的なこと、誰が信じるというのだろう。
慌てふためく自分に更なる怒りがぶつけられる。
『いい加減、返せ』
なんだろう、なんの話だろう。過去の記憶を必死に探るが、途中でブチブチと切れているような欠陥品では、現在何を怒られているのかわからない。
とにかく、姿見を向こうに向けてしまおう。ワタワタと焦りながら、姿見に手を伸ばした。
手を、掴まれた。
鏡面から手が突き出ている。その手は、寸分違わず自分の腕をとらえていた。
恐怖より、焦りが先にたった。
どうしよう。
右に左にと視線を泳がせ、オロオロしていると、鏡面からもう一本手が伸びる。
そして、
『返して、ね?』
頭にズルリと入り込み、一気にナニカを引きずり出した。膝から力が抜け、ヘナヘナと崩れ落ちる。大量にクエスチョンマークを浮かべながらなんとか姿見を目をやり、驚きで目を見張った。
頭部からナニカでている。
黒い、モヤのような、何か、粘度のあるもののような、様々な色をすべて一緒にしたような、奇妙な闇。
『もう、返して』
姿見から声がする。
ここまで来て、ようやく思い出す。
嗚呼、そうだった。あの日、死にたがっていたから、死ぬくらいなら身体を貸してくれと、交渉を…。
黒いモヤが、私自身が、身体から引きずり出されていく。抗議の声も届かず、なんの力も持たないこんなモヤでは、抵抗もままならない。嫌だと首を振るが、もはや何処か首かも曖昧だ。
私をすべて出し終えた真の持ち主は、ズルズルと鏡面から這い出し、自分の体へと戻っていった。
「掃除終わったー?」
下からお母さんが呼んでいる。
「もうちょっとー!」
先程まで私の身体だったものが、何事もなかったように返事をする。
脚で蹴散らされてしまえば、力を持たない私はひとたまりもない。掻き消えてしまう前に物と物の隙間に退散した。
いつかまた、あの身体に戻るのだ。
大掃除中、アルバムをめくりながら首を傾げる。自分はといえば、幼い頃などすっかり記憶から抜け落ち、親や周りの人々から聞いた『幼少期』をどうにかこうにか繋ぎ合わせて『そんなこともあった気もしなくもない』程度の思い出だけである。
まして、写真の中で大泣きしている自分が、何が怖くて(もしくは嫌で)泣いているのかなど、当時の自分にしかわからない。
頬を掻きながらアルバムを閉じる。
そばの姿見には、見慣れた自分の顔が映っていた。なんとなく嫌な気分になって、姿見をひっくり返そうと手を伸ばす。
『返して』
頭の中で声がした。突然のことに肩を跳ね上げ、音源を探るべく周囲を見渡す。
『返して』
怒りを多分に含んだその声は、どうやら姿見の方からしている。恐る恐るそちらに目をやると、見慣れた自分の姿のナニカが、姿見の中で仁王立ちをしていた。
心臓が跳ねる。
『返せ』
どうしよう。誰かを呼ぶべきだろうか。でも、いや、こんな非現実的なこと、誰が信じるというのだろう。
慌てふためく自分に更なる怒りがぶつけられる。
『いい加減、返せ』
なんだろう、なんの話だろう。過去の記憶を必死に探るが、途中でブチブチと切れているような欠陥品では、現在何を怒られているのかわからない。
とにかく、姿見を向こうに向けてしまおう。ワタワタと焦りながら、姿見に手を伸ばした。
手を、掴まれた。
鏡面から手が突き出ている。その手は、寸分違わず自分の腕をとらえていた。
恐怖より、焦りが先にたった。
どうしよう。
右に左にと視線を泳がせ、オロオロしていると、鏡面からもう一本手が伸びる。
そして、
『返して、ね?』
頭にズルリと入り込み、一気にナニカを引きずり出した。膝から力が抜け、ヘナヘナと崩れ落ちる。大量にクエスチョンマークを浮かべながらなんとか姿見を目をやり、驚きで目を見張った。
頭部からナニカでている。
黒い、モヤのような、何か、粘度のあるもののような、様々な色をすべて一緒にしたような、奇妙な闇。
『もう、返して』
姿見から声がする。
ここまで来て、ようやく思い出す。
嗚呼、そうだった。あの日、死にたがっていたから、死ぬくらいなら身体を貸してくれと、交渉を…。
黒いモヤが、私自身が、身体から引きずり出されていく。抗議の声も届かず、なんの力も持たないこんなモヤでは、抵抗もままならない。嫌だと首を振るが、もはや何処か首かも曖昧だ。
私をすべて出し終えた真の持ち主は、ズルズルと鏡面から這い出し、自分の体へと戻っていった。
「掃除終わったー?」
下からお母さんが呼んでいる。
「もうちょっとー!」
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いつかまた、あの身体に戻るのだ。
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