オミナス・ワールド

ひとやま あてる

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第2章 Dynamism in New Life

第39話 脅威と悲鳴

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「足取りが変わったね。 確実に何かに気付いてる動きだけど、それを把握されまいと緊張している様子がある。 ゼラの方は流石だけど、オリガの動きは顕著で助かるね」

 最も監視に向いた環境──遠隔地にいるカミラがそう呟いた。

 これまでハンター家業をしていて、また後衛職でもあるカミラやハンスは特に観察力に富んでいる。 そして彼女の目に宿った力がゼラやオリガの微細な動きの変化を読み取っている。

 ゼラとオリガの活動は、専らベルナルダンでの聞き込みだ。 それは町の成り立ちや構造だったり基本的なことから、町の人間に関することまで。 それは特段二人を言及するような要素には成り得ず、町は徐々に丸裸にされていく。

 ダスクがカミラの隣で疲れたように言う。

「チッ……下手な動きはしてこないな」
「あたいらのことには気付きつつ、それでいてアクションは起こしてこないね。 あたいらの知らないところでこっちの個人情報が奴等に抜けていくのは厄介だね」

 ゼラたちが集める情報の中には当然、フリック陣営のものも含まれている。 しかし彼らの行動には何ら非は無いため、フリックたちはこれを咎めることはできない。

「あいつら、情報を集めて正攻法でグレッグとカルミネに辿り着くつもりだな」
「そこに関してはあたいらと同じだね。 そればかりはハンス頼りってことさね」
「オルソーの旦那がグレッグの行き先を聞いてりゃあな」
「今更言っても遅いね。 とにかく、奴らを監視してプレッシャーを与え続けて、動きを牽制し続けるしかないよ。 じゃあダスク、引き続き頼んだよ」
「あいよ。 奴ら、俺のことは当然警戒してんだよな?」
「そりゃ、これ見よがしに武器に手をかけながらウロチョロしてたら目立たないってことはないよ」
「でもいいのか? いずれお前やハンスも見つかるぞ?」
「それはそれで構わないよ。 むしろこっちに集中してくれた方が先手を打ちやすいってもんさ」
「そうかい。 そんじゃ、続きは任せたぜ」

 ダスクはプレッシャーを掛けるべくゼラとオリガの周辺を嗅ぎ回る。

 もし彼らが痺れを切らして攻撃でも仕掛けてくれば、ダスクも合法的に対処することができるし、むしろ今はそれを待っていると言ってもよい。 その場合、当然ダスクは前衛として真っ先に被害を受けることになるが、前衛の宿命として仕方ないと彼も受け入れている。 むしろそれくらいできなければ前衛とは言えないのだから。

「ゼラ、あいつブッ殺したいんだけど?」
「挑発に乗ったらダメだよ。 あんなナリでも、この町の前衛職じゃ二番目か三番目に腕が立つ男なんだから。 こっちとしても無駄な被害は負いたくないからね」

 ゼラとオリガも本格的に敵──フリックたちの動向には気がついている。 そして監視されていることにも。 しかしそれに気づいていても、人員の差でその隔たりを埋めることはできないし、敵にこちらを攻撃する理由を与えるわけにもいかない。 だからこうやって地道に情報を集めて、遠回りでも敵に至ろうとしているわけだ。

「でも、別に負けることはないでしょ?」
「それはそうだけど、未だにカミラとハンスが見えてないから、そこはクリアしておきたいところだよね」
「あーしの《光鏡ミラー》の範囲外から見てるみたいだから、うざったいことこの上ないのよ。 あーしも刻印してみようかしら」
「それは良いかもね。 僕ら二人だけで何でもできると思ってたけど、案外手詰まりになる場面が多いから、手札として刻印魔法くらいは持っておいた方がいいかもしれない。 あれは魔導書無しでも発動できる形態だからさ」
「魔導書に縛られるのが魔法使いの困ったところよ。 でなきゃ監視してる連中なんてイチコロなのに」
「とにかく、聞いていた通りフリックのチームは厄介だ。 フリックとダスクはああやって無防備に姿を見せてるけど、敵に鷹の目──刻印された魔法は鷲の目か……あれがある限り迂闊な行動はできないよ」
「じゃあ、なに? このままダラダラこんな活動を続けるって言うの?」
「それが現状での最善手だから仕方がないね。 けど、このペースだと数日以内に全住民には楔を打ち込めるわけだし、それまでは我慢するしかないよ。 この作業が全部終われば、気持ちよく惨殺できるんだからさ」
「まぁ、その光景だけでも思い浮かべられるなら我慢できそうね」

 ゼラたちの活動は単純だ。 質問して、その反応を見るだけ。

「あんた、罪深いね?」

 相手が嘘をついていた場合、オリガがそう言って話は終わる。

 町ぐるみで二人を騙そうと画策していたとしても、全ての人間が同じ方向を向いているとは限らない。 徐々に町中の人間から話を聞いていけばどこかでボロが出るし、それによって辻褄があったり合わなかったり、情報の整合性が明らかになっていくものだ。

「何が言いたい?」
「オルソー、君はグレッグを知っていたね?」

 彼らの対象はオルソーにまで及ぶ。

「ああ、それがどうした?」
「……なるほど。 どうして知り合いを牢にぶち込んだりしたんだい?」
「相手が誰であれ、喪失したはずの町の重要物資を抱えていたら犯罪者として処理するだけのことだ。 そこに私情は含まれないな」
「準備された返答だね。 まぁいいや……じゃあ、君はグレッグの居場所を知っているかい?」
「知っているか、とは? おかしなことを言うではないか」
「……?」
「君も彼がどうなったか知っているから聞きにきたのだろう? いつの間にか彼は牢から脱出して、行方は知れない。 むしろ俺が君たちから教えてもらいたいくらいだな」

(なるほど、こっちの意図に気付いて嘘は付かないってわけか。 案外食えない男だね……)

 ゼラは内心でオルソーを高く評価する。

「ありがとう。 じゃあ僕らで探してみるとするよ。 何か分かったら教えてよ」
「ああ」

 ここ数日の間に、二人は町のほとんどの人間に接触を終えた。 それによって得られた情報を統合した結果、二人を騙そうとしているのは一部の上層部だけと言うことが分かった。

「よし、詰めの時間だ。 最後はフリックの所へ行こう」

 二人は敢えてフリックには触れずに活動を行っていた。 そうすることで常にフリックのチームを警戒させつつ、二人に対して重点的に注目を向けさせるのが狙いだった。

 ここまでフリック陣営もゼラ陣営も、お互いに牽制し合って時間を浪費し合っていたわけだが、結果から先に言うと、この時点で優位を取っているのは後者である。

 フリック陣営はゼラたちの行動から明確な目的を拾うことができず、またハンスもグレッグとカルミネを捉えることはできなかった。

 一方ゼラ陣営は、ベルナルダンのあらゆる人間と接触し、準備が完了した状態。 フリック陣営が先手を取れなかったことも相まって、ゼラたちが先んじて打って出られる機会を与えてしまった。

「あいつ、何かする気だぞ!?」

 オリガから凄まじい量のマナが漏れ出し、各所に散っている。 それは魔法使い全員が思わず振り向くほどの異常事態であり、刻印魔法でマナに触れることができているダスクやカミラも例外ではなかった。

「おいおい、何が起こってるってんだ?」

 そんな中、ハンスだけはキョトンとして何がなんだか分からないようだ。

「まったく……テメェは能天気で良いよなァ?」
「さっさと教えろよ! 何が起こってるんだよ!?」
「オリガが何かやる気だ。フリックが危ねぇ!」

 外壁の上から眺めていたカミラたちだったが、これはまずいと判断して行動を開始した。

 現在は夕刻。 誰もが仕事を終えて自宅に戻っている時間であり、フリックの周囲には誰もいなくなった状況。 そんな絶妙な時間を狙ってゼラとオリガがフリックの前に立ちはだかり、敵意を剥き出しに高慢な態度を取っている。

「これはこれは、随分な威圧ですね。 私たちに何か御用ですか?」
「なにを呆けたこと言ってんの?  用があるから来たに決まってんじゃん」

 フリック宅のやや南、広場になっている場所で戯れていた彼とハジメ、そしてレスカ。 その間に割って入る形で現れたゼラとオリガからは、明らかな殺意が漏れ出している。 これに関してはハジメとレスカも実感しているようで、冷や汗を流しながら目の前の敵から注意を外すまいとしている。

 オリガは続ける。

「じゃあ早速だけど、あんたらがこっちに対して行ってる活動内容を教えて」
「あなた方に対する活動など、言っている意味が分かりませんね」
「あっそ、あんた罪深いね」
「ハジメさん、レスカさん。 ここは私が対応するので、お二人は町の中──」

 フリックはオリガの意味深な発言を半ば無視しつつハジメとレスカに指示を投げたが、ゼラがそれを遮った。

「そこから一歩でも動いたら殺すよ?」

 ゼラの手には黒く禍々しい魔導書。 そして彼から漏れ出すマナも彼の発言を肯定している。

「「……っ!?」」

 初めて向けられる明確な悪意。 それは確実にハジメとレスカの命を刈り取らんと威圧感をぶつけてきており、これを受けた二人は動きが取れなくなってしまった。 まるで蛇に睨まれた蛙の如く、一歩も動くことができなくなっている。 殺意の質だけで言えば、オリガよりもゼラの方が強いだろう。

(まずいまずいまずい……! こいつらまともじゃない……!)

 ハジメは焦りを隠せずに鼓動を限界まで早めて次の一手を考えるが、選択次第では一瞬で命を失うこの場面で十分な思考は生まれない。 レスカも同様だが、彼女に関しては恐怖で思考が完全に停止してしまっている。 

「テメェら、なにしてやがるッ!?」
「行動開始だね」

 そこに響くダスクの声。 彼は完全に臨戦体制で、獣を狙う狩人の体勢で走り来る。

「二人とも、今のうちに!」

 これ幸いとフリックが大声を上げた。 ハジメとレスカはそれを受けてハッと全身の金縛りが解けたような気がしたが、逃亡の一歩目を前に開戦の狼煙となる魔法が発動されてしまった。

「《闇弾バレット》」
「ぐ、ぅ……ッ」
「ぎゃっ……!」

 三つに分かれた闇弾はそれぞれ、ダスク、ハジメ、そしてレスカへと向けられた。 ダスクは咄嗟にダマスカス剣を盾にして弾いたが、これによって勢いを殺されてしまった。 そして残り二つの闇弾は無防備なハジメとレスカの背中に突き刺さり、くぐもった呻き声を吐き出させて二人に甚大なダメージを叩き込んだ。 そのまま派手に地面に転がる二人。

 魔法使い同士の争いでは、基本的に先手を取った方に軍配が上がる。 先にダメージを受けた方は痛みから魔導書の維持に必要なマナ操作ができなくなってしまったり、スムーズな魔法発動が困難になってしまったり、不遇な災禍に見舞われてしまうからだ。 また闇属性と光属性は基本の四属性とは別の部分の関係相性のため、攻撃を受けた術者本来の魔法耐性でしかダメージを減らすことができない。

「《断罪コンヴィクション》」

 オリガの手元には白い魔導書。 彼女から絶望の始まりが言い渡されている。

「おい、フリック!」

 ダスクの叫び声が届く。

 フリックは攻撃を受けたハジメとレスカに気を取られており、その存在に気付くのが遅れてしまった。 それはダスクの視線の先──フリックの頭上に出現した光の十字架。 

 ダスクの声もあって、フリックの思考は回避に向いていた。 しかしフリックの反応速度よりも早く、断罪の刃は真っ直ぐに彼を貫いてしまっていた。 刃は彼の背中から腹部を通過し、消えることなく彼を地面に縫い付けている。

「が……ァ……」

 フリックの口からは途端に大量の血液が噴出し、力なく膝をつきながら刃に沿ってズルズルと身体を項垂れていく。

「フリック!?」

 フリックは魔法使いということもあり、ある程度の魔法であれば耐久できるはずだ。 ダスクはそれを無視してダメージを与えるオリガの攻撃性能を見て、改めて彼女らの危険性を認識する。

 オリガの攻撃魔法には、彼女が罪人と認定した人間にしか効果を発揮できない縛りがある。 だからこそ彼女は、相手の攻撃意思だったり嘘偽り──彼女に不利益をもたらすあらゆる行動を罪として指摘し、攻撃対象へと押し上げる。

 オリガらはこれまで、情報収集と並行して罪人をリストアップする作業も行っていた。 その活動のもとで罪人指定された者は町の人々の中にも多数おり、フリック同様彼らにも等しく刃は降り注いでいた。

 ベルナルダンの各所で阿鼻叫喚の悲鳴が上がっている。

 ちょうど夕刻で家族が揃う時間ということもあって、家庭など様々な場所で血の制裁が開始されており、町中が混沌とした狂乱状態に陥る。

「カミラ、回復ポーションの手持ちは!?」
「まともな戦闘準備なんてしてないから、今はないよ! こんなことなら……!」
「ダスクは持ってそうだけど複数は無さそうだ……。 それにさっきの魔法、対象はフリックだけじゃないな……」
「ハンスは町の様子を確認しつつ応援を呼んで来るんだ。 あたいはここから──ん……?」
「どうした?」
「こんな時にグレッグの姿が見えるとは、厄介なことになってきたね」

 カミラの鷲の目が、南の遠方よりやってくるグレッグの姿を捉えた。 そして彼の隣には見知らぬ男が追随しており、カミラはそれがカルミネだと半ば確信する。

「とりあえず僕はオルソーあたりを連れてくる。 あとはありったけの回復ポーションも探してくるか……。 カミラはどうする?」
「あたいはダスクの援護をしつつ、グレッグを回収する。 あれは優秀な魔法使いだそうだからね」
「何かあれば信号弾を上げてくれ」
「ああ、頼んだよ」

 ハンスは外壁から町の中へ急ぎ、カミラは必死に思考を回す。

「フリックは厳しそうだね……。 ダスクじゃあの二人を同時に相手できない」

 ダスクはフリックの救出を画策しているが、ゼラの魔弾を捌くだけで手一杯だ。 どうしてかオリガの魔法はダスクには飛んでいないようだが、それも今だけの話。 いつ彼がフリックのように殺されるかは分からない。

「あたいがここで援護に走っても、魔法使い二人……あんな不吉な奴らに致命傷を与えることは到底無理だね。 だとすれば──」

 カミラは一旦ダスクやフリックを諦めた。 今後彼らが役に立つ場面はあるかも知れないが、現状ゼラとオリガという敵を前にして効果的に立ち回る姿が想像できない。 むしろ敵をあの場所に留めている今こそ、ダスクが最も活躍できている場面と言っていいかもしれない。

 カミラは後ろ髪を引かれる思いを振り切りながら、最善手を選択した。 それは、グレッグと合流して秘密裏に行動すること。

 今のところ、カミラとハンスはオリガたちの認識からは外れている。 であれば、同じ状況のグレッグを利用してなんとかできる手段は見出せるはずだ。

 矢が射出され、夕闇に紛れて行動しているグレッグの足元に突き刺さった。

「なんだ!?」
「《泥壁ウォール》!」

 グレッグは敵を警戒して魔導書を取り出すと、壁に穴を開けて攻撃の飛んできた方向を観察する。

「ど、どうだ……?」
「あれは……カミラですかね」
「もう見つかっちまったのか!?」
「残念ながらそうみたいですな。 だが、どうにも様子がおかしい」

 グレッグに向けて走り来るカミラは弓を掲げているだけで、そこには矢すら番えられていない。

「どうする……?」
「相手さんに攻撃の意思は無さそうですな。 カミラの攻撃手段は超遠距離からの弓による攻撃のはず。 そんな彼女がわざわざ姿を晒す意味が分からない。 だとすれば、他の意図がありそうだ」
「んなことはどうでもいい! 俺は見つかったらヤベェんだっての。 そのカミラってのが誰か知らねぇが、俺は無事にいられるんだろうな!?」
「ああやって油断を誘ってあっしらを捕らえる算段かもしれない。 あんさんはここで隠れていてくだせぇ」
「あ、ああ……」

 グレッグは壁の後ろにカルミネを待機させつつ、魔導書を抱えて壁の前に出た。 カミラはそれを見てやや安心した表情を浮かべる。

「どうされたんで?」
「ハァ……ハァ……すまない、手を貸して欲しい。 今、ゼラとオリガが町を破壊しているんだ……!」
「どうにもタイミングの悪い時に帰ってきてしまったもんですな。 ……詳細を」

 内容がどうであれ、ゼラとオリガの行動はこれからのグレッグたちにも大きく影響することが容易に想像できる。 またカミラの表情から切迫した様子も伺えたため、グレッグは流れを断ち切ることなく彼女に続きを促した。

「なるほど。 それであっしらに助力を頼んでいる、と」
「あたいらは奴らに姿を見られていない。 そこが奴らを滅ぼす効果的な一手につながるはずだ。 壁の後ろの、恐らくカルミネであろう男からも助力を得たいところだ……」
「そっちも見ていたというわけですか。 しかしそれはどうでしょうかね。 少し本人と話してきますので、ここで待っていてくだせぇ」

 カミラを残し、グレッグはカルミネの元へ。

「聞いていやしたか?」
「聞いていたが、俺には無理だ。 ゼラの魔法圏内に入る勇気は、今の俺には無い」
「だが、これはゼラを殺す絶好の機会とも言える」
「悪い。 ここまでお前の邪魔しかしてないが、俺はここで抜けさせてもらう……!」
「今更どこへ逃げるんで? あんさんはゼラどころか、あの魔物にすら目をつけられている。 逃げ場がないからこそ、隠れ蓑としてベルナルダンに逃げ込む算段だったはずでは?」
「それはそうだが……」

 なぜ逃げるはずだったカルミネがベルナルダンへ向かっているかというと、彼にとっての安全地帯が悉く失われてしまっているからだ。

 カルミネはゼラの魔法から一時的に逃れて以降、ベルナルダン南部の森の中に身を潜めて待機していた。 その間にグレッグが町でカルミネのための生活物資を用意し、それを受け取って王国からはオサラバするはずだった。 しかしそんなカルミネの逃亡計画を狂わせる存在がいた。 それが件の脅威──片腕を失ったゴリラの魔物だった。

 グレッグはカルミネのアジトで入手した遺体──瘴気を発する異物を置いてベルナルダンに向かっていた。 もちろんグレッグは死体から瘴気が漏れないように泥で厳重に包んでおいたのだが、微量の瘴気であっても魔物は嗅ぎつけるらしく、それを管理しているカルミネの元へ多数の魔物が押し寄せた。

 カルミネは魔法使いだが、それでも捌き切れる限界がある。 だから彼は自分の身を優先して遺体を放置し、やむを得ない逃げ場としてベルナルダンを選んだ。 そして逃げる途中で運良くグレッグと合流し、二人でベルナルダンに向かっていたというわけだ。

 グレッグが荷物を持ってきたのであれば、カルミネはベルナルダンなど目指さなくても良かったはずだ。 それなのにこうしてここまでやってきているのは、逃げる彼を追って魔物が次々とやってきてしまっているからだ。 さっきも小型の魔物を数匹処理したところであり、本来町の近くであるこんな場所まで魔物はやってこない。 つまり彼は魔物から完全に認識されており、その脅威を完全に排除しきれていない。 だからこそ、魔物を押し付ける意味でも身を隠す意味でも、安全を確保できそうなベルナルダンへ向かっていたわけだ。 当然そこにはゼラとオリガの存在を確信していたが、味方のいない森や荒野などよりは町は確実に安全だろう。 というわけで現在に至るわけだが、どうにもカルミネは運が悪いようだ。

「逃げ込むだけならベルナルダンは未だ利用できるはずですな。 あっしもこれを無視することは可能だが、あいにくと例の死体はあんさんが管理を怠ってしまって、手土産もなく帰るのは実に忍びない」
「わ、悪かったって言ってんだろ! あんな状況でそこまで頭が回るかよ!」
「あれに相当するものと言えば、ゼラとオリガの死体か、それかあの魔物くらいなもんですな」
「……だからお前はカミラって女に協力するってのか?」
「あの二人を殺せる機会があるというなら、使わない手はないって話ですな。 もちろんリスクの方が大きければ協力しない選択肢もあるが、現状どちらとも判断はできない。 少し参加して無理ならやめる、それだけのことですな」
「それは好きにしたらいいが、何度も言うが俺には無理だ。 この騒ぎに乗じて町の中に潜伏させてもらう」
「いいでしょう。 あんさんが処分されないように、カミラにも言い含めて置きましょう」
「頼んだ」

 消極的なカルミネを無理に参加させるのは難しいと考えたグレッグは、自分だけでゼラとオリガの討伐を買って出た。

「そう言うことなら分かった。 だが今は皆にそれを伝えている時間がない。 時間が勝負だ、ついて来な」

 カミラはグレッグの協力を取り付け、現場へ急ぐ。

 災禍は未だ、始まったばかりだ。
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