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第3章 Intervention in Corruption
第56話 解放と開放
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※性的表現注意
──────────
「ご苦労だった。 君の力量は十分に見せてもらった。 君の魔弾は中位属性ながら威力が低すぎると言わざるを得んな」
「そうですね。 攻撃的な性格ではないので、それが反映されている形かと」
「それはいい。 その後の動きは見事だった。 最後に使った魔弾もな」
「ありがとうございます」
「あれが君のとっておきか?」
「そう、ですね。 当たれば大抵の敵は止まってくれます」
(そう誤認してくれるならそれでいい。 知られないことに越したことはないからな)
「ところで君は土属性の強化魔法を使っていたようだが、これはどういうことだ?」
「……え、と」
(やば、答えを用意してなかった……! このオッサン、見えてやがったのかよクソが)
ハジメは内心でアンドレイに呪詛を吐く。
「儂も土属性の端くれだ。 関連する魔法くらい聞き取れる」
「それは、まぁ、そういうことで……」
「儂を騙そうとするとは生意気だな。 だがそれは、未だ君の底が見えていないということでもあるか。 いいだろう、今回はこれくらいで勘弁してやろう」
「それじゃあ……?」
「奴隷堕ちは無しだ。 魔石を回収したら組合事務所へ戻るぞ」
二人は組合へ向かうと、まずハジメの奴隷契約を解除した。 その上で今回得られた魔石を含めた勘定を終えた。
「君が集めてきた魔石から元々の借金額や魔導具の貸与費を差し引いて、手元に残るのは金貨8枚だ。 持っていくといい」
「ありがとうございます」
(最終的にプラスで終えられただけ上々だな。 途中で換金した分も合わせれば稼ぎはもっとあるけど、一ヶ月で金貨50枚以上の働きができたのはヤバイな。 まぁ、あんだけ危険を度外視して生活してそれだから、今後もこれを続けろと言われたら分からないな)
「これで義務から解放されたな。 今回のことで君は手段を得て、それを儂に示したわけだが、今後も組合を利用するなら君に合った仕事を見繕ってやろう。 それまでは装備を整えるなり休息を取るなり好きにするといい。 ああ、あと……」
「なんですか?」
「君はひどく匂う。 まずはそれをどうにかすることだ」
「……はい」
こうして、ハジメの一ヶ月にわたる極限生活は幕を閉じた。 これは本来なら数ヶ月かかるであろう試行錯誤の過程を凝縮しただけなのだが、今回のような状況でなければリスクを承知で挑戦などしなかったはずだ。 なので、結果的には大きな成果を得られた経験だと言える。
(なんにせよ、全部を見せる羽目にならなくて良かった。 複数属性を使えることがバレたのは予想外だったけど、他にもある隠し球まではバレなかったしな。 さぁて、色々試したいことは山積みだけど、なおさら町中での行動には気をつけないといけなくなった。 魔法が便利なのは百も承知だけど、困った時にすぐに頼ってると、それだけで俺の手札が周囲に晒されてしまう。 ここからはフィジカルの強化もしていかないとな。 《強化》だけで魔物を狩れるくらいが理想だな)
ハジメは奇異と嫌悪の視線を浴びながら宿屋へ戻り、数週間ぶりにまともな整容を行うことができた。 その際鏡に映ったハジメの姿はまさに浮浪者のそれで、そんな人間が町中を堂々と歩き回るのだから変な視線を受けるのも仕方がなかった。
「ひとまずこれで、前回の夜警任務のような失敗はなくなりそうだ。 今思うと、何の手段も持ち合わせずに、なおかつそれで行けると思ってた自分が恥ずかしいな。 そりゃあ、あんだけ馬鹿にされてもおかしくねーわ」
ハジメは先月の苦い記憶を思い出す。 すぐ近くに町があって危険度の低い任務だったにも関わらず死にかけていたのだから、自己評価の甘さが甚だしい。 あの頃のハジメはもっと低レベルの仕事がお似合いだった。 しかし今では、単体の魔物であればある程度の大きさがあっても臆すことなく挑めるくらいのメンタルは獲得できている。 これに関しては、《夜目》によって暗闇が怖くなくなったことが大きい。
「あとはフィジカル面だよな……。 山籠りで野生的な感だったり動きを身につけられた実感はあるけど、それだけじゃあ足りない。 この一ヶ月は俺と同等かそれ未満の魔物しか相手にしてなかったわけだし、今日みたいな強敵はこの世界にごまんといる。 例えばダスクさんたちが討伐できなかった魔物くらいの大物も倒せるくらいが理想的だな」
とはいえ、それをソロでやらなきゃならない道理はない。 そのような大物など、本来であればパーティ単位で、場合によってはレイド単位で取り組むのが一般的だ。
この世界では、結果的に功績を得たとしても無謀を犯すものは愚者であり、愚者は長く生きられない。 その反対に成功者とは理性的な判断と行動を実践できる者のことであり、愚を回避することがそうなるための必須条件だ。 それで言えばハジメは圧倒的に愚者に寄っていて、愚の継続は集団への参入を困難にしてしまい、それが更に愚に繋がるというスパイラルを生み出してしまう。 ただハジメもそれは分かっていて、これまでナールから似たようなことを口酸っぱく忠告されている。
「現状の俺の力量は、この世界を一人で自由に動き回れるレベルじゃ決してない。 自衛の手段を持った一般人、それと変わらないって考えた方がいい。 これは絶対に忘れちゃならないことだ。 じゃないとすぐ死ぬってナール様にも言われてるしな。 だから次に必要な技能は……」
ハジメはこれまで目にしてきた様々な集団を思い出す。 フリックやウルといった複数人から構成されるパーティから、ゼラとオリガのようなペア、そしてソロ活動するグレッグなど。 その他、モルテヴァにやってきてからも色んな形の集団を目にしてきた。 それらの目的こそ異なるが、いずれも個人では足りないところを補うように人員を揃えていたはずだ。
ハジメは集団に参入することを想定した上で、自分がどう貢献できるかを考えている。
「まずは協調性だよな。 今んとこ皆無だけど。 コミュ力だったり、サポート能力、あとは他人に好かれる人格? やべぇ、全部無いじゃん……ワロタ」
ハジメは一人で想像して、勝手に落胆して肩を落とした。
「……まぁ、性格とか内面を今更変えるのは無理だ。 俺の身体能力と魔法力で出来ることを先に考えるか。 前衛か後衛かと言えば、後衛だろうな。 かといって、完全な後方火力にもなりきれない。 あ゛ー、俺って中途半端すぎる!」
ドンドン、と壁が叩かれた。 大声を出したことによる宿屋隣人からの苦情の表現だ。
「ホントすんませーん!」
ハジメは謝罪してると見せかけつつ相手を更にイラつかせるムーブで、抗議に対する返礼とした。
「俺が自分を売り出すとして、いまのところ差し出せるのは例の魔弾だけだな。 身体強化の対象は俺のみだしな、うーん……。 魔弾も攻撃力よりはサポート性能の方が高いから、前衛というよりは遊撃寄りの後方支援が俺の立ち位置に近そうだ」
ハジメに敵の攻撃を受け切る防御力だったり技能は現状期待できない。 なので、走り回って敵を翻弄しつつ《過重弾》で支援を行うのが現状考えられるハジメのセールスポイントだろう。
「でもなぁ。 それだったら、誰にも見られることなく魔法を使って俺だけで解決するのが早そう……って、この効率厨な考えが良くないんだよなぁ。 やっぱまずは、ここでアレコレ考えるよりもどこかに参加するのが一番だな。 アンドレイさんの誘いもあるけど、一旦はハンターギルドの仕事で勉強するのが先決か。 よし、そうと決まれば──」
善は急げ。 それを信条としているハジメは、さっさと支度を済ませてハンターギルドへ。
「ドミナさん」
「あら。 久しぶりね、ハジメ君。 しばらく来ないから死んだかと思ってたわ」
「ひどいっすね。 ちゃんと生きてますよ」
「なんか必死だったから、無茶して死んだ説が濃厚だったけど良かったわ」
「まぁ、久しぶりに会えて嬉しいです。 えっと、今日は仕事を探しにきました」
数週前まではセコセコと魔石を売りに訪れていたハジメ。 それ以降は必要な物資を買い溜めして山籠りの生活だったので、本当に久しぶりの再会となる。 ここ一ヶ月で換算すれば、ハジメが出会ったのは人間よりも魔物の方が多いだろう。
「どんな仕事をお探し?」
「今すぐにってわけじゃないんですけど、どこかのパーティにお邪魔できればな、と」
「一人でも十分稼げてそうだったじゃない?」
「それもそうなんですけどね。 これまでずっと一人だったんで、色々勉強しようと思ってまして」
「へぇ、成長したのね」
「……どうしてです?」
「正しい選択をしたからよ。 ソロで仕事を続けるハンターは多いけど、長く続ければ続けるほど協調性は失われてソロでしか動けなくなっちゃうからね。 そうなる前に動けたのは大きいわ。 自分のできないことを知るって意味でも、色んな環境に身を置くのは大切なのよ。 私もハンターの頃が懐かしいわ」
「あれ、ドミナさんってハンターだったんですか?」
「5年くらい前までね。 内地での高給かつ安全な仕事が見つかったからやめちゃったけど」
「そうだったんですね。 ドミナさんのハンター時代の話を聞いてみたいです」
「いいわよ。 今度家に来た時に話してあげる。 なんなら私と結婚する?」
「ぶっ!? な、何を言い出すんですか!」
唐突な逆プロポーズにハジメは吹き出してしまった。
「それって何か変なこと?」
「変でしょ! 揶揄わないでくださいよ。 ドミナさんくらい綺麗なら引く手数多でしょ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私の実情を知った上で言ってるんだったら怒るわよ?」
「実情なんて知らないですって! だって本当に綺麗だから」
「ありがと。 でもね、26歳にもなってくると焦りも出てくるのよ。 ハジメ君に結婚するか聞いたのは、焦ってるからじゃないけどね」
「え……?」
ハジメは意味深なドミナの発言を聞き流すことができず、思わずドギマギしてしまう。
「あのえっと、ドミナさんのそれが本気だったとしても……。 っていうか、あんまりそういうこと言わない方がいいですよ」
「どうして?」
「勘違いしちゃいますから」
「勘違いしてくれないの?」
上目遣いでハジメを見つめるドミナ。 ハジメが目を逸らそうとした時、彼女の口元がヒクついているのが見えた。
「いや、あの……って、ドミナさん笑っちゃってますから、もうアウトです」
「あら、バレちゃった」
テヘ、とでも言いたそうなドミナのあどけなさに、ハジメは更に鼓動を早めた。
「ホント勘違いしそうになるんで」
「したらいいんじゃない? お互い結婚してるわけでもないんだし」
「いや、でも」
「あ、好きな娘がいるって顔ね。 いいなぁ、お姉さん羨ましいなぁ」
「……ドミナさん、いい加減仕事の話をしてくれません?」
「ハジメ君が勘違いしそうになった理由を教えてくれたらね」
「そんなぁ……」
ハンターギルドにはちょうど人が少ないこともあって、ドミナの揶揄いを回避できる理由が見つからない。 なのでハジメは仕方なく彼女の遊びに付き合う。
「早く、早く」
「えっと、ドミナさんが綺麗なんで」
ドミナに急かされてその場凌ぎの回答をするハジメ。
「どのあたりが?」
「ど、どのあたり……!?」
捕まってしまった。
ドミナの遊びはエスカレートするばかり。 しかし彼女の真っ黒で大きな目に見つめられると、逃げ出すことは許さないという印象を叩きつけられる。
「えっと……その目、が」
「目? 色んな人に怖いって言われるんだけど」
「確かに最初見た時は怖かったですけど、今は綺麗って思います」
「本当に?」
更にハジメを下から覗き込んで大きく見開かれるドミナの両の目。 ハジメはその吸い込まれそうなドス黒さを半ば無視しつつ、真っ直ぐに彼女を見つめ続けた。
「どう、しました……?」
「ううん、ありがと。 じゃあ話の続きね」
「あ、はい」
(あれ? 終わった……?)
一連のやりとりにドミナは満足そうな顔をしただけで、唐突にそれは終えられた。
(終わったなら……いいのか? なんだろう、この……)
ハジメは弄ばれていることは理解しつつも、終わってしまうとそれはそれでもどかしい。 そんな複雑な気持ちが残ってしまった。
(ドミナさんの目はちょっと怖いけど、でも確かに気にはなるんだよな。 奥が深くて覗き込みたくなる、みたいな……?)
「ハジメ君はどこ分野で役に立てる? 前衛? それとも後衛?」
「説明が難しいんですが、後方支援寄りの前衛って感じですかね。 攻撃力は無いんですけど、動きを制限できる魔法を撃てるので」
「例えばどんなの?」
「当たれば質量が増大する魔弾ですね」
「ハジメ君って闇属性? それなら私と同じね。 性質は違うけど、教えてあげられることがあるかもね」
「俺はまだまだヒヨッコなんで、教えてもらえると助かります」
「でもそっか、闇属性か。 それならハンターの仕事じゃなくて私みたいに都市運営の仕事の方が安定してるわよ?」
「いずれ町を出るつもりなので、そっちはあんまり考えてないです」
「そう、それは残念。 じゃあ、そういう役割で人員を募集しているパーティなんかを探してみるわね」
「お願いします」
ハジメはパーティ単位の仕事を探しているとはいえ、それまでにまずは装備を充実するところから始めなければならない。 最優先は武器で、そのあとは防具だったり、《改定》で効果を吸い出せる魔導具あたりが候補として上がる。
「ぐ……ッ。 あれ……俺は何を……」
気づけばハジメは薄暗い室内のベッドに横たわっていた。 ここがどこかを思い出そうとしても、頭痛が邪魔して思考が回らない。
「ハジメ君、大丈夫……?」
少しすると、室内の扉が開いてドミナが現れた。 彼女はなぜか髪が濡れていて服装もバスローブのようなものを羽織っているのみだ。 それによって暗闇ながら彼女の白い肌が露出し、ハジメの視線を釘付けにする。
ハジメは訳がわからないが、そういえばシャワーのような音が聞こえていたこと思い至る。
「ドミナ、さん……? ここは……?」
「まだ酔ってる? ここは私の部屋で、ハジメ君と私の愛の巣」
「……え」
「覚えてないの?」
「覚えてない、って……。 何をです……?」
ぐわんぐわんと酩酊した視界の中で、ハジメは微かに記憶が戻ってきた。
(俺はギルドに行って……ドミナさんと話して……それからなぜか夕食に行くことになって、それで……)
「本当に覚えてないんだ? ちょっと寂しいわね」
ドミナは徐にベッド近づくと、半ば飛び込むようにしてハジメに覆い被さった。 その際ローブがはだけ、気づけば彼女の胸と先端の突起がハジメの眼前まで迫っていた。
「え、ちょ……!?ドミナさ──」
「んン……」
ドミナはハジメに唇を重ねた。
(え? なに? どういうこと?)
ハジメは頭の中がパニックになるが、気持ちの良い唇の感触を逃したくないという本能が抵抗する気力を失わせていた。
ドミナの舌が艶かしくうねり、ハジメの口内を優しく蹂躙する。
「ン……。 これでも覚えてない?」
ゆっくりとドミナが唇を離した。
二人の間にうっすらと唾液の線が掛かり、ドミナは無造作に自身の口元を手の甲で拭った。 その何気ない動きがなんとも情欲的で、ハジメの性は激しく刺激された。
「あは、すごく元気」
そう言われてハジメはようやく自身が裸なことに気がついた。 しかしその時にはドミナが羽織りをベッドのわきへと投げ捨ててハジメの胸の上にしなだれかかっていたため、もはや身動きができなくなってしまった。
胸に当たる二つの双丘がハジメの理性を外しにかかる。
「ドミナ、さん……」
ドミナは一瞬だけ唇を触れさせ、そのまま顔をハジメの隣へ。 彼女の熱い吐息がハジメの耳にかかると……。
「ハジメ君。 さっきみたいにさ……乱暴にしてくれていいよ?」
それが最後の関所を抜いた。
ハジメはガバッと身体を起こすと、ドミナを組み敷いて貪るように彼女の唇を奪った。
二つは一つへ。
ハジメは仰向けになったドミナの腰を掴み、彼女の内側を激しく抉る。
ドミナの嬌声も静止をかける懇願もお構いなしに、ハジメは野生的な動きを繰り返した。 動きに合わせてドミナの身体が跳ね、そして痙攣を繰り返す。
水音と肌の触れ合う音が絡み合い、ドミナの呻きは更に大きくなった。
背後から攻める段階では、ハジメはドミナをただひたすらに欲を叩きつけるための物のように扱い続けた。
途中まではドミナ優位の状況だったが、息をつく間さえも与えないハジメの猛攻により観念し、全てに身を任せることとなった。
「もうッ……だっ、だめぇ……! だめだか、らっ……ッ!?」
余裕のないドミナに、最後の一撃が加えられた。
ドミナを射殺す熱は極限まで膨張し、ついにその中身を溢れさせる。
欲の辿り着いた先は緊縛からの解放であり、数千万の迸りはドミナの内側を激しく叩き、ドミナの襞は収縮という返礼で以てそれらを全て飲み干そうと喉を鳴らす。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ッ……」
「ぅ……あ゛、あ…………っ……はぁ、はぁ……」
ドミナは半ば白目を剥いて絶頂の快感に揺られ続け、ハジメはそんな苗に向けて一滴残らず熱を芯まで吐き出し続けた。
ずるり──。
引き抜かれたそれはダムの決壊を防ぐための堰であり、ハジメの形に押し広げられた秘所からは次々に熱せられた白が濁流のように溢れ始めた。 それでもドミナの内側は数千万の彼らを逃すまいと必死に口を閉じようとしている。
「あ……ぁっ……」
ドミナはしばらくしてからブルリと震えると、そこでようやく全身が弛緩した。 ドミナは玉のような汗を垂れ流しながら愛おしそうに下腹部を撫で、ハァと熱い吐息を漏らした。
なおも漏れ続けるハジメの残滓はドミナの肌を伝い、ベッドのシーツに染みを広げている。
ハジメはドミナの横でうつ伏せに気怠さを感じながら、ここでようやく今日のこれまでを思い出した。
ドミナから個人的な話を聞くという名目で商業区画の店へ夕食に連れて行ってもらい、そこでハジメは酒を摂取した。 何気なし飲んだそれだったが、この世界に来てから初めての酒であり、度数が異常に高かったこともあってハジメは一瞬で泥酔した。 そのままでは平民区画まで運ぶのが難しいということで、近くにあるドミナの部屋で一旦休憩することとなった。
話した内容は覚えていないが、感情的になったのは覚えていて、慰められているうちに男女の関係になっていた。
酔いの影響もあったのだろうが、大人の色香に当てられてハジメは理性を解放してしまった。 レスカとの口約束さえも忘れて。
「俺……ドミナさんに酷いことを……」
「大丈夫」
「すいません……」
「お互い気持ちよかったし、別に気にしないで。 それにしても二回目なのに随分出したね。 こんなすごい量だと妊娠しちゃいそう」
「せ、責任はとるので……!」
「大丈夫だって。 本当に妊娠なんてしないから」
「でも……! そんなこと分からないですよね?」
「分かるよ。 妊娠しそうならこんなことさせないし」
「……本当に?」
「ハジメ君は本当に心配性だね。 そんなに怖いなら出さないでしょ?」
「いや、あの、それは……」
「もう今日は遅いし、泊まっていきなさい。 明日帰ればいいから」
「俺、平民区画の腕輪なんですけど、大丈夫なんですか?」
ドミナに言われて断るどころか、別の心配をしている時点でハジメの思考力は未だ正常ではない。 もう一度抱かせてくれるんじゃないかという期待さえしてしまっている。
「大丈夫だから、まずは身体流そ?」
「え、あ、はい」
「ほら、おいで。 夜は長いし、流し終わったらまたするでしょ?」
「え、するん……していいんですか!?」
「ハジメ君、急に元気すぎ。 でも、今度は優しくしてね?」
妖艶な誘いに惑わされ、ハジメは性の衝動を抑える気さえ起きなかった。
翌日ようやく正常な思考を取り戻したハジメが深く後悔するのは言うまでもなかった。
──────────
「ご苦労だった。 君の力量は十分に見せてもらった。 君の魔弾は中位属性ながら威力が低すぎると言わざるを得んな」
「そうですね。 攻撃的な性格ではないので、それが反映されている形かと」
「それはいい。 その後の動きは見事だった。 最後に使った魔弾もな」
「ありがとうございます」
「あれが君のとっておきか?」
「そう、ですね。 当たれば大抵の敵は止まってくれます」
(そう誤認してくれるならそれでいい。 知られないことに越したことはないからな)
「ところで君は土属性の強化魔法を使っていたようだが、これはどういうことだ?」
「……え、と」
(やば、答えを用意してなかった……! このオッサン、見えてやがったのかよクソが)
ハジメは内心でアンドレイに呪詛を吐く。
「儂も土属性の端くれだ。 関連する魔法くらい聞き取れる」
「それは、まぁ、そういうことで……」
「儂を騙そうとするとは生意気だな。 だがそれは、未だ君の底が見えていないということでもあるか。 いいだろう、今回はこれくらいで勘弁してやろう」
「それじゃあ……?」
「奴隷堕ちは無しだ。 魔石を回収したら組合事務所へ戻るぞ」
二人は組合へ向かうと、まずハジメの奴隷契約を解除した。 その上で今回得られた魔石を含めた勘定を終えた。
「君が集めてきた魔石から元々の借金額や魔導具の貸与費を差し引いて、手元に残るのは金貨8枚だ。 持っていくといい」
「ありがとうございます」
(最終的にプラスで終えられただけ上々だな。 途中で換金した分も合わせれば稼ぎはもっとあるけど、一ヶ月で金貨50枚以上の働きができたのはヤバイな。 まぁ、あんだけ危険を度外視して生活してそれだから、今後もこれを続けろと言われたら分からないな)
「これで義務から解放されたな。 今回のことで君は手段を得て、それを儂に示したわけだが、今後も組合を利用するなら君に合った仕事を見繕ってやろう。 それまでは装備を整えるなり休息を取るなり好きにするといい。 ああ、あと……」
「なんですか?」
「君はひどく匂う。 まずはそれをどうにかすることだ」
「……はい」
こうして、ハジメの一ヶ月にわたる極限生活は幕を閉じた。 これは本来なら数ヶ月かかるであろう試行錯誤の過程を凝縮しただけなのだが、今回のような状況でなければリスクを承知で挑戦などしなかったはずだ。 なので、結果的には大きな成果を得られた経験だと言える。
(なんにせよ、全部を見せる羽目にならなくて良かった。 複数属性を使えることがバレたのは予想外だったけど、他にもある隠し球まではバレなかったしな。 さぁて、色々試したいことは山積みだけど、なおさら町中での行動には気をつけないといけなくなった。 魔法が便利なのは百も承知だけど、困った時にすぐに頼ってると、それだけで俺の手札が周囲に晒されてしまう。 ここからはフィジカルの強化もしていかないとな。 《強化》だけで魔物を狩れるくらいが理想だな)
ハジメは奇異と嫌悪の視線を浴びながら宿屋へ戻り、数週間ぶりにまともな整容を行うことができた。 その際鏡に映ったハジメの姿はまさに浮浪者のそれで、そんな人間が町中を堂々と歩き回るのだから変な視線を受けるのも仕方がなかった。
「ひとまずこれで、前回の夜警任務のような失敗はなくなりそうだ。 今思うと、何の手段も持ち合わせずに、なおかつそれで行けると思ってた自分が恥ずかしいな。 そりゃあ、あんだけ馬鹿にされてもおかしくねーわ」
ハジメは先月の苦い記憶を思い出す。 すぐ近くに町があって危険度の低い任務だったにも関わらず死にかけていたのだから、自己評価の甘さが甚だしい。 あの頃のハジメはもっと低レベルの仕事がお似合いだった。 しかし今では、単体の魔物であればある程度の大きさがあっても臆すことなく挑めるくらいのメンタルは獲得できている。 これに関しては、《夜目》によって暗闇が怖くなくなったことが大きい。
「あとはフィジカル面だよな……。 山籠りで野生的な感だったり動きを身につけられた実感はあるけど、それだけじゃあ足りない。 この一ヶ月は俺と同等かそれ未満の魔物しか相手にしてなかったわけだし、今日みたいな強敵はこの世界にごまんといる。 例えばダスクさんたちが討伐できなかった魔物くらいの大物も倒せるくらいが理想的だな」
とはいえ、それをソロでやらなきゃならない道理はない。 そのような大物など、本来であればパーティ単位で、場合によってはレイド単位で取り組むのが一般的だ。
この世界では、結果的に功績を得たとしても無謀を犯すものは愚者であり、愚者は長く生きられない。 その反対に成功者とは理性的な判断と行動を実践できる者のことであり、愚を回避することがそうなるための必須条件だ。 それで言えばハジメは圧倒的に愚者に寄っていて、愚の継続は集団への参入を困難にしてしまい、それが更に愚に繋がるというスパイラルを生み出してしまう。 ただハジメもそれは分かっていて、これまでナールから似たようなことを口酸っぱく忠告されている。
「現状の俺の力量は、この世界を一人で自由に動き回れるレベルじゃ決してない。 自衛の手段を持った一般人、それと変わらないって考えた方がいい。 これは絶対に忘れちゃならないことだ。 じゃないとすぐ死ぬってナール様にも言われてるしな。 だから次に必要な技能は……」
ハジメはこれまで目にしてきた様々な集団を思い出す。 フリックやウルといった複数人から構成されるパーティから、ゼラとオリガのようなペア、そしてソロ活動するグレッグなど。 その他、モルテヴァにやってきてからも色んな形の集団を目にしてきた。 それらの目的こそ異なるが、いずれも個人では足りないところを補うように人員を揃えていたはずだ。
ハジメは集団に参入することを想定した上で、自分がどう貢献できるかを考えている。
「まずは協調性だよな。 今んとこ皆無だけど。 コミュ力だったり、サポート能力、あとは他人に好かれる人格? やべぇ、全部無いじゃん……ワロタ」
ハジメは一人で想像して、勝手に落胆して肩を落とした。
「……まぁ、性格とか内面を今更変えるのは無理だ。 俺の身体能力と魔法力で出来ることを先に考えるか。 前衛か後衛かと言えば、後衛だろうな。 かといって、完全な後方火力にもなりきれない。 あ゛ー、俺って中途半端すぎる!」
ドンドン、と壁が叩かれた。 大声を出したことによる宿屋隣人からの苦情の表現だ。
「ホントすんませーん!」
ハジメは謝罪してると見せかけつつ相手を更にイラつかせるムーブで、抗議に対する返礼とした。
「俺が自分を売り出すとして、いまのところ差し出せるのは例の魔弾だけだな。 身体強化の対象は俺のみだしな、うーん……。 魔弾も攻撃力よりはサポート性能の方が高いから、前衛というよりは遊撃寄りの後方支援が俺の立ち位置に近そうだ」
ハジメに敵の攻撃を受け切る防御力だったり技能は現状期待できない。 なので、走り回って敵を翻弄しつつ《過重弾》で支援を行うのが現状考えられるハジメのセールスポイントだろう。
「でもなぁ。 それだったら、誰にも見られることなく魔法を使って俺だけで解決するのが早そう……って、この効率厨な考えが良くないんだよなぁ。 やっぱまずは、ここでアレコレ考えるよりもどこかに参加するのが一番だな。 アンドレイさんの誘いもあるけど、一旦はハンターギルドの仕事で勉強するのが先決か。 よし、そうと決まれば──」
善は急げ。 それを信条としているハジメは、さっさと支度を済ませてハンターギルドへ。
「ドミナさん」
「あら。 久しぶりね、ハジメ君。 しばらく来ないから死んだかと思ってたわ」
「ひどいっすね。 ちゃんと生きてますよ」
「なんか必死だったから、無茶して死んだ説が濃厚だったけど良かったわ」
「まぁ、久しぶりに会えて嬉しいです。 えっと、今日は仕事を探しにきました」
数週前まではセコセコと魔石を売りに訪れていたハジメ。 それ以降は必要な物資を買い溜めして山籠りの生活だったので、本当に久しぶりの再会となる。 ここ一ヶ月で換算すれば、ハジメが出会ったのは人間よりも魔物の方が多いだろう。
「どんな仕事をお探し?」
「今すぐにってわけじゃないんですけど、どこかのパーティにお邪魔できればな、と」
「一人でも十分稼げてそうだったじゃない?」
「それもそうなんですけどね。 これまでずっと一人だったんで、色々勉強しようと思ってまして」
「へぇ、成長したのね」
「……どうしてです?」
「正しい選択をしたからよ。 ソロで仕事を続けるハンターは多いけど、長く続ければ続けるほど協調性は失われてソロでしか動けなくなっちゃうからね。 そうなる前に動けたのは大きいわ。 自分のできないことを知るって意味でも、色んな環境に身を置くのは大切なのよ。 私もハンターの頃が懐かしいわ」
「あれ、ドミナさんってハンターだったんですか?」
「5年くらい前までね。 内地での高給かつ安全な仕事が見つかったからやめちゃったけど」
「そうだったんですね。 ドミナさんのハンター時代の話を聞いてみたいです」
「いいわよ。 今度家に来た時に話してあげる。 なんなら私と結婚する?」
「ぶっ!? な、何を言い出すんですか!」
唐突な逆プロポーズにハジメは吹き出してしまった。
「それって何か変なこと?」
「変でしょ! 揶揄わないでくださいよ。 ドミナさんくらい綺麗なら引く手数多でしょ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、私の実情を知った上で言ってるんだったら怒るわよ?」
「実情なんて知らないですって! だって本当に綺麗だから」
「ありがと。 でもね、26歳にもなってくると焦りも出てくるのよ。 ハジメ君に結婚するか聞いたのは、焦ってるからじゃないけどね」
「え……?」
ハジメは意味深なドミナの発言を聞き流すことができず、思わずドギマギしてしまう。
「あのえっと、ドミナさんのそれが本気だったとしても……。 っていうか、あんまりそういうこと言わない方がいいですよ」
「どうして?」
「勘違いしちゃいますから」
「勘違いしてくれないの?」
上目遣いでハジメを見つめるドミナ。 ハジメが目を逸らそうとした時、彼女の口元がヒクついているのが見えた。
「いや、あの……って、ドミナさん笑っちゃってますから、もうアウトです」
「あら、バレちゃった」
テヘ、とでも言いたそうなドミナのあどけなさに、ハジメは更に鼓動を早めた。
「ホント勘違いしそうになるんで」
「したらいいんじゃない? お互い結婚してるわけでもないんだし」
「いや、でも」
「あ、好きな娘がいるって顔ね。 いいなぁ、お姉さん羨ましいなぁ」
「……ドミナさん、いい加減仕事の話をしてくれません?」
「ハジメ君が勘違いしそうになった理由を教えてくれたらね」
「そんなぁ……」
ハンターギルドにはちょうど人が少ないこともあって、ドミナの揶揄いを回避できる理由が見つからない。 なのでハジメは仕方なく彼女の遊びに付き合う。
「早く、早く」
「えっと、ドミナさんが綺麗なんで」
ドミナに急かされてその場凌ぎの回答をするハジメ。
「どのあたりが?」
「ど、どのあたり……!?」
捕まってしまった。
ドミナの遊びはエスカレートするばかり。 しかし彼女の真っ黒で大きな目に見つめられると、逃げ出すことは許さないという印象を叩きつけられる。
「えっと……その目、が」
「目? 色んな人に怖いって言われるんだけど」
「確かに最初見た時は怖かったですけど、今は綺麗って思います」
「本当に?」
更にハジメを下から覗き込んで大きく見開かれるドミナの両の目。 ハジメはその吸い込まれそうなドス黒さを半ば無視しつつ、真っ直ぐに彼女を見つめ続けた。
「どう、しました……?」
「ううん、ありがと。 じゃあ話の続きね」
「あ、はい」
(あれ? 終わった……?)
一連のやりとりにドミナは満足そうな顔をしただけで、唐突にそれは終えられた。
(終わったなら……いいのか? なんだろう、この……)
ハジメは弄ばれていることは理解しつつも、終わってしまうとそれはそれでもどかしい。 そんな複雑な気持ちが残ってしまった。
(ドミナさんの目はちょっと怖いけど、でも確かに気にはなるんだよな。 奥が深くて覗き込みたくなる、みたいな……?)
「ハジメ君はどこ分野で役に立てる? 前衛? それとも後衛?」
「説明が難しいんですが、後方支援寄りの前衛って感じですかね。 攻撃力は無いんですけど、動きを制限できる魔法を撃てるので」
「例えばどんなの?」
「当たれば質量が増大する魔弾ですね」
「ハジメ君って闇属性? それなら私と同じね。 性質は違うけど、教えてあげられることがあるかもね」
「俺はまだまだヒヨッコなんで、教えてもらえると助かります」
「でもそっか、闇属性か。 それならハンターの仕事じゃなくて私みたいに都市運営の仕事の方が安定してるわよ?」
「いずれ町を出るつもりなので、そっちはあんまり考えてないです」
「そう、それは残念。 じゃあ、そういう役割で人員を募集しているパーティなんかを探してみるわね」
「お願いします」
ハジメはパーティ単位の仕事を探しているとはいえ、それまでにまずは装備を充実するところから始めなければならない。 最優先は武器で、そのあとは防具だったり、《改定》で効果を吸い出せる魔導具あたりが候補として上がる。
「ぐ……ッ。 あれ……俺は何を……」
気づけばハジメは薄暗い室内のベッドに横たわっていた。 ここがどこかを思い出そうとしても、頭痛が邪魔して思考が回らない。
「ハジメ君、大丈夫……?」
少しすると、室内の扉が開いてドミナが現れた。 彼女はなぜか髪が濡れていて服装もバスローブのようなものを羽織っているのみだ。 それによって暗闇ながら彼女の白い肌が露出し、ハジメの視線を釘付けにする。
ハジメは訳がわからないが、そういえばシャワーのような音が聞こえていたこと思い至る。
「ドミナ、さん……? ここは……?」
「まだ酔ってる? ここは私の部屋で、ハジメ君と私の愛の巣」
「……え」
「覚えてないの?」
「覚えてない、って……。 何をです……?」
ぐわんぐわんと酩酊した視界の中で、ハジメは微かに記憶が戻ってきた。
(俺はギルドに行って……ドミナさんと話して……それからなぜか夕食に行くことになって、それで……)
「本当に覚えてないんだ? ちょっと寂しいわね」
ドミナは徐にベッド近づくと、半ば飛び込むようにしてハジメに覆い被さった。 その際ローブがはだけ、気づけば彼女の胸と先端の突起がハジメの眼前まで迫っていた。
「え、ちょ……!?ドミナさ──」
「んン……」
ドミナはハジメに唇を重ねた。
(え? なに? どういうこと?)
ハジメは頭の中がパニックになるが、気持ちの良い唇の感触を逃したくないという本能が抵抗する気力を失わせていた。
ドミナの舌が艶かしくうねり、ハジメの口内を優しく蹂躙する。
「ン……。 これでも覚えてない?」
ゆっくりとドミナが唇を離した。
二人の間にうっすらと唾液の線が掛かり、ドミナは無造作に自身の口元を手の甲で拭った。 その何気ない動きがなんとも情欲的で、ハジメの性は激しく刺激された。
「あは、すごく元気」
そう言われてハジメはようやく自身が裸なことに気がついた。 しかしその時にはドミナが羽織りをベッドのわきへと投げ捨ててハジメの胸の上にしなだれかかっていたため、もはや身動きができなくなってしまった。
胸に当たる二つの双丘がハジメの理性を外しにかかる。
「ドミナ、さん……」
ドミナは一瞬だけ唇を触れさせ、そのまま顔をハジメの隣へ。 彼女の熱い吐息がハジメの耳にかかると……。
「ハジメ君。 さっきみたいにさ……乱暴にしてくれていいよ?」
それが最後の関所を抜いた。
ハジメはガバッと身体を起こすと、ドミナを組み敷いて貪るように彼女の唇を奪った。
二つは一つへ。
ハジメは仰向けになったドミナの腰を掴み、彼女の内側を激しく抉る。
ドミナの嬌声も静止をかける懇願もお構いなしに、ハジメは野生的な動きを繰り返した。 動きに合わせてドミナの身体が跳ね、そして痙攣を繰り返す。
水音と肌の触れ合う音が絡み合い、ドミナの呻きは更に大きくなった。
背後から攻める段階では、ハジメはドミナをただひたすらに欲を叩きつけるための物のように扱い続けた。
途中まではドミナ優位の状況だったが、息をつく間さえも与えないハジメの猛攻により観念し、全てに身を任せることとなった。
「もうッ……だっ、だめぇ……! だめだか、らっ……ッ!?」
余裕のないドミナに、最後の一撃が加えられた。
ドミナを射殺す熱は極限まで膨張し、ついにその中身を溢れさせる。
欲の辿り着いた先は緊縛からの解放であり、数千万の迸りはドミナの内側を激しく叩き、ドミナの襞は収縮という返礼で以てそれらを全て飲み干そうと喉を鳴らす。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……ッ……」
「ぅ……あ゛、あ…………っ……はぁ、はぁ……」
ドミナは半ば白目を剥いて絶頂の快感に揺られ続け、ハジメはそんな苗に向けて一滴残らず熱を芯まで吐き出し続けた。
ずるり──。
引き抜かれたそれはダムの決壊を防ぐための堰であり、ハジメの形に押し広げられた秘所からは次々に熱せられた白が濁流のように溢れ始めた。 それでもドミナの内側は数千万の彼らを逃すまいと必死に口を閉じようとしている。
「あ……ぁっ……」
ドミナはしばらくしてからブルリと震えると、そこでようやく全身が弛緩した。 ドミナは玉のような汗を垂れ流しながら愛おしそうに下腹部を撫で、ハァと熱い吐息を漏らした。
なおも漏れ続けるハジメの残滓はドミナの肌を伝い、ベッドのシーツに染みを広げている。
ハジメはドミナの横でうつ伏せに気怠さを感じながら、ここでようやく今日のこれまでを思い出した。
ドミナから個人的な話を聞くという名目で商業区画の店へ夕食に連れて行ってもらい、そこでハジメは酒を摂取した。 何気なし飲んだそれだったが、この世界に来てから初めての酒であり、度数が異常に高かったこともあってハジメは一瞬で泥酔した。 そのままでは平民区画まで運ぶのが難しいということで、近くにあるドミナの部屋で一旦休憩することとなった。
話した内容は覚えていないが、感情的になったのは覚えていて、慰められているうちに男女の関係になっていた。
酔いの影響もあったのだろうが、大人の色香に当てられてハジメは理性を解放してしまった。 レスカとの口約束さえも忘れて。
「俺……ドミナさんに酷いことを……」
「大丈夫」
「すいません……」
「お互い気持ちよかったし、別に気にしないで。 それにしても二回目なのに随分出したね。 こんなすごい量だと妊娠しちゃいそう」
「せ、責任はとるので……!」
「大丈夫だって。 本当に妊娠なんてしないから」
「でも……! そんなこと分からないですよね?」
「分かるよ。 妊娠しそうならこんなことさせないし」
「……本当に?」
「ハジメ君は本当に心配性だね。 そんなに怖いなら出さないでしょ?」
「いや、あの、それは……」
「もう今日は遅いし、泊まっていきなさい。 明日帰ればいいから」
「俺、平民区画の腕輪なんですけど、大丈夫なんですか?」
ドミナに言われて断るどころか、別の心配をしている時点でハジメの思考力は未だ正常ではない。 もう一度抱かせてくれるんじゃないかという期待さえしてしまっている。
「大丈夫だから、まずは身体流そ?」
「え、あ、はい」
「ほら、おいで。 夜は長いし、流し終わったらまたするでしょ?」
「え、するん……していいんですか!?」
「ハジメ君、急に元気すぎ。 でも、今度は優しくしてね?」
妖艶な誘いに惑わされ、ハジメは性の衝動を抑える気さえ起きなかった。
翌日ようやく正常な思考を取り戻したハジメが深く後悔するのは言うまでもなかった。
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