出会いの季節

３月末日

 「久しぶり、元気？」
見りゃわかるだろ、なんて思いながらも私は優しく言葉を返した。
「まあ、元気だよ。珍しいね、こっちにいるの」
それは、元彼のと再会のシーン。
感動もしない、怒りが湧くわけでもなんでもない。
ただの元彼でしかない。
春が来るって言うのに、こんな面白みのない人間……。
私の中では、5年も前に終わったことだから思い出す何かもないし。
話すことも何も無いんだが。
「俺、結婚したんだよね。それで実家に帰ってきてて……」
なんか言ってた気がするけど、興味がなくて私は目的地に向かって歩き始めていた。
それでも話しかけるためついてくる元彼。
興味無い人間の結婚報告ほど嫌なものは無い。
特に、私の友達と浮気してた元彼の結婚報告。
こんなに興味のないことは中々ない。
それに、私は今大好きな彼に会うため急いでるんだ。
わざとヒールをカツカツと音が鳴るくらい雑に扱うしか出来なかった。
私はもうあの頃と違って、ヒールを履いても転ばない。
早歩きも出来る。

 「本当は会いに来たって言ったら、どうする？」
そんな意味のわからないことが聞こえてきたので、立ち止まって答えてあげた。
「私、彼氏いるから」
そう伝えたつもりだったの。

 なぜ私は、あの頃して欲しかったことを5年越しに。
なぜ、田舎にある無駄に広くて安いラブホテルで、元彼と過ごしているの。
初めての相手がこの人だったから、それが全てだと思っていた頃の私を思い出してしまう。

「痛いのに……」

今も昔も変わらない、前戯をしないとこ。