彼氏いるって言ってますよね？

やばい彼氏と俺どっちがいい？

 どっちも嫌です。
そう言って、私はその場から逃げ出した。
一人で飲んでいる私に声をかけてきた人、正直全くらない人だから付き合うとか無理だし。
やばい彼氏も別れられるなら別れてる。
ただ、逃げても見つかったら連れ戻され、愛とテクニックのどちらかがあれば幸せな行為であるはずのそれを強いられる。
愛もなければテクニックもない奴のそれは、ただの拷問である。

 ひとりで居酒屋のカウンターで飲むのはそんなに難しいことなのか、と少し悲しくなりながら、家に帰った。
せっかくの金曜夜。
嫌な気持ちで彼氏の待つ家に帰ってきた。
帰ったら電気がついてなくて、誰もいなくて。
天国に来た気分だった。
綺麗な白いフローリングには、奴の汚い毛が落ちているけど。
白くてふわふわな可愛い布団には、大量の血がついてるけど。
出窓には、私の下着が干されている。
「これのどこが天国よ……」

 きっと彼氏と別れて、実家に戻ればゆっくり生きていけることは分かる。
しかし、実家に戻っても助けてくれる人は残念なことに居ない。
両親は転勤のため東北に。
私は関東。
助けてくれる人がいるなら、私も今よりは楽に生きられるのかな。
無駄に血を出さず、無駄に泣かず、料理出しても文句言われず、気を使って私の洗濯物は外から見えないところに干してもらうとか。

 そんな妄想をしては、奴が帰ってきて、ぶち壊す。
私の体中にはアザがある。
アザと噛まれた傷、まだカサブタにすらなってない。
服が擦れる度に激痛が走る。
友達に見せたら、獣と付き合ってるの？って言われてしまった。

付き合いたては、優しかったんだよ。
何度この言葉を口にしたことか。
付き合いたては、優しいというかあちこちに連れていかれた。
未成年の私を、制服姿のまま深夜まで連れ回す。
車や先輩の家で無理やり犯す。
どこが優しいのか分からない記憶しか出てこないな……。

 もういっその事、奴が死ねば何事も解決するんじゃ？
私も一緒に死んだら、楽かもしれない。
そうだ、そうしよう。
帰ってきたら、まずは何か……。
ライターで炙る？
包丁でとりあえず刺す？
紐、は無いや。
お風呂貯めといて、そこに顔面から。
階段から突き落とす……。

 なんて考えていたけど、いざ帰ってきた奴を見たら怖くて何も出来ない。
それがここ半年くらいの私だ。
でもまあ、自分が変な人を恋人にしてしまったのが悪いから、自分で解決しないと。

 そんなことは無いと、今ならわかる。 
無理な時は無理だし、人を殺めてしまったらそこで自分の方が悪くなる。
時には誰かの力を借りるべき時もあるんだ。


もう少しで、4年。
ちゃんと終わったと思う。
思いたい。
二度と私が、おかしな考えをしないように。