心の休憩所

イベント事

七夕の動画

　今年も夏が始まろうとしている。
夏は正直好きじゃない。
でも、七夕が来るのは毎年楽しみにしている。
明日はいよいよ七夕当日。

　七夕を楽しみにしているのは、理由がある。
「お兄ちゃん、また今年も紅葉ちゃんの最新動画の更新待機するの～？　」
妹に話しかけられた通り、俺は毎年紅葉ちゃんの最新動画が投稿されるのを楽しみに待っている。
紅葉ちゃんは、名前と歌声しか晒していないので、どんな見た目とか、なにが好きとかも知らない。
そこがいいのだ。
余計な、なんていうのは違うが、最小限の情報だけで人の興味を引く彼女にいつからか好意を抱いていた。
世間で言う、ガチ恋ってやつだな。
　「兄ちゃんは今から過去の投稿を見返して、今日投稿されるである動画を楽しみに待つから邪魔しないでくれ」
そう言って、ヘッドホンをつける。
今の時刻は、午後十一時。
今から六本見ても日付が変わるまでには時間はある。

　これまでの投稿をすべて聞いてきたが、まだ時間は十一時四十五分。
少しだけ、紅葉ちゃんについて調べてみた。
［歌手　紅葉］
と入力してみても引っかかるのは彼女の動画だけ。
彼女は、一切露出をしていない。
いや、もしかするとどこかの配信者の別名義なのかも。
だとしたら、スレが立っていてもおかしくない。
なんて考えているとあと五分。
仕事中よりもパソコンと向き合っている気がするな。
今頃、紅葉ちゃんもパソコンをいじっていたりするのかな。


　
　私は、年に一度だけ動画を投稿している。
別に理由があって年一投稿なわけではない。
最初に投稿したのは、中三の頃。
親友とカラオケをしていた時に、歌声綺麗だからいつも歌っている曲をネットの海に投げてみたら、たぶん誰か朱音の事を凄いって言ってくれるよ！って、言われたのを鵜吞みにした。
学校から帰ってきて、何回かいつもカラオケで歌っている曲を練習した。
今日はのどの調子がいいので、スマホを外カメにして、お気に入りのぬいぐるみを映した状態にしてアカペラで歌ってみた。
なんとなくその動画を七夕の日に投稿してみると一つだけコメントがもらえた。
それはとても短い文章だったけど嬉しかったの。

　「また来年の今日、投稿されるのを待っています。」

　今年も七夕前日になった。
社会人になったので、仕事終わりに動画を取るのは無理だと思っていたので、先週のうちに撮った動画を確認する。
この曲、私が幼稚園に通っている頃だっけ。
ドラマか、映画になってからの曲で聞くと泣きそうになるんだよね。
私は願いを込めて動画をアップロードした。
いつか、一番最初の動画に感想をくれた人に直接ありがとうって言いたいな。
今も歌うのが好きなのはこの人のおかげだもん。