闇の深そうな話

致し

 好きな人とする行為が気持ちいと誰かが言っていた。
そういうものだと思っていたから、いざした時に何も感じなかった私はおかしいんだと思った。
不感症ってやつだと思った。
その次の相手は、とても気持ちよさそうで。
私よりも可愛くて、綺麗に乱れていたのを今でも覚えている。

 3人目の相手、2年ほど付き合った、自分史上最悪の元彼。
前歯はなくて、噛みグセがあって、ゴムつけると萎えるんだよね。
元カノとは、ゴムしないでしてたから。
だとか、あれこれ言われた。
Ｓな人が好き、みたいなことを言ったあとから、行為は痛みを伴うものになっていった。
腹痛と、体中のあざ。
噛まれたところの化膿。
血が付いた黒い布団。

 別れる決意をした時、彼は別の女を抱いた手で、私を抱いた。
ただでさえ痛い思いをしているのに、心にも痛みを？
そんなの耐えきれない。
そう思いながらも、別れるまで行為は続き、痛みは別れたあとも数年続いた。

 右肩は特に、今でも時々痛むくらいには酷く腫れ上がり、膿んで、下着の紐が当たるだけで激痛。
体中には青い小さなあざが無数にあった。
その姿は、支配を意味すると、誰かが言っていた。

 その出来事から数年。
未成年だった私も、社会に出て、あのころの彼の歳を追い越した。
もう間違えることは無いと、勘違いしていたのだろう。 
人生で二度目の、耐えきれぬ激痛が。
それは、運命などを無視した出会い方で、もしかしたら。
なんて思いながら行為を始めた瞬間。
辞めたいのに1度始まると終わらない。
着地点が分からず、もがき続ける。
嘘の音も聞こえないその人は、いつかのあの人と同じ目をしていた。

 私じゃなくて、誰かを見ながらするそれは、性行為だなんて呼べない。呼びたくない。
独りよがりだと言われても仕方の無いくらい、何をされても痛くて、泣くことも許されず。
ただじっと、それが終わるのを待つだけだった。
終わらないから、ストレス値がMAXになり、嘔吐してしまう。
ここまでになるのは初めてで、びっくりしてしまった。
体を痛めつけられることが、どれほど辛いことなのか。
相手には分からないだろうけれど、私はこのような出来事を繰り返さぬよう。
心に誓ったのだ。

 人体をわかっている人間ですら、そうなのだから。
契約書を交わす前の行為は辞めるべきと。