世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴

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生誕祝い編

32.パレード④

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「魔法のお店? 魔道具じゃなく?」
「うん。おばさん、知らない?」
「一般人は、魔法なんか使わないからねぇ」

 ロゼが向かったのは絹のハンカチを購入した店舗だ。丁度店仕舞いをしていた店主の女性に頼んで中に入れて貰うと、前置きなしに質問を投げかける。魔法に関する店があったら教えて欲しいと言ったのだが、店主は困惑して首を傾げている。

「公爵様って、凄い魔法使いなんでしょ?」
「そりゃあね。あんた達も、多少は知ってるんじゃないのかい」
「ちょっとは聞いたけれど」
「じゃあ、あれは知ってるかい? パレードの演出は毎年変わるんだけど、それには魔道具と魔法がふんだんに使われてるんだ」
「へえ、そうなのね」
「そうさ。それでね、その演出の魔法っていうのが、アルベルト様ただお一人でなさっているんだよ」
「……えっ?」

 それにはマーテルが瞬いた。

「去年、何もないところから一斉に花が咲いたって聞いたけど、それも?」
「ああ、そうだよ。あれは綺麗だったねえ、切り株みたいな馬車からね、蔓が伸びたと思ったら、それに色んな色のバラが咲いてね。同時に花弁も舞うんだもの、みーんな上を見上げたもんさ」

 店主は一度、ほぅ、と息を吐く。その瞬間を思い出しているようだが、どことなく恍惚としているように見えた。

「それを皮切りにあちこちで花が咲いて、蝶も飛んでね。その中に佇むリリアン様の美しさ……。ああ、とてもじゃないが、あたしには言葉にしきれないよ。とても幻想的でね、娘達は森からやって来た妖精姫だなんて言っていたけど、まさしくその通りだったよ」

 うっとりと言う店主は夢を見ているような雰囲気だ。そんなに綺麗な光景だったのか、くらいにしか思えないロゼとしては、あまりピンと来ない。

「花を咲かせる魔法を使ったってこと?」
「どうだろうね。あれだけあった花弁は、あとで見回しても地面に残ってなかったし、拾っても消えちまったって話だから、魔法で創り出したものだったんじゃないのかい」
「ふうん。そんな魔法があるんだ」

 だからロゼは、そういう感想しか出てこなかったのだが、ふとマーテルが完全に停止しているのに気付いた。マーテルならどういう魔法が使われたのか分かるかしら、とそっちの方を見たのだが、マーテルは目を見開いたまま一点を見つめ、何かを呟いている。

「花を咲かせて蝶を飛ばす……? どんな原理で? 属性は……?」

 様子を窺うロゼにも気付いていないようだ。よく分からないロゼよりも分からない事があるらしく、呆然としてしまっている。
 これはだめだな、と思ったロゼはマーテルは放っておいて、まだ余韻に浸っている店主へと向き直した。

「そんなに凄いのに、魔導書がないの?」
「あたしは聞いた事がないってだけだけど、どうかねえ」
「うわあ、そっかぁ~」
「ごめんよ、力になれなくて」
「ううん。急に訪ねてごめんなさい」

 ロゼが謝罪の言葉を口にすると、店主はもう一度「ごめんねぇ」と口にする。それでマーテルもはっとなって、謝罪を述べる。急に訪ねて妙な事を聞いたのはこちらなので、マーテルは萎縮し通しだ。それと同時に希望が絶たれてしまったのもあって、表情が強張ってしまう。
 店主はそれを目敏く見抜くと、ああ、と大仰に声を上げた。

「そうだ、こないだのお礼がまだだったね」
「お礼なんて、そんな。色々サービスして貰ったし」
「それはそれ、これはこれだよ。これはどうかね、冒険者じゃ邪魔になるかもしれないが、街にいる間には良いんじゃないかい?」
「これは……?」

 店主が引き出しから取り出したのは、青が特徴的なリボンだ。

「リリアン様のご友人に、服飾に造詣の深い方がいてね。その方がこの街で作って、リリアン様に贈られたっていう小物さ。まあ、本物じゃなく、同じ作りってだけだけどね。絹のリボンを使った髪留めだけども、いい色をしているだろう? この色が肝でね、とても珍しい染め方をしているそうなんだ」

 リボンは結ってあって、裏側に金具で伸縮性のある生地とを繋いである。そちらの生地もリボンも、独特な光沢を持っていた。やはり、これも絹のようだ。
 ただそれ以上に気になるのがリボンの色だ。深い青と、その合間合間とに紛れる緑がかった水色とが、なんとも言えない表情となっているのだ。
 見ようによっては、水色の部分だけ色が抜けているようにも見える。けれどもこのリボンは、その色の変化が面白い。絹の光沢のお陰か、褪色したようには見えなかったのだ。

「綺麗な色ね……」
「綺麗なんだが、この通り、色が安定しなくてね。本当は深い青色になるはずだったそうなんだ。売り物にするには不安定だから、これっきりなんだよ。お嬢ちゃん達にあげるよ」
「そんな貴重なもの、いいの?」
「貴重ったって、街の娘はみんな持ってるからね。これはその余りさ」

 あたしは使わないし、と店主が言ったのもあるので、二人はありがたく受け取る事にした。

「じゃあ、ありがたく」
「おばさん、ありがとう!」
「いいよいいよ。またいらっしゃい」

 笑顔で見送ってくれる店主に手を振りながら、ロゼとマーテルは来た道を引き返す。とてもいい店主の居る店だが、二人の持ち場のぎりぎりの範囲内なので、下手をすると戻れなくなる。それで持ち場の中央方面へ向かうことにした。

「ごめんマーテル、勘が外れたわ」
「ううん、いいの。代わりに素敵なものを貰えたし、ロゼの勘は当てにしてないしね」
「えっ、ちょっと!」
「ふふっ。冗談よ」

 髪型には合わせにくいので、貰った髪留めは手首に通している。青い制服と不思議なリボンとはなかなか調和しているように感じた。
 言い合いながら進めば軽口が出てくる。マーテルがもう落ち込んでいないようだったので、まあいいか、とそれ以上はロゼも気にしないようにした。
 マーテルが一族の復興を望んでいるのは知っているが、それを魔法でやろうとしているのは、ロゼには感覚として理解ができない。ロゼの育った環境には、魔法が存在しなかったからだろう。
 なのでそもそもロゼは、魔法と魔道具の違いさえよく理解していなかった。そういう身であれば、目新しいもので溢れた街は、歩いているだけで刺激がある。

「ねえ、魔法と魔道具って、なにが違うの?」
「魔法が奇跡を起こす過程を記したのが術式。で、それを書き込んだのが魔道具で、動力が魔石」
「原理は同じってわけ?」
「そうね。でも術式を組むにも書くにも、膨大な知識が必要になるわ。だから、誰でもできるってわけじゃないのよ」
「マーテルはできるんじゃないの?」
「わたしにはさっぱり。ただ呪文を書き込めばいいってだけじゃないのよね」
「ふうん」

 説明して貰っても、なんの事だかさっぱり分からなかった。が、魔法という奇跡で、ロゼ達を助けてくれるマーテルでさえ不可能なのだと言われると、とんでもない代物なんだという気がしてくる。それが溢れ返ったヴァーミリオン領は、やはりとんでもない場所なのだろう。

「その誰にもできるわけじゃない技術で作られたものが、この領にはたくさんあるってわけね」

 ロゼがそう言えば、マーテルは深く頷いた。

「そういう事。ランプは当然として、屋台で使われている焜炉コンロ氷冷庫ひょうれいこもそうね。一度にたくさん氷を作れる魔道具なんて、他にはないわ。あとは、あの荷車。あれにも動力があるはずよ」
「荷車なんて、ロバか馬に引かせればいいと思うけどね」
「動物ではいけない理由があるのかしらね」

 ともかく、本当に色々な魔道具があちこちで使われているのが分かる。それに使われている術式がどうで、組み上げるのにどういう系統の呪文がベースになっているか、というのを解説されそうになり、ロゼは早足でマーテルを引き離した。そういうよく分からない話を聞くのは、ロゼには苦痛だったのだ。
 慌ててロゼを追うマーテルだったが、周囲の様子が目に入り、すぐに名前を呼ぶ。

「ロゼ、待って! はぐれちゃう」
「なんか、人が増えてきたね」
「ええ、すごい人ね……確かにこんな中じゃ、動物だと困るかも」
「動物の方がかわいそうよね、もみくちゃにされるんだから。案外、それが理由だったりして」
「まさか」

 持ち場の中央の方は、パレードが通る街道へ向かう道だ。さっきまではがらがらだった通りが、今は人でいっぱいだった。
 ロゼとマーテルは持ち場を回る必要があるので、あまりそちらに近付かないようにしていた。が、次第に人が増えていき、あれよあれよと流されてしまう。

「ロゼ、持ち場から離れるのは」
「わ、分かってるけど、人の波がすごくて」

 そうこうしているうち、段々持ち場ではない通りに入ってしまった。二人は慌てて戻ろうとするがうまくいかず、仕方なく細い通路を目指す。

「すみませーん、ちょっと、通して!」
「通して下さい!」

 声を上げても、人垣が割れる気配がない。誰もが前方を注視していて、二人を気に留めたりはしていなかった。
 それでマーテルははっとする。視線を巡らせ時計塔を見れば、時刻はもう間も無く昼。パレードが始まる時間だ。

「ロゼ……! もうパレードが始まるんだわ!」
「えっ、もうそんな時間!?」

 それでこんなにも混雑しているのだ、と理解したはいいが、それが事態を変えるかというとそんな事はない。ますます人の密度は増えていきもみくちゃにされる。
 ロゼとマーテルはもう、進むべき方向を見失ってしまった。とにかく人の少ない方へ、と無我夢中で人を掻き分ける。
 まともに前も見えない状況だったので、ぽんっと人の波から這い出た時、薄暗い路地だった時は驚いた。あんなに華やかな街に、こんな裏があったとは。
 戻ろうかとも思ったが、またもみくちゃにされるのも嫌だったし、ろくに歩けないので、このまま路地を進む事にした。きっとどこかに通じているだろうし、とロゼが言えば、マーテルも頷く。
 二人の予想外だったのは、その路地が左右高い建物のまま、逸れる横道すらなくずっと続いていた事だ。途中何度か曲がりくねったりしていたのもあって、完全に自分達が今、街のどの辺りを歩いているのかも分からなくなってしまった。
 かなり進んでから、戻るべきかと何度も思いはしたものの、こうなってしまってはもう遅いからと進んでいく。二人の靴音だけが、路地に響いていた。
 更に進んだ頃、ようやく街の喧騒が遠くに聞こえるようになった。曲がった角の先では路地が途切れているのも見える。やった、とロゼとマーテルは顔を見合わせ駆け出した。
 だが、路地から飛び出た二人が見たのは、人の溢れる街道などではなく、見上げるほど高い壁だった。それが前方と左右とを完全に塞いでおり、人の通れる場所はない。
 二人が出たのは陽光の差す袋小路だったのだ。希望のはずの場所が絶望的なものだったので二人は愕然とする。
 落ち着いて考えれば、普通に引き返せばいいだけだ。それなりの距離を歩いたが体力が尽きたわけでも怪我をしているわけでも、追われているわけでもない。だがロゼとマーテルは、任務中に持ち場を離れてしまったこと、肝心のパレードに任をこなせそうにないという事に呆然としてしまい、引き返すという選択肢が頭から抜けてしまった。それでただ壁を見上げている。

「……あら?」

 ロゼとマーテル以外に誰も居ないはずの空間で、第三者の声がした。
 驚いてそちらを見れば、高い壁から人影が出て来るところだった。よくよく見れば壁の窪んでいる箇所、そこに扉があったらしい。そこから人影が二つ、こちらへ向かってくる。
 人影はフード付きのコートを着ていて、ロゼ達よりも小さい。先程の高い声から少女なのだろうと予測がついた。その後ろには同じコートを羽織った女性がいる。険しい目付きで、ロゼらを値踏みしているのが見て分かった。少女から一歩下がって歩いているので、女性は従者かなにかなのだろう。
 壁から出てきた二人が何者なのか分からず、ロゼとマーテルに緊張が走る。
 そんな中、少女が口を開いた。

「もしかして、迷ったのかしら?」
「ええっと」
「は、はい。あたし達今年が初めてで、それで」

 そうなのね、と返す少女は、フードを深く被っているせいで容姿がわかり辛い。だが言葉遣いと立ち振る舞いからして高貴な人物に違いなかった。自然、ロゼ達の動きはぎこちなくなる。
 それに少女がくすりと笑った。鈴の音のような軽やかささえある声は、絶望的なはずの袋小路に響くと、不思議とロゼとマーテルの気持ちを落ち着かせていく。
 少女はロゼ達の様子を気にする素振りすら見せず、二人を見比べるようにすると、困ったように頬に手を添えた。

「そうなのね。でも大変。ここは今、立ち入りが禁止されているの。警邏の本隊の人も、本当なら入れないのよ」
「えっ!?」
「す、すみません! すぐに出て行きます」

 単に路地の先だから人が居ないのだと思ったのだがそうではないらしい。慌てて来た路地に飛び込もうとしたが、そんな二人を少女が呼び止める。

「ちょっと待って。……シルヴィア、この方達を通りに案内してあげてちょうだい」
「ですが」
「大丈夫よ、ここからは動かないから」
「……承知しました」

 なんと少女は自らの従者に道案内をさせようとしたのだ。
 これにはロゼもマーテルも目を剥く。従者の様子からして、少女は高貴な身分で間違いない。祭りに参加しに来た貴族の娘としか思えず、そんな人物の手を煩わせるなど、生粋の庶民である二人からすると畏れ多い。
 それに、従者が命令に意を唱えたのも気にかかる。主人から離れたくないのだという態度が透けて見えたのだ。

「あの、行く方向さえ分かれば、それで十分ですので」
「それは駄目よ。また迷ってしまうわ。シルヴィアはね、街を熟知しているの。だからこの方がきっと早いわ」

 マーテルが固辞したもののばっさり切り捨てられてしまう。いいのかな、とロゼはちらりとシルヴィアと呼ばれた従者を見たが、射抜くような強い視線を返されただけだった。これはきっと、これ以上ごちゃごちゃ言わず、さっさとこの場を離れろと、そう言いたいのだろう。
 それで諦めて、ロゼ達は大人しく少女に従う事にした。

「あの、ありがとうございます」
「良い旅を」

 礼を言い、頭を下げれば、少女は笑顔で見送ってくれる。
 手を振る少女の袖口からは、輝かんばかりの白いドレスが覗いていた。



◆◆◆



 木製の扉がキィ、と音を立てるのを拾ったリリアンは後ろを振り返る。そこから顔を出したのは思った通り、眉を寄せる父だった。

「リリアン、もういいだろうか? そろそろ準備に入りたいんだが」
「ええ、もう戻ろうと思っていたところです」

 リリアンは被っていたフードをぱさりと外す。不足の事態に備え、衣装や髪を汚さないようにとコートを羽織っていたのだが、それが功を奏した。誰も居ないはずの場所に警邏隊の制服を着た者がおり、彼女らに見つかってしまったのをやり過ごせたのだから。
 もうすぐパレードが始まる時間だ。その直前になって、少しだけ街の様子を知りたいと言ったリリアンに、アルベルトは何も言わず、この場所を準備してくれた。
 父は知っているのだ、リリアンが、今か今かと待つ領民の喧騒を、パレードの準備を進める音を、遠くからそっと聞くのが好きなのだという事を。
 領民達がこれだけ騒ぐのは期待しているからだ。だから誰もが飾り付けをし、飲食をし、隣人達とおしゃべりをしてその瞬間を待つ。パレードの準備をする者達は、自分達がその行いに携われるのを喜び、成功させる事に心血を注いでいる。只中にある時にそれらは感じ取り難い。客観的に聞いて、それでようやく実感できる。それを感じ取れる時間はリリアンにとっては貴重で、だからこうして壁の向こう側にそっと出るのだ。
 もしもがあるといけないので正体を隠す意味でも、コートは重要になってくる。それで羽織るようになったのだが、正直なところ意味があるとは思えなかった。が、今年はこれが初めて役に立った。
 制服を見た時はひやりとしたが、彼女達はリリアンを知らなかったようで騒ぎ立てたりしなかった。それに安堵する。きっと遠くからやって来た冒険者なのだろう。
 その姿を思い出すと、リリアンはどうしても頬が緩んでしまう。それをアルベルトは目敏く見付けた。

「嬉しそうだな」
「ふふっ。ええ、思いがけないものを見つけたので。なんだか嬉しくなってしまったの」
「そうなのか」

 リリアンが嬉しげなので、釣られてアルベルトの気分も向上していく。自然と笑みが浮かび、ふっと口角が上がった。
 高い壁のせいで薄暗い袋小路の、薄っすら日が差す中での光景である。パレードの為に完璧に磨き上げられ仕上がったリリアンの髪は、僅かな光だけでもきらきらと輝いた。気力が満ち溢れるアルベルトもそれは同様で、しかもきっちりとパレード用の衣装を着込んでいる。ただ薄茶色なだけの壁と薄暗さが相乗効果をもたらし、二人の姿は浮かび上がって見えた。
 その様子はまさしく一枚の絵のようであったのだが、誰にも見られることはなかった。もっとも、柔らかな光を放つリリアンの姿だけは、きっちりアルベルトの記憶に刻まれたが。
 一方でリリアンは今しがた見たものを克明に思い出していた。

「魔石染め、でしたかしら? 染めに失敗したと言って、セレスト様が肩を落としていたリボンを頂いたのを思い出したの」
「ああ、あのまだらの……リリアンは気に入っていたようだが」
「ええ。だって不思議な色だったんだもの。髪を纏めるのに使ったら、セレスト様が怒ったような、悔しいような顔をされて。綺麗なのだから使わないと勿体無いと言ったのに、それでまた怒ってしまって」
「無礼な娘だ」
「均一に染めたかったようでしたから」

 それは、マーメイドドレスを作ってすぐの事だ。形状もさる事ながら色も素晴らしいと話題になったはいいのだが、素材として使用する魔石が粉末でも高価なので、なかなか受注にまで結びつかなかった。そこでリリアンが、ヴァーミリオン領の職人を使い、染めの研究をしてはどうかと勧めた。セレストは戸惑いながらも了承し、セレストの父、シュナイダーの承諾もあって研究が始まったのだ。
 何度目かの挑戦で、ようやく安価な素材で色が定着したそうなのだが、結果は惨敗。染まりはしたものの色が出ず、良い生地を台無しにしてしまったとセレストが持ち込んだのが、件のリボンだ。
 あのマーメイドドレスとは似ても似つかない青。所々色が淡くなってしまい、廃棄するのだと言われ、リリアンは思わず「勿体無いわ」と漏らしてしまった。
 そうして嫌がるセレストを無理矢理納得させ、リボンを譲り受けた。今思えば、あのリボンはオーロラの色にも似ている。セレストはすっかり忘れているようだが、リリアンにとってあれは失敗でもなんでもない。自分の勧めに乗ってくれたセレストの、かけがえのない成果なのだ。
 それから幾度か同じまだら色の生地が出来てしまい、それは工房の判断で領民に下げ渡された。染みのようだから不出来だ、嫌だとセレストは言っていたようだが、色の変化は様々で見ていて飽きない。それに、意図せずできた斑点模様は自然の度し難さを表しているかのようで好ましいと評価されていた。
 販売は絶対にしないという条件付きで、領民の間にだけ僅かに流通するリボン。彼女達がどういう経緯で手にしたかは分からないが、気に入って貰えるといいな、とリリアンは思った。

「……良い旅を」

 シルヴィアと警邏隊の二人が入って行った路地に向かい、リリアンは呟く。アルベルトが窺うようにしていたのに微笑みを返すと、なんでもないの、とだけ言って、扉を潜った。
 大好きなもので溢れる大好きな街のため。リリアンはコートのボタンを外した。
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