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1巻
1-3
「リリアンが望んでいるのに、やらないとでも言うのか」
(――そ、その理屈はなんなの!?)
マルロの頭に咄嗟にそんな考えが浮かんだが、アルベルトの噂の真相を目の当たりにした彼女には、すぐにそれが当然の主張のように感じられた。
なにせ机の上に乗る小さな織物に、白金貨を積むような男だ。
これがヴァーミリオン家の当然なのだろう。
ならばマルロはサートス伯爵夫人として、それに向き合わなければならない。
「や、やります。せっかくおいでいただいたのに、なんの収穫もなしでは、リリアン様にも申し訳ありません」
マルロはぎゅっと扇を握り締めると、リリアンをまっすぐに見つめる。その瞳には確かな覚悟があった。
そこまでの視線を送られては、リリアンも頷くしかない。
「お父様」
リリアンは父親を振り返る。
マルロの厚意を受けるように言うつもりだったが、アルベルトはリリアンが呼んだ声でその意図を汲んだらしい。目が合うと、アルベルトはリリアンへ向けて微笑んでいた。
どうやらマルロの提案は了承されたようだ。
ほっと胸を撫で下ろすマルロだったが、すぐにはっとなる。
このサンプルがどれ程貴重なのかをマルロは良く知っている。作り手を捜す手掛かりが存在するのかどうかさえ分からない。
こちらで頷いておいて何もできませんでしたでは、アルベルトは納得しないに違いない。
マルロは急いで従者と商人を呼び、すぐに相談を始める。リリアンらへの挨拶もそこそこに、マルロは慌ただしく去っていった。
その背中を見送るリリアンは、これで良かったのかしら、と首を傾げたくなる思いだ。
(もし職人が見つからなくても、夫人には代わりの織物を頼みましょう)
内心そう決めたリリアンに、アルベルトが手を差し出す。
「私達も帰ろう、リリアン。やることができてしまった」
「ええ」
そう答えはするが、リリアンはなぜかその手を取らなかった。
どうしたことか、と首を傾げる父親をリリアンは見上げる。
「それはそうと、お父様」
その表情はどこか険しい。責めるような、そんな風にさえ見えた。
短時間のうちにリリアンがそんな風になる理由に思い当たるものがなく、ますますアルベルトの困惑は深まる。
だがリリアンは、アルベルトの困惑など見えていないように、ずばりと言い切った。
「人にものを頼むには、相応の態度があるでしょう。サートス伯爵夫人へのあの言いようは、どうかと思います」
リリアンにそう言われ、アルベルトは決まり悪げに視線を逸らしたのだった。
◆
マルロはアルベルトの依頼を了承したものの、サートス伯爵家ではレプリカの制作者の所在は掴めなかった。前任の管理者に問い合わせても、その前の管理者から引き継いだだけだから、としか返答がない。
ヴァーミリオン家で集めた情報も似たようなものだった。こちらは国外まで探ったが、目ぼしい情報は上がってこない。きちんと調べがつくまでは、もう少し時間が掛かるだろう。
ただマルロの方は、近い風合いの赤の絨毯を見たと話す商人を見つけていた。後日、アルベルトのもとに送られてきた報告書には、その絨毯を見たという屋敷の情報が書かれていた。
これだけでは、収穫とは呼べない。そのことにアルベルトもレイナードも眉を寄せる。
何しろリリアンに何も渡せていないのだ。
バザーから帰った時は楽しそうだったが、数日するとまた、リリアンは物思いに耽るようになった。
その姿から、レイナードとアルベルトは同じ考えに至る。
「父上。やはりあの織物でなくてはだめなのでは」
「だろうな。いや、そうに決まっている」
二人は同時に報告書に目を落とした。その報告書はマルロからのものとは別のもので、ヴァーミリオン家で作成されたものだ。
それを持ち込んだ従者のベンジャミンも、情報の共有という名目で呼ばれた侍女のシルヴィアも、内容を把握している。
喪失したという、オルオポリス織りの製造方法。それを探れば探るほど、あまりにも自然な流れで消えていたのだ。
まず、オルオポリス織りの人気が出たために模倣品が横行した。それらは質の悪いものばかりだったので取り締まりが強化され、正規品には、品質の保持のために出荷制限と受注の制限がかかった。
そうなると何が起こるか。価格の異常な高騰だ。店頭でまともに買えないので、購入先は主にオークションになる。価格は消費者が勝手に吊り上げていった。中には絨毯一枚と、それを使う豪邸とが同じ価値、というものまで出てしまった。
早くからオルオポリス織りの製造と販売には国が介入していたが、人気は留まるどころか加速した。
そのうちに敷物一枚を目当ての強盗事件が起きてしまったから大変だ。犯人は捕まって正当な処罰を受けたが、その事件を不安視する声も多かった。同じ事件がまた起きるのではないかという不安だ。その心配はもっともだろう。
そんな中、機織りの工場で大きな火災があり――技術も、在庫も、何もかもが燃えてしまった。
国が事業を復興させようとしたが、職人に口伝でしか技術が伝えられていなかったこと、火事の際に製造に関わった者達が散り散りになったことから、うまくいかずに頓挫したそうだ。
その後、いくら復興させようとしても、その度に問題が起きて失敗が続いた。あまりにも頻繁に問題が起きるものだから、ついに断念せざるを得なかった。
「職人達が意図的に技術を失わせたか」
「おそらくは」
アルベルト達は、調査結果からそのように結論づけた。理由は様々だが、あまりに失敗が続いているのが偶然とは思えず、その失敗の原因に作為的なものを感じ取ったのだ。
そうなると話が違ってくる。何かしらの意図をもって技術を伝えなかったとなると、足跡を追うのは難しいが、その辺りの事情から探れば、製造者を捜す糸口くらいは見つかるかもしれない。
「サートス家の報告書にあった、近い風合いの赤の絨毯というのを確認してみよう」
アルベルトはマルロからの報告書を手にするとそう言った。
それにレイナードが息を吐く。
「報告書によれば、持ち主は高位の貴族からの接触を避けているようですが」
「そんなことは分かっている」
「……では、どのように」
「方法などいくらでもある」
そう言い切るアルベルトの姿に、レイナードは顔を顰めた。
「……無作法な真似はあまり感心しません」
「必要とあれば、手段を選んでいる場合ではない」
「それは、そう、ですが」
「だったらやるの一択だ。なぜならこれは現在、我が家で最も優先される事柄だからな」
アルベルトはにやりと笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。
「リリアンのためだ。躊躇うことなど何ひとつない。可愛いリリアンのためだからな」
そうですか、という言葉のあと、思わずレイナードは目を細めて「今、同じことを二回言いましたね」と漏らすのだった。
◆
王都ミリールから二時間ほどの町の、とある商家の屋敷の前に豪奢な馬車が停まったのは、昼を前にした頃である。
大きな机を前にする商家の女性――カミラのもとへ、店番が慌てたようにやってきた。
「当主付きの執事と名乗る方が、責任者にお会いしたいと」
カミラが詳しく聞いてみれば、馬車はこの区域にあまり見ない様相で、家の紋章が入っていなかったという。
身分を隠したいどこかの貴族のものだろう。当主付きの執事だという男は、この屋敷が商家のものであるということを知ってやってきたのだ。
店番からの話でそう判断したカミラは、仕方なく席を立った。その際に傍らに立つ秘書の男性に目を向ける。
この商家の実際の経営は、この秘書の手によるところが大きい。
(どういった話かは分からないけれど。彼にも同席してもらった方がいいわね)
カミラはそう考え、秘書と共に執事という男の話を聞くことにした。
年若い女性であるカミラは、商談の席になると侮られることが多い。それも秘書を伴う理由のひとつだった。
カミラはブランケットを羽織ると、階下へ下りていく。
「お待たせしました」
商談を行う応接間でカミラが声を掛けた相手は、白髪の老人だった。
「お時間をいただきありがとうございます。私はベンジャミンと申します」
彼はカミラを認めると、立ち上がって丁寧にお辞儀をする。それでカミラは、ベンジャミンと名乗った老人は教育の行き届いた貴族の使いなのだろうとあたりを付けた。
立ち上がった老人は想像よりもがっしりとした体格をしており、カミラの目には座っていた時の印象よりも若々しく見えた。また、隙のない目付きや顔付きのわりに、とっつき難い雰囲気はなく、重厚な雰囲気の役人か軍人のように感じた。
ベンジャミンの挨拶を受け、カミラも会釈を返す。
「私が代表のカミラと言います。こちらは、私の秘書です。同席をお許しください」
「承知いたしました」
カミラが席を勧め、向き合うと、ベンジャミンは「早速ですが」と切り出す。
「当家の主人が、是非にと願っているものがございます。こちらでしか取り扱っていないとのことですので、伺いました」
「それでわざわざ? 失礼ですが、どちらからのご依頼でしょう」
カミラが名乗っても、話を切り出しても、ベンジャミンはどこの家の者かは言わなかった。
自身の名を言うばかりのベンジャミンに、カミラは警戒せずにいられない。身元の分からない相手に取引を持ち掛けられ、それに乗る商人は、普通いないからだ。
店の者が紅茶を運んで来てもそれを手に取らず、ただぴしりと姿勢を正すだけのベンジャミンは、問い掛けには答えずに、カミラが思ってもいなかったことを告げた。
「オルオポリス織り、それによく似たものがこちらにあるとか」
カミラはひゅっと息を呑む。秘書も、同時に雰囲気を固くした。
ベンジャミンが口にしたその名前は、カミラ達にとって特別なものだからだ。
カミラの中で警戒心が高まる。
「それは……一体、どういう」
「当家のお嬢様が、かの織物をとても気に入られまして。ですが、その織物はもうすでに手に入らない。技術も、それを受け継ぐ者も喪失してしまったとか」
「そう、なのですか」
「ええ」
ベンジャミンはなんでもないことのように続ける。
「こちらの屋敷の織物は、オルオポリス織りとよく似た意匠なのだそうですね。それを知った主人が、是非、織物を購入させてもらいたい、と」
カミラは黙ってそれを聞いていた。
普通なら商機と見ても良さそうな話だが、ベンジャミンの話の中の「かの織物に良く似たものがある」という言葉、これを肯定できないカミラは、どのように言うべきかを考える。
下手に言って興味を持たれたくはない。そう考えたカミラがちらりと秘書を見れば、彼も硬い表情でこちらを窺っている。
(だから言ったのよ。家の者しか入らない所ならともかく、他人の目に触れるような場所にあの織物を置くべきではない、と)
カミラはここにはいない、伯母を恨めしく思った。
それを思ってもなんの解決にもならない。ともかくカミラは言葉を選んで、相手の興味を削がねばならなかった。
「申し訳ありませんが、そういった織物は、うちでは取り扱いがございません」
「そうなのですか? この部屋の絨毯は、まさにその『よく似た織物』のようですが」
ベンジャミンが足元に視線を落とす。
応接間の絨毯は、毛足の長い贅沢なものだ。
客人を招き入れ、商売の話をするのに、みすぼらしいものでは体面が悪い。
だからここには良い絨毯を敷いているが、オルオポリス織りによくある特徴は含んではいない。
どういう意図でそう言い出したのか分からず訝しんでいるカミラに、ベンジャミンは視線を戻した。
「この赤は、オルオポリスとほとんど同じに見えます」
「……!」
ベンジャミンは、ほぼ断言していた。どうやってかは知らないが、現物を見たことがあるのではと、カミラがそう思うほどの口調だ。
分かりやすく動揺してしまったカミラは、ぎゅっと膝の上で手を握る。
カミラには、この御仁の相手は、荷が重い。
その実感はカミラの動揺をさらに激しいものにした。
「……申し訳ありません。こちらのものは、先代がどこからか入手したもので、私も由来は存じ上げないのです」
微かに震えた声でカミラはそう告げたのだが、ベンジャミンの様子には変化は見られない。
「おや、そうなのですか」
「ええ。それに、かの織物についても、それに似たものについても、私にはなんのことか……」
「それは残念です」
言葉とは裏腹に、ベンジャミンは残念そうな態度も、執着するような素振りも見せなかった。
どう足掻いても、カミラではベンジャミンがどこの家の者かを聞き出すことはできなそうだ。それだけの場数の違いをカミラは感じる。
カミラがベンジャミンから目を逸らせずにいると、秘書が「失礼します」と断って、カミラに耳打ちをした。もちろんふりだけだ。こういう場を切り上げるための、よくある手段である。
ベンジャミンは不機嫌になることもなく、その様子を見ている。
カミラは秘書に頷いてみせてから、ベンジャミンに向いた。
「申し訳ありません。実は、このあと、他の商談がございまして」
暗にこれ以上は付き合わないというカミラの言葉に、ベンジャミンは「ああ」と呟いた。
「それは仕方がありませんね。残念ですが、これで失礼致します」
「ええ」
ベンジャミンはさっと立ち上がって、一礼して去って行く。それを秘書が送っていった。
カミラは、なんだったの、と思わずにいられなかったが、狼狽えている場合ではない。テーブルに載った紅茶をぐいっと飲み干すと、カミラは使用人に急いで使いを出すように指示をした。
「ワーゲンおじ様と、あとは伯母様にも。急いで来てくださいと伝えて」
「かしこまりました」
カミラが使用人共々慌ただしくしていると、秘書が戻ってきた。彼は眉間に皺を寄せて難しい顔をしているが、カミラも似たようなものだった。
「困ったわ。どこの誰かしら。かなり高位の家のように見えたけど」
「お見送りの際に馬車を見ましたが、見当がつきません。ああいった方は身の隠し方もご存じのようですね」
秘書の言葉に舌打ちをしたくなる思いで、カミラは顔を顰めた。
カミラはそこそこの商家の代表ではあるが、爵位のある身ではない。そんな彼女の立場では、通常関わりがないくらい地位の高い家ではないだろうかと感じたが、実際のところどうなのかは分からなかった。
それよりも、と焦った様子でカミラは秘書を振り返る。
「ばれていると思う?」
「どうでしょう、まだなんとも」
「用心に越したことはない、か」
カミラは視線を下げる。その先にあるのは、赤い絨毯だ。それはこの家を象徴するものと言っても過言ではない。
これは何よりの財産であるが、一方で何よりも厄介の種であることは間違いなかった。それを思ってカミラの口からは、自然とため息が溢れる。
「ともかくおじ様達に相談するしかないわね」
だが、あの姦しい伯母がなんと言うだろうかと考えると、カミラは頭が痛くなってくる。
(おじ様達が揃う前に、途中の書類を仕上げて……いえ、それよりも、まずは手紙ね)
カミラは重い足取りで、一度部屋に戻った。
◆
その屋敷の屋根に人影が現れたのは、夜もずいぶん遅い時間のことだった。高い壁をよじ登って来たとしか思えないその影は、少しの間ゆらゆらと揺れると、ふいに姿を消した。狙いを定めた窓のひとつに向かって下りていったのである。
月明かりに浮かぶ影は男性のものだった。彼は窓枠を嵌め込むための出っ張りに足をかけると、両開きになっている窓の中央に手をかざす。
中に人の気配はないから、もちろんそこは施錠されている。引いても押しても開くことはない。
それを確認したように、男は一旦窓から手を離した。
するとどうしたわけか、手が離れたと思うと、キィと僅かな音を立てた窓が外側へ向かって開いた。開いた隙間から、男はするりと室内へ入っていく。
たふ、と毛足の長い絨毯に、男の靴底が触れた。毛足が長い絨毯は靴音を消してはくれるが、足跡がつくから、下手を打てば痕跡を残すことになる。
もっとも、対策をしているので男はそんなことは気にしていない。男が何を気にして足元を見ているかと言えば、それはその絨毯そのものに他ならなかった。
その絨毯は細かな紋様を織り込んだ上等なもの。
毛足が長いと必然的に原材料を大量に使うから高価になるが、さらにそこに様々な色の毛糸を使い、これだけの図案を織るとなると、その価格は跳ね上がる。
腕の良い技術者が相当な時間をかけて作るそれは、生半可な値段では流通しない。
男は周囲に誰もいないのを確認すると室内を進み、僅かに扉を開いた。
廊下にも人気のないことを確認すると、男は部屋を出た。その廊下にも、あの絨毯が敷き詰められている。月明かりに照らされる中、それを見ると、男はそっと口角を上げた。
男――アルベルトは確信した。己の推測は正しかったのだ、と。
アルベルトはひたりと目的のドアの前まで辿り着くと、そこでしゃがむ。木製の扉に掌を当てて、目を瞑って集中した。するとアルベルトの耳には、部屋の中の会話が届いてくる。
まず聞こえたのは、「どういうことなの」と叫ぶ女の声だった。
◆
「どういうことなの。詳しく話してちょうだい!」
きんきんと響く伯母の声に、カミラはこめかみを押さえた。
「今から説明するから。まずは、静かに聞いてくださる?」
さっきからそう言っているのに、伯母はいちいち突っかかってくる。
お陰で話が進まないと言わんばかりに、カミラはそのままこめかみの辺りを揉みほぐす。
唯一残った肉親とはいえ、癖の強い伯母は、カミラの頭痛の種だった。
カミラの要望通り、貴族の使いを名乗ったベンジャミンがやって来た次の日の夜。カミラの伯母のマルガレーテと、血縁関係にはないが、カミラの一族とは深い関わりのあるワーゲンがやって来た。
ワーゲンは眼鏡を外し、深い皺が刻まれた目元を揉みほぐしている。温和で歳と経験を重ねた彼は、カミラにはいい相談相手だった。
二人とも予定がある中、すぐに駆け付けてくれたことは有難いが、マルガレーテのヒステリックな声にカミラは顔を歪める。
気色ばむマルガレーテとは対照的に落ち着いた様子のワーゲンは、眼鏡を掛け直すとカミラの言葉に頷いてみせる。
「昨日の昼間、来客があって、それが絨毯を検分していた。そして、『オルオポリス織り』の名前を出した。手紙にはそうあったのだけれど」
「ええ、その通りよ、ワーゲンおじ様」
カミラは頷く。
その頷きに「それで?」と繋げたのはマルガレーテだった。
「まさかとは思うけれど。オルオポリスとこの家の絨毯が同じだ、とでも言ったの?」
伯母はそう続けたが、その顔には焦りとも取れる表情が浮かんでいる。
それはワーゲンも同じで、丸い眼鏡を何度も掛け直して、カミラの言葉を待っている。
「はっきりと、断言はしていなかった。けど……」
カミラはぎゅっと唇を噛んだ。
「どうしてかは分からない。でもなんだか、同じものなのだという、確信があるように見えたわ……」
マルガレーテもワーゲンも、愕然としたように脱力して、椅子にもたれ掛かった。俯いてしまっているカミラにも分かるくらいだったから、きっとカミラが思っている以上に驚いているのだろう。
三者の重苦しく吐いた息が重なる。
(――そ、その理屈はなんなの!?)
マルロの頭に咄嗟にそんな考えが浮かんだが、アルベルトの噂の真相を目の当たりにした彼女には、すぐにそれが当然の主張のように感じられた。
なにせ机の上に乗る小さな織物に、白金貨を積むような男だ。
これがヴァーミリオン家の当然なのだろう。
ならばマルロはサートス伯爵夫人として、それに向き合わなければならない。
「や、やります。せっかくおいでいただいたのに、なんの収穫もなしでは、リリアン様にも申し訳ありません」
マルロはぎゅっと扇を握り締めると、リリアンをまっすぐに見つめる。その瞳には確かな覚悟があった。
そこまでの視線を送られては、リリアンも頷くしかない。
「お父様」
リリアンは父親を振り返る。
マルロの厚意を受けるように言うつもりだったが、アルベルトはリリアンが呼んだ声でその意図を汲んだらしい。目が合うと、アルベルトはリリアンへ向けて微笑んでいた。
どうやらマルロの提案は了承されたようだ。
ほっと胸を撫で下ろすマルロだったが、すぐにはっとなる。
このサンプルがどれ程貴重なのかをマルロは良く知っている。作り手を捜す手掛かりが存在するのかどうかさえ分からない。
こちらで頷いておいて何もできませんでしたでは、アルベルトは納得しないに違いない。
マルロは急いで従者と商人を呼び、すぐに相談を始める。リリアンらへの挨拶もそこそこに、マルロは慌ただしく去っていった。
その背中を見送るリリアンは、これで良かったのかしら、と首を傾げたくなる思いだ。
(もし職人が見つからなくても、夫人には代わりの織物を頼みましょう)
内心そう決めたリリアンに、アルベルトが手を差し出す。
「私達も帰ろう、リリアン。やることができてしまった」
「ええ」
そう答えはするが、リリアンはなぜかその手を取らなかった。
どうしたことか、と首を傾げる父親をリリアンは見上げる。
「それはそうと、お父様」
その表情はどこか険しい。責めるような、そんな風にさえ見えた。
短時間のうちにリリアンがそんな風になる理由に思い当たるものがなく、ますますアルベルトの困惑は深まる。
だがリリアンは、アルベルトの困惑など見えていないように、ずばりと言い切った。
「人にものを頼むには、相応の態度があるでしょう。サートス伯爵夫人へのあの言いようは、どうかと思います」
リリアンにそう言われ、アルベルトは決まり悪げに視線を逸らしたのだった。
◆
マルロはアルベルトの依頼を了承したものの、サートス伯爵家ではレプリカの制作者の所在は掴めなかった。前任の管理者に問い合わせても、その前の管理者から引き継いだだけだから、としか返答がない。
ヴァーミリオン家で集めた情報も似たようなものだった。こちらは国外まで探ったが、目ぼしい情報は上がってこない。きちんと調べがつくまでは、もう少し時間が掛かるだろう。
ただマルロの方は、近い風合いの赤の絨毯を見たと話す商人を見つけていた。後日、アルベルトのもとに送られてきた報告書には、その絨毯を見たという屋敷の情報が書かれていた。
これだけでは、収穫とは呼べない。そのことにアルベルトもレイナードも眉を寄せる。
何しろリリアンに何も渡せていないのだ。
バザーから帰った時は楽しそうだったが、数日するとまた、リリアンは物思いに耽るようになった。
その姿から、レイナードとアルベルトは同じ考えに至る。
「父上。やはりあの織物でなくてはだめなのでは」
「だろうな。いや、そうに決まっている」
二人は同時に報告書に目を落とした。その報告書はマルロからのものとは別のもので、ヴァーミリオン家で作成されたものだ。
それを持ち込んだ従者のベンジャミンも、情報の共有という名目で呼ばれた侍女のシルヴィアも、内容を把握している。
喪失したという、オルオポリス織りの製造方法。それを探れば探るほど、あまりにも自然な流れで消えていたのだ。
まず、オルオポリス織りの人気が出たために模倣品が横行した。それらは質の悪いものばかりだったので取り締まりが強化され、正規品には、品質の保持のために出荷制限と受注の制限がかかった。
そうなると何が起こるか。価格の異常な高騰だ。店頭でまともに買えないので、購入先は主にオークションになる。価格は消費者が勝手に吊り上げていった。中には絨毯一枚と、それを使う豪邸とが同じ価値、というものまで出てしまった。
早くからオルオポリス織りの製造と販売には国が介入していたが、人気は留まるどころか加速した。
そのうちに敷物一枚を目当ての強盗事件が起きてしまったから大変だ。犯人は捕まって正当な処罰を受けたが、その事件を不安視する声も多かった。同じ事件がまた起きるのではないかという不安だ。その心配はもっともだろう。
そんな中、機織りの工場で大きな火災があり――技術も、在庫も、何もかもが燃えてしまった。
国が事業を復興させようとしたが、職人に口伝でしか技術が伝えられていなかったこと、火事の際に製造に関わった者達が散り散りになったことから、うまくいかずに頓挫したそうだ。
その後、いくら復興させようとしても、その度に問題が起きて失敗が続いた。あまりにも頻繁に問題が起きるものだから、ついに断念せざるを得なかった。
「職人達が意図的に技術を失わせたか」
「おそらくは」
アルベルト達は、調査結果からそのように結論づけた。理由は様々だが、あまりに失敗が続いているのが偶然とは思えず、その失敗の原因に作為的なものを感じ取ったのだ。
そうなると話が違ってくる。何かしらの意図をもって技術を伝えなかったとなると、足跡を追うのは難しいが、その辺りの事情から探れば、製造者を捜す糸口くらいは見つかるかもしれない。
「サートス家の報告書にあった、近い風合いの赤の絨毯というのを確認してみよう」
アルベルトはマルロからの報告書を手にするとそう言った。
それにレイナードが息を吐く。
「報告書によれば、持ち主は高位の貴族からの接触を避けているようですが」
「そんなことは分かっている」
「……では、どのように」
「方法などいくらでもある」
そう言い切るアルベルトの姿に、レイナードは顔を顰めた。
「……無作法な真似はあまり感心しません」
「必要とあれば、手段を選んでいる場合ではない」
「それは、そう、ですが」
「だったらやるの一択だ。なぜならこれは現在、我が家で最も優先される事柄だからな」
アルベルトはにやりと笑みを浮かべ、椅子から立ち上がる。
「リリアンのためだ。躊躇うことなど何ひとつない。可愛いリリアンのためだからな」
そうですか、という言葉のあと、思わずレイナードは目を細めて「今、同じことを二回言いましたね」と漏らすのだった。
◆
王都ミリールから二時間ほどの町の、とある商家の屋敷の前に豪奢な馬車が停まったのは、昼を前にした頃である。
大きな机を前にする商家の女性――カミラのもとへ、店番が慌てたようにやってきた。
「当主付きの執事と名乗る方が、責任者にお会いしたいと」
カミラが詳しく聞いてみれば、馬車はこの区域にあまり見ない様相で、家の紋章が入っていなかったという。
身分を隠したいどこかの貴族のものだろう。当主付きの執事だという男は、この屋敷が商家のものであるということを知ってやってきたのだ。
店番からの話でそう判断したカミラは、仕方なく席を立った。その際に傍らに立つ秘書の男性に目を向ける。
この商家の実際の経営は、この秘書の手によるところが大きい。
(どういった話かは分からないけれど。彼にも同席してもらった方がいいわね)
カミラはそう考え、秘書と共に執事という男の話を聞くことにした。
年若い女性であるカミラは、商談の席になると侮られることが多い。それも秘書を伴う理由のひとつだった。
カミラはブランケットを羽織ると、階下へ下りていく。
「お待たせしました」
商談を行う応接間でカミラが声を掛けた相手は、白髪の老人だった。
「お時間をいただきありがとうございます。私はベンジャミンと申します」
彼はカミラを認めると、立ち上がって丁寧にお辞儀をする。それでカミラは、ベンジャミンと名乗った老人は教育の行き届いた貴族の使いなのだろうとあたりを付けた。
立ち上がった老人は想像よりもがっしりとした体格をしており、カミラの目には座っていた時の印象よりも若々しく見えた。また、隙のない目付きや顔付きのわりに、とっつき難い雰囲気はなく、重厚な雰囲気の役人か軍人のように感じた。
ベンジャミンの挨拶を受け、カミラも会釈を返す。
「私が代表のカミラと言います。こちらは、私の秘書です。同席をお許しください」
「承知いたしました」
カミラが席を勧め、向き合うと、ベンジャミンは「早速ですが」と切り出す。
「当家の主人が、是非にと願っているものがございます。こちらでしか取り扱っていないとのことですので、伺いました」
「それでわざわざ? 失礼ですが、どちらからのご依頼でしょう」
カミラが名乗っても、話を切り出しても、ベンジャミンはどこの家の者かは言わなかった。
自身の名を言うばかりのベンジャミンに、カミラは警戒せずにいられない。身元の分からない相手に取引を持ち掛けられ、それに乗る商人は、普通いないからだ。
店の者が紅茶を運んで来てもそれを手に取らず、ただぴしりと姿勢を正すだけのベンジャミンは、問い掛けには答えずに、カミラが思ってもいなかったことを告げた。
「オルオポリス織り、それによく似たものがこちらにあるとか」
カミラはひゅっと息を呑む。秘書も、同時に雰囲気を固くした。
ベンジャミンが口にしたその名前は、カミラ達にとって特別なものだからだ。
カミラの中で警戒心が高まる。
「それは……一体、どういう」
「当家のお嬢様が、かの織物をとても気に入られまして。ですが、その織物はもうすでに手に入らない。技術も、それを受け継ぐ者も喪失してしまったとか」
「そう、なのですか」
「ええ」
ベンジャミンはなんでもないことのように続ける。
「こちらの屋敷の織物は、オルオポリス織りとよく似た意匠なのだそうですね。それを知った主人が、是非、織物を購入させてもらいたい、と」
カミラは黙ってそれを聞いていた。
普通なら商機と見ても良さそうな話だが、ベンジャミンの話の中の「かの織物に良く似たものがある」という言葉、これを肯定できないカミラは、どのように言うべきかを考える。
下手に言って興味を持たれたくはない。そう考えたカミラがちらりと秘書を見れば、彼も硬い表情でこちらを窺っている。
(だから言ったのよ。家の者しか入らない所ならともかく、他人の目に触れるような場所にあの織物を置くべきではない、と)
カミラはここにはいない、伯母を恨めしく思った。
それを思ってもなんの解決にもならない。ともかくカミラは言葉を選んで、相手の興味を削がねばならなかった。
「申し訳ありませんが、そういった織物は、うちでは取り扱いがございません」
「そうなのですか? この部屋の絨毯は、まさにその『よく似た織物』のようですが」
ベンジャミンが足元に視線を落とす。
応接間の絨毯は、毛足の長い贅沢なものだ。
客人を招き入れ、商売の話をするのに、みすぼらしいものでは体面が悪い。
だからここには良い絨毯を敷いているが、オルオポリス織りによくある特徴は含んではいない。
どういう意図でそう言い出したのか分からず訝しんでいるカミラに、ベンジャミンは視線を戻した。
「この赤は、オルオポリスとほとんど同じに見えます」
「……!」
ベンジャミンは、ほぼ断言していた。どうやってかは知らないが、現物を見たことがあるのではと、カミラがそう思うほどの口調だ。
分かりやすく動揺してしまったカミラは、ぎゅっと膝の上で手を握る。
カミラには、この御仁の相手は、荷が重い。
その実感はカミラの動揺をさらに激しいものにした。
「……申し訳ありません。こちらのものは、先代がどこからか入手したもので、私も由来は存じ上げないのです」
微かに震えた声でカミラはそう告げたのだが、ベンジャミンの様子には変化は見られない。
「おや、そうなのですか」
「ええ。それに、かの織物についても、それに似たものについても、私にはなんのことか……」
「それは残念です」
言葉とは裏腹に、ベンジャミンは残念そうな態度も、執着するような素振りも見せなかった。
どう足掻いても、カミラではベンジャミンがどこの家の者かを聞き出すことはできなそうだ。それだけの場数の違いをカミラは感じる。
カミラがベンジャミンから目を逸らせずにいると、秘書が「失礼します」と断って、カミラに耳打ちをした。もちろんふりだけだ。こういう場を切り上げるための、よくある手段である。
ベンジャミンは不機嫌になることもなく、その様子を見ている。
カミラは秘書に頷いてみせてから、ベンジャミンに向いた。
「申し訳ありません。実は、このあと、他の商談がございまして」
暗にこれ以上は付き合わないというカミラの言葉に、ベンジャミンは「ああ」と呟いた。
「それは仕方がありませんね。残念ですが、これで失礼致します」
「ええ」
ベンジャミンはさっと立ち上がって、一礼して去って行く。それを秘書が送っていった。
カミラは、なんだったの、と思わずにいられなかったが、狼狽えている場合ではない。テーブルに載った紅茶をぐいっと飲み干すと、カミラは使用人に急いで使いを出すように指示をした。
「ワーゲンおじ様と、あとは伯母様にも。急いで来てくださいと伝えて」
「かしこまりました」
カミラが使用人共々慌ただしくしていると、秘書が戻ってきた。彼は眉間に皺を寄せて難しい顔をしているが、カミラも似たようなものだった。
「困ったわ。どこの誰かしら。かなり高位の家のように見えたけど」
「お見送りの際に馬車を見ましたが、見当がつきません。ああいった方は身の隠し方もご存じのようですね」
秘書の言葉に舌打ちをしたくなる思いで、カミラは顔を顰めた。
カミラはそこそこの商家の代表ではあるが、爵位のある身ではない。そんな彼女の立場では、通常関わりがないくらい地位の高い家ではないだろうかと感じたが、実際のところどうなのかは分からなかった。
それよりも、と焦った様子でカミラは秘書を振り返る。
「ばれていると思う?」
「どうでしょう、まだなんとも」
「用心に越したことはない、か」
カミラは視線を下げる。その先にあるのは、赤い絨毯だ。それはこの家を象徴するものと言っても過言ではない。
これは何よりの財産であるが、一方で何よりも厄介の種であることは間違いなかった。それを思ってカミラの口からは、自然とため息が溢れる。
「ともかくおじ様達に相談するしかないわね」
だが、あの姦しい伯母がなんと言うだろうかと考えると、カミラは頭が痛くなってくる。
(おじ様達が揃う前に、途中の書類を仕上げて……いえ、それよりも、まずは手紙ね)
カミラは重い足取りで、一度部屋に戻った。
◆
その屋敷の屋根に人影が現れたのは、夜もずいぶん遅い時間のことだった。高い壁をよじ登って来たとしか思えないその影は、少しの間ゆらゆらと揺れると、ふいに姿を消した。狙いを定めた窓のひとつに向かって下りていったのである。
月明かりに浮かぶ影は男性のものだった。彼は窓枠を嵌め込むための出っ張りに足をかけると、両開きになっている窓の中央に手をかざす。
中に人の気配はないから、もちろんそこは施錠されている。引いても押しても開くことはない。
それを確認したように、男は一旦窓から手を離した。
するとどうしたわけか、手が離れたと思うと、キィと僅かな音を立てた窓が外側へ向かって開いた。開いた隙間から、男はするりと室内へ入っていく。
たふ、と毛足の長い絨毯に、男の靴底が触れた。毛足が長い絨毯は靴音を消してはくれるが、足跡がつくから、下手を打てば痕跡を残すことになる。
もっとも、対策をしているので男はそんなことは気にしていない。男が何を気にして足元を見ているかと言えば、それはその絨毯そのものに他ならなかった。
その絨毯は細かな紋様を織り込んだ上等なもの。
毛足が長いと必然的に原材料を大量に使うから高価になるが、さらにそこに様々な色の毛糸を使い、これだけの図案を織るとなると、その価格は跳ね上がる。
腕の良い技術者が相当な時間をかけて作るそれは、生半可な値段では流通しない。
男は周囲に誰もいないのを確認すると室内を進み、僅かに扉を開いた。
廊下にも人気のないことを確認すると、男は部屋を出た。その廊下にも、あの絨毯が敷き詰められている。月明かりに照らされる中、それを見ると、男はそっと口角を上げた。
男――アルベルトは確信した。己の推測は正しかったのだ、と。
アルベルトはひたりと目的のドアの前まで辿り着くと、そこでしゃがむ。木製の扉に掌を当てて、目を瞑って集中した。するとアルベルトの耳には、部屋の中の会話が届いてくる。
まず聞こえたのは、「どういうことなの」と叫ぶ女の声だった。
◆
「どういうことなの。詳しく話してちょうだい!」
きんきんと響く伯母の声に、カミラはこめかみを押さえた。
「今から説明するから。まずは、静かに聞いてくださる?」
さっきからそう言っているのに、伯母はいちいち突っかかってくる。
お陰で話が進まないと言わんばかりに、カミラはそのままこめかみの辺りを揉みほぐす。
唯一残った肉親とはいえ、癖の強い伯母は、カミラの頭痛の種だった。
カミラの要望通り、貴族の使いを名乗ったベンジャミンがやって来た次の日の夜。カミラの伯母のマルガレーテと、血縁関係にはないが、カミラの一族とは深い関わりのあるワーゲンがやって来た。
ワーゲンは眼鏡を外し、深い皺が刻まれた目元を揉みほぐしている。温和で歳と経験を重ねた彼は、カミラにはいい相談相手だった。
二人とも予定がある中、すぐに駆け付けてくれたことは有難いが、マルガレーテのヒステリックな声にカミラは顔を歪める。
気色ばむマルガレーテとは対照的に落ち着いた様子のワーゲンは、眼鏡を掛け直すとカミラの言葉に頷いてみせる。
「昨日の昼間、来客があって、それが絨毯を検分していた。そして、『オルオポリス織り』の名前を出した。手紙にはそうあったのだけれど」
「ええ、その通りよ、ワーゲンおじ様」
カミラは頷く。
その頷きに「それで?」と繋げたのはマルガレーテだった。
「まさかとは思うけれど。オルオポリスとこの家の絨毯が同じだ、とでも言ったの?」
伯母はそう続けたが、その顔には焦りとも取れる表情が浮かんでいる。
それはワーゲンも同じで、丸い眼鏡を何度も掛け直して、カミラの言葉を待っている。
「はっきりと、断言はしていなかった。けど……」
カミラはぎゅっと唇を噛んだ。
「どうしてかは分からない。でもなんだか、同じものなのだという、確信があるように見えたわ……」
マルガレーテもワーゲンも、愕然としたように脱力して、椅子にもたれ掛かった。俯いてしまっているカミラにも分かるくらいだったから、きっとカミラが思っている以上に驚いているのだろう。
三者の重苦しく吐いた息が重なる。
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