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領地編
18.思い出の選考会はとても激しくて②
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そうして迎えたパーティー当日は、晴天に恵まれた。招待状を手にヴァーミリオン領へとやってきた馬車は、全部で五十ほどだった。ごく個人的な催しの参加者としては多い方だろう。ただそれも、全てが入場できればの話だ。門を潜り屋敷へと入るのに、馬車止めで止められる者が数多くいた。
「なぜだ。この通り招待状を持っているだろう!」
叫ぶ男に、公爵家の使用人が対峙する。
「こちらは当家が用意したものではございません。そのようなものを持参する方をお通しするわけには参りません。お引き取り下さい」
「なんだと! これが偽物だとでも言うのか」
「その通りです。特殊なインクを使用しているので、本物であれば反応があるのですが、この書状にはそれがありません。これは偽物です」
「そ、そんな……!」
「お引き取りを」
そんなやり取りのある後ろでは、別の家門の馬車を覗いた使用人が首を横に振っている。
「招待状をご覧になりませんでしたか」
「どういう意味だ?」
「過度な手土産はご遠慮下さいとお知らせしております。これは、明らかに過度と言える範囲でございます。該当する方はお帰り頂いております」
「たかが手土産でか?」
「旦那様のご意向でございますので」
「くっ……!」
主催者の意思であるならば従う他ない。まさか屋敷に入る前に追い返されるとは思っていなかったのか、あるいは融通が利くとでも思っていたのか。それは定かではないが、同じようにして馬車から降りるとすぐまた馬車に押し込められ、そのまま帰って行く者が大勢出た。中には、本来の招待客が急病で来られない為に代わりに来たと言う者も居たのだが、それらは迅速に帰らされた。宛名と違う人物が招かれようというのは論外だろう。
最終的に三十ほどの家門が残っただろうか。それでも友人候補となる令嬢とその両親とが揃えばそれなりの人数となる。会場に一同に集まれば、さながら舞踏会のようだった。主役となる令嬢があまりに幼く女子ばかりではあったが、どの子もぴかぴかの衣装を纏っていて王都の舞踏会さながらの華やかさがあった。
集まった顔触れを見ると、実に様々な爵位の家門が揃っているのが分かる。爵位の高い家があるのは当然の事として、子爵家や男爵家までもが会場にいるのに驚く者も多かった。なにせ、相手はあの筆頭公爵家のヴァーミリオンだ。位の低い家に声を掛けているとは思わなかったのだろう。
そんな中では、やはり身分の低い者は肩身が狭い。レンブラント家のミオラルは、いつもの活発さを引っ込めて、両親と共に端の方で小さくなっていた。
「ああ、来てしまった。胃が痛い……どうしてこんな事に」
「あなた、せめて姿勢は崩さないでちょうだい。ミオラルが不安がるわ」
「すまない……無理そうだ」
「あなた……」
ミオラルの父親が背中を丸めた。母親は、そんな父親を気遣っている。
綺麗なドレスを着せられ、ミオラルが連れて来られたのは大きな大きなお屋敷。見るもの全てがきらきらしていて眩しい。床も天井もぴかぴかで、こんなに綺麗なものを見た事なんてなかったミオラルは、両親に言われていたにも関わらず思わずあちこちを見回してしまった。前を見ていなかったからうっかり転びそうになり両親を青褪めさせたけれど、周りにそういう子は何人もいたから、そう目立ってはいないと思う。
その後通されたこの大きな部屋は更にきらきらしていた。ぴかぴかのテーブルがいくつも並んでいて、そこには美味しそうなお菓子がたくさん。案内してくれたメイドから好きなだけ食べていいのだと言われて、多くの子がテーブルに駆け寄っていった。ミオラルもそうしたかったが、我慢した。母親が強くミオラルの手を引いて、テーブルから遠ざかったからだ。
ミオラルは両親がこの状況を望んでいないのを察していた。だから出来るだけじっとしていたが、どうしてもテーブルの上が気になる。
「母さま。あっちのテーブルにいきたい」
「ミオラル、だめよ。我慢して」
「でも……」
他の子は好きにお菓子を頬張っているのに。美味しそうなお菓子を口に運んだ子は、みんな満足そうに口の端を上げている。色とりどりの綺麗なケーキは、どんな味がするんだろう。ミオラルはそう思ったけれど、仕方なく諦めた。でもここに来るまで時間がかかっていたせいで喉が渇いている。それだけはどうにかしたい。
「のど、かわいたの」
「……しょうがないわね」
母親はそう言って、近くに居た使用人に声を掛ける。使用人はミオラルをちらりと見ると、丁度いい温度のミルクを用意してくれた。一口含むと、とっても甘くて美味しい。思わずごくごく飲んでいるとふと視線を感じた。それでカップを下ろしたら、意地悪そうな子が、ミオラルの前に立っていた。
なんだか嫌な感じがする。その子は、にやにやとした顔でミオラルを見ていたのだ。好意的にはとても見えなかった。
「どうしてきぞくでもない子が、ここにいるの?」
ミオラルは瞬いた。その子は本当に嫌な子だったらしい。
「きいているの? なんでここにいるのかって、そうきいているじゃない」
「なんで、って……」
ミオラルがここに居るのは、公爵家から招待されたからだ。それを今更、説明する必要はないだろう。ミオラルは五つになったばかりだが、目の前にいる子は同じくらいに見えた。体の大きさもさほど違わない。違うのは、その子が身に着けているものが、ミオラルのものより格段に輝いている所か。ミオラルのドレスはリボンやレースくらいしか付いていないが、その子のドレスにはそれに混じって、宝石が縫い付けてある。お金持ちなんだろうな、と思ったが、その子が『貴族』でミオラルはそうではない事までは、まだ幼い彼女には分からなかった。
とにかく事情を言う他ないと、ミオラルはそのままを口にする。
「うちに、招待状がきたのよ。リリアンさまのお友達を探すのですって。だからきたの。あなたもそうじゃないの?」
「まあ! わたしにそんな口をきくの? なんて恥知らずなの!」
だと言うのに、その子は突然そんな事を言い出すから、ミオラルは目を丸くした。
「どうして?」
「あなた、わたしが誰なのかわからないの? ああ、しょみんだもの、わからないわよね。わたしはね、ベラハ侯爵家の一人娘よ!」
その子はそう言って、ふふんと胸を張った。
ミオラルは『ベラハこうしゃくけ』というのを知らないが、この子はミオラルが『しょみん』だという事を知っているらしい。その事は純粋にすごいと思う。どうやって知ったのだろうか、それが気になる。
「いい? リリアンさまは、公爵家のかたよ。とても〝とうとい〟の。しょみんのあなたなんかが、近づいていいかたじゃないのよ。ぜーんぜんふさわしくないんだから!」
ミオラルが黙っているのをいい事に、その子はぺらぺらと喋っている。そのうちその声を拾ったのか、周囲の大人達がひそひそと囁き合うのが目に入った。その大人達の態度から、このやり取りがどうやら歓迎されていないとミオラルは察したが、ベラハ侯爵家のその子は喋るのを止めない。ミオラルにはどうしようもなくて、両親に視線を向けたが、その両親も青い顔でぼうっとしてしまっている。それでようやく、相手の子が逆らえない立場なのだとミオラルは理解した。
けれど、両親に出来ないのに、ミオラルにこの状況をどうにかするなんてよっぽど無理だった。それでこれ以上その子を怒らせないように、黙って俯く。
よく分からないが、とにかくこの場にミオラルが居るのが気に入らないらしい。だったら帰るべきなのかも知れないが、そもそもミオラルがここに居るのは、その〝とうとい公爵家〟に呼ばれての事だ。それをこの子は分かっているのかしら、と内心ミオラルは首を傾げる。
「だから、リリアンさまのお友達はわたしがなるの! あなたなんか選ばれないわ。いいから帰りなさい!」
ぼうっとしている間に、その子は何かを結論付けたらしい。びしっとミオラルを指差してそう言い放った。突然の大きな声に驚いたミオラルはびくりと肩を揺らしたが、その子は恐怖に慄いたのだと勘違いしたらしい。ふん、と鼻を膨らませて得意気な顔をしている。大人達はただそれを静観するばかり。どうするべきか分からなくて、ミオラルは眉を下げるしかなかった。
「おやめなさい、みっともない」
そこへ、静かな声が割り込んで来た。ベラハ侯爵家のその子もミオラルも驚いて、声の方向へ向く。そこに居たのは綺麗な女の子だった。
「リヴィルさま。その方は、ヴァーミリオン公爵家に招かれてここにいるのですよ」
「……シャロン」
その女の子をシャロンと呼び、ベラハ侯爵家のリヴィルは分かりやすく表情を歪める。あまり仲が良くないのが見て取れた。
「招かれたからには、立場は関係ない。そう思うでしょう?」
「そうかしら」
「そうでなければならないと、わたくしは思うわ」
「あなたの意見なんて、きいてないわ!」
シャロンの登場で、リヴィルは更に声を荒らげる。が、シャロンは慣れているのか、睨み付けるリヴィルには目もくれず、ミオラルに視線を移す。その目はミオラルを気遣うような、優しいものだった。
「ね、あっちでお菓子を食べましょ。わたくしたちのために用意されたのですって。頂かないとそれこそ〝ふけい〟だわ」
「ちょっと、シャロン!」
「リヴィルさまは、どうぞあちらへ。わたくしたちなんかとは、一緒にいたくないみたいだから」
そう言って、シャロンはミオラルの手を引いて促した。ミオラルはそれに大人しく従う。ちょっと強引だが、彼女はミオラルを気遣って連れ出してくれたのだ。
「ありがとう」
少し遠い所のテーブルまでやって来ると、シャロンが手を離した。くるりと回ってこちらを向いたので、ミオラルは一言お礼を言う。
シャロンは、くすりと笑んでいいのよ、と首を横に振った。
「気にしなくていいわ。リヴィルさまってああなの。自分が一番じゃないといやなのよ。子供よね」
ちらりとシャロンの視線を追うと、癇癪を起こして泣き叫んでいるリヴィルの姿があった。多分シャロンは、リヴィルのああいう所が嫌いなのだろう。なんとなくそんな感じがした。
それ以上リヴィルの事には触れず、ミオラルは思うまま、テーブルの上のお菓子に手を伸ばす。どのお菓子も今まで食べた中で一番美味しかった。見た目もとても綺麗で、食べてしまうのが勿体無いくらいだ。ひとつひとつ、大事に食べていると、くすりというシャロンの笑い声が聞こえた。
「あなた、名前は?」
「ミオラル……ミオラル・レンブラントよ」
「わたくしはシャロン・トラウルというの。ねえ、よかったら友達にならない?」
「……いいの?」
シャロンの言葉にミオラルは瞬く。それと言うのも、シャロンもリヴィルに引けを取らないくらい、上等なドレスを着ていたからだ。いや、ひょっとしたらそれ以上かも。ドレスもその他の装飾品も豪華だし、シャロン自身にもどことなく品がある。
それに、さっきちらりと両親を見たが、二人は誰かを相手に深々とお辞儀をしていた。女性の方はシャロンと同じ髪の色をしていたから、きっとあれはシャロンの両親なのだろうなと検討がつく。その二人も気品のある佇まいで、しかも着ている服も高価そうだ。多分、シャロンも『貴族』なのだろう。
そう聞けば、シャロンはその通りなのだと頷いて、破顔した。
「そうなの。うちは侯爵家で、あれはわたくしのお父様とお母様。自慢の両親よ」
「わたしの父さまと母さまも、じまんのりょうしんよ」
「ふふ。そうなのね」
「うん!」
きちんとミオラルの話を聞いてくれるシャロンは優しい。さっきのリヴィルとは大違いだ。
「シャロン……さまは、リヴィルさま、とはちがうのね。おんなじ『侯爵家』なんじゃないの?」
ミオラルがそう言うと、シャロンは肩を竦める。
「リヴィルさまのお家はね、爵位がすべてって考えかたなの。でも、爵位にかかわらず、ゆうしゅうな人もいるわ。ミオラルさまのご両親みたいにね。そういう人には〝けいい〟を払うべきだと、わたくしの両親はそう考えているの。だからリヴィルさまの家とは、仲がわるいのよ」
「ふうん?」
シャロンの言った事は難しくて、ミオラルには所々が理解出来なかった。でもシャロンはリヴィルみたいに嫌な感じがしない。ミオラルを助けてくれた事もそうだし、なによりミオラルの両親の事も褒めてくれた、ように思う。
「わたし、シャロンさまとお友達になりたい」
その言葉にシャロンが瞬く。そして、すぐに笑顔に変わった。
「よろしくね」
「うん!」
力いっぱい頷けば、シャロンの笑顔は更に深いものになって、ミオラルも釣られて笑顔になる。
話してみて分かったが、シャロンとミオラルはとても良く気が合った。ミオラルは大商会のレンブラント家の一人娘で、両親は彼女を熱心に教育した。そのお陰もあって、ミオラルは侯爵家のシャロン相手でも受け答えがしっかりできた。ミオラルの年齢でそれが出来るのは、彼女が賢いからだ。下手に爵位があって賢くないよりもずっといい。
シャロンは、高位の貴族ながら柔軟な考えを持つトラウル家に相応しく、爵位の無いミオラルを悪く言ったりしなかった。ヴァーミリオン公爵家が選んだ相手を蔑むなどあってはならないという事を、よく理解しているのだ。
これこそが、彼女らが招かれた理由である。
「ミオラルさまは普段なにをして過ごしているのか、おしえてくださる?」
「うん。でもね、『ミオラル』でいいのよ。わたしたち、お友達でしょう?」
「……そうね、ミオラルの言うとおりだわ。じゃあ、わたくしのことも『シャロン』と呼んで」
「わかった。じゃあ、シャロンのこともおしえてね。好きな遊びはなあに?」
秘め事を囁くように言い合う二人は微笑ましい。恐縮していたミオラルの両親も、鷹揚に笑っていたシャロンの両親も、その姿に頬を綻ばせる。思いがけない良い出会いに巡り会えたようだ。喜ばしい事だと、大人達は顔を見合わせた。
◆
「やはり、リリアン様のご友人は競争率が高いようね」
会場を一回りし、夫人はそう呟いた。
「これはまたと無い機会よ。いいことパメラ、なんとしてでもレイナード様とお近付きになるのよ」
「ええ、分かってますわお母様」
パメラと呼ばれた娘はにやりと口角を上げる。
「絶対に、レイナード様の婚約者になってみせるわ」
レイナードは筆頭公爵家の嫡男で、しかも第一王子のマクスウェルとは年も近く親しい。立場もさる事ながら、本人の能力も高いという噂の彼は、国内でも指折りの優良株なのだ。そんな彼の婚約者はまだ決まっていない。
出身だけでも充分魅力的ではあるのだが、彼は令嬢達から絶大な人気を集めている。パメラがやる気なのはそのせいだ。
(レイナード様のお顔を間近で見られるのなら、なんだってするわ!)
つまり、顔が良いのだ。
パメラがレイナードを見たのは一度きり、それもかなり距離があった。それでもパメラはレイナードに夢中になった。
太陽の明かりに透けてきらきら輝く金の髪。空よりも澄んでいる瞳はガラスみたい。微笑みは無かったけれど、きゅっと閉じられた口元は凛々しさを強調していてパメラ好みだった。
何よりもその面差し。他の男の子達と違って、レイナードはとても大人っぽい。パメラの幼馴染のトーマスなんて、わざわざパメラの嫌いな虫を捕まえては顔の前に出して、嫌がる様子を楽しむ嫌な子だ。あれだけ大人っぽいレイナードなら、そんな意地悪はしないだろう。
会場に居る子の中には、パメラと同じ様に、最初からリリアンではなくレイナード目当てでやって来た令嬢もいるようだ。あちこちから似たような囁きが聞こえる。
パメラはそんな子達を鼻で笑った。そんな、ちょっと噂で聞いただけの彼女達とは違う。パメラは本人を見た上で彼の隣を望んでいるのだ。そんな心構えでいるのはパメラだけだろう。だからレイナードに会いさえすれば、選ばれる自信があった。
「レイナード様、待っていて。パメラが参りますわ」
パメラは、ひたすらレイナードの登場を待っていた。
◆
できるだけ粗相の無いように、と配慮した結果、子爵と伯爵は無事会場に辿り着くこととなった。正直な所追い返されてもいいと、半ば投げ槍な気持ちでヴァーミリオン領へとやって来たのだが。あれからどうにも自信が持てなくて、結局伯爵の知人である他の家門にも相談を持ちかけた。その結果、どうやら実に無難な判断となったらしい。ほんの気持ちばかりの手土産を受け取った公爵家の使用人は、丁寧に彼らを案内した。そうして二つの家族は会場へと足を踏み入れる。
「なんだこれは……」
「王城より広い……」
伯爵は、その会場の調度品に。子爵はまずその規模に、目を丸くする。彼らの奥方もまたぽかんとして、出入り口から動けずにいた。
初めて訪れたヴァーミリオン領の屋敷は、まず門から規模が違った。見上げるほどに巨大な門を潜ると、そこから屋敷に着くまでしばらく馬車に揺られなければならなかった。娘が飽きてぐずった頃、ようやく馬車止めが見えてくる。煌びやかな馬車が多く留まるそこにはこれまた立派な噴水があり、馬車もたくさん並んでいた。普通、これだけ馬車が多いとかなりの時間待たされるが、ものの数分で済んだのは驚きだ。よほど使用人が優秀なのだろう。そう思い馬車の外を見ると、普通のパーティーの三倍以上の使用人が行き交っていた。しかも全員動きが素早い。優秀なのだろうと想像がつく。これだけの貴人を招くとなると確かに人手が必要だろう。だが、これだけの人数の教育が行き届いているというのは、さすがは公爵家としか言い様がない。
そうして踏み入れた屋敷は、彼らが見た事のないものだった。
広い廊下を多くの招待客が進む。女の子ばかりが呼ばれているから華やかなドレスが並んでいるが、それに負けないくらい、床の大理石はぴかぴかに磨かれている。外を歩いた靴で踏むのが申し訳なくなるほどだった。
それを照らす照明は、豪奢なシャンデリア。廊下の左右には窓が無いので暗くなりがちなところ、ここは外と大差ない。魔石を用いたシャンデリアは、貴族であってもなかなか手の出るものではなかった。同じくらいの大きさの場合、一つで従来のシャンデリア十個分くらいの価値になるという。それを、一体いくつ使っているのか。考えるだけで恐ろしい。
ヴァーミリオン家はそれなりの歴史を持っている。この建物も相当な年数が経っているはずだが、そんな気配は微塵もしなかった。壁は真新しく見えるし、曇ったガラスなど見当たらない。できたばかりだと言われても納得するだろう。これだけ大きな屋敷の維持だ、それだけで子爵家の年間の予算を大幅に上回るに違いない。
そうして入った会場は、やはりとんでもなかった。想像の何倍もすごかった。廊下がああだったから室内も当然整っているだろう。それは想像がつくものだが、それがどのくらいかと問われてこうだと示せるかというと、難しい。その想像の何倍以上もの光景が広がっているとは思わないではないか。
真っ白な壁に施された見事な装飾。燭台は当然金で、かつては蝋燭を灯されていたのだろう。今は水晶の塊が乗せられ、それが光っている。紛れもなく、これは照明の魔道具だ。特別大きな魔石を使う燭台の場合、やはり高価になる。それが広い会場中、至る所に置かれていた。天井にはもちろん廊下と同じ、いやそれ以上の巨大なシャンデリア。蝋燭では煤が出るから、ここのように天井画のある場所には魔石を用いた魔道具が優先的に使われるものだ。ただ、それ専用の魔石がとにかく高価だから、等級の低い魔石を使う事になる。そうすると必然、明るさが足りなくなるのだ。使えば魔力を消費するから、昼間だと照明を落としている家も多い。そんな中でこの広間は煌々と明かりが点いている。様々な余裕があるという事だ。
それだけでも相当な資産があると伺えるが、それは照明なんか見ずとも分かるだろう。招かれているのは本当に立派な家門ばかり、それが一同に収まる広間があるとは。
潜った扉から、反対側の壁が見えない。人垣で見えないわけではない。距離があるのだ。
その向こうの端までぴかぴかの床、きらきらの壁。天井を埋め尽くす美しい絵画は、近年改修されたものだという。本来の輝きを取り戻した姿に誰もが感嘆の声を洩らしていた。
人の多さに戸惑っていた彼らの娘は、華やかな雰囲気に次第に普段の調子を取り戻していった。初めて目にする、たくさんのきらきらした人々。自分達と同じ子供がいっぱい居て、しかもみんな着飾っている。自分達以上にだ。みんなとっても綺麗で、幼いながらも貴族令嬢としての片鱗を見せる彼女らは、あっという間に夢中になった。母親が止めるのも聞かず、繋いだ手を振り解いて思うまま別の子に突進しようとする。誰もが楽しげで、見た事もないくらいぴかぴかした服装なのだ、興味を引かれて当然だろう。だが周囲は子爵と伯爵よりも高位の家ばかり。両親は必死で娘を止めようとするが、逆効果だった。
「チェニーちゃん、だめだったら」
「やっ!」
「ほら見てごらんチェニー、向こうに美味しいお菓子があるって」
「いーやーあー!」
「チェニー、声が大きいわよ。しーっ」
「イヤー!!」
慌てて娘を宥める子爵夫妻。伯爵はそんな彼らに構っている余裕が無かった。彼も似た様な状況だったのだ。
「ベル、待ちなさい、ほら良い子だから。そ、そっちじゃなくてあっちにしないか? ほら」
「やーよ。だってパパ、いつも言ってるわ。じぶんでかんがえてこうどうしなさい、って。ベルはちゃあんとかんがえてるのよ。かんがえてやっているのはいいことなのよ。だからベルはいいことをしてるのよ」
「うんそうだな、パパの言った事を覚えていて偉いぞベル。でも今日は、というか、あっちはだめなんだ。パパ達が居るべき場所っていうのがあって」
「ベルがいきたいのはあっちなのよ」
「べ、ベル! 待ちなさい、ベル!」
言うなり駆け出した娘を、伯爵夫妻は小走りで追う。実際には、広間の中であればどこに居ても良かったのだが、どうしたって知り合い同士で集まりたくなるのが人の性というものだろう。伯爵の娘が向かった先は、彼らであれば目通りできないような家柄の人々の群れだった。王城へ向かう機会の少ない伯爵にして見れば雲の上の存在だ。そんな人々に娘が無礼を働いたらと思うとぞっとする。
それで必死になって娘を止めるのだが、彼女は興味の赴くまま、会場のあちこちを渡り歩く。さすがに相手の令嬢に無体を働く事は無かったが、爵位に関係なく初対面の相手に親しげに話しかけたりするものだから肝が冷えた。気難しいと噂の伯爵本人に突撃しそうになった所で抱き上げ、強制的に引き離したら泣き叫んでしまった。伯爵夫妻は、とんでもなく目立ってしまっていると青褪めたが、実際にはそうでもなかった。賑やかな会場だったのが幸いした……というわけではなく、どの親も、我が子が粗相をしないか気が気でなかったのだ。
なにしろここは、ヴァーミリオン公爵家。なにが公爵家の気に障って家門に影響を及ぼすのか、予測がつかない。戦々恐々とする者が大半であった。
彼らはとにかく公爵家の不信を買うのを恐れた。その為には利点を捨ててでも、なんなら誼を結べずともいいというほどには。アルベルトという人物は彼らにとって、それだけ不可解な存在だったのだ。
それはアズール公爵家当主、シュナイダーにとっても同じだった。
「はあ、ここまで本気だとは」
シュナイダーは、故あって多少アルベルトとは面識がある。この場にいる誰よりも彼を知っていると言えたが、それでも人柄を説明しようとなると「関わりたくない男」としか表現できない。
頭が良く、他人には思いも寄らない着眼点と発想とでこれまでの魔法の在り方を覆したのは記憶に新しい。そのお陰でトゥイリアース王国の魔道具産業が激変し、大陸内の諸国にも影響を及ぼした。
間違いなくそれは偉業と呼べるだろう。けれどもその結果には然程の興味を示さず、表彰されるのも断ったというのだ。
名誉だとか、そういうのに興味が無いのは明白だった。けれどもアルベルトは、それからも革命を起こし続けた。その結果、歴代の魔法使いで最高だとか言われるようになったが、それにも一切の反応を示さない。他者の声は彼には届かないのだ。
そんな奴なので、かつての同門であるシュナイダーはそれなりに苦労した。こちらの話は聞かないのに、向こうの興味がある時にはとことん突き詰めて問われる。専門性が高過ぎて相手が話に付いていけなければ、アルベルトはすっぱりその人物を切り捨てた。まるで役に立たないとでも言うような態度だったが、彼からしてみれば実際その通りなのだろう。
少しでもいいから、周囲に気を配ってやればいいものを。シュナイダーは何度もそう思ったが、言えなかった。当時のアルベルトは第二王子という立場で、シュナイダーは公爵家の嫡男というだけで特別親しいわけでもない。何より、他者を寄せ付けないあの冷たい瞳を見ると関わる気が失せる。彼は彼の中に、誰の存在も含めようとしていないようだった。
なので今回、シュナイダーは本当に驚いた。いくら娘の為とは言え、アルベルトが他者を招いてパーティーを開くだなんて。
シュナイダーは遠慮なくぐるりと会場を見回す。見る限り、来客を最大限もてなしているようだ。幼いから保護者を伴っているが、主役となるのは令嬢なので、彼女達が過ごしやすいよう配慮されている。危険なものは排除されているし、トラブルがあっても即座に対応する為だろう、使用人の数が多かった。軽食として置かれたお菓子は小さな子供でも食べられるものが豊富に用意されている。まだ作法の拙い年齢であるし、飲み物を溢してしまう事もあるだろう。だからか飲み物の温度は高過ぎず、美味しく飲める銘柄の茶葉が準備されていた。
これ程の気配りが出来る男ではないのだ、アルベルトという男は。きっと執事か、もしくはヴァーミリオン領に滞在しているフリージアが采配をしたに違いない。シュナイダーはそう確信していた。
実際には、リリアンが主役となるパーティーで不足があってはならないと、アルベルトが過剰にあらゆる物を準備させただけだ。それが功を奏した……と言っていいものかどうか。賛否の分かれるところだろう。
ともあれ、細部まで手と心遣いが行き届いたパーティーは概ね好評だった。シュナイダーの妻ベロニカも、行きの馬車では不安そうにしていたものの、今では興味深そうに周囲をさり気なく観察している。
「随分と、色々な家が招かれてますのね」
それは感嘆の様にも聞こえたが、半分呆れが混じった声色だった。シュナイダーは思わず苦笑せずにいられない。ベロニカの反応は最もだ。なにしろ古くから王国に尽くしている家門も、中流階級と呼ばれる貴族ではない家も、会場には一緒くたになって招待されているのだ。
「ああ、そうだな」
「どういった基準なのかしら」
問題なのはそれだ。爵位に関係なくパーティーに参加する。今時珍しくもない光景とは言え、よくぞこれだけ集めたな、というのが率直な感想だ。なぜならどの家も政治的にヴァーミリオン家に反目していない。令嬢本人も優秀だと評判の娘ばかりだし、シュナイダーが把握している限り、どこの家も瑕疵が無かったはずだ。
一見なんてことない条件のように思えるが、それら全てを兼ね備えているとなるとなかなか無いものだ。爵位に関わらずとは言え、これだけの令嬢を集めるというのは難しいはずである。
「本気で娘の友人を探しているのかも知れんが、考えても無駄だ。あれの考えなど、他者には理解出来んからな」
シュナイダーはそう評したのだが、ベロニカはぱちぱち瞬いて夫の顔を見る。
「本当に親しげね」
「やめてくれ。あれと親しいだなんて、とんでもない」
「そうなの? とてもそうには見えないのだけれど」
「知人の域は出ないさ、そもそも親しくなろうというのが無理な話だ。奴に他者と親しくなろうという気が無いのだからな」
はあ、と溢したシュナイダーのため息は、喧騒に掻き消される。同時に不敬な言葉も飲み込まれていったわけだが、彼本人はその不遜な態度を隠そうとしなかった。
立場を無視した姿に見えるが、シュナイダーも譲れないものがあるのだ。
「とにかく、あやつの娘が妙であればその場で退室しよう。セレストに類が及んでは可哀想だ」
大事な我が子を守るためだ、立場が悪くなろうが関係ない。シュナイダーは緊張した面持ちの娘を見下ろし、アルベルトの娘の登場を待った。
◆
ヴァイオレットは広い会場の隅っこで息を殺していた。
(ひ、人がいっぱい……!)
絶賛人見知り中のヴァイオレットにとって、見知らぬ人で溢れかえるこの場所は、居心地が悪くてたまらない。けれども退室は許されず、縮こまるしかなかった。
ヴァイオレットの住むプレート伯爵領の主な産業は観光だ。その為、領地のあちこちでお祭りが開かれる事が多く、領主の娘であるヴァイオレットはそれらに招かれる形で参加をしてきた。村や町単位で行われるそれに参加する観光客も多かったが、今この場に居るのは、そこで知り合った人々とはなにもかもが違っていた。
一目見て分かる高価なドレス。洗練された所作。周りの女の子達は誰もがきりっとした顔付きをしていて、自分より何倍も賢そうに見える。そのどれもがプレート伯爵領には無いものだ。ヴァイオレットはすっかり萎縮してしまっていた。
それは彼女の両親もだったようで、一家は顔色を無くし壁の花に徹している。
「我々は壁、我々は壁。うっ、胃が痛くなってきた」
「やめてちょうだい、私まで痛くなってくる気がするわ」
「ハーブティーで気持ちを落ち着かせるか?」
「……さっきから手の震えが止まらないのよ。溢してしまうといけないから、私はいいわ」
プレート伯爵夫妻のそんな会話は、ヴァイオレットの耳には入って来ない。がちがちに緊張している彼女だったが、なにか視線を感じて更に身を堅くする。
(なに? 怖いよぉ……)
ヴァイオレットははじめ、それが周りの女の子達のものだと思った。もしくはその他の大人だ。
プレート伯爵領は、王都からすると〝田舎〟である事をヴァイオレットは知っている。そこに住んでいると〝いなかもの〟と呼ばれるらしいのだが、〝いなかもの〟は王都の人間には嫌われるようだった。だからその〝いなかもの〟がこんな素敵なパーティーに参加するのを嫌う人が、ヴァイオレットを睨んでいるのだろうとそう思い、隅っこの方で大人しくしていたのだが。なんだか違うようだった。どこから見られているのか分からないのだ。
今もヴァイオレットは視線を動かし周囲を窺うが、見る限りではヴァイオレットを気にしている人はいない。でも、確かに視線を感じる。どうした事かと首を傾げるが、それ以上の事はヴァイオレットにはわからなかった。
そんなヴァイオレットの視線の先で、ベラハ侯爵の一家が使用人に声を掛けられていた。
「どうしたのかしら」
ヴァイオレットの母親がひっそりと囁く。さあ、と父親がそれに返したが、二人はなんとなく事情を察したようだ。ヴァイオレットも大体分かる。さっきの騒ぎはさすがに人目を集め過ぎた。
だからきっと、注意を受けているのだろう。ヴァイオレットはそう思っていたが、使用人と会話するうち、ベラハ侯爵一家は次第に表情を明るくしていった。予想とは違った反応にヴァイオレットは首を傾げる。
そうしているうちに、使用人が侯爵一家を先導する素振りを見せた。娘のリヴィルが、ぴょんと飛び跳ねている。どうやら喜んでいるようだ。
(あれ、あっちも?)
周囲を見渡せば、会場のあちこちで似た光景が見られた。ヴァイオレットが知る限り、使用人に声を掛けられているのはどの子も主張の激しかった子だ。公爵家の子と友達になるのだと声が大きかった。
そういう子に声を掛けているのかと思いきや、家族で静かに過ごしていた子も含まれている。さっき近くを通り掛かった時、〝こんやくしゃ〟がどうとか言っていた気がする。どういう意味かしら、と思ったが、どきどきしてまともに喋れない状態のヴァイオレットは、黙って両親の後に着いていくしかなかった。なのでそれがどういう意味を持つのかは分からない。
そうやってぽつりぽつりと幾人かが会場から連れ出されて行く。広い会場であったとしても、それがあちこちで起きていればさすがに目立つ。ざわざわとさざ波のように、人々の囁きが広がった。
「どういう事だ?」
「まさか、すでに選ばれたのかしら」
「あの様な振る舞いをしていてか?」
「でも見て。どの方も得意そうよ」
聞こえてくる声に視線を動かせば、確かに呼び出された誰もが上機嫌で使用人の後に続く。それを見送る方はどこか悔しそうだったり無関心だったりと反応が別れた。
(へんなの。まだリリアンという子に会ってもいないのに、どうしておともだちになれるなんて思うのかしら)
残された子達を、意地の悪い笑顔で見るリヴィルは到底自慢できる友人の姿とはかけ離れている。ヴァイオレットだったらとてもではないが友達になりたい存在ではなかった。それなのに、つんと上を向いて笑みを浮かべる彼女は不思議なほどそれを疑っていないようだ。
ヴァイオレットは不思議な思いでそれを眺めていた。と、ふとそのリヴィル達を先導する使用人と目が合った。途端ヴァイオレットはぞくりと背筋を粟立てる。
「ひゃっ」
「なに、どうしたのヴァイオレット」
大丈夫、と母親がヴァイオレットを覗き込む。ヴァイオレットは慌てて首を横に振った。母親は不審そうだったが、そう、と言っただけで姿勢を元に戻していた。
どきどきと、それまでとは別の感情でヴァイオレットの胸が弾んでいる。
(さっきの、怖い目。あの使用人だわ!)
目付きは悪くなかった。むしろ普通の、優しそうな使用人だった。だけどそれは違うとヴァイオレットは直感した。さっきまで感じていた、どこからか観察されているような視線。それは、あの使用人がヴァイオレットに向けていたものだったのだ。
どうして彼女が自分をそんな風に見ていたのかは分からない。良い意味なのか、悪い意味なのかもだ。見てはいけないものを見てしまったような気がして、誰にも見つからないようにと、ヴァイオレットは更に小さくなって母親のドレスの影に隠れた。
◆
侍女長のガブリエルが招待客を案内し終えると、同じく廊下に出ていたシルヴィアの姿を見付ける。シルヴィアも一人で居ることから役目を終えたのだと分かったが、彼女はどこか考え込むように俯いていた。
ここはまったく客人の目が無いわけではない。ヴァーミリオンの使用人として、そんな場所でして良い仕草ではない。まだ若いシルヴィアを注意するつもりで、ガブリエルは彼女に声を掛けた。
「どうしたの、シルヴィア」
その声にはっとしたシルヴィアは、ガブリエルの姿を認めるとどこかほっとした様子を見せた。ガブリエルはおや、と首を傾げる。
「どうしたの。何かトラブルでも?」
何かあったのであれば対応しなければならない。なのでそう聞いたのだが、そういうわけでは、とシルヴィアは首を横に振った。
「いいえ、問題はありません」
「ではどうしたと言うの。こんな場所で」
「それが、私の視線に気付かれた方がいらっしゃって」
「まあ、お前の?」
ガブリエルは驚きの声を上げる。
「そんな。気のせいではないの?」
「気配は、断っていたと思うのですが」
「見つかったのはご両親に?」
「いいえ。令嬢ご本人です」
そんな事があるだなんてと呟き、ガブリエルは腕を組む。
「リリアン様のお邪魔にならないよう、気配を断つ術を身に付けたわたくし達が会場内のご様子をさり気なく窺う。そうしてご令嬢の普段の姿に近い姿を見る、それ自体は良い案だと、旦那様の命令に従ったけれども……」
それは、思いの外良い作戦だった。普段とは違う慣れない場所という事もあって、招待客は誰も、使用人が自分達の行動を観察しているとは思っていなかったようだ。勘付かれないよう、細心の注意を払っていたのが幸いしたとも言える。
そんな使用人の中でも、最も気配を殺せるのがシルヴィアだった。シルヴィアは一番リリアンに近い。リリアンの行動を阻害する事が無いよう、けれども不足が無いように振る舞わねばならない。その為には自分の存在感を出来る限り消さなければならなかったから、人一倍その技術に長けている。
実際、そうしている間のシルヴィアは視認していても、注意しなければそこに居るのを思い出せないくらいだ。長く勤めている使用人であれば習得する事もあったが、程度がある。ヴァーミリオン家に仕える彼らは相当な練度だった。シルヴィアも十六歳という年齢でありながら体得しており、その点で言えば彼女は一流の侍女と言えた。
「いくら人が多いとは言え、お前の視線に気付かれただなんて。その方は素晴らしい素質をお持ちのようね」
そんなシルヴィアの、観察する気配を察した。驚くべき察知力だ。
シルヴィアもガブリエルの言葉に頷く。
「ええ。ですので、その方には残って頂きました」
「良い判断だと思うわ。では、これで最後ね」
丁度その時、二人の前を招待客の一家が通りすがる。この一家も例に漏れず、勝ち誇った表情で廊下を進んでいった。
彼らは「会場から選び抜かれ」「別場所に案内され」ている。だからこそ、誰もがその様な表情でいるのだろう。
見送るガブリエルとシルヴィアの背後で、会場への扉が閉ざされた。これでもう彼らが戻る事はない。
「なぜだ。この通り招待状を持っているだろう!」
叫ぶ男に、公爵家の使用人が対峙する。
「こちらは当家が用意したものではございません。そのようなものを持参する方をお通しするわけには参りません。お引き取り下さい」
「なんだと! これが偽物だとでも言うのか」
「その通りです。特殊なインクを使用しているので、本物であれば反応があるのですが、この書状にはそれがありません。これは偽物です」
「そ、そんな……!」
「お引き取りを」
そんなやり取りのある後ろでは、別の家門の馬車を覗いた使用人が首を横に振っている。
「招待状をご覧になりませんでしたか」
「どういう意味だ?」
「過度な手土産はご遠慮下さいとお知らせしております。これは、明らかに過度と言える範囲でございます。該当する方はお帰り頂いております」
「たかが手土産でか?」
「旦那様のご意向でございますので」
「くっ……!」
主催者の意思であるならば従う他ない。まさか屋敷に入る前に追い返されるとは思っていなかったのか、あるいは融通が利くとでも思っていたのか。それは定かではないが、同じようにして馬車から降りるとすぐまた馬車に押し込められ、そのまま帰って行く者が大勢出た。中には、本来の招待客が急病で来られない為に代わりに来たと言う者も居たのだが、それらは迅速に帰らされた。宛名と違う人物が招かれようというのは論外だろう。
最終的に三十ほどの家門が残っただろうか。それでも友人候補となる令嬢とその両親とが揃えばそれなりの人数となる。会場に一同に集まれば、さながら舞踏会のようだった。主役となる令嬢があまりに幼く女子ばかりではあったが、どの子もぴかぴかの衣装を纏っていて王都の舞踏会さながらの華やかさがあった。
集まった顔触れを見ると、実に様々な爵位の家門が揃っているのが分かる。爵位の高い家があるのは当然の事として、子爵家や男爵家までもが会場にいるのに驚く者も多かった。なにせ、相手はあの筆頭公爵家のヴァーミリオンだ。位の低い家に声を掛けているとは思わなかったのだろう。
そんな中では、やはり身分の低い者は肩身が狭い。レンブラント家のミオラルは、いつもの活発さを引っ込めて、両親と共に端の方で小さくなっていた。
「ああ、来てしまった。胃が痛い……どうしてこんな事に」
「あなた、せめて姿勢は崩さないでちょうだい。ミオラルが不安がるわ」
「すまない……無理そうだ」
「あなた……」
ミオラルの父親が背中を丸めた。母親は、そんな父親を気遣っている。
綺麗なドレスを着せられ、ミオラルが連れて来られたのは大きな大きなお屋敷。見るもの全てがきらきらしていて眩しい。床も天井もぴかぴかで、こんなに綺麗なものを見た事なんてなかったミオラルは、両親に言われていたにも関わらず思わずあちこちを見回してしまった。前を見ていなかったからうっかり転びそうになり両親を青褪めさせたけれど、周りにそういう子は何人もいたから、そう目立ってはいないと思う。
その後通されたこの大きな部屋は更にきらきらしていた。ぴかぴかのテーブルがいくつも並んでいて、そこには美味しそうなお菓子がたくさん。案内してくれたメイドから好きなだけ食べていいのだと言われて、多くの子がテーブルに駆け寄っていった。ミオラルもそうしたかったが、我慢した。母親が強くミオラルの手を引いて、テーブルから遠ざかったからだ。
ミオラルは両親がこの状況を望んでいないのを察していた。だから出来るだけじっとしていたが、どうしてもテーブルの上が気になる。
「母さま。あっちのテーブルにいきたい」
「ミオラル、だめよ。我慢して」
「でも……」
他の子は好きにお菓子を頬張っているのに。美味しそうなお菓子を口に運んだ子は、みんな満足そうに口の端を上げている。色とりどりの綺麗なケーキは、どんな味がするんだろう。ミオラルはそう思ったけれど、仕方なく諦めた。でもここに来るまで時間がかかっていたせいで喉が渇いている。それだけはどうにかしたい。
「のど、かわいたの」
「……しょうがないわね」
母親はそう言って、近くに居た使用人に声を掛ける。使用人はミオラルをちらりと見ると、丁度いい温度のミルクを用意してくれた。一口含むと、とっても甘くて美味しい。思わずごくごく飲んでいるとふと視線を感じた。それでカップを下ろしたら、意地悪そうな子が、ミオラルの前に立っていた。
なんだか嫌な感じがする。その子は、にやにやとした顔でミオラルを見ていたのだ。好意的にはとても見えなかった。
「どうしてきぞくでもない子が、ここにいるの?」
ミオラルは瞬いた。その子は本当に嫌な子だったらしい。
「きいているの? なんでここにいるのかって、そうきいているじゃない」
「なんで、って……」
ミオラルがここに居るのは、公爵家から招待されたからだ。それを今更、説明する必要はないだろう。ミオラルは五つになったばかりだが、目の前にいる子は同じくらいに見えた。体の大きさもさほど違わない。違うのは、その子が身に着けているものが、ミオラルのものより格段に輝いている所か。ミオラルのドレスはリボンやレースくらいしか付いていないが、その子のドレスにはそれに混じって、宝石が縫い付けてある。お金持ちなんだろうな、と思ったが、その子が『貴族』でミオラルはそうではない事までは、まだ幼い彼女には分からなかった。
とにかく事情を言う他ないと、ミオラルはそのままを口にする。
「うちに、招待状がきたのよ。リリアンさまのお友達を探すのですって。だからきたの。あなたもそうじゃないの?」
「まあ! わたしにそんな口をきくの? なんて恥知らずなの!」
だと言うのに、その子は突然そんな事を言い出すから、ミオラルは目を丸くした。
「どうして?」
「あなた、わたしが誰なのかわからないの? ああ、しょみんだもの、わからないわよね。わたしはね、ベラハ侯爵家の一人娘よ!」
その子はそう言って、ふふんと胸を張った。
ミオラルは『ベラハこうしゃくけ』というのを知らないが、この子はミオラルが『しょみん』だという事を知っているらしい。その事は純粋にすごいと思う。どうやって知ったのだろうか、それが気になる。
「いい? リリアンさまは、公爵家のかたよ。とても〝とうとい〟の。しょみんのあなたなんかが、近づいていいかたじゃないのよ。ぜーんぜんふさわしくないんだから!」
ミオラルが黙っているのをいい事に、その子はぺらぺらと喋っている。そのうちその声を拾ったのか、周囲の大人達がひそひそと囁き合うのが目に入った。その大人達の態度から、このやり取りがどうやら歓迎されていないとミオラルは察したが、ベラハ侯爵家のその子は喋るのを止めない。ミオラルにはどうしようもなくて、両親に視線を向けたが、その両親も青い顔でぼうっとしてしまっている。それでようやく、相手の子が逆らえない立場なのだとミオラルは理解した。
けれど、両親に出来ないのに、ミオラルにこの状況をどうにかするなんてよっぽど無理だった。それでこれ以上その子を怒らせないように、黙って俯く。
よく分からないが、とにかくこの場にミオラルが居るのが気に入らないらしい。だったら帰るべきなのかも知れないが、そもそもミオラルがここに居るのは、その〝とうとい公爵家〟に呼ばれての事だ。それをこの子は分かっているのかしら、と内心ミオラルは首を傾げる。
「だから、リリアンさまのお友達はわたしがなるの! あなたなんか選ばれないわ。いいから帰りなさい!」
ぼうっとしている間に、その子は何かを結論付けたらしい。びしっとミオラルを指差してそう言い放った。突然の大きな声に驚いたミオラルはびくりと肩を揺らしたが、その子は恐怖に慄いたのだと勘違いしたらしい。ふん、と鼻を膨らませて得意気な顔をしている。大人達はただそれを静観するばかり。どうするべきか分からなくて、ミオラルは眉を下げるしかなかった。
「おやめなさい、みっともない」
そこへ、静かな声が割り込んで来た。ベラハ侯爵家のその子もミオラルも驚いて、声の方向へ向く。そこに居たのは綺麗な女の子だった。
「リヴィルさま。その方は、ヴァーミリオン公爵家に招かれてここにいるのですよ」
「……シャロン」
その女の子をシャロンと呼び、ベラハ侯爵家のリヴィルは分かりやすく表情を歪める。あまり仲が良くないのが見て取れた。
「招かれたからには、立場は関係ない。そう思うでしょう?」
「そうかしら」
「そうでなければならないと、わたくしは思うわ」
「あなたの意見なんて、きいてないわ!」
シャロンの登場で、リヴィルは更に声を荒らげる。が、シャロンは慣れているのか、睨み付けるリヴィルには目もくれず、ミオラルに視線を移す。その目はミオラルを気遣うような、優しいものだった。
「ね、あっちでお菓子を食べましょ。わたくしたちのために用意されたのですって。頂かないとそれこそ〝ふけい〟だわ」
「ちょっと、シャロン!」
「リヴィルさまは、どうぞあちらへ。わたくしたちなんかとは、一緒にいたくないみたいだから」
そう言って、シャロンはミオラルの手を引いて促した。ミオラルはそれに大人しく従う。ちょっと強引だが、彼女はミオラルを気遣って連れ出してくれたのだ。
「ありがとう」
少し遠い所のテーブルまでやって来ると、シャロンが手を離した。くるりと回ってこちらを向いたので、ミオラルは一言お礼を言う。
シャロンは、くすりと笑んでいいのよ、と首を横に振った。
「気にしなくていいわ。リヴィルさまってああなの。自分が一番じゃないといやなのよ。子供よね」
ちらりとシャロンの視線を追うと、癇癪を起こして泣き叫んでいるリヴィルの姿があった。多分シャロンは、リヴィルのああいう所が嫌いなのだろう。なんとなくそんな感じがした。
それ以上リヴィルの事には触れず、ミオラルは思うまま、テーブルの上のお菓子に手を伸ばす。どのお菓子も今まで食べた中で一番美味しかった。見た目もとても綺麗で、食べてしまうのが勿体無いくらいだ。ひとつひとつ、大事に食べていると、くすりというシャロンの笑い声が聞こえた。
「あなた、名前は?」
「ミオラル……ミオラル・レンブラントよ」
「わたくしはシャロン・トラウルというの。ねえ、よかったら友達にならない?」
「……いいの?」
シャロンの言葉にミオラルは瞬く。それと言うのも、シャロンもリヴィルに引けを取らないくらい、上等なドレスを着ていたからだ。いや、ひょっとしたらそれ以上かも。ドレスもその他の装飾品も豪華だし、シャロン自身にもどことなく品がある。
それに、さっきちらりと両親を見たが、二人は誰かを相手に深々とお辞儀をしていた。女性の方はシャロンと同じ髪の色をしていたから、きっとあれはシャロンの両親なのだろうなと検討がつく。その二人も気品のある佇まいで、しかも着ている服も高価そうだ。多分、シャロンも『貴族』なのだろう。
そう聞けば、シャロンはその通りなのだと頷いて、破顔した。
「そうなの。うちは侯爵家で、あれはわたくしのお父様とお母様。自慢の両親よ」
「わたしの父さまと母さまも、じまんのりょうしんよ」
「ふふ。そうなのね」
「うん!」
きちんとミオラルの話を聞いてくれるシャロンは優しい。さっきのリヴィルとは大違いだ。
「シャロン……さまは、リヴィルさま、とはちがうのね。おんなじ『侯爵家』なんじゃないの?」
ミオラルがそう言うと、シャロンは肩を竦める。
「リヴィルさまのお家はね、爵位がすべてって考えかたなの。でも、爵位にかかわらず、ゆうしゅうな人もいるわ。ミオラルさまのご両親みたいにね。そういう人には〝けいい〟を払うべきだと、わたくしの両親はそう考えているの。だからリヴィルさまの家とは、仲がわるいのよ」
「ふうん?」
シャロンの言った事は難しくて、ミオラルには所々が理解出来なかった。でもシャロンはリヴィルみたいに嫌な感じがしない。ミオラルを助けてくれた事もそうだし、なによりミオラルの両親の事も褒めてくれた、ように思う。
「わたし、シャロンさまとお友達になりたい」
その言葉にシャロンが瞬く。そして、すぐに笑顔に変わった。
「よろしくね」
「うん!」
力いっぱい頷けば、シャロンの笑顔は更に深いものになって、ミオラルも釣られて笑顔になる。
話してみて分かったが、シャロンとミオラルはとても良く気が合った。ミオラルは大商会のレンブラント家の一人娘で、両親は彼女を熱心に教育した。そのお陰もあって、ミオラルは侯爵家のシャロン相手でも受け答えがしっかりできた。ミオラルの年齢でそれが出来るのは、彼女が賢いからだ。下手に爵位があって賢くないよりもずっといい。
シャロンは、高位の貴族ながら柔軟な考えを持つトラウル家に相応しく、爵位の無いミオラルを悪く言ったりしなかった。ヴァーミリオン公爵家が選んだ相手を蔑むなどあってはならないという事を、よく理解しているのだ。
これこそが、彼女らが招かれた理由である。
「ミオラルさまは普段なにをして過ごしているのか、おしえてくださる?」
「うん。でもね、『ミオラル』でいいのよ。わたしたち、お友達でしょう?」
「……そうね、ミオラルの言うとおりだわ。じゃあ、わたくしのことも『シャロン』と呼んで」
「わかった。じゃあ、シャロンのこともおしえてね。好きな遊びはなあに?」
秘め事を囁くように言い合う二人は微笑ましい。恐縮していたミオラルの両親も、鷹揚に笑っていたシャロンの両親も、その姿に頬を綻ばせる。思いがけない良い出会いに巡り会えたようだ。喜ばしい事だと、大人達は顔を見合わせた。
◆
「やはり、リリアン様のご友人は競争率が高いようね」
会場を一回りし、夫人はそう呟いた。
「これはまたと無い機会よ。いいことパメラ、なんとしてでもレイナード様とお近付きになるのよ」
「ええ、分かってますわお母様」
パメラと呼ばれた娘はにやりと口角を上げる。
「絶対に、レイナード様の婚約者になってみせるわ」
レイナードは筆頭公爵家の嫡男で、しかも第一王子のマクスウェルとは年も近く親しい。立場もさる事ながら、本人の能力も高いという噂の彼は、国内でも指折りの優良株なのだ。そんな彼の婚約者はまだ決まっていない。
出身だけでも充分魅力的ではあるのだが、彼は令嬢達から絶大な人気を集めている。パメラがやる気なのはそのせいだ。
(レイナード様のお顔を間近で見られるのなら、なんだってするわ!)
つまり、顔が良いのだ。
パメラがレイナードを見たのは一度きり、それもかなり距離があった。それでもパメラはレイナードに夢中になった。
太陽の明かりに透けてきらきら輝く金の髪。空よりも澄んでいる瞳はガラスみたい。微笑みは無かったけれど、きゅっと閉じられた口元は凛々しさを強調していてパメラ好みだった。
何よりもその面差し。他の男の子達と違って、レイナードはとても大人っぽい。パメラの幼馴染のトーマスなんて、わざわざパメラの嫌いな虫を捕まえては顔の前に出して、嫌がる様子を楽しむ嫌な子だ。あれだけ大人っぽいレイナードなら、そんな意地悪はしないだろう。
会場に居る子の中には、パメラと同じ様に、最初からリリアンではなくレイナード目当てでやって来た令嬢もいるようだ。あちこちから似たような囁きが聞こえる。
パメラはそんな子達を鼻で笑った。そんな、ちょっと噂で聞いただけの彼女達とは違う。パメラは本人を見た上で彼の隣を望んでいるのだ。そんな心構えでいるのはパメラだけだろう。だからレイナードに会いさえすれば、選ばれる自信があった。
「レイナード様、待っていて。パメラが参りますわ」
パメラは、ひたすらレイナードの登場を待っていた。
◆
できるだけ粗相の無いように、と配慮した結果、子爵と伯爵は無事会場に辿り着くこととなった。正直な所追い返されてもいいと、半ば投げ槍な気持ちでヴァーミリオン領へとやって来たのだが。あれからどうにも自信が持てなくて、結局伯爵の知人である他の家門にも相談を持ちかけた。その結果、どうやら実に無難な判断となったらしい。ほんの気持ちばかりの手土産を受け取った公爵家の使用人は、丁寧に彼らを案内した。そうして二つの家族は会場へと足を踏み入れる。
「なんだこれは……」
「王城より広い……」
伯爵は、その会場の調度品に。子爵はまずその規模に、目を丸くする。彼らの奥方もまたぽかんとして、出入り口から動けずにいた。
初めて訪れたヴァーミリオン領の屋敷は、まず門から規模が違った。見上げるほどに巨大な門を潜ると、そこから屋敷に着くまでしばらく馬車に揺られなければならなかった。娘が飽きてぐずった頃、ようやく馬車止めが見えてくる。煌びやかな馬車が多く留まるそこにはこれまた立派な噴水があり、馬車もたくさん並んでいた。普通、これだけ馬車が多いとかなりの時間待たされるが、ものの数分で済んだのは驚きだ。よほど使用人が優秀なのだろう。そう思い馬車の外を見ると、普通のパーティーの三倍以上の使用人が行き交っていた。しかも全員動きが素早い。優秀なのだろうと想像がつく。これだけの貴人を招くとなると確かに人手が必要だろう。だが、これだけの人数の教育が行き届いているというのは、さすがは公爵家としか言い様がない。
そうして踏み入れた屋敷は、彼らが見た事のないものだった。
広い廊下を多くの招待客が進む。女の子ばかりが呼ばれているから華やかなドレスが並んでいるが、それに負けないくらい、床の大理石はぴかぴかに磨かれている。外を歩いた靴で踏むのが申し訳なくなるほどだった。
それを照らす照明は、豪奢なシャンデリア。廊下の左右には窓が無いので暗くなりがちなところ、ここは外と大差ない。魔石を用いたシャンデリアは、貴族であってもなかなか手の出るものではなかった。同じくらいの大きさの場合、一つで従来のシャンデリア十個分くらいの価値になるという。それを、一体いくつ使っているのか。考えるだけで恐ろしい。
ヴァーミリオン家はそれなりの歴史を持っている。この建物も相当な年数が経っているはずだが、そんな気配は微塵もしなかった。壁は真新しく見えるし、曇ったガラスなど見当たらない。できたばかりだと言われても納得するだろう。これだけ大きな屋敷の維持だ、それだけで子爵家の年間の予算を大幅に上回るに違いない。
そうして入った会場は、やはりとんでもなかった。想像の何倍もすごかった。廊下がああだったから室内も当然整っているだろう。それは想像がつくものだが、それがどのくらいかと問われてこうだと示せるかというと、難しい。その想像の何倍以上もの光景が広がっているとは思わないではないか。
真っ白な壁に施された見事な装飾。燭台は当然金で、かつては蝋燭を灯されていたのだろう。今は水晶の塊が乗せられ、それが光っている。紛れもなく、これは照明の魔道具だ。特別大きな魔石を使う燭台の場合、やはり高価になる。それが広い会場中、至る所に置かれていた。天井にはもちろん廊下と同じ、いやそれ以上の巨大なシャンデリア。蝋燭では煤が出るから、ここのように天井画のある場所には魔石を用いた魔道具が優先的に使われるものだ。ただ、それ専用の魔石がとにかく高価だから、等級の低い魔石を使う事になる。そうすると必然、明るさが足りなくなるのだ。使えば魔力を消費するから、昼間だと照明を落としている家も多い。そんな中でこの広間は煌々と明かりが点いている。様々な余裕があるという事だ。
それだけでも相当な資産があると伺えるが、それは照明なんか見ずとも分かるだろう。招かれているのは本当に立派な家門ばかり、それが一同に収まる広間があるとは。
潜った扉から、反対側の壁が見えない。人垣で見えないわけではない。距離があるのだ。
その向こうの端までぴかぴかの床、きらきらの壁。天井を埋め尽くす美しい絵画は、近年改修されたものだという。本来の輝きを取り戻した姿に誰もが感嘆の声を洩らしていた。
人の多さに戸惑っていた彼らの娘は、華やかな雰囲気に次第に普段の調子を取り戻していった。初めて目にする、たくさんのきらきらした人々。自分達と同じ子供がいっぱい居て、しかもみんな着飾っている。自分達以上にだ。みんなとっても綺麗で、幼いながらも貴族令嬢としての片鱗を見せる彼女らは、あっという間に夢中になった。母親が止めるのも聞かず、繋いだ手を振り解いて思うまま別の子に突進しようとする。誰もが楽しげで、見た事もないくらいぴかぴかした服装なのだ、興味を引かれて当然だろう。だが周囲は子爵と伯爵よりも高位の家ばかり。両親は必死で娘を止めようとするが、逆効果だった。
「チェニーちゃん、だめだったら」
「やっ!」
「ほら見てごらんチェニー、向こうに美味しいお菓子があるって」
「いーやーあー!」
「チェニー、声が大きいわよ。しーっ」
「イヤー!!」
慌てて娘を宥める子爵夫妻。伯爵はそんな彼らに構っている余裕が無かった。彼も似た様な状況だったのだ。
「ベル、待ちなさい、ほら良い子だから。そ、そっちじゃなくてあっちにしないか? ほら」
「やーよ。だってパパ、いつも言ってるわ。じぶんでかんがえてこうどうしなさい、って。ベルはちゃあんとかんがえてるのよ。かんがえてやっているのはいいことなのよ。だからベルはいいことをしてるのよ」
「うんそうだな、パパの言った事を覚えていて偉いぞベル。でも今日は、というか、あっちはだめなんだ。パパ達が居るべき場所っていうのがあって」
「ベルがいきたいのはあっちなのよ」
「べ、ベル! 待ちなさい、ベル!」
言うなり駆け出した娘を、伯爵夫妻は小走りで追う。実際には、広間の中であればどこに居ても良かったのだが、どうしたって知り合い同士で集まりたくなるのが人の性というものだろう。伯爵の娘が向かった先は、彼らであれば目通りできないような家柄の人々の群れだった。王城へ向かう機会の少ない伯爵にして見れば雲の上の存在だ。そんな人々に娘が無礼を働いたらと思うとぞっとする。
それで必死になって娘を止めるのだが、彼女は興味の赴くまま、会場のあちこちを渡り歩く。さすがに相手の令嬢に無体を働く事は無かったが、爵位に関係なく初対面の相手に親しげに話しかけたりするものだから肝が冷えた。気難しいと噂の伯爵本人に突撃しそうになった所で抱き上げ、強制的に引き離したら泣き叫んでしまった。伯爵夫妻は、とんでもなく目立ってしまっていると青褪めたが、実際にはそうでもなかった。賑やかな会場だったのが幸いした……というわけではなく、どの親も、我が子が粗相をしないか気が気でなかったのだ。
なにしろここは、ヴァーミリオン公爵家。なにが公爵家の気に障って家門に影響を及ぼすのか、予測がつかない。戦々恐々とする者が大半であった。
彼らはとにかく公爵家の不信を買うのを恐れた。その為には利点を捨ててでも、なんなら誼を結べずともいいというほどには。アルベルトという人物は彼らにとって、それだけ不可解な存在だったのだ。
それはアズール公爵家当主、シュナイダーにとっても同じだった。
「はあ、ここまで本気だとは」
シュナイダーは、故あって多少アルベルトとは面識がある。この場にいる誰よりも彼を知っていると言えたが、それでも人柄を説明しようとなると「関わりたくない男」としか表現できない。
頭が良く、他人には思いも寄らない着眼点と発想とでこれまでの魔法の在り方を覆したのは記憶に新しい。そのお陰でトゥイリアース王国の魔道具産業が激変し、大陸内の諸国にも影響を及ぼした。
間違いなくそれは偉業と呼べるだろう。けれどもその結果には然程の興味を示さず、表彰されるのも断ったというのだ。
名誉だとか、そういうのに興味が無いのは明白だった。けれどもアルベルトは、それからも革命を起こし続けた。その結果、歴代の魔法使いで最高だとか言われるようになったが、それにも一切の反応を示さない。他者の声は彼には届かないのだ。
そんな奴なので、かつての同門であるシュナイダーはそれなりに苦労した。こちらの話は聞かないのに、向こうの興味がある時にはとことん突き詰めて問われる。専門性が高過ぎて相手が話に付いていけなければ、アルベルトはすっぱりその人物を切り捨てた。まるで役に立たないとでも言うような態度だったが、彼からしてみれば実際その通りなのだろう。
少しでもいいから、周囲に気を配ってやればいいものを。シュナイダーは何度もそう思ったが、言えなかった。当時のアルベルトは第二王子という立場で、シュナイダーは公爵家の嫡男というだけで特別親しいわけでもない。何より、他者を寄せ付けないあの冷たい瞳を見ると関わる気が失せる。彼は彼の中に、誰の存在も含めようとしていないようだった。
なので今回、シュナイダーは本当に驚いた。いくら娘の為とは言え、アルベルトが他者を招いてパーティーを開くだなんて。
シュナイダーは遠慮なくぐるりと会場を見回す。見る限り、来客を最大限もてなしているようだ。幼いから保護者を伴っているが、主役となるのは令嬢なので、彼女達が過ごしやすいよう配慮されている。危険なものは排除されているし、トラブルがあっても即座に対応する為だろう、使用人の数が多かった。軽食として置かれたお菓子は小さな子供でも食べられるものが豊富に用意されている。まだ作法の拙い年齢であるし、飲み物を溢してしまう事もあるだろう。だからか飲み物の温度は高過ぎず、美味しく飲める銘柄の茶葉が準備されていた。
これ程の気配りが出来る男ではないのだ、アルベルトという男は。きっと執事か、もしくはヴァーミリオン領に滞在しているフリージアが采配をしたに違いない。シュナイダーはそう確信していた。
実際には、リリアンが主役となるパーティーで不足があってはならないと、アルベルトが過剰にあらゆる物を準備させただけだ。それが功を奏した……と言っていいものかどうか。賛否の分かれるところだろう。
ともあれ、細部まで手と心遣いが行き届いたパーティーは概ね好評だった。シュナイダーの妻ベロニカも、行きの馬車では不安そうにしていたものの、今では興味深そうに周囲をさり気なく観察している。
「随分と、色々な家が招かれてますのね」
それは感嘆の様にも聞こえたが、半分呆れが混じった声色だった。シュナイダーは思わず苦笑せずにいられない。ベロニカの反応は最もだ。なにしろ古くから王国に尽くしている家門も、中流階級と呼ばれる貴族ではない家も、会場には一緒くたになって招待されているのだ。
「ああ、そうだな」
「どういった基準なのかしら」
問題なのはそれだ。爵位に関係なくパーティーに参加する。今時珍しくもない光景とは言え、よくぞこれだけ集めたな、というのが率直な感想だ。なぜならどの家も政治的にヴァーミリオン家に反目していない。令嬢本人も優秀だと評判の娘ばかりだし、シュナイダーが把握している限り、どこの家も瑕疵が無かったはずだ。
一見なんてことない条件のように思えるが、それら全てを兼ね備えているとなるとなかなか無いものだ。爵位に関わらずとは言え、これだけの令嬢を集めるというのは難しいはずである。
「本気で娘の友人を探しているのかも知れんが、考えても無駄だ。あれの考えなど、他者には理解出来んからな」
シュナイダーはそう評したのだが、ベロニカはぱちぱち瞬いて夫の顔を見る。
「本当に親しげね」
「やめてくれ。あれと親しいだなんて、とんでもない」
「そうなの? とてもそうには見えないのだけれど」
「知人の域は出ないさ、そもそも親しくなろうというのが無理な話だ。奴に他者と親しくなろうという気が無いのだからな」
はあ、と溢したシュナイダーのため息は、喧騒に掻き消される。同時に不敬な言葉も飲み込まれていったわけだが、彼本人はその不遜な態度を隠そうとしなかった。
立場を無視した姿に見えるが、シュナイダーも譲れないものがあるのだ。
「とにかく、あやつの娘が妙であればその場で退室しよう。セレストに類が及んでは可哀想だ」
大事な我が子を守るためだ、立場が悪くなろうが関係ない。シュナイダーは緊張した面持ちの娘を見下ろし、アルベルトの娘の登場を待った。
◆
ヴァイオレットは広い会場の隅っこで息を殺していた。
(ひ、人がいっぱい……!)
絶賛人見知り中のヴァイオレットにとって、見知らぬ人で溢れかえるこの場所は、居心地が悪くてたまらない。けれども退室は許されず、縮こまるしかなかった。
ヴァイオレットの住むプレート伯爵領の主な産業は観光だ。その為、領地のあちこちでお祭りが開かれる事が多く、領主の娘であるヴァイオレットはそれらに招かれる形で参加をしてきた。村や町単位で行われるそれに参加する観光客も多かったが、今この場に居るのは、そこで知り合った人々とはなにもかもが違っていた。
一目見て分かる高価なドレス。洗練された所作。周りの女の子達は誰もがきりっとした顔付きをしていて、自分より何倍も賢そうに見える。そのどれもがプレート伯爵領には無いものだ。ヴァイオレットはすっかり萎縮してしまっていた。
それは彼女の両親もだったようで、一家は顔色を無くし壁の花に徹している。
「我々は壁、我々は壁。うっ、胃が痛くなってきた」
「やめてちょうだい、私まで痛くなってくる気がするわ」
「ハーブティーで気持ちを落ち着かせるか?」
「……さっきから手の震えが止まらないのよ。溢してしまうといけないから、私はいいわ」
プレート伯爵夫妻のそんな会話は、ヴァイオレットの耳には入って来ない。がちがちに緊張している彼女だったが、なにか視線を感じて更に身を堅くする。
(なに? 怖いよぉ……)
ヴァイオレットははじめ、それが周りの女の子達のものだと思った。もしくはその他の大人だ。
プレート伯爵領は、王都からすると〝田舎〟である事をヴァイオレットは知っている。そこに住んでいると〝いなかもの〟と呼ばれるらしいのだが、〝いなかもの〟は王都の人間には嫌われるようだった。だからその〝いなかもの〟がこんな素敵なパーティーに参加するのを嫌う人が、ヴァイオレットを睨んでいるのだろうとそう思い、隅っこの方で大人しくしていたのだが。なんだか違うようだった。どこから見られているのか分からないのだ。
今もヴァイオレットは視線を動かし周囲を窺うが、見る限りではヴァイオレットを気にしている人はいない。でも、確かに視線を感じる。どうした事かと首を傾げるが、それ以上の事はヴァイオレットにはわからなかった。
そんなヴァイオレットの視線の先で、ベラハ侯爵の一家が使用人に声を掛けられていた。
「どうしたのかしら」
ヴァイオレットの母親がひっそりと囁く。さあ、と父親がそれに返したが、二人はなんとなく事情を察したようだ。ヴァイオレットも大体分かる。さっきの騒ぎはさすがに人目を集め過ぎた。
だからきっと、注意を受けているのだろう。ヴァイオレットはそう思っていたが、使用人と会話するうち、ベラハ侯爵一家は次第に表情を明るくしていった。予想とは違った反応にヴァイオレットは首を傾げる。
そうしているうちに、使用人が侯爵一家を先導する素振りを見せた。娘のリヴィルが、ぴょんと飛び跳ねている。どうやら喜んでいるようだ。
(あれ、あっちも?)
周囲を見渡せば、会場のあちこちで似た光景が見られた。ヴァイオレットが知る限り、使用人に声を掛けられているのはどの子も主張の激しかった子だ。公爵家の子と友達になるのだと声が大きかった。
そういう子に声を掛けているのかと思いきや、家族で静かに過ごしていた子も含まれている。さっき近くを通り掛かった時、〝こんやくしゃ〟がどうとか言っていた気がする。どういう意味かしら、と思ったが、どきどきしてまともに喋れない状態のヴァイオレットは、黙って両親の後に着いていくしかなかった。なのでそれがどういう意味を持つのかは分からない。
そうやってぽつりぽつりと幾人かが会場から連れ出されて行く。広い会場であったとしても、それがあちこちで起きていればさすがに目立つ。ざわざわとさざ波のように、人々の囁きが広がった。
「どういう事だ?」
「まさか、すでに選ばれたのかしら」
「あの様な振る舞いをしていてか?」
「でも見て。どの方も得意そうよ」
聞こえてくる声に視線を動かせば、確かに呼び出された誰もが上機嫌で使用人の後に続く。それを見送る方はどこか悔しそうだったり無関心だったりと反応が別れた。
(へんなの。まだリリアンという子に会ってもいないのに、どうしておともだちになれるなんて思うのかしら)
残された子達を、意地の悪い笑顔で見るリヴィルは到底自慢できる友人の姿とはかけ離れている。ヴァイオレットだったらとてもではないが友達になりたい存在ではなかった。それなのに、つんと上を向いて笑みを浮かべる彼女は不思議なほどそれを疑っていないようだ。
ヴァイオレットは不思議な思いでそれを眺めていた。と、ふとそのリヴィル達を先導する使用人と目が合った。途端ヴァイオレットはぞくりと背筋を粟立てる。
「ひゃっ」
「なに、どうしたのヴァイオレット」
大丈夫、と母親がヴァイオレットを覗き込む。ヴァイオレットは慌てて首を横に振った。母親は不審そうだったが、そう、と言っただけで姿勢を元に戻していた。
どきどきと、それまでとは別の感情でヴァイオレットの胸が弾んでいる。
(さっきの、怖い目。あの使用人だわ!)
目付きは悪くなかった。むしろ普通の、優しそうな使用人だった。だけどそれは違うとヴァイオレットは直感した。さっきまで感じていた、どこからか観察されているような視線。それは、あの使用人がヴァイオレットに向けていたものだったのだ。
どうして彼女が自分をそんな風に見ていたのかは分からない。良い意味なのか、悪い意味なのかもだ。見てはいけないものを見てしまったような気がして、誰にも見つからないようにと、ヴァイオレットは更に小さくなって母親のドレスの影に隠れた。
◆
侍女長のガブリエルが招待客を案内し終えると、同じく廊下に出ていたシルヴィアの姿を見付ける。シルヴィアも一人で居ることから役目を終えたのだと分かったが、彼女はどこか考え込むように俯いていた。
ここはまったく客人の目が無いわけではない。ヴァーミリオンの使用人として、そんな場所でして良い仕草ではない。まだ若いシルヴィアを注意するつもりで、ガブリエルは彼女に声を掛けた。
「どうしたの、シルヴィア」
その声にはっとしたシルヴィアは、ガブリエルの姿を認めるとどこかほっとした様子を見せた。ガブリエルはおや、と首を傾げる。
「どうしたの。何かトラブルでも?」
何かあったのであれば対応しなければならない。なのでそう聞いたのだが、そういうわけでは、とシルヴィアは首を横に振った。
「いいえ、問題はありません」
「ではどうしたと言うの。こんな場所で」
「それが、私の視線に気付かれた方がいらっしゃって」
「まあ、お前の?」
ガブリエルは驚きの声を上げる。
「そんな。気のせいではないの?」
「気配は、断っていたと思うのですが」
「見つかったのはご両親に?」
「いいえ。令嬢ご本人です」
そんな事があるだなんてと呟き、ガブリエルは腕を組む。
「リリアン様のお邪魔にならないよう、気配を断つ術を身に付けたわたくし達が会場内のご様子をさり気なく窺う。そうしてご令嬢の普段の姿に近い姿を見る、それ自体は良い案だと、旦那様の命令に従ったけれども……」
それは、思いの外良い作戦だった。普段とは違う慣れない場所という事もあって、招待客は誰も、使用人が自分達の行動を観察しているとは思っていなかったようだ。勘付かれないよう、細心の注意を払っていたのが幸いしたとも言える。
そんな使用人の中でも、最も気配を殺せるのがシルヴィアだった。シルヴィアは一番リリアンに近い。リリアンの行動を阻害する事が無いよう、けれども不足が無いように振る舞わねばならない。その為には自分の存在感を出来る限り消さなければならなかったから、人一倍その技術に長けている。
実際、そうしている間のシルヴィアは視認していても、注意しなければそこに居るのを思い出せないくらいだ。長く勤めている使用人であれば習得する事もあったが、程度がある。ヴァーミリオン家に仕える彼らは相当な練度だった。シルヴィアも十六歳という年齢でありながら体得しており、その点で言えば彼女は一流の侍女と言えた。
「いくら人が多いとは言え、お前の視線に気付かれただなんて。その方は素晴らしい素質をお持ちのようね」
そんなシルヴィアの、観察する気配を察した。驚くべき察知力だ。
シルヴィアもガブリエルの言葉に頷く。
「ええ。ですので、その方には残って頂きました」
「良い判断だと思うわ。では、これで最後ね」
丁度その時、二人の前を招待客の一家が通りすがる。この一家も例に漏れず、勝ち誇った表情で廊下を進んでいった。
彼らは「会場から選び抜かれ」「別場所に案内され」ている。だからこそ、誰もがその様な表情でいるのだろう。
見送るガブリエルとシルヴィアの背後で、会場への扉が閉ざされた。これでもう彼らが戻る事はない。
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